METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
一人のレユニオン兵士が落ち着かなさげに、うろうろと廊下を行ったり来たりしている。
時折、締め切られたドアを眺めるとぶんぶんと頭を振り、腕を組んでうんうんと唸る。
「イシドール、どうした?」
そこに湯気の立ったスープを手に持ったレユニオン兵士が通りかかり、怪訝そうな声をかける。
「あ、あぁ…それ、ミーシャのか?」
「そうだ、まだ固形食は難しいだろうって先生が…。
お前、ずっとここでうろうろしてんのか」
「…いや、なんかじっとしてられなくてよ」
「そうか…スカルシュレッダーには伝えたのか」
「…ああ、伝えた。
伝えたよ、伝えたけど…」
イシドールと呼ばれたペッローの青年は、仮面を外すと複雑な感情に歪んだ顔を見せる。
「俺さ…正直すげえ楽しみだったんだよ。
何年だよ、あいつと出会ってからさ、ヴァシリ…」
「…そうだな、アレクとあの穴倉で出会ってから、もう10年くらい経つのか」
「…なのによ、あんまりだぜ。
あいつ、あんなに会いたがってたじゃねえか、それがよ…まさかこんな形でよ」
「しかたないさ、あそこで奪い返さなきゃ、ミーシャは龍門に引き渡されてた。
…そうしたら、もう二度と再会はかなわなかったろうしな」
「…会いたくないんだってよ、ミーシャ。
自分の弟にだぜ、あいつがどれだけ…」
「イシドール…ミーシャの立場になれ」
「ヴァシリ…!」
「俺だって悔しいさ。
こんな形でなきゃ、二人は今頃、泣いて抱き合って喜んでたと思う」
ヴァシリと呼ばれる青年もまた、空いた片方の手で仮面をとり、その下にあった凍傷で焼けた傷跡の目立つ顔をのぞかせる。
「だけどな、これが結果なんだ。
俺達はタルラさんに拾ってもらって、必死こいて生きてきた。
俺達がどんなに辛くても、日の下で生きてこれたのはレユニオンのおかげだ」
ヴァシリは右手に収まる仮面を見つめて続ける。
「だけど…そのせいで、あいつがミーシャに否定されるかもってことも、どこかで覚悟してたろ。
それだけのことをしてきた…割り切らなきゃいけなかったってことは、俺達も…あいつもきっと自覚がある。
だってなにも知らないんだよ、あの子は」
「…」
「ウルサスは憎い。
今でもあいつらのことは皆殺しにしてやりたいって思ってる。
俺達はそれだけの思いを味わってきた。
だけどなイシドール、俺は…」
「…ミーシャは、あいつが言ってた通り、すごく優しいんだろうな。
優しいまま、生きてこれたんだな、これまで」
イシドールの言葉に、ヴァシリはハッとした表情を向ける。
「…そりゃあ、俺だってよ。
すぐには理解してもらえるなんて思ってなかった。
…だけどよぉ、やっぱり悔しいんだよ」
イシドールの瞳に涙がにじむ。
「…たった一人の、家族じゃねえかよ。
お互い生きていてくれりゃよぉ…それで、それで…。
あいつ…あいつがどんな思いで…」
「…そうだな」
ヴァシリはイシドールの肩に手をのせると、力強く握りしめた。
「スープが冷める、お前はちょっと外で頭を冷やしてこい」
「…あぁ」
イシドールは目元を乱暴に拭い、仮面をつけなおすと小走りに廊下を後にする。
ヴァシリが静かに扉を開けると、そこにはベッドに腰かけたミーシャが顔をうつむかせていた。
「…騒がせたな、起こしたか」
「…」
ミーシャは黙ったまま、何も答えない。
「少し冷めてしまった、許してくれ。
落ち着いたら、声をかけてくれ、俺は隣の部屋にいる」
「…アレクセイは」
ヴァシリはテーブルにスープを置いた腕を止める。
「アレクセイは…一人じゃなかったのね」
「…あぁ、あいつは、俺にとっても大事な弟みたいなもんだ。
俺だけじゃない、あの時、あの場所にいた奴はみんな、あいつに…ミーシャ、君に救われていた」
「…わ」
ミーシャは体を震わせながら、必死に言葉を探していた。
「わたし、もうわからない…。
分からなくなっちゃったの…あの子のやったことは、ゆるせない…!
だけど…わたし、わたしにはあの子を怒鳴りつけることも、責めることもできない…!
だって、だってわたしはあの子を…!」
「…ミーシャ、レユニオンにはもうまともに思考すらできない奴らが大勢いる。
あまり、大声でそういうことを言ってはいけないよ。
君に何をするかわからない」
ミーシャは仮面の兵士に勢いよく向き直る。
「…あ、あなた…」
「俺たち…俺たちが…この地獄で、まともでいられるのは、君たちがいたからなんだ。
残飯や血と泥の中で正気でいられたのは君たちのおかげなんだ」
ヴァシリは仮面を外し、心からの感謝の笑顔をミーシャに向ける。
「君がクリスマスプレゼントの木馬でどんな顔で笑ったのか、アレクのプレゼントの方が大きいとかでもめた話とか、喧嘩してアレクが泣いたときの君の申し訳なさそうな顔とか、そういう話が、俺達を…。
…この世界でどれだけ俺達を明るく照らしたか」
ミーシャは言葉にならないという様子で、首を横に振る。
「…だから、もしかなうなら。
俺達全員の、願いだ…ミーシャ」
ヴァシリはミーシャの目線まで腰を落とし、まっすぐに目を見つめる。
「どうか、その心にある本当の気持ちを、アレクセイに伝えてあげてくれないか。
もう…あまり時間がないんだ」
「…え」
「恐らく、この場所もすぐに特定される。
そうしたら、俺たちはこの広い荒野で、恐らく最後だ」
「な…なにを」
「…だから、ミーシャ」