METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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撤退戦

大通りの二股の分岐点。

そこでは二つの部隊がそれぞれの道を前に待機している。

 

「ではニアール。

避難民のことは任せた…もしもの時は、手筈通りに」

 

「ああ…ドクター、ご武運を」

 

「…これより我々陽動部隊をアルファ、誘導部隊をベータと呼称する。

アルファは作戦通り、北側の大通りをただひたすら西進する。

遅くもなく、早すぎてもダメだ。

ベータがフレアを上げるまで、大通りに居座り続ける」

 

オペレーター達はそれぞれのリストバンドから表示されるホログラムを見つめる。

 

「ベータはできうる限りのスピードで西端を目指せ。

戦闘行為は出来る限りするな、目立たず移動するんだ。

…学生諸君は大人の言うことをよく聞くようにな」

 

避難民と学生達もまた、ジョンの姿を見つめる。

 

「…では、作戦開始」

 

…

 

「アルファは作戦行動を開始する!

フレア投射!」

 

「投射開始!」

 

アルファ部隊のオペレーターが一斉に複数のフレアを射出する。

空気が弾ける音を上げながら、赤い光弾が空を舞う。

 

「さあて…敵がわんさとやってくるぞ」

 

地響きにも似た音が各地で上がる。

土煙と黒煙が、空の澱んだ雲色に溶けていく。

 

「…6時の方向から敵集団!!」

 

「中枢からの敵はまんまと引っかかってくれたな…!

狙撃オペレーター、走りながらでいい、牽制しろ!」

 

ドーベルマンが走りながらに部隊へ指示を送る。

 

「了解!

E2狙撃小隊は部隊後部に下がるぞ!道を開けてくれ!」

 

ボウガンを構えたオペレーター達が数人、隊列の中程を後ろに下がっていく。

 

「ACE隊長、我々も!」

 

「よし、半数は後ろへ回れ!

残りは俺と一緒に最前列で隊列を維持しろ!」

 

「了解!

重装隊!後尾へいくぞ、続け!」

 

「術師隊は不意の接敵に備えて隊列の中程に待機します、ドクター!」

 

「ああ、それでいい。

建物からの狙撃に注意、敵は屋上にもいる可能性があるぞ」

 

「庁舎の部隊、ですか?」

 

「ああ、あれは暴動を起こしている奴らとは違う。

奴らの正規兵…ゲリラ部隊といったところか」

 

ジョンは走りながらにリストバンドのホログラムを確認する。

 

「間も無くベータとの通信が途絶する、ニアール頼んだぞ」

 

『了解…ドクターもご無事で』

 

直後にノイズが走り、ニアール率いるベータとの通信が断絶する。

 

「第一牽制ポイントに差し掛かる。

前衛部隊は前方へ、ドーベルマン隊のポイントマンは安全確保にあたれ」

 

『了解!

E2、E3の各前衛オペレーターは私に続け!』

 

「総員流れるように動け、この作戦は速度と動きが重要だ」

 

ジョン達は大通りの中でも、丸く開けた噴水広場に差し掛かる。

 

『広場は…クリアだ!ドクター!』

 

「よし、全体止まれ。

重装オペレーターは狙撃、術師オペレーターを守れ、牽制開始」

 

『『了解!』』

 

広場の入り口を塞ぐ形で重装オペレーターが盾を構える。

その間を縫うように狙撃オペレーターが広がり、その後ろに術師オペレーターが待機する。

 

「撃て!」

 

狙撃オペレーターが一斉にボウガンの弓矢を発射する。

放たれた矢は一発も外れることなく、レユニオンの暴徒達に降りかかる。

 

「ぐああっ!!」

 

「怯むな、押しつぶせ!」

 

「投石を…!」

 

「させんよ、術師隊、敵戦列の中程を法擊」

 

『わかりました!

術師オペレーター!アーツを一斉投射!』

 

アーミヤの指示を合図に重装オペレーターの背後からアーツによる法撃が放射される。

オペレーターそれぞれから放たれた色とりどりの法擊は暴徒達の隊列の中程に突き刺さる。

直後、法擊地点は爆炎と黒煙に包まれた。

 

「…初めから頼るべきだったな」

 

『まだまだ、こんなもんじゃありませんよドクター!

後尾へ向けてそのまま放射、続けて!』

 

術師オペレーターは続け様に暴徒達に向けて砲撃を重ねる。

 

「ぎゃっ!!」

 

「ああああぁっ!!」

 

「な、なんだあいつら!

ウルサス憲兵団じゃないぞ!」

 

「アーツを、アーツを使ってくる!」

 

「感染者がなんで俺たちに攻撃を!?」

 

狙撃、法擊によって最前列にいたレユニオン達が孤立する。

 

「今だ、先鋒オペレーター正面の敵を叩け、素早くな」

 

『はい!突っ込め!』

 

軽装の先鋒オペレーター達が孤立したレユニオン達に向けて突撃していく。

 

「おらあ!!」

 

「引っ込めレユニオン共!」

 

「ぐああ!」

 

混乱しているレユニオンはなすすべもなく、蹂躙されていく。

 

「う、後ろに下がれ!」

 

「無理だ、炎が!」

 

法擊地点には黒煙と炎が巻き、下がろうとするレユニオン達を炙る。

 

「頃合いだな、先鋒オペレーターは撤退。

狙撃オペレーターは撤退を援護しろ、術師オペレーターは前衛オペレーターと共に前進開始」

 

『了解!』

 

「先鋒を抱き込んだらスモークを焚け、煙に紛れ、足の遅い重装隊を下がらせる。

狙撃オペレーター、前進開始」

 

『聞いたな!前進するぞ!』

 

『先鋒オペレーター、全員の合流を確認しました!』

 

『スモークを投げる!』

 

オペレーター達の手から次々にスモークが放たれ、たちまちその姿を覆い隠す。

 

「風通しの限られる市街地でのスモーク、風も味方してくれているなドクター」

 

「ドーベルマン、次のポイントへ向かう。

ポイントマンと狙撃隊を連れて前進しろ、重装隊の離脱を援護するんだ」

 

「了解だ!」

 

ドーベルマンはジョンの指示を受けて大通りの先へ進む。

 

(予定通り、敵はこちらに釘付けだな)

 

ジョンはPRTSの戦術データリンクを見つめる。

ホットスポットになっているのはジョン達の後方のみ、レユニオンは派手な戦闘が行われているこちらの大通りに集中しているようだった。

 

「ドクター、重装隊は離脱する!」

 

「ACE、盾が重いのはわかるがもっと急がせるんだ、子供があんなに頑張ってるんだぞ、ほら」

 

「ど、ドクター、術師隊は…全員ドーベルマン教官と…合流しました!…ふぅ…」

 

ドクターとACEの前に息を切らしたアーミヤがよってくる。

 

「ふふ、手厳しいのは前のドクターと変わらないな…聞いたかお前ら、もっと気合入れて走れ!」

 

「ヒィ…」「たまんねぇな畜生…はは」「急げ、ほら!」

 

「ACE、あとどれくらいだ…?」

 

「…時間はあまりないな、見ろ、雲の粘度が増してきている。

空にへばりついているかのようだ、夕闇でもないのに赤く色づいている」

 

「…もう、すぐそこまで迫っています」

 

「『天災』…信じられんが、この空の様子はただ事じゃないな」

 

…

 

遡ること数十分前。

陽動作戦会議の最中。

 

「『天災』?」

 

「はい」

 

「天の災害と書いてか?」

 

「そうです」

 

「空からその…源石と言うものが降り注ぐと言うのか?」

 

「はい、あれは我々が天災雲と呼ぶ特殊な雲海です。

あの雲は鉱石病(オリパシー)の原因となる源石を地上にばら撒く厄災です」

 

「…雹のような大きさじゃない、ビルみたいな大きさの…石をか?

…馬鹿げている」

 

「ですが、現実に天災は頭上に迫ってきています」

 

ドーベルマンは空の澱んだ雲行きを見て吐き捨てるように語り始める。

 

「もし天災がこのチェルノボーグを襲えば、この大都市といえどもひとたまりもないだろう。

本来なら、天災雲が都市の上空に発生した場合は、区画ごとに分割して避難するはずだが…」

 

「チェルノボーグはその動きを見せない。

レユニオンが区画管理塔の全てを掌握したとみるべきか…」

 

ACEがホログラム上のマップを見て言う。

 

「それもだ、この大都市が移動すると言うのも、なんとも信じ難い話だ、現実味がない」

 

「ドクター…あなたにいちいちこの世界の成り立ちを説明している時間はない。

間違いなく、ここに長い間停まれば我々はあの天災に押しつぶされて全滅する、それだけは言える」

 

ドーベルマンはジョンの目を真っ直ぐ見つめる。

 

「…そうだな、今は君たちの言葉が真実なのだろう。

だとすれば、あの暴動は偶発的に起こったものではないな、明らかにこの事象を狙っての襲撃だ」

 

「ええ、意図的に狙って戦いを仕掛け、思惑通り混乱を拡大させたというわけですね」

 

「我々はあの天災に対しては等しく無力だ。

今は空色が明るい、まだ余裕があると思いたいが…悠長にはしていられんぞ」

 

「ああ、そうだな…。

すまない、無駄な時間を取らせた…作戦を煮詰めよう」

 

…

 

「レユニオンは今回の襲撃を一つの成功例として掲げるでしょう。

この暴動も、彼らの掲げる理想を成就させる手段として確立するはずです。

…ロドスの理想とはかけ離れた理想が、感染者の心に根をはることになりかねません」

 

「…これは暴動なんかじゃない、的確に急所を抑え、自ら傷を負うことも辞さない…狂行だ、正気じゃない」

 

『残忍で狂ってる。

正気なんてとうに捨て去っているのだろう』

 

「…天災、現実味を帯びてきたな。

私はこんな空を見たことがない」

 

『天災が降りかかろうとしている前兆だ』

 

ドーベルマンは無線機の先で声を荒げる。

 

『奴らは非感染者…この都市に恨みを持つただのチンピラの集団のはずだ…!』

 

「それでも、彼らはチェルノボーグを火の海に変えるだけの力を見せつけた…。

その上、天災が降りかかれば…」

 

『…都市は砕け散り、後には源石(オリジニウム)に侵された廃都市が残される』

 

「…もう、その結末は変えようがないのか」

 

ジョンはドーベルマン達の会話を、ただホログラムを見つめながらに黙って聞いていた。

 

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