「うー寒っ。久々に来て見りゃ酷いなこりゃ。」
石レンガと木造の住宅街。空は真っ白の雪雲。
一面に薄く積もった雪はこれからも積もるぞと言わんばかりにしんしんと振り続けている。
「ったく、呼ぶにしたって夏にしてくれ、、、初冬とはいえ冬なんだぞ。」
愚痴を零しながら1人歩き続ける。
ぱからぱから、
馬車が1台横にゆっくりと並んできた。
「どうした嬢ちゃん。寒そうだな。この先に行くってんなら首都だろう。乗ってくかい?」
「あなたは神か使いか?有難く乗らせてもらいたい。」
ブルブルと震えながら幌付きの馬車に少女は乗り込んだ。
幸いなのか、数時間前から風自体は弱まっている。雪も流れている降り方はしていないから景色でもそれは容易に分かっていた。
しかし、時には歩く時にできる風でも辛いこともある。幌付きの馬車がこんなにありがたいと感じることもまぁ無いが、こんな時ほど縋りたいものは他に無い。
「はー、風が、、、凌げる、、、助かったぁ。」
「さっきから大袈裟だよ嬢ちゃん。こんな馬車じゃ暖かくもないだろ?紛らしついでに話し相手になってくれよ。俺も応えちまってな。」
「そんなんで良ければ。」
馬の蹄鉄が地面を叩く音と車軸が軋む音、たまに砂利を踏んで車輪が鳴る。
それ以外は静かに雪が降るだけ。
確かにこれで寒すぎると応えちまうのも頷ける。
「にしてもこの時期に旅人か?それにそのなり、若いってのになんとも。」
「実は知り合いに呼ばれて、こんな時期に呼ぶなって言いたいとこなのだけど。まぁ事情が事情なもので。」
「ほぉ、知り合いねぇ。手紙でも届いたのかい?」
「矢文が。」
「どんな距離だいそりゃ。」
冗談が上手いと馭者は笑う。
「そりゃさぞ腕のいい弓師が射ったのだろう。それでその内容は?」
「こちらは暖かいから遊びに来い。とね。」
「家から出ない体たらくなのか、何ヶ月も前に射った矢文なのかこりゃわからん。」
「さて、何年も前に家から出ない畜生が飛ばした矢文かもしれないが?」
「矢が止まって見えるほど遅いと来たか」と馭者はまた笑う。
「ということはなにか、お嬢ちゃんは皇帝様に呼ばれて?」
「まぁそんなとこ。だからって気を使う必要はないから。」
「いやいや。気品でわかってたよ。すごい人なんだろうなってな。」
「本当は?」
「どえらいかわい子ちゃんだから引っ掛けて遊んでやろうってな。」
はははと2人で笑う。
そんなくだらない話をしているうちに首都の城壁を潜り、綺麗な街並みを拝みながら馬車は宮殿まで向かった。
「なんだ、ここまで頼んでないのに悪いね。」
「ナンパしたツケくらい払うよ。気になさんな。」
そして宮殿の元までつくと「金なんていらんよ」と気さくに馭者は笑い、そこで別れ、少女は宮殿の中に入った。
「なるほど、あの幼子がかの白狐か、、、あの犬神も人が悪い、いや人ではないか。はははっ!」
そして馭者は1人街の中に馬車とともに消えていった。