The Last of Us Part 2 -Finding something to fight for-   作:姉くじら

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サンタバーバラ2日目 1

 かすかに波音が聞こえる。

 聞こえづらいけど、たしかに聞こえる。目が覚めて、頭が冴えないままぼんやりと波音を聞いていた。

 波音をかき消すような騒々しい声が聞こえる。

 何を言っているかわからない。野太い、女の声だ。何故か聞いていてイライラする。

 そうだ、あたしはサンタバーバラへ来て、アビーを見つけて、それで…。

 それで?

 それであたしはどうしたんだっけ。

 

 「目が覚めたかい?」

 

 体が跳ね起きた。

 なんでここにいるんだ! というかあたしの銃、バックパックはどこだ。

 

 「なんでここにって顔をしてるけど、それはここが私達のクルーザーだから。…あんたのバックパックはここ」

 

 返せ、と言う前にアビーがバックパックを投げてあたしによこした。

 不用心すぎないか、とアビーを疑う。バックパックを確認したいが、アビーは手には銃を持っている。

 アビーはあたしの視線に気づいて、困ったように笑い、銃を持ったままではあるが両手をあげて後ろへ下がった。トリガーから指を離しているのが見えた。

 用心しながら荷物を確認する。なにもとられていない。

 

 「確認は済んだ?」

 

 アビーはこっちを見ずに尋ねる。クルーザーの窓から外を窺っていた。

 

 「感染者?」

 

 「ラトラーズの残党だ。結構な数がいる」

 

 くそったれラトラーズ。

 捕虜に全員殺されてれば良かったのに。

 

 「街へ、必要な物資を探しに行ってたんだ。特にレブは、少し危ない」

 

 アビーが焦るようにしゃべる。

 振り返るとあのガキがいた。

 浅い寝息が聞こえる。顔色は良くない。

 

 「痛っ」

 

 銃を片手に立ち上がろうとして、思わず呻く。

 そうだ、脇腹…。ラトラーズのくそったれにやられたんだ。

 脇腹をおさえて気づく、抑えた手も脇腹も手当がされている。

 

 「ああ、悪いけどあんたの荷物から拝借したよ。私達にも使ったけど、あんたの手当もしたから」

 

 「勝手なこと…!」

 

 武器だけ確認してたから、治療キットは気づかなかった。

 今度こそ立ち上がる。

 

 「今すぐここを…」

 

 こっちへ振り返ったアビーへ銃を突きつけた。

 

 「なんであたしをここへ連れてきた?」

 

 アビーは銃をあたしに向けるタイミングを失い、あたしを睨みつけた。

 

 「…今はそんな話をしてる暇がない。奴らはすぐここを見つける、そうすれば」

 

 「ラトラーズに殺されるって言うなら、先にあたしが殺してやる」

 

 アビーが口を開けて、でも何も言わなかった。

 あたしの後ろにいるだろうガキを見ていた。

 

 「…戻ったらあんたは気を失って倒れてた。潮が満ちたら、あんたは溺れてた」

 

 「あたしが訊いてるのは…」

 

 「レブが!」

 

 急な大声に、少しひるむ。

 

 「レブが…、戻ろうって言った。ボートで目が覚めたレブに、あんたに見逃されたって話をしたらあの子がそう言うから、私は、勝手に逃げてるだろうって言ったんだけど…」

 

 「それで…?」

 

 あたしの声に、うつむいていたアビーが顔をあげた。

 

 「それで、わざわざ戻って、あたしを連れてここまで来たっていうの!?」

 

 「…そうよ」

 

 怒りがわきあがるのと同時に、困惑でトリガーに指をかけられずにいた。

 

 「…なんで?」

 

 「さっき答えたので全部よ、それより…」

 

 「なんであたしに殺されるとか、考えないわけ?」

 

 より強く銃を握る。

 

 「別にあんたを信じたわけじゃない…、必要だったから」

 

 「必要?」

 

 「脱出するのを手伝ってほしい」

 

 アビーはガキを見つつ、そういった。

 

 「は?」

 

 「私一人じゃレブを守れない」

 

 何を言われているか、わからない。

 呆けるとは、まさに今のあたしをいうんだろう。

 馬鹿じゃないの。

 

 「あんたたちを殺しに来たあたしに、子守を頼むの? 正気!?」

 

 アビーは何も言い返さない。

 

 「何!? 助けたんだから借りを返せとでも!?」

 

 「…そうは言ってない」

 

 「いいや、言ってるね。借り!? あんたに借り!?」

 

 「…あんたを助けようと言ったのは、レブだ。…今回も、前回も」

 

 「あんただろうが、ガキだろうが関係ない! そもそもあたしは助けてなんて言ってない!」

 

 「でも助けられた」

 

 「勝手にね! だいたいあいつはトミーの足を撃った!」

 

 「っ! そのトミーはさんざん私の仲間を殺した」

 

 「あたしもね! また仲間を殺されたいの!?」

 

 「…あんたが殺しに来たのは、私。そうでしょ?」

 

 「何? 今死にたい? すぐオーウェンたちにあわせてあげようか」

 

 アビーの肩が震えたと思ったら、銃を向けられていた。

 制する暇もなかった。

 

 「みんなの、話は、しないで…!」

 

 顔を上気させて、瞳孔が開く。シアトルの劇場で、トミーを足蹴にしていたときと同じ顔だ。

 にやりと頬がゆるむ。

 やるしかないんだよアビー。

 

 「あんたが死ねば、どうせあのガキも死ぬでしょ?」

 

 あたしがそう言うと、ガキを見て、目を閉じた。

 不意に思い出されるのは昨日の、浜辺のアビー。

 

 『私は戦わない』

 

 腹が立つ。

 

 「ラトラーズの拠点はあそこだけじゃない。別の拠点から増援がやってくる。そうなればあっという間に包囲されて、殺される」

 

 「だからなに?」

 

 「今いる残党だけなら目をかいくぐって、逃げられる。でも私一人でレブをかばいながらじゃ逃げられない。だから手伝ってほしい」

 

 「あたしになんのメリットがあるの」

 

 「生きて帰れる」

 

 アビーが語気を強める。

 生きて帰ったところで、とつい口にしそうになる。

 人の顔が浮かぶ。ジャクソンの街の連中。

 ディーナ。多分、待ってないだろう。帰れば歓迎はしてくれるだろう。喜んでくれるだろう。でもその姿を私が見たいと思っていない。一度彼女を捨てたあたしの帰還に喜ぶ彼女の顔を。

 トミー。アビーを殺さない限り、トミーはあたしを認めないだろう。…あたしがトミーならそうする。

 マリア。前から合わせる顔はない。

 シアトルから帰ったあたしを、ジャクソンのみんなは暖かく迎えてくれた。

 悪夢に苛まれるあたしのことをないがしろにはしなかった。

 でも、味方はしてくれなかった。

 そしてあたしはジャクソンを捨てて、サンタバーバラへ来た。

 アビーを殺すことだけを目的にして。

 アビーを殺したあと、あたしはどうするつもりだったんだろう。

 帰ったところで、ディーナとは合わせる顔はない。

 トミーはねぎらってくれるだろう。

 そして、ジョエルの墓参りをして…、報告をする。仇は討ったと。

 シアトルから帰って、一度も墓へは行っていない。

 アビーを殺せば、墓参りもできると思った。

 合わせる顔ができるはずだと思った。

 でも…。

 

 「…わかった」

 

 銃を下ろす。

 長く黙り込んでいたあたしからの返答に、アビーはわかりやすく破顔した。

 あたしから距離をとったまま、回り込むようにアビーはガキに近づいて、様子を窺う。

 アビーがガキの頭をなでている。

 ジョエルは…。

 ジョエルは、サラを失って、その後、どうしたんだろう。

 

 『俺は生きるためになんだってした。お前も、何があっても戦う目的を見つけなきゃダメだ』

 

 なんだってする。

 とにかく、今は生き残るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「このクルーザーは動かせないの?」

 

 「ガソリンがない」

 

 アビーがテーブルに地図を広げる。

 

 「ここが今いる海岸。ここが昨日のラトラーズの野営地。あいつらはおそらくこの修道院を拠点にしてる」

 

 アビーが海岸から離れた、コンスタンス通りの近くの修道院を指した。

 

 「なんでわかる」

 

 「一度、収容された。場所ははっきりしなかったけど、このへんであんなにでかくて特徴的な建物はここぐらい」

 

 苦虫を噛み潰した顔をする。別に興味がないので先を促す。

 

 「で? どう行くの?」

 

 「場所はわからないけど、この修道院を中心に複数の野営地をもってる。陸路で抜けるよりは、海を行ったほうが安全だ」

 

 「…。ガソリンはないんじゃなかった?」

 

 「あいつらからいただく」

 

 「本気?」

 

 「車を持ってたから、確実にある。なにかしら足を得ないと、レブを背負ったまま逃げるのは難しいから…」

 

 「車があるなら、それで…」

 

 「…町の外へ出る街道は封鎖されてる。たぶんろくに進めない。それに、捕虜の多くは車できて、あいつらに捕まってる」

 

 ジョエルとの旅で、ピッツバーグで襲ってきたハンターを思い出す。

 

 「ガソリンはどこから奪う?」

 

 「この間の拠点から。地理もわかる」

 

 「船を得て、どこへ逃げるの?」

 

 「……」

 

 アビーは、口をつぐんで、腕組みをした。

 

 「…サンタカタリナ島。ファイアフライの拠点がある」

 

 「…まだいたんだ。ファイアフライ…」

 

 テーブルについた腕を見る。タトゥーに隠したはずの傷跡が、いやに目についた。

 

 「あんたは、どうするの」

 

 地図を眺める。

 

 「…ロスなら途中に寄れるでしょ、そこで下ろしてくれたらそれでいい」

 

 カタリナ島の対岸を指す。

 アビーは頷いて、地図を畳んだ。

 ファイアフライと合流したアビーは、あたしのことを話すだろうか?

 いや、ファイアフライはもう治療薬を作れないんだったか。たぶん、ジョエルが研究者を殺したから…。

 それでも、あたしに、あたしたちに恨みを持つ奴らはまだいるだろう。

 多分、ここでアビーは殺しておくべきだろうな。

 他人事のように、あたしはそう思った。

 

 「じゃ、行くよ」

 

 クルーザーから飛び降りる。

 アビーが、尻のポケットからハンドガンを取り出して構えつつ、先導する。

 クルーザーの裏の崖を登るアビーの背中を見て気づく。

 バックパックがぺちゃんこだ。

 

 「あんた、武器は?」

 

 「ラトラーズに捕まってとられた。これは予備でクルーザーに隠してた」

 

 手の銃を振ってみせる。

 崖を登りきり、住宅街へ入る。

 あんなに痩せたのに、息切れもしてない。やっぱりこいつゴリラだろ。

 住宅に近づくと、独特の金切り声が聞こえる。

 

 「感染者だ」

 

 「わかってる」

 

 小さく返事をする。

 ここは昨日も通った家屋だ。結構な数の感染者がいた。シャンプラーも数体いたが、全部殺したはずだった。

 アビーが窓からなかを覗く。

 

 「ランナーが数体。…たぶんクリッカーが上にいる」

 

 「屋根に登れる。2階から抜けよう。…クリッカーはあたしが始末する」

 

 アビーが頷くのをみて、登る。

 ナイフを構えて、壁伝いに歩く。割れた窓からクリッカーの金切り声が聞こえてくる。窓から覗くと、クリッカーは後ろを向いていた。

 好都合。

 ゆっくりとあたりを窺って、他にいないのを確認して、忍び寄る。

 首を掴んで、引き寄せて、掻っ切る。

 

 「…っふう」

 

 声も立てていない。下のランナーには気づかれてないだろう。

 アビーが吹き抜けから下を確認して、大丈夫だと確認して、部屋を抜けた。

 窓から音をたてないように静かに飛び降り、進む。

 

 「…まだいる」

 

 うめき声が聞こえる。

 ランナーか、他のなにかか。

 

 「昨日、だいぶここで殺したんだけど」

 

 おもわずひとりごちる。

 

 「ここは近くにでかい公園があって、森がある。感染者はいくらでもいる」

 

 「ラトラーズも、この辺拠点にするなら感染者も駆除しとけよ」

 

 「おかげで目の届かないところも多い。最悪森を抜ければ、ラトラーズには見つからない」

 

 「ラトラーズには、ね」

 

 ランナーの声がした家から離れ、別の住宅の様子を確認する。

 

 「森はどのあたりにあるの」

 

 「…北西、むこうに見える通りをずっと行けば着く」

 

 北西。今あたしたちが向かっているのは昨日のラトラーズの拠点。クルーザーからは東にある。ラトラーズの拠点だと言った修道院は北のはずれにあった。

 

 「…あのガキを背負って、その森を抜けるのでも良かったんじゃない?」

 

 「感染者が多すぎる。レブを守りきれない。あと、ガキって言うのやめて」

 

 「…はいはい」

 

 「それに…、一刻も早く安全な場所へ連れて行かなきゃならない。本当ならあのボートでそのまま向かいたかったけど、燃料が足らなかった」

 

 「…」

 

 住宅を抜けて、通りへ出る。

 離れた街路樹に、クリッカーが吊るされているのが見える。

 あの罠だ。

 

 「何あれ、ラトラーズがやったの?」

 

 「…ラトラーズのブービートラップ」

 

 「ああ」

 

 それだけでアビーは納得したようだった。

 似たトラップを見てきたのだろう。

 

 「…チームで動け!! まだいるはずだ!!」

 

 遠くから聞こえる。ラトラーズだ。

 

 「くそっ」

 

 「やっぱり街道は見張られてる、住宅を抜けていくよ」

 

 身をかがめて、アビーが手招きしつつ走っていく、

 あたしも後へ続いた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…車があの建物にあるって話だけど、本当?」

 

 サイレンサー付きの銃を突きつけて問い詰める。

 足を引きずってあたしから離れようと必死になってるラトラーズ。

 

 「…それ以上後ずさると落ちて死ぬよ」

 

 狭い見張り台をあたしの声も聞こえないほどパニックになって這いずっている。

 手が見張り台を踏み外し、体制を崩す。ラトラーズが驚いて地面を見る。後ろを向いた隙に後頭部に銃口を押し付ける。

 「ほ、本当だ!」

 

 「で、どこにあるの?」

 

 「捕虜を収容する建物の隣の小さい建物だ! 通りに面していて、倉庫になってる!」

 

 あたしがアビーをみる。

 アビーが頷く。それを確認して銃をしまう。

 

 「な、なあ。本当だ、マジだ。見逃してくれよ。あんたたちのことも言わねえ!」

 

 「大声を出すなって言っただろ」

 

 首にナイフを突き刺して、掻っ切った。

 

 「…バレてない?」

 

 「大丈夫。見張りは言ったとおり出払ってる。数が少ない」

 

 身をかがめて建物を窺うアビーが静かに答えた。

 

 「あの建物だ。あれが裏が通りに面していて、そこにいつも車を停めてる」

 

 見張り台からわずかに顔を出して建物を窺う。

 アビーが捕虜が収容されていた丸くて高い建物の横の建物を指す。

 ラトラーズは数人見えるが、思ったよりも少ない。

 

 「捕虜に襲撃されて一度ここを離れたらしい。その後取り返して、今は逃げた捕虜を追って出払ってる…と思う」

 

 「…というかなんで捕虜のこととか知ってたの?」

 

 アビーは浜辺で磔にされていて、拠点での出来事は知らないはずだ。

 

 「今朝、捕虜の一人とあって教えてもらった」

 

 「…信じられるの?」

 

 「一緒に捕まった仲だ。それに今確かめたでしょ?」

 

 足元のラトラーズを横目に、アビーは見張り台から早々に飛び降りて建物へ向けてかけていく。

 ため息をついて、建物を見る。捕虜の収容されていた建物と連絡はしてるらしい。

 ラトラーズの人数もいないし、建物の中を抜けていけばいいだろう。

 あたしも見張り台を飛び降りて、アビーに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どう?」

 

 「…もういない」

 

 構えていた銃を下ろして、アビーが車へと近づく。

 

 「…使えそうだね」

 

 「ガソリンは入ってる?」

 

 「たぶんね」

 

 「食料も、ある。ついでにもらっておこう」

 

 倉庫の棚は、弾薬や缶詰なんかの食料がそれなりに置いてあった。

 

 「丁度いいポリタンクがある、ポンプも。これで車からガソリン抜いて」

 

 棚を漁っていたアビーがタンクとポンプを投げてよこした。

 

 「命令しないで」

 

 「…わかったわよ」

 

 車にはガソリンが入っていた。

 タンク一杯は十分にあるだろう。

 ポンプでガソリンを抜きつつ、あたりを見渡す。

 缶詰の食料がけっこうある。車で頻繁に食料を運び込んでいるんだろう。

 やつらここを保養所だって言っていた。

 

 「こんなに食料を、どうやって…」

 

 「大麻だよ」

 

 アビーがバックパックへ缶詰を詰めながらポツリとつぶやいた。

 

 「表の畑、あれがそうだよ」

 

 「捕虜に育てさせてた?」

 

 確かに、ジャクソンで見た植物と似ていた。

 ラトラーズで使いもするんだろうけど、基本は取引に使っているんだろう。

 豊富な装備もそのおかげか。

 

 「ガソリンは詰め終わったよ」

 

 バックパックへポリタンクをしまって、立ち上がる。

 

 「よし、行こう」

 

 アビーがそう言うと同時に銃声がなる。

 

 「いるのはわかってる!! 出てこい!!」

 

 「くそ!!」

 

 倉庫のシャッターの方から聞こえる。

 

 「ハメられたんじゃないの!?」

 

 思わずアビーに怒鳴り散らす。

 

 「知るか! 今はどう切り抜けるかだ!」

 

 まだ通りにしかいないようだが、すぐに包囲されてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行くよ!!」

 

 「合図でやって!!」

 

 「今!!」

 

 凄まじい衝撃、爆発音。

 予め耳は塞いでいたが、それでも頭が揺さぶられる衝撃が体を襲う。

 煙の向こうから外の光がみえる。

 

 「開いた!!」

 

 「捕まって!!」

 

 アクセル全開で車が倉庫から飛び出る。

 一瞬、外の光で目がくらむ。

 飛び出た車はすぐさま急カーブして通りを駆け抜ける。おくれて後ろの窓から確認すると、さっきの爆発でシャッターが吹き飛んで、ラトラーズに直撃したらしい。

 

 「シャッターの前にいたの? 間抜けじゃない!?」

 

 アビーがミラーで見たのだろう。

 

 「その間抜けに殺されかけてたんだろ」

 

 「はっ、あんたの腹の傷は、一体誰にやられたんだ?」

 

 「あたしは捕まらなかった」

 

 「死にかけたくせに」

 

 「何?」

 

 「右! ラトラーズだ!」

 

 アビーがそう言うが早いか、あたしはフロント越しに銃を構える。

 ラトラーズがトラックで私達の車の前を走る。

 

 「くそ、当たらない!」

 

 荷台の敵二人があたしたちに銃を向ける。

 

 「早くしろ!!」

 

 「うるさい!! あんたの運転が下手なんだ!!」

 

 足にあたる。バランスを崩して落ちる。そのままあたしたちの車に轢かれた。

 相手の弾丸が頬をかする。

 リロードして、うつ。今度は頭に当たる。また落ちて、轢死体になる。

 

 「ざまあみろ」

 

 トラックがあたしたちに並走しだす。助手席のラトラーズが窓越しに銃を向ける。

 

 「ちっ。私の側にくるなよ」

 

 アビーが舌打ちをして銃を向けると。

 

 「前!!」

 

 バスが前を塞いでいた。

 くそ!! 坂でバスをぶつけてきたんだ!! 仲間だって並走してるのにめちゃくちゃしやがって!!

 アビーが片手でハンドルを思いっきり回す。

 バスにかすりつつも90度回転して、道を外れて住宅の塀を突き破り、激突した。

 

 「ああ!! ゲホッ! くそったれアビー!! 下手くそなんだよ!!」

 

 車から這い出る。

 

 「相手は二人だ!! 突入しろ!!」

 

 ラトラーズの怒号が聞こえる。

 銃を構えて、出口を探す。人数はわからないが、逃げられるならそのほうがいい。

 

 「おい!! アビー!! はやく逃げるぞ!! おい!! …アビー!?」

 

 車を覗く。

 アビーは気絶していた。

 


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