超特急論破 Prelude   作:鳶子

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第11楽章:あの日の誓いは夏風と共に

✧ ✧ ✧

 

 

『陰崎 ひめか殿

 

最終選考の結果、貴方の作品は、見事最優秀賞に決定致しました。つきましては、授賞式を行いますので、添付の資料を…』

 

「……へっ?」

それは、あまりに突然訪れた知らせだった。

 

「や……や…」

 

ひめかの漫画が、最優秀賞?授賞式?1番、すごい?

 

「やった〜〜っっ!!!!!!!!!」

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

 

「すごいじゃないか、陰崎」

 

喫茶店で、ささやかな報告会を開いた。向かいの椅子に座っているのは、漫画研究会の先輩の無彩さん。

版権ジャンルの絵をSNSに投稿し始めた頃に漫画研究会というネット上のサークルみたいなので知り合って、たまたま近所に住んでいたことがわかって意気投合。こうして時々近況を報告している。

 

「ありがとう……はぁ、ひめか、自分でもまだ信じられなくて……」

「しかも3回目だろ?ほんとに凄いな…俺なんてまだ1度も最終選考に入ったことすらないのに」

「さ、最初の授賞の時はまだ喜んでたけど、3回目まで来るともう信じられない……これ、陰謀論とかじゃないかな…」

「素直に喜んでどけよ。お前の実力が評価されたんだって」

「えへへ…そ、そうかな……」

 

そう言われると照れくさい。無彩さんは確か大学生だったけど、コミュ力高いし、こうしてタメで話してても違和感がなくてすごく助かる。

 

「そろそろ連載も始まるんだろ?少年漫画雑誌なんて憧れの的だろ。楽しみにしてるよ」

「初めて締切の概念に出会って気が狂いそう…でも、無彩さんに楽しんで読んでもらえるように、ひめか頑張るね」

「…お前、元からそこそこ頭のネジ外れてるだろ」

「そ、そんなことないもん!とにかく今回の受賞作、読んで!まだお母さんにしかちゃんと見せたことないんだけど…」

 

無理やり原稿を差し出す。無彩さんは素直に受け取って、じっくりと読んでくれる。

普段はふざけた会話しかしないけど、こういう時はまじめに見てくれるのでありがたい存在でしかない。クリームソーダをつつきながら、読み終わるのをじっと待つ。

 

 

「……うん。面白かった」

15分ぐらいして、無彩さんはようやく原稿から顔を上げた。

 

「ほ、本当?」

「ああ。この主人公とヒロインの軽快なやり取りがほんとにたまんねえな。表情豊かで構成もわかりやすいし、これは絶対売れるよ。最優秀賞なのも頷ける」

「〜〜ッ!」

 

無彩さんの感想を噛み締める。嬉しい。嬉しい。表情筋が緩んで、顔がどんどんにやけていくのがわかる。

 

「…顔、顔。人に見せられない顔になってんぞ」

「言わないで!!わかってるから!!」

 

そんな会話をしながら、無彩さんのおごりで喫茶店を出た。

 

…無彩さんが逮捕されたというニュースをテレビで見たのは、その2日後だった。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

殺人、と字幕が出た瞬間、頭の中が真っ白になった。そんなはずない、あの優しい無彩さんが、殺しなんてするはずが。

 

耐えきれずに無彩さんに会いに行った。ドラマで見るみたいなガラスの壁を隔てて、どこかやつれた顔をした無彩さんがパイプ椅子に座っていた。

 

「…どうして」

「………」

「…っ、ひめかの連載、読んでくれるって言ったじゃん!!」

「……すまん」

 

無彩さんは、深く頭を下げた。その姿を見て、感情が次から次へと押し出されて、ぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

「殺しなんて、どんなことがあっても絶対しちゃダメじゃん……」

言葉を吐き出す度に体から力が抜けて、ただ項垂れるしかなかった。

 

「…お前が全部正しいよ。俺の事なんて忘れてくれ。お母さんがずっとお前のこと応援してくれてるんだろ、お母さんの為にも早く家に戻って描けよ」

「…無彩さんだって、応援してくれてた」

「…………」

 

黙り込んだ無彩さんは、やるせない表情をしていた。それを見て、拳をぎゅっと握りしめる。

 

ただ怒ってるだけじゃ何にもならない。ひめかも無彩さんも、前に進めない。

 

「ひめか、超有名漫画家になるよ。それで無彩さんが刑務所から出てきたら、コンビニで1番に目に入る位置にひめかの絵を載せるから。だから絶対、もう一度ひめかの漫画を読んで、感想言ってね」

 

「…ああ」

無彩さんは、しっかりと頷いた。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

椅子に座って、賞金で届いたペンタブを開く。髪をお団子にして、カーディガンの袖をまくりあげる。ぱちん、と気合いを入れるように自分の頬を叩いた。

 

いつか絶対、絶対に、漫画界のてっぺんをとってやる。

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