超特急論破 Prelude   作:鳶子

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第12楽章:我が刃は己を守る為に在らず

✧ ✧ ✧

 

 

 

「…小町、凰玄。お前達に伝えておく、我が流派の教えがある」

 

稽古の後の瞑想を終え、正座して父上と向かい合う。いつもならすぐに話が終わって汗を流しに行けるのに、今日は少し違うようだ。背中と道着の間に、じっとりと汗が滲む。

瞑想の時には全く気にならなかったアブラゼミの鳴き声も、今では少しうるさいとすら感じていた。もう夕方なのにどうしてこんなにセミは元気なんだろう。

 

「我が刃は己を守る為に在らず」

 

父上は厳かな面持ちでそう言った。

 

「…父上、どういうこと?」

隣にいた凰玄は静かに聞いていたけど、ボクは堪らなくなって尋ねた。

 

「私欲の為にその刃を振るうな。その刃を、お前達の力を、誰かを守る為に使え」

「私欲…守るために…」

「…………」

 

凰玄は、やっぱりずっと黙っていた。横を向くとぼんやりとした顔が目に入る。こういう顔、感じ入る…って言うんだっけ。

 

「よし、今日はこれで終わりだ。…互いに、礼!」

 

号令がかかって、慌てて頭を下げる。そのまま何もなかったみたいに、父上は道場から出ていった。凰玄もどこか上の空で、ふらっと立ち上がってシャワーを浴びに行く。

 

「…どういうこと?(゜▽゜)」

ボクばっかりが、道場の真ん中で、ひとり首を傾げていた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「〜♪」

 

今日は学校が短縮授業で、ちょっとだけ早い時間に帰れた。外はどんよりとした曇り空でも、自然と鼻歌とスキップが出るもんだ。早く道場に行って、父上に稽古をつけてもらおう!

 

「ふんふふんふーん……あれっ?」

いつも人気のない、お店とお店の間の裏の路地に、人の気配が感じ取れた。

 

「…………」

気配を殺して、そっと覗き込む。そこには、ボクと同い年ぐらいの地味な格好の女の子と、制服を着崩した女の子が数人いた。地味な子は制服さん達に取り囲まれている。

 

「…あやしい……」

しばらく様子を見ていると、制服さんの内の一人が、女の子の長い髪を引っ張って…壁に叩きつけた。

それを見た瞬間、反射的に体が動いて、勝手に彼女たちの方に向かっていた。

 

「キミ達っ!」

「きゃっ…な、何よアンタ!」

 

後ろから突然人が現れたのにびっくりしたのか、制服さん達はのけぞる。

 

「…今、何をしてたの?」

「何って…アンタには関係ないでしょ?部外者はとっととどっか行ってよ」

「そうよ、あたし達の邪魔しないでよ!」

わいわいと制服さん達がボクを責め立て、今にも追い出そうと目配せしながら近づいてくる。

 

「関係なくないッ!」

ボクは一喝した。

 

「困っている人がいるなら助けるのは当然のこと…ボクはその子を見つけた時点で関係者だ!」

「…………」

「文句があるならかかってこい、ボクがキミ達の鈍った根性を叩き直してやる」

 

「……はーあ。なんかマジで冷めたんだけど」

 

制服さんのリーダー格らしき女の子が、大きくため息をついた。

「つまんな。行こ」

 

リーダーさんの言葉に従って、制服さん達はぞろぞろと歩き出して、ボクを睨みながら路地から出ていった。

 

 

「みんなからは、おもしろいって言われるんだけどな…キミ、立てる?」

ボクは座り込んでいた女の子に声をかける。

 

「………」

「ああ、起こしてあげるよ…よいしょー↑」

彼女の細い腕を掴んで立ち上がらせ、服についていた土埃をぱんぱんと叩いて払ってあげた。

 

「あ、あ、あの……ありがとう、ございました……!」

女の子がギリギリ聞こえるぐらいの小さな声でそう言いながら、ぺこっと頭を下げる。

 

「ううん、気にしないで、ボクもたまたま通りかかっただけだし。…もっと早く声かければよかったよ。家まで送ろうか?」

「…いえ…!わ、悪いです、そんなの……」

「…そっか。それじゃ、ボク急いでるから!またね!」

 

女の子は大丈夫そうだったので、ダッシュで家の道場へと向かった。さっきの灰色の曇り空は、すっかり晴れ渡っていた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

 

「ふむ。小町…お前は無意識に教えを実行しているな」

「無意識?教え?どういうこと?(゜▽゜)」

稽古が終わってから今日のことを父上に話すと、なんだか複雑な顔でうんうんと頷いた。

 

「前に言っただろう、我が刃は己を守る為に在らず…お前は自分の力…その勇気を見ず知らずの他人の為に使った。それが教えを実行している、という事だ」

「なるほど、そうだったんだ…」

 

今まではふわふわしていた教えの存在が、はっきりとした形をもって見えた。

…とっても素敵な言葉じゃないか。これからも教えを実行していくためにも、ボクはもっともっと、強くならなくちゃ。

 

「…よし、今日の稽古を終わるぞ」

 

父上の声で現実に引き戻された。背筋を改めて伸ばして、丹田にぐっと力を込める。

 

「はい!…互いに、礼!」

 

そんな自分の声が、澄んだ空気の道場の中に響き渡った。

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