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「みんな、今日の朝ご飯は何にしようか」
「朝はシリアルに決まってるわ。モーニングニュースを見ながら、牛乳を入れたシリアルを食べる。これこそが朝の絶対的なルーティーンよ」
「シリアル?Nope!それより食パンだ!ハムチーズトーストに、たこさんウインナーも忘れずにね!」
「私はサンドウィッチがいいと思う。だが、皆の意見を尊重したいな」
「米に決まっている、米!育ち盛りの若者なら米を食わんか!」
「うーん、決まらないならいっそ食べないのもアリだなって思っちゃうけどな。あっでも、食パン加えて走れば運命の人にぶつかるのが定番よね!」
「ジャックとマミが食パンって言ってんだ、それでいいだろ。腹も減ったしさっさと食っちまおうぜ、スティーヴィー」
「well…そうだな、ジョン!メアリーやウェンには申し訳ないが、今日はトーストにしよう」
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こんがりと焼けたトーストに、ウインナーにコーンポタージュ。とろけたチーズの乗ったトーストに一気にかぶりつく。
「ま、まあ…トーストの美味しさも否定はしないわ。でも明日は論理的に考えて絶対にシリアルよ…」
メアリーはぶつぶつと言いながらも、ハムチーズトーストを堪能しているようだ。マミが彼女のことを日本文化の言葉でツンデレと読んでいたが、こういう所なんだろうか?彼女によれば、ツンデレはMOEの一種らしい。
「ああ、そうだな。明日はシリアル、あさってはご飯、しあさってはサンドウィッチにしよう」
片付けを終えると、ジャックの要望に従って午前中に外交官としての仕事を終わらせ、午後はどこか外に出かけることにした。
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「ふう……」
ビザの発行作業を終えて時計を見ると、既に12時を回っていた。
「Good job,スティーヴン。少し疲れているように見える。休憩にしたらどうだ?」
「そうだな、マシュー。そろそろお昼にするよ」
資料を脇に置いてネクタイを直し、ハンバーガーショップに出かけた。
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「ハンバーガーと、ポテトを1つずつ」
「かしこまりました、ハンバーガーとポテトですね。この番号でお呼びしますので、少々お待ちください」
「Thanks!了解だ」
日本の店はどこもサービスが素晴らしい。細かい所まで目が行き届いているのが分かる。2ヶ月ほど前に来たが、この国のオモテナシは良いところばかりが目につく。
しかし、どの店にもアメリカにいたころの懐かしさを感じる部分もある。これがホームシック、という奴なのだろうか。
「3番でお待ちのお客様〜!」
注文が来たようだ。店員からトレイを受け取り、適当な席に座る。
…ただ、この国はポテトのボリュームが小さいのが唯一の難点だ。からりと揚がったポテトはとても美味しいのに、量が少ない。
「もう1つ頼んでおけば良かったな…」
「well,well…お前、この前来た時もそう言ってたぜ。学習しろよ、スティーヴィー」
ジョンが呆れたようにそう言うのを聞きつつ、ハンバーガーとポテトを完食した。
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こうして道を歩いていると、たまに自分が今どこにいるのか分からなくなる。
ここはアメリカか、それとも日本か。極東の国のはずが、どうしてこんなにも同じ風景があるんだろう。
ジャックが昼寝をしているので、皆も起こさないように静かにしていた。1人で考える時間があると、自然と不安になってくる。
…俺は、ちゃんとやれているんだろうか。
幼い頃、ユダヤの難民にビザを発行した日本の外交官の話を昔聞いた。彼のことを、正真正銘のヒーローだと思った。そして憧れだった外交官の職に就いて、ようやく憧れだった日本の地に来たのに、何だか心もとない感じがするのは何故なんだろう。
「Hey!Excuse me.Is this your handkerchief?」
「…Hmm?」
後ろを振り向くと、栗色の髪の日本人の少女が立っていた。手には見覚えのあるハンカチを持っている。
……Huh?ここは、アメリカ、じゃない?
「…あぁ、Thanks!これは確かに僕達のハンカチだな、助かったぞ」
「そっすか、よかった!えっと、ゆあうぇるかむ、っす!」
少女に礼を言って、また歩き出す。…何を考えているんだ、ここは正真正銘、日本じゃないか。少し疲れているのかもしれない。
皆はまだ驚く程静かだ。誰か、話しかけてくれないと"俺"はとても不安だ。誰か、誰か……
「随分と不安そうだネ。イーファンに何か用カナ?」
「…君は」
「今日の夕ご飯は絶対ギョーザだヨ。分かってるよネ、スティーヴィー!」
「…ギョーザか。たまには中国料理もいいかもしれないな」
「でショ!イーファンが作り方を教えたげル!」
…ああ、良かった。
スーパーに寄って、ギョーザの材料を買って帰った。
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…嗚呼、可哀想なスティーヴィー!
お前は何も分かっていない。お前と俺が元から暮らしてたアメリカは幻想で、ずっとココで暮らしていた事。お前は幻覚を見ていただけだって事。
ついウトウトしちまっていたが、もっと早く起きていれば良かった。"また"1人増えた。
中国人はキーキーとやかましくて困る…せっかちでやたらと金目の物を欲しがる所も、スティーヴィーと合わない。
スティーヴィーにホントに寄り添えるのは、俺だけだ。昔からいるメアリーやマシューならまだしも、ポッと出の人格にみすみすとスティーヴィーを取られるのは納得いかないよなァ。
…今日会った女。アイツを見た瞬間、スティーヴィーは動揺していた。顔は覚えた…アイツには用心が必要だ。次に来たら俺が相手をしよう。
「…ジョン」
「何だ?スティーヴィー」
皆が寝静まった夜、スティーヴィーが話しかけてくる。この時ばかりは、2人だけの時間だ。
「…俺は、このままでいいと思うか?」
「安心しろよ、俺が支えてやる。お前が無理に変わる必要は無い」
「っ…だが……」
「…Ain't I right?」
諭すように尋ねる。最近のコイツは妙にグラついててダメだな…一度確認しておく。
「……No.君はいつでも正しい。そうだな…これからも頼むよ、ジョン」
「Of course.俺に全部任せろよ。墓場まで一緒だぜ、スティーヴィー」
お前の最期なんて、考えたくもないが…地獄の果てまでついて行ってやるよ、my dear friend.