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『…そして、今日の占い12位は…ごめんなさい、牡牛座のあなたです!』
「…………」
今日も12位。テレビの星座占いは均等に割り振られている気がするのに、どうして私が見た時に限って、いつも牡牛座は最下位なんだろう…。同じ牡牛座の人にも申し訳なくなってくる。
なんとなく憂鬱な気分のまま、リビンクから出て、スクールバッグを持って玄関を出る。
ふと上を見上げると、分厚い雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうな空模様だった。
「…うわっ、危ない!」
「きゃっ…!?」
空を見上げながら歩いていると、大きな植木鉢を持った男の人にぶつかりそうになってしまった。男の人はかなりバランスを崩したけれど、転びはしなかったみたいだ…。
「ご、ごめんなさい……!」
「いや、大丈夫だよ…こっちが前が見えてなかったのがよくなかったし。ごめんね…」
そう言って男の人は、すぐにいそいそと反対方向へ歩いていった。もしかして、私のせいで転びそうになったから怒っちゃったのかな…。
「はぁ…今日も不運、です……」
私は思わず独りごちながら、また歩き出した。
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6限の授業が終わるチャイムと共に、みんなが一斉に立ち上がってがやがやと帰り支度を始める。
私も明日の予習する教科を鞄に入れて、教室を出て階段を下りる。
前を歩く女の子たちが、楽しそうに会話をしている。私も一緒に帰る友達が欲しいな、と思ったことはあるけれど、自分の不運がその人に移っても迷惑だろうし、結局今では1人で帰るのがいいだろうと思っている。
生徒玄関ですっかり底が薄くなってしまった外履きに履き替えて、学校を出る。
空は相変わらず灰色で埋め尽くされていた。
いつも通りの帰り道を行こうとしたけど、今朝は通れたはずのその道は、下水道の工事中になっていて通れなかった。
「………」
小さくため息をついて、回り道をする。こっちの道はお店や人が多くて、あんまり通りたくないと思っていたけれど、こうなってしまってはしょうがないだろう。邪魔にならないように歩道の端を歩く。
お店が並ぶ道を通り抜けようとしたその時、
「…ちょっと、あれ、荒川じゃん」
「ほんとだー、超久々に見た。中学の時と全然変わんないじゃん」
「………」
その人達の姿を見た瞬間、喉がからからになって、足が竦む。制服はもちろん昔と違うし、顔はメイクしているからだいぶ変わっているけど、その声ですぐに分かった。
…中学校の、同級生だ。
「久しぶり、荒川さん。ちょっとそこで話しようよ」
「………」
「は、無視?舐めてんのアンタ?」
「……ご、ごめんなさい……」
「いいからこっち来なって」
ぐいぐいと無理やり背中を押されて手を引っ張られて、お店の間の、人気のない路地の中に入る。
「ウチら昔この町から出てけって行ったよね。何でまだいるの?」
リーダー格の子が正面に立って私を睨む。その視線だけで、膝ががくがくと震える。
私の様子を、後ろの取り巻きの子達がくすくすと笑いながら見ている。
「………」
「アンタみたいな不幸のカタマリがいると、ウチらにまでその不幸が移るんだよ!みーんなアンタのこと邪魔だって思ってんの、わかる?」
「…………」
「…何とか言えよ!」
何も言えずにいると、髪の毛をぐっと掴まれて、そのままコンクリートの壁にごん、と頭を叩きつけられた。頭がじんじんと痛んで、視界が眩む。
…謝らないと。みんなにごめんなさいって、私なんかが生きててごめんなさいって言わないと。
「……ご、」
「キミ達ッ!」
私が口を開いた瞬間、路地の入口の方から鋭い声が聞こえた。彼女達は驚いたように一斉に後ろを振り向く。
次に私が視界に捉えたのは、黒い髪の毛の女の子だった。
「きゃっ…何よアンタ!」
一人がいつの間にか現れた女の子に声を上げる。女の子は険しい表情で彼女達を見つめていた。
その後も彼女達は、部外者はいなくなれ、みたいに罵倒していたけれど、あまりに突然のことにびっくりして、内容が入ってこない。けれど、
「困っている人がいるなら助けるのは当然のこと…ボクはその子を見つけた時点で関係者だ!」
「…!」
その言葉だけは、しっかりと聞こえてきた。
「文句があるならかかってこい、ボクがキミ達の鈍った根性を叩き直してやる」
「…………」
そんなことを言ったら、彼女達は逆上して女の子を袋叩きにしてしまうかもしれない…。慌てて止めようとするけれど、うまく言葉が出ない。
「……はーあ。なんかマジで冷めたんだけど」
その時、リーダー格の子が、呆れたように大きくため息をついた。
「つまんな。行こ」
彼女の言葉に従って、取り巻きの子達は女の子をぎろりと睨みながら出ていった。
私は全身から力が抜け、地面にへたっと座り込んでしまう。
「みんなからは、おもしろいって言われるんだけどな…キミ、立てる?」
「………」
「ああ、起こしてあげるよ…よいしょー↑」
私がまた何も言えないでいると、女の子は私の腕を掴んで引き起こして、服についていた土埃を、少し乱暴に叩いて払ってくれた。
「あ、あ、あの……ありがとう、ございました……!」
それでもなんとか言葉を紡いで、精一杯頭を下げる。
「ううん、気にしないで、ボクもたまたま通りかかっただけだし。…もっと早く声かければよかったよ。家まで送ろうか?」
「…いえ…!わ、悪いです、そんなの……」
「…そっか。それじゃ、ボク急いでるから!またね!」
そう言うと女の子は、私に手を振りながらものすごい速さで走っていってしまった。
私も少ししてからとろとろと歩いて路地を出る。
「…綺麗」
路地を出ると、あのどんよりとしていた灰色の空が、いつの間にか雲ひとつない綺麗な青色に染め上げられていた。
…占い最下位も、案外悪くない日かもしれない。