超特急論破 Prelude   作:鳶子

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第2楽章:曇天とメランコリー、それから

✧ ✧ ✧

 

 

『…そして、今日の占い12位は…ごめんなさい、牡牛座のあなたです!』

「…………」

 

今日も12位。テレビの星座占いは均等に割り振られている気がするのに、どうして私が見た時に限って、いつも牡牛座は最下位なんだろう…。同じ牡牛座の人にも申し訳なくなってくる。

 

なんとなく憂鬱な気分のまま、リビンクから出て、スクールバッグを持って玄関を出る。

ふと上を見上げると、分厚い雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうな空模様だった。

 

「…うわっ、危ない!」

「きゃっ…!?」

空を見上げながら歩いていると、大きな植木鉢を持った男の人にぶつかりそうになってしまった。男の人はかなりバランスを崩したけれど、転びはしなかったみたいだ…。

 

「ご、ごめんなさい……!」

「いや、大丈夫だよ…こっちが前が見えてなかったのがよくなかったし。ごめんね…」

 

そう言って男の人は、すぐにいそいそと反対方向へ歩いていった。もしかして、私のせいで転びそうになったから怒っちゃったのかな…。

 

「はぁ…今日も不運、です……」

 

私は思わず独りごちながら、また歩き出した。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

 

6限の授業が終わるチャイムと共に、みんなが一斉に立ち上がってがやがやと帰り支度を始める。

私も明日の予習する教科を鞄に入れて、教室を出て階段を下りる。

 

前を歩く女の子たちが、楽しそうに会話をしている。私も一緒に帰る友達が欲しいな、と思ったことはあるけれど、自分の不運がその人に移っても迷惑だろうし、結局今では1人で帰るのがいいだろうと思っている。

 

生徒玄関ですっかり底が薄くなってしまった外履きに履き替えて、学校を出る。

空は相変わらず灰色で埋め尽くされていた。

 

 

いつも通りの帰り道を行こうとしたけど、今朝は通れたはずのその道は、下水道の工事中になっていて通れなかった。

 

「………」

 

小さくため息をついて、回り道をする。こっちの道はお店や人が多くて、あんまり通りたくないと思っていたけれど、こうなってしまってはしょうがないだろう。邪魔にならないように歩道の端を歩く。

 

お店が並ぶ道を通り抜けようとしたその時、

 

「…ちょっと、あれ、荒川じゃん」

「ほんとだー、超久々に見た。中学の時と全然変わんないじゃん」

 

「………」

 

その人達の姿を見た瞬間、喉がからからになって、足が竦む。制服はもちろん昔と違うし、顔はメイクしているからだいぶ変わっているけど、その声ですぐに分かった。

…中学校の、同級生だ。

 

「久しぶり、荒川さん。ちょっとそこで話しようよ」

「………」

「は、無視?舐めてんのアンタ?」

「……ご、ごめんなさい……」

「いいからこっち来なって」

 

ぐいぐいと無理やり背中を押されて手を引っ張られて、お店の間の、人気のない路地の中に入る。

 

 

「ウチら昔この町から出てけって行ったよね。何でまだいるの?」

リーダー格の子が正面に立って私を睨む。その視線だけで、膝ががくがくと震える。

私の様子を、後ろの取り巻きの子達がくすくすと笑いながら見ている。

 

「………」

「アンタみたいな不幸のカタマリがいると、ウチらにまでその不幸が移るんだよ!みーんなアンタのこと邪魔だって思ってんの、わかる?」

「…………」

 

「…何とか言えよ!」

何も言えずにいると、髪の毛をぐっと掴まれて、そのままコンクリートの壁にごん、と頭を叩きつけられた。頭がじんじんと痛んで、視界が眩む。

 

…謝らないと。みんなにごめんなさいって、私なんかが生きててごめんなさいって言わないと。

 

「……ご、」

 

「キミ達ッ!」

 

私が口を開いた瞬間、路地の入口の方から鋭い声が聞こえた。彼女達は驚いたように一斉に後ろを振り向く。

次に私が視界に捉えたのは、黒い髪の毛の女の子だった。

 

「きゃっ…何よアンタ!」

一人がいつの間にか現れた女の子に声を上げる。女の子は険しい表情で彼女達を見つめていた。

その後も彼女達は、部外者はいなくなれ、みたいに罵倒していたけれど、あまりに突然のことにびっくりして、内容が入ってこない。けれど、

 

「困っている人がいるなら助けるのは当然のこと…ボクはその子を見つけた時点で関係者だ!」

 

「…!」

 

その言葉だけは、しっかりと聞こえてきた。

 

「文句があるならかかってこい、ボクがキミ達の鈍った根性を叩き直してやる」

「…………」

 

そんなことを言ったら、彼女達は逆上して女の子を袋叩きにしてしまうかもしれない…。慌てて止めようとするけれど、うまく言葉が出ない。

 

「……はーあ。なんかマジで冷めたんだけど」

 

その時、リーダー格の子が、呆れたように大きくため息をついた。

「つまんな。行こ」

 

彼女の言葉に従って、取り巻きの子達は女の子をぎろりと睨みながら出ていった。

私は全身から力が抜け、地面にへたっと座り込んでしまう。

 

「みんなからは、おもしろいって言われるんだけどな…キミ、立てる?」

「………」

「ああ、起こしてあげるよ…よいしょー↑」

 

私がまた何も言えないでいると、女の子は私の腕を掴んで引き起こして、服についていた土埃を、少し乱暴に叩いて払ってくれた。

 

「あ、あ、あの……ありがとう、ございました……!」

それでもなんとか言葉を紡いで、精一杯頭を下げる。

 

「ううん、気にしないで、ボクもたまたま通りかかっただけだし。…もっと早く声かければよかったよ。家まで送ろうか?」

「…いえ…!わ、悪いです、そんなの……」

「…そっか。それじゃ、ボク急いでるから!またね!」

 

そう言うと女の子は、私に手を振りながらものすごい速さで走っていってしまった。

私も少ししてからとろとろと歩いて路地を出る。

 

「…綺麗」

 

路地を出ると、あのどんよりとしていた灰色の空が、いつの間にか雲ひとつない綺麗な青色に染め上げられていた。

 

…占い最下位も、案外悪くない日かもしれない。

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