超特急論破 Prelude   作:鳶子

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第3楽章:わたしたちのおにいちゃん

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『わたしのおにいちゃん 1ねん2くみ つくよみ みもざ

 

わたしのおうちには、おかあさんと、おとうさんと、ふたごのいもうとと、おにいちゃんがいます。

 

おかあさんとおとうさんはおしごとがいそがしくて、いつもおにいちゃんがごはんをつくったり、いっしょにおえかきをしたり、あそんだりしてくれます。かんじもさんすうも、おにいちゃんがいっぱいおしえてくれます。

 

おようふくも、おにいちゃんがえらんでくれます。おかいもののとき、わたしがすきなピンクのおようふくを、たくさんかってくれます。いもうとには、水いろのおそろいのおようふくをかってくれます。

おれいにいもうとと、うさぎさんのエプロンをえらんでおたんじょう日にあげたら、すごくよろこんでくれて、うれしかったです。

 

おにいちゃんは「べびーしったー」をしていて、ときどき赤ちゃんをおうちにつれてきてくれます。赤ちゃんはとってもかわいいです。

ないていた子も、おにいちゃんがだっこすればすぐにえがおになります。おにいちゃんは、すごいとおもいます。

 

わたしのだいすきなおにいちゃん。これからも、ずっといっしょにあそんでね。』

 

✧ ✧ ✧

 

 

大きなマス目いっぱいに書かれた文字の全部に目を通してから、顔を上げた。

 

「これを、みもざが?」

「そう!がくしゅうさんかんで、みんなの前で発表したよ!たくさんぱちぱちされたの!」

「…見に行きたかったなあ」

 

授業があったからしょうがないけど、この作文をみもざが教室で一人で読んでいるのを聞いたら、感極まって泣いちゃうかもしれないなあ…。

 

「みらも、おにいちゃんのこと書いたよ!いいなぁ、みもちゃんだけ読んでもらえて」

「みらちゃんのクラスは、先生にあつめられちゃったもんね」

「そうなの、おにいちゃん。みらも読んでほしかったのに…」

 

「そっかあ、先生から返ってきたら読ませてね。みらはお話を作るのが上手でしょ?そんなみらが作った作文なんだから、とっても楽しみだな」

「うん!えへへ、すっごくいいって友達にも褒めてもらえたんだ」

 

みらは照れくさそうに笑う。おとぎ話を作るのが上手なみらは、どんな風に自分のことを書いてくれているんだろうか。

 

「よし、じゃあご飯が冷めちゃう前に食べちゃおう」

 

今日のご飯は肉じゃが。母さんにも負ける気がしない、1番の得意料理だ。興が乗って、3人で囲むダイニングテーブルに所狭しと料理を並べてしまった。あとでラップして冷蔵庫に入れておかないと。

 

「「「いただきます!」」」

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「…ん……」

 

家のチャイムが何度も鳴る音で、うとうととした眠りから目が覚めた。赤ちゃんを寝かしつけると、どうしても一緒に眠りそうになってしまう。

ドアを開けると、麦わら帽子を被ったみもざが今にも泣きそうな顔で立っていた。

 

「おにいちゃん、大変なの!」

「みもざ?みらと一緒じゃ……」

 

みもざはみらと2人で遊びに出かけたはずだ。…まさか。嫌な予感が胸をよぎる。

 

「みらちゃんが、いなくなっちゃったの」

「………」

「どうしよう、おにいちゃん。みもざが公園のトイレに行ってた時に、いなくなっちゃって…」

みもざの目から、堪えきれずに涙が溢れ出す。

 

「…みもざ、とにかく今は帰ってくるのを待とう」

「探しに行かないの?みらちゃん、どこかで泣いてるかも…」

「帰ってきて、おにいちゃんやみもざがいなかったら心配するでしょ。大丈夫、夕方には帰ってくるよ。それでも帰ってこなかったら、母さんと父さんに警察に連絡してもらうように言おう」

 

警察、という自分の口から出た言葉に、きゅっと心臓が締め付けられる。

でも今は、大切な仕事を受けている最中だ。ここに赤ちゃんを放置していくことはできない。

 

小さな命から目を離す一瞬の隙が、命取りになることを知っているから。

 

「大丈夫だよ、大丈夫……」

泣きじゃくるみもざを抱きしめて、背中をとんとんと叩いた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「………」

 

みもざが帰ってきてから、2時間程度経っただろうか。赤ちゃんは無事にお母さんの元へ帰っていった。みもざは泣き疲れて、タオルケットの中で眠ってしまっていた。

時計をまた見たが、さっき見た時からまだ5分程度しか経っていなかった。

 

 

その時、ガチャリ、とドアが開く音がした。

 

「ただいま!」

 

聞こえてきたのは…聞き慣れたあの声だ。

 

「みら…!」

リビングを飛び出して駆け寄り、玄関にいたみらを抱き締める。目頭が熱くなって、だめだ、と思った。

 

「どこ行ってたの…だめでしょ、ちゃんと2人でいないと…」

 

「公園にあった風船が飛んでいっちゃったから、追いかけてたの。そしたら木の上に登っちゃって…でも、魔法少女のお姉さんが取ってくれたんだよ!」

「魔法少女…?」

「うん!それで、おうちに帰れなくて迷子になってたら、違うお姉さんがどうしたんだって、おうちまで送ってくれたの。みもちゃんの分のぬいぐるみまでもらっちゃった」

「…………」

 

「おにいちゃん、なんで泣いてるの?」

 

そう言われて初めて、年甲斐もなく泣いていることに気づいた。

「…心配したから」

 

「おにいちゃんも、みもちゃんと一緒で泣き虫さんだね。みらがいい子いい子してあげる!」

 

みらの小さな手が、頭をくしゃくしゃと撫で回す。

 

「一緒のところだってあるよ。家族なんだもん、当たり前でしょ。それに家族だから、みらのことだってすごく心配だったんだよ」

「…ごめんなさい」

「今度からは、ちゃんと2人で帰ってくるんだよ」

 

そう言って立ち上がる。そろそろ夕飯の支度をしないとだ。今日のおかずはハンバーグにしよう。

 

玉ねぎが目にしみたって、みもざに言い訳できるように。

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