超特急論破 Prelude   作:鳶子

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第8楽章:肉を斬らせて骨を絶つ

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昔、学校の飼育小屋で飼っていた鶏が死んだ。天寿を全うした鶏は、食育の授業という目的通り、からあげになって給食に出てきた。

 

みんなは気持ち悪がって食べなかったけど、桃はみんなの分まで全部もらった。真っ白でふさふさしていたあの鶏が、こんがりとした茶色になっていたのも、なんとも思わなかった。残さず全部たいらげた。

 

そうしないと、命がもったいないから。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「…すぐに楽にするっすよ」

 

鎖に繋がれた、これからのことなんか何も知らずにのほほんとしてる牛にそっと呼びかける。

そのまま素早くスタニングを行い、殺す。

 

さっきまで生きていた命が、肉塊になって転がっていた。

 

ひゅう、と息を吐く。心臓の鼓動の速さは変わらない。平静を保ってるというより、元からこう。小さな頃からこうして命が終わる瞬間を見ていたから、今更怯えることもない。

 

「桃、ご飯だよ!」

 

お母さんに呼び出されて、屠殺場からうちまで走って戻る。晩御飯はおいしそうなビーフストロガノフだった。味はやっぱり、よくわからなかった。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「うーん、どれ買えばいいんだ…?」

おつかいに行くと、桃と同じくらいの女の子が精肉のコーナーの前で悩んでいた。

 

「うまい肉っすか?」

「…ん?うん、そう。おつかい頼まれたんだけどさ、肉のこととかよく分かんねえんだよなあ…」

「それなら桃が教えてあげるっすよ!うまい肉の選び方!」

「え?い、いいのか!?」

女の子の目がきらきら光る。これは桃がお役に立てる時っす。ワクワクしながら説明を始める。

 

「このめっちゃ濃い赤いやつはだめっす。これはおじいちゃんの牛か体調が悪かった牛…だから、選ぶならこの鮮やかな赤!つやつやが1番だよ!」

「へえ、てっきり赤いやつがうまいんだと思ってたぜ…」

 

「騙されちゃだめっすよ〜。後は、脂身と赤身ではっきり色が別れてる…これみたいなやつ。脂身の色が白い霜降りは絶品っす!見逃したら大損っすね」

「なるほど!わかった、ありがとな!」

「おいしいお肉食べて、幸せになるっすよ!」

 

女の子は拳をコツンと合わせて、精肉売り場から去っていった。こういう時に自分の知識が誰かの役に立つのは、やっぱり嬉しいっすね。

 

メモしてきた食べ物と、ちょっとだけ内緒で駄菓子を買って、スーパーを出た。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

スーパーから帰る頃にはもう、日が傾き始めていた。急いで戻らないと、晩ご飯の準備に間に合わないかもしれない。

 

走り出そうとすると、前を歩いていた人がポケットから何かを落とした。

 

「…んん?」

拾ってみると、白い木綿のハンカチだった。Sという刺繍が入っている。

 

「あの、これ!落としたっすよ!」

後ろから声をかけるけど、聞こえてないみたいだ。大股でずんずん歩いていくので、駆け寄って肩を叩く。

 

「あの!」

「…ン?」

 

振り向いた人は、外国の人みたいだった。赤と青のきれいな目だ。でもこっちを見てるようで、あんまり焦点が合ってない。

 

「…あぁ、Thanks!これは確かに僕達のハンカチだな、助かったぞ」

「そっすか、よかった!えっと、ゆあうぇるかむ、っす!」

 

男の人はにこにこしながらそれを受け取ると、また普通に歩き出した。男の人の歩幅って、思ってたより大きいんすね。

一呼吸ついてから、家へ向かう十字路を右に曲がった。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

屠畜場は、隠しきれない死の香りが辺りに漂っている。

昔はこの匂いが服についたりして、クラスの人に何か言われないかずっと不安だった。ただでさえ気味悪がられてるのに、くさいって言われたらどうしようって。

 

今はこの匂いに、普通とまではいかないけどなんとなく慣れてしまっている。

他の動物も、死んだらこんな感じの匂いがするんだろうか。…桃も、死んだらこの匂いになるんだろうか。

 

生きとし生けるものは、いつか必ず死ぬ。そう言われて育ってきた。だからこそ、自分もいつか死ぬことがわかるし、それが怖い。夜中に1人で怖くなって眠れなくなる時もあった。

 

それでも今日も、桃は命を奪う。皮を剥ぎ、肉を部位ごとに分ける。骨を集めて燃やして、土の中に埋める。

 

生きるために。命をいただくために。お皿の上に乗った命に向かって、手を合わせる。

 

「いただきます!」

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