サストネル辺境の村を旅立って、半日ほど移動すると、ゴブリンが見つかった廃村にたどりついた。
廃村である旧リーデック村は毒を持つ魔獣によって水源を失い、村人たちが各地の村に合流したことで、人がいなくなった場所である。
その魔獣は北王国の先代女王の命により当時の騎士団長により討ち果たされており、村に満ちていた毒の川も、少しずつ浄化されつつある。
ゴブリンを見かけた村人は元はリーデック村の村人だったらしく、故郷の様子を見に来た際に発見したという報告を受けていた。
病に倒れた人の半数がリーデック村を訪れており、それによりゴブリンの存在が濃厚になったのは、今後病の被害を防ぎたいキリハ達からすれば足を速めるのに十分なものであった。
「クィネラちゃん、止まって。」
キリハが何かに気づいたのか、クィネラを止め地面を調べ始めた。
「何か見つけたのですか。」
「薄くだけど、足跡と瘴気の残り香がある。数は三つだね、それに一つだけゴブリンではないようね。」
「ゴブリンを操っている何かでしょうか。」
「足跡だけではわからないけど、ここに留まってるというのも気になるわ。」
足跡は村の中心部に向かっており、小さい足跡が先に歩いていることから、ゴブリンを先導しているのはその足跡の持ち主で間違いないだろう。
キリハが気になっている点はなぜ村から移動しないのかということであった。
動けないのか、動かないのかではまるで意味が違うためだ。
先ほどのエルディック村では魔獣の被害があったが、ゴブリンによる物理的な被害はなかった。病も廃村を見に来た村人とその縁者のみがかかっており、これも見に来なければかからなかったともいえる。
今のところ能動的に被害を起こしていないのだ、だからこそいっそ不気味であった。
「彼らは統率が取れているようね。はぐれゴブリンでは隠れ潜むことなどできないわ。」
「危険ですね。ゴブリンの欠点はその理性のなさなのに、此処のゴブリンは明らかに考えて行動している。個としては脆弱でも頭が回るのであれば、並みの魔獣より脅威度は高くなります。」
「クィネラちゃん、此処からは腕の立つもの以外は進まないほうがよさそうよ。不意打ちに注意して進みましょう。」
キリハ、クィネラと衛兵の腕の立つ剣士二人が突入し、残りの衛兵はゴブリンを逃がさないための包囲網を築くことになった。
「衛兵長、包囲の指揮は任せました、貴方たちが相手をする時には手負いの獣になっているでしょうが、決して逃がさないようにお願いします。」
「この一命にかけても、この村からは出しませんよ。カトラ、ビューイも衛兵代表としてゴブリンからクィネラ様をしっかりお守りするんだぞ。」
「兄貴も心配しすぎですよ。俺もビューイもそう簡単にくたばるような男じゃないですから。」
「最悪でもこの身を盾にするくらいはできる。」
「兄弟の戯れはそこまでにして、そろそろゴブリンと一戦交えに行きましょう。」
索敵と偵察に向かったキリハが戻ってきたのを確認して、クィネラは話を切り上げさせた。
「相手がわかったよ。暗黒術師で間違いないようね。此処には魔獣を蘇生しに来ているみたい、倒されたはずの毒の魔獣が復活しているわ。」
「蘇生など如何に暗黒魔術に長けていたとしても不可能だと思いますが、蘇生してしまっている以上は出来たということでしょうね。」
「どちらにせよ倒すしかないんだから、魔獣が動く前にどうにかしたいわね。暗黒術師を倒して魔獣の自滅を狙うか、先に魔獣を仕留めてから残りを倒すかだとどちらがいいかしら。」
「逃げられないようにするのであれば、魔獣をキリハさんに任せて、三人で残りと戦ったほうがいいと思いますが、魔獣を任せても大丈夫ですか。」
「一対一で邪魔がないなら倒せるよ、再生力によるけどそう時間をかけずに倒せるはずだから、耐えてもらえれば増援にも行けるわね。」
「わかりました。カトラ、ビューイはゴブリンと、私は暗黒術師と戦います。キリハさんはなるべく早く魔獣を倒してください。」
毒の魔獣は村の水源に居座っていた。真っ黒い狼型のその魔獣は毒の霧を纏っており並みの人間ではそばに近づくこともできないだろう。
キリハは魔獣狩猟用の口元を覆える外套を身に着け、刀一本で魔獣に立ち向かった。
可能な限り気配を消した奇襲は、魔獣を両断するまでにはいかずとも魔獣の臓腑には届いていた。
しかし直感に従って瞬間的に引き下がったキリハの目の前を致命傷を負ったはずの魔獣の爪が横なぎに振るわれる。魔獣の傷は黒いツタのようなもので瞬く間に修復され、何事もなかったかのようにたたずんでいた。
魔獣は左右の爪を凄まじい速度で振るい、其の刃のような尾を鞭のように振り回した。
キリハは爪を巧みな身のこなしで躱し、唯一躱すのが困難な尾だけは刀で切り落としていた。
軽く呼吸音に合わせたかのように振るわれる刀は時に脚を切り捨て、胴を両断する。しかしいずれもすぐに再生してしまいとどめには至らない。かつての毒の魔獣とは比べ物にならない異常な再生能力はキリハを梃子摺らせていた。
「これは蘇生じゃあないわね。まるで岩人形でも斬っているようだわ。」
血の一滴すら零れない魔獣に、キリハは蘇生ではないと結論付けた。手ごたえからして、岩石生命体や軟体生物の一種だろう。それらに魔獣の性質を取り込ませたとすればこの異常な再生能力にも見当がつく。
「問題は何処に核があるのかね。」
それらの生物であれば核となるものを斬るか、丸ごと消滅させてやれば片が付くのだ。
キリハは千日手になりつつある現状を打破すべく、戦いながら弱点を探していた。
一方そのころクィネラたちも暗黒術師たちとの戦いが始まっていた。
此処でいったん区切ります。
キリハの剣技でも斬って死なないものは殺せません。クィネラが来るか、弱点を見出すかの時間勝負になりました。
おしゃべりなカトラとダウナー系なビューイは衛兵長の弟たちです。
本当は掛け合いとか書くつもりでしたが、無駄に文章が長くなりそうなのでカットしました。
この魔獣やばく見えますが、これでもテティスよりはかなり弱いです。現状のキリハとの相性が致命的に悪いだけなので、再生能力なければ最初の一撃で終わってました。