「小娘一人で来るとはな。随分と私も舐められたものだ。」
「あの魔獣が切り札なのでしょう。それならもう負ける要素はないわよ。」
「魔獣と思っていたのかあれを、所詮いくら強かろうが剣士ではあれにかなうはずもないというのに。」
「勝つわよ、あの人が倒すといったの。だったらあなた程度倒せなくては、顔向けできないわ。」
「くだらないな。そんなことのために死にに来るとは、よほど貴様らはぬるく生きていたようだ。」
暗黒術師は青白い顔に嘲笑を浮かべ、闇の力を集め始めた。暗黒術とは神聖術とは似て非なるものだ。自然のリソースを使うのは同じだが、光よりの自然のそれを用いる神聖術と異なり、暗黒術においてはベクタの象徴でもある闇のリソースを用いる。おそらくはダークテリトリー内において最も扱いやすかったリソースが闇であったことが根底にあり、それ故に暗黒術師は闇と瘴気に染まった悪性の存在になりやすいのではないかとされている。
この暗黒術師も例外でなくいわゆるサディストとでもいうべき悪性をその身に持っていた。彼の中では自分の邪魔をしに来たこの小娘をどう甚振って殺そうかと考えていたのだ。
しかしクィネラも負けてはいない。キリハへの信頼をくだらないと言い切られたのだ。クィネラは今の自身が最も信頼を向けているキリハへの侮辱を聞き流すことなどできなかった。確かにキリハとの付き合いは短いだろう、しかし信愛も敬愛も時間の長さが決め得るものではない。安らぎを与えられた、ただその一点からキリハへの侮辱は明確にクィネラにとっての逆鱗になっていた。
クィネラは今までにないほど高速でリソースを集めた。高速詠唱とでもいうべきそれは今までならできなかったことだ。怒りは力に変換され、その心意はエレメントに干渉しだした。
「まだ何もしてないなら命ぐらいは残そうと思ったけど、だめね。」
「お優しいことだな。どのみち戦うしかないというのに、情けをかけようとは、これだから貴様らはぬるいというのだ。反吐がでる。」
「人の話は最後まで聞くものよ。もういいと思ったのよ、愛が何たるかも知らない屑などこの世に生きる価値などないとそう思ったの。」
クィネラの顔にあるのは侮蔑でも怒りでもなく、無であった。
クィネラは暗黒術師を無価値と断じた、こんなものに時間をかけるぐらいならさっさと始末してキリハの許に行きたかった。
クィネラはこの戦いにおいて神聖術以外は使う気は起らなかった。こんな屑で愛剣を汚すなど心底嫌であったからだ。
「切り札とは隠しておくものだ、小娘。」
暗黒術師のその言葉に従うように十体ほどの、液状ゴーレムが現れた。地面から染み出すように現れたそれらはこの村の毒の川を利用したのか、黒く染まっており、地面を汚染しながら動き出そうとした。
「ライトニングシェイプ。ディスチャージ。」
クィネラの放ったそれは瞬く間にゴーレムたちを消し飛ばした。光素の上位神聖術ライトニングシェイプ、本来単独で戦闘中に行うには扱いづらいそれも心意によってリソースが集まりやすくなっている今は片手間で放ててしまう。
ゴーレム十体を消し飛ばした結果、暗黒術師には届かなかったとはいえ、それは暗黒術師に対して恐怖を与えるには十分であった。
「化け物め。」
「愛は知らない癖に、恐怖だけは覚えているのね。命乞いでもしてみる。」
「私はまだ負けていない、貴様らごときに負けることなどないのだ。」
暗黒術師はさらにゴーレムを増やし抵抗しようとするが、それはかなわなかった。
「クリスタルナイフ。ディスチャージ。」
暗黒術師の胴体をその大剣は深々と刺し貫いた。速度に特化した晶素の神聖術、それをイメージ力のみで大剣へと作り替えたそれは、暗黒術を使用するための隙をついて、高速で襲い掛かった。
回避など不可能なタイミングであり、暗黒術師は何が起きたのか正しく認識することもなくこと切れた。
「来世はもう少しましな人間になるといいわね。」
クィネラはそう言ってその亡骸を、疫病を起こさないように焼き尽くすと、ゴブリン人形を倒した衛兵たちと一緒にキリハの所へ向かおうとした。
ソルスのような極光が上空に打ちあがったのはその直後である。それはまさしく太陽神の心意を纏っており、周りに散った光は毒と瘴気に侵された大地を浄化してしまった。
まるで勝鬨を上げたかのような極光は毒の魔獣がいた付近から上がっており、クィネラたちは駆け足でその場へと向かうことになった。
愛が重い人の前でそれを馬鹿にするのはこの上ない地雷踏みです。
心意により一時的に強化されたクィネラに瞬殺された暗黒術師でした。敗因は遠距離攻撃が一切なかったことです。あと無自覚に煽って怒らせすぎました。
クィネラさんは初めて純粋に与えられた愛にこだわっています。
次は後処理の話になるので、最後のあれはまだ秘密のままです。