何処で間違ってしまったんだろう。
桐ヶ谷直葉にとって姉は憧れの人だった。
家事も勉強も運動も出来て、何時でも優しく微笑みを浮かべている姿が眩しくて、私も何時か姉のような人になれたらと思っていた。
お兄ちゃんは大切な人だった。
私が今より少し小さかった頃、急に心が離れてしまって寂しくなった。
悲しくて悲しくてわんわん泣いて、その度に大丈夫だからと私をそっと抱えて頭をなでてくれた姉を今でも覚えている。
お姉ちゃんはそんな私たちを繋いでくれた。
子供のように手をとって、ひきこもりがちだったお兄ちゃんを連れてくる姿を見て、勝てないと思ったのは幾度あったかもう覚えていない。
二年前のあの日、私の世界は変わってしまった。
私の大好きだった二人は今も病院で眠っている。
ほっそりと痩せこけた姿は痛ましく、それでもまだ戦っているのだと思うと、ただ祈ることしか出来ない自分が不甲斐なかった。
心にぽっかり穴が開いたように、学校と病院をいったりきたり、部活にも勉強にも集中できなくて、二人の手から伝わる熱だけしか心を落ち着かせるものはなかった。
ソードアート・オンラインは私たちの小さな幸せを奪い去った。
私には茅場晶彦が何を思ってこんなことを始めたのかなんて理解できない。
二人が目覚めたとき、「お帰りなさい。」と声をかけることが私の役目だと思った。
季節は瞬く間に過ぎ去っていって、願掛けのために伸ばし始めた髪も二年前の姉と同じくらいまで伸びていた。
ある日病院から連絡があった。
其処には呆然と外を眺めているお兄ちゃんと誰もいないベッドがあって、
「お帰りなさい、お兄ちゃん。」
私は涙を流し続けている兄を抱きしめることしかできなかった。
お姉ちゃんはお兄ちゃんが目覚める少し前に亡くなった。
私の役目は半分だけしか果たすことはできなかった。
あの優しかった姉はもう帰っては来ないと思い知ったのは棺の中に眠る姉を見た時だった。
綺麗に整えられた姿はまるで眠っているようで、それでいて精巧な人形のように冷たかった。
「俺は、間に合わなかった。」
あの日兄は姉のベッドを見たあと、泣きつかれたのか眠ってしまった。
「お姉ちゃんは幸せものだったよ、こんなに泣いてくれる人がいるんだもん。」
二年前よりさらに幼くみえた兄、私にすがり付いて泣いている姿はまるで子供のようで、
『和ちゃんは、迷子なの。だからしっかり捕まえなきゃ、直ちゃんも妹なんだから遠慮しちゃダメよ。』
私が幼かった頃、姉が何故あんなことを口にしていたのか、その兄を見てようやく理解できたのかもしれない。
「大丈夫だよ、私がお姉ちゃんの分まで側にいるから、お兄ちゃんは、お兄ちゃんの居場所は此処にあるから。」
兄の心を癒せるほどに強くなりたかった。これはそのための約束、泣きつかれて聞こえていないだろう兄の額にそっと口付けした。
守ろうこの小さくて傷つきやすい大切な人を、もうこれ以上悲しむことが無いように。きっと天国のお姉ちゃんもそう願ってるはずだから。
直葉さんの話が第二話となりました。
キリトのトラウマは余計深くなりました。
直葉の口付けはセルカの騎士の誓いと同じで
約束を形として示しました。
泣きつかれて自分に寄り添って眠る兄の額に
黄昏時の光と影の中でそっと口付けをする。
彼女は姉とは違いキリトのトラウマの始まりを知らないまま寄り添うことを是としました。
守りたいという強い意思を姉から受け継いだ彼女は
これからどうなるのか。
後書きは此処までとさせていただきます。