剣戟の天使
人界歴◼️◼️◼️年
この時はまだアンダーワールドは貴族たちの統治下にあった。
外円部にあたるダークテリトリーと人が住む世界は隣接しており、貴族やその家臣、一部の腕の立つ農民などが
守りながら民草の生活は行われていた。
慣例を破り産まれた初めての貴族同士の娘、クィネラにとっても変わらないものであった。
クィネラは神聖術師の天職を授かった。
幼き頃の彼女は聡明で知識欲に貪欲であった。
本来アンダーワールド人は神に与えられたものを
解き明かすことはできなかった。
彼らにとってそれらは神聖不可侵なるものであったためだ。
しかしクィネラは、偶然かはたまた奇跡であるかは別として自分の能力を能動的に上げる手段にたどり着いてしまった。
かつて世界の黎明期においてアンダーワールド人に意図せずに与えられた欲望は、この発見によりクィネラの心に花開いてしまったのだ。
後にアドミニストレータと名乗り、人界全てを支配するに至ったフラクトライトが産声を上げた瞬間であった。
クィネラが知ったことは、他の生き物を殺害することで
自信の能力を強化することが出来るということであった。
これらは貴族や兵士などが何故強く、農民が何故力を持たないのかの答えであった。
鍛練したから強いのではなく、何かを殺したから強い。
一般的な農民が力を持たないのは、生き物の殺害数が
少なかったためである。
それからのクィネラはその法則を実証するため、夜に
抜け出しては、周辺の魔獣を狩り始めた。
仮説は正しかった。
魔獣を殺すたびに剣の扱いが上手くなり、より強力な
神聖術を使えるようになった。
しかしクィネラは、これを他者に隠し通した。
この情報はある意味猛毒になり得ると判断したためだ。
さらに言えば恐らく殺人すらもこの法則は適応されるため、各地で辻斬りなどが発生しかねない。
欲深い貴族が知れば使用人やら領民まで貴族裁決権の元、斬り捨てかねないのだから、沈黙せざるを得ないのである。
急速に強力な神聖術を身に付けるクィネラは、
まさに神の子として崇められうる存在となった。
クィネラを崇めた民草は、彼女の言葉の元、後にセントラル・カセドラルと呼ばれることとなる白き塔の原型を作り上げた。
これは塔の完成からそれほどたたない頃、まだクィネラがアドミニストレータとなる前の話。
「これで、終わりよ。」
縦に振り下ろされた剣が鳥の魔獣の翼を落とし、返す一閃が首の柔い部位を切り落とした。
大人の身の丈程もある魔獣といえど、ず、ずんとばかりに音をたて崩れ落ちる。
今しがた止めをさした小柄な少女は、するりと魔獣を避け、剣の血脂を軽く振るい落としていた。
「大物は今ので最後かしら。」
魔獣を倒したことに喜ぶわけでもなく、手頃な獲物が
いないことを残念がるように、少女はこてんと首を傾げた。
少女、クィネラは神聖術の研究の合間の時間を使って
魔獣狩りに来ていた。
人界において最早彼女以上の神聖術師は存在せず、しかし、剣士、戦士としてなら勝ち得る存在がいるのではないかと思ったためだ。
まだ幼いクィネラは上位者としての意識よりも、負けず嫌いの気質の方が強かった。
そのため魔獣を倒し続けることで剣士としても、最高位になろうとしていた。
しかし人界で得られる経験など、アンダーワールドにおいては極一部にすぎないことをクィネラを持ってしても完全には理解していなかった。
クィネラは気配感知をしていたにも関わらず、ボールのように吹き飛ばされた。
「くぅ、何が起きたの。」
想定外の攻撃と、岩に叩きつけられた痛みに顔を歪ませながら、クィネラは自分に攻撃した存在を睨み付けた。
それは奇っ怪な見た目をしていた。
表皮をぬらぬらさせ、二足歩行で立ち手足胸元を固い鱗に覆われている。
手には棍棒を持ち顔は極めて獰猛である。
その有り様は一言で言うならば龍人とでもいうべき存在である。
クィネラは多種多様な本を調べていたが、このような生き物を知らなかった。
「なんで気配がしないのよ。」
クィネラは、痛む体を押さえながら立ち上がった。
目の前にいても何の気配も感じさせない龍人は、構えるのを待つかのように、直立不動で佇んでいた。
「汝、戦士なるか。」
「私は、クィネラ。神聖術師クィネラよ。お前はいったい何なの。」
「戦士ならざるものに、名乗るは非礼なれど、我が奇襲にて死なぬことを讃え名乗ろう、我が名は青き龍の末裔、闇の使者テティス。」
「青き龍の末裔?まさか闇の神ベクタの眷族か。」
クィネラはダークテリトリーにいまだ入ったことはない。しかし青き龍の名だけは聞いたことがあった。
かの百年戦争において創世神ステイシアの被造物でありながら、ステイシアを裏切り、最後はステイシアによって討たれた。
その後死にきれぬが故に厳重に封印され、その子らとともにダークテリトリーに追放されたと言い伝えられ、人界においてはベクタの眷族として知られる。
クィネラは勝てないかもしれない神代の化け物を相手にしたことを悟った。
青き龍は暴れすぎたために神自らが戦った相手、騙りでないのならば人ごときが相手できる存在ではないのだから。
「私は戦士じゃないわ、それでもあなたを野放しにすることの危険性はわかる。」
クィネラは右手に剣を構え、左手に五つのエレメントを
チャージした。
「戦士以外の首に興味はないが、汝が死にたいのであれば相手をするとしよう。」
テティスもまた棍棒を上段に構える。
戦いの合図は鳥の鳴き声であった。
彼方より聞こえた声に合わせ、クィネラが神聖術を発動する。
炎素の火球がテティスの顔面を襲い、水素の刃が時間差で飛んでいく、しかしテティスは何事もなかったかのように、それらを弾きクィネラの頭を潰さんと棍棒を振り下ろす。
クィネラもやすやす潰されまいと、高められた脚力をもって回避する。その際に振るわれた剣はテティスの腕に僅かな傷を付けた。
これにより双方が近接戦闘に移行した。
テティスは小細工など不要とばかりにその剛腕を振るい、クィネラは神聖術の効きが悪いと見て、身体能力を強化し剣技をもって迎え撃った。
剣と拳がぶつかり合う、テティスには、数多の傷が付くがそれらは戦意を高めるものであり、いずれも致命傷には程遠い。
クィネラは全てを紙一重で回避していた。しかし余裕など何処にもなくまともに当たれば体に風穴が空きかねない。
「もらったぞ、小さき戦士よ。」
終わりは唐突であった。
クィネラの回避が疲労から精彩を欠き、テティスの拳によって地に叩きつけられた。
辛うじて剣を滑り込ませることで死は避けられたが、テティスの猛攻により剣の天命がつき消失してしまう。
「クィネラだったな、強き戦士よ、眠るがよい。」
クィネラは心の底から溢れる死の恐怖に怯えていた。
この龍人が拳を振るえば、動けぬ自分など容易く死ぬのだ。
クィネラは、生まれて初めて助けを求めた。
純然たる死の前には張り付けた上位者のプライドなど
何の役にもたたなかった。
しかしテティスの拳が振り下ろされることはなかった。
「何者だ、汝は。」
テティスの拳は、クィネラを背にした人影に止められていた。
「天使、さま?」
「こんなに小さなお姫様が助けを求めたのよ。守らないわけにはいかないじゃない。」
テティスの最後はあっけないものであった。
一太刀で肩口から腕を切り捨てられ、断末魔を上げることもできず、首が飛んだ。
その日、クィネラはその暖かい背中に光を見つけた。
あのテティスをも僅か二閃の太刀筋で切り伏せたその
女性に強く引かれたのだ。
時間が少し飛んでクィネラ編です。
子どものクィネラさんてどんな感じなのかなと思い、
神聖術の天才でかつ負けず嫌い、自分に絶対の自信を
持っている女の子として書きました。
少なくともこの時代はちゃんと人界のことを考えています。
テティスはオリキャラの敵です。青き龍も同様で、
ステイシアの眷族でありながら、ベクタに取り込まれた
裏切りものとして出しました。
今後も出るかわかりませんが、末裔はダークテリトリーで暴れまわってます。
設定変更に伴い、青き龍がレギュラーになりそうです。
最後の人はあの人です。
アリシゼーション・プロジェクトって、本当にシードだけで作ったのか怪しい部分があるので、この世界では
SAOのデータも流用しているとして書いています。
アリシゼーションでオーグマー使っているっぽかったので、オーディナルスケールが正史と考えると、教授を
勧誘したついでに接収したんじゃないのかと考えられ、
STLの時間加速技術も其処が由来の技術の可能性が否定できません。
茅場コピーのことまで考えると、フラクトライトもまた
茅場が原型を作っていると判断しています。
あの人が何故現れたのかは、アリシゼーション編で
書くつもりです。