もう一度あなたと   作:アリス大好き

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二人の変革者

ぱちぱちと火花が弾ける音、炎特有の暖かい風を感じてクィネラの意識は闇の中から浮上し始めた。

 

「目が覚めたようね。」

 

クィネラの目の前には、彼女を助けた天使の姿があった。

薄桃色をした羽織は、クィネラの体が冷えぬようにと掛けられており、純白の織物が炎で薄紅色に照らされていた。

やや青みがかったロングスカートには、邪魔にならない程度にフリルが施されており、その膝元にはクィネラの頭が乗せられていた。

クィネラはまだぼんやりとしている頭で、か細い声で

礼を述べた。

 

「ありがとうございました。」

 

「そうかしこまることはないよ、一人でよく頑張った子に、手を貸したかっただけだから。」

 

その柔らかな手は、クィネラの頭を優しく撫でていた。

クィネラは貴族の家族のもとでも、修道院でも本当の意味で愛されたことはない。

その特殊な出自ゆえの孤独感を抱えていた。

神の子とされる今でさえ、崇拝はあれど純粋な愛情を与えられることはなかったのだ。

 

裏もなく優しくされることに、なんとも言えぬ感覚を覚え、そっと甘えるようにすり寄った。

 

女性は拒まなかった。なれたような手つきでクィネラが楽になるように姿勢をなおすと、なにも言わずに時が過ぎていった。

 

空は暗くなり、無数の星たちが空を彩る頃、焚き火のぱちぱちという音と、時折枝をくべる音のみがしていた。

 

二人は無言で寄り添っていたが、じんわりと優しい空気が漂っていた。

 

静にゆっくりと時間は流れていく。

そしてベクタの時がすぎソルスが現れる頃、二人は簡素な食事をとっていた。

 

トビウサギの肉と野生の作物の炒め物を、女性はてきぱきと作り、祈りもそこそこに横に並んで食べていた。

 

クィネラは別れの時が近付いているのを寂しく思った。

白亜の塔に住むことはクィネラ自身が望んだことであり

ソルスが上った以上は信徒を不安にさせぬためにも、早急に戻る必要があった。

いかに神の子とて誰とも知れぬ者を塔まで連れていくことは難しいものがあった。

 

「私は、クィネラです。貴女のお名前を教えて頂けませんか。」

 

「私は、キリハ。旅の剣客をやっているわ。」

 

刀さえなければ、良家の子女としか見えないキリハは

刀があるだけで一連の武人に見える。

その姿まさに威風堂々、ある種の妖艶さすら感じさせるものだった。

 

あのテティスはまさに人界の危機を報せるものだった。

クィネラの実力は決して低いものではないにも関わらず互角の戦いを繰り広げたためだ。

今の人界にクィネラと同等の技量の持ち主などいても片手の指で足りるかどうかしかいない。

仮に貴族が集まっても良くても半壊で撤退させるのがせいぜいで、最悪は全滅するだろう。

 

今までは貴族が押さえ込めていたがテティス以上の敵が複数同時に来た場合、人界の戦力では被害のみが広がることになりかねない。

 

おそらく例外はキリハだけであることがクィネラには分かっていた。

 

「キリハ様、これより人界は団結せねばなりません。

先の龍人のようなダークテリトリーの実力者が今後現れた場合、今の人界の戦力では守りきれぬのです。」

 

「クィネラちゃんのような剣士が、他に居てもかな。」

 

「今回私はテティスに敗北しました。今の人界では、数は居ても、質を保つことは用意ではありません。

貴族主義に染まっている内は、団結そのものが出来る状態ではないのです。」

 

クィネラは一度言葉を止め、言うべきか迷っていた言葉を口にした。

 

「キリハ様は旅の剣客と仰いました。どうか人界の戦力の再編の為に力を貸していただけないでしょうか。お願いします。」

 

クィネラは己の狡さに嫌気がさした。キリハに恩を受けながら、更に力を借りようとしているのだから。

 

旅の剣客とは現在の権力争いなどから距離をおいている人物に他ならない。

ほとんどの剣士に類する天職は貴族に仕えるか、村つきになるかの道を辿るためだ。

腕利きでありながら、貴族に下らなかった者のみが旅の剣客を名乗ることが出来る。

この発言そのものが彼女の誇りを傷付けかねないものだった。

 

人界の再編とは政治の中枢へ引っ張り出すことに他ならない。少なくとも貴族から戦力を纏める約束を取り付けねば再編など夢のまた夢である。

 

クィネラのなかには既に構想があった。キリハの参加はその最後の欠片になりえるのだ。

 

「クィネラちゃん、その答えは少し待ってもらっていいかな。」

 

「やはり貴族はお嫌いですか。」

 

「先約があるのよ。近くの村落から薬草採取をお願いされているの、特殊な薬草らしく山にわけはいる必要があるのよ。」

 

「その後であれば話を聞いていただけますか。」

 

「もちろん。魔獣被害や、闇の住人の情報なら私にもあるわ。人界が危機に陥るのは私の本意でもないし、クィネラちゃんの話を私も聞きたいわ。」

 

「私は中央の白亜の塔にいます。この印を門番に見せれば入れるので、そこでお待ちしています。」

 

クィネラは印の刻まれた金属板をキリハに手渡した。

 

「必ず行くわ。だからそんな泣きそうな顔は見せないの、クィネラちゃんは笑顔の方がいいわよ。」

 

クィネラとキリハはその場で別れることになった。

次に会うのは十日後の白亜の塔の最上階であった。

 

後にこの出会いが人界における大変革の始まりになるなど、このときは誰一人として知るものはいなかった。

 

 

 




カーディナルはクィネラが支配の為に公理教会を作ったと言いました。
しかしそれは本当でしょうか。
カーディナルはアドミニストレータを前提に話している節があります。ならばクィネラにとって公理教会の始まりはどこにあるのかを書いてみました。

あくまでもこの話の中ではクィネラは善意を持って行動しています。
テティスの危険性は、人界の危機を容易に想像させるものでした。人界に足りないのは高い質を持った戦士であると考えています。

人界の戦力を纏めるためには高い権力を持った組織が必要です。正気であったクィネラはそのために公理教会を作ったのではないかと思います。

アンダーワールドの成り立ちがやや違うため、この話の中ではという前提であとがきは書いています。
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