過労死ワイ、戦いを全力で避けた結果怠惰の魔神扱いされる。   作:シーボーギウム

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アンケートの結果が話ができたらすぐ投稿になったので、話ができた次の時間(例:17:45に出来たら18:00)することにします。ので、一応不定期更新?になります。できる限り隔日か3日に1話は更新するつもりです。日記形式のある話ならもう少し早くなるかも。

今回もまだまだシリアス。


13.理不尽は唐突に 後編

「はっ、はっ!」

 

 走る。魔力のぶつかり合う場所に向けて。

 私は身体強化魔法があまり得意ではない。それでも出来る限りそれを起動しつつ全力で走る。ディアが死んでしまったら、私はもう正気でいられないだろう。そんなのは嫌だ。今の私にとってディアよりも大切な人はいない。例え命を落とすとしても、いや、私はディアと二人で生きていきたい。

 しかし、

 

「っ!」

 

 私の走る先に、水の弾丸が撃ち込まれた。その弾丸を放ったのであろう女が、私の行く先を阻んだ。その女はメイド服の上からチェストプレートとガントレットを付け、ラウンドシールドとロングソードで武装している。

 

「退きなさい」

「はじめまして、私は聖騎士ラバルド・ユーリス様専属メイド兼ユーリス領財務担当兼、」

「退けと言っている!!」

 

 冷気を放出する。そこらの雑魚なら一瞬で身体の芯まで凍らせられる。しかし女は違った。女が剣を振るうと、その軌跡に水が現れた。それらの水は女を守る盾となって私の冷気を遮った。

 

勤勉の騎士団副団長(・・・・・・・・・) クリス・マーブルと申します」

 

 冷めた視線が向けられる。そして、無感動に、無表情に告げる。

 

「覚える必要はありません。どのみち、貴女は今から死にますから」

 

 言うと同時に女の周囲に水の球が生まれる。それぞれが多大な魔力を内包していた。呼応するように、私も周囲に氷塊を作り出す。

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

「あら、恐ろしいですね」

 

 戦いが始まった。

 

 

 

 

 

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 流水魔法を使う目の前の女を見て、焦燥に駆られる。私自身は問題無い。問題は、この女以上の流水魔法の使い手であり、凄まじい剣の技量を持つラバルドと対峙しているであろうディアのことだ。

 

 流水魔法や氷結魔法は、普通空中で水や氷を作り出しそれをそのまま射出することが出来る。しかし樹木魔法はそれができない。理由は他の魔法が無機物やエネルギーを操るのに対し、樹木魔法が操るのは一応生物(・・)だ。極々僅か、風前の灯程度ではあるが、木にも意思が存在する。その僅かな意思があるというのが、他の魔法との大きな差を作り出すのだ。

 扱いやすい?当たり前だ。魔力でその微小な意思に道筋を示してやるだけで木は望む様に成長を始める。逆に言えばそれしか出来ない。他の魔法は無機物やエネルギーを"自分の思い通りに"操作しているのに、樹木魔法は木の意思、つまり"成長する"という意思があるために、それ以外の事をさせることが極端に難しいのだ。

 そんな魔法で、ディアはこの国の最強と戦っているのだ。持ち合わせる技量も、魔力量もラバルドが遥かに上だ。明らかに分が悪い。

 

「戦いの最中に考え事とは随分余裕ですね?」

「ちっ!」

 

 接近してきた女の剣を氷で作り出した盾で防ぐ。見た限り剣術よりも魔法の方が得意な様だが、副団長なだけあって剣にも相当の重さがある。近距離では私が不利だろう。

 私は周囲を冷気で満たした。これで空気には極細の氷の粒が混ざる。下手に呼吸をすれば、それだけで肺や気管が氷漬けになって死ぬことになる。まぁ、これはあくまで牽制だ。こんなものでこの女が死ぬとは考えていない。

 

「やってくれますね……」

 

 周囲の温度は水など瞬時に凍る程になっている。それを広範囲に広げることで、近付けず、魔法を放っても凍り付く防御領域を作り出したのだ。水は無理だが、氷になってしまえば簡単に私の制御下における。

 

「しばらくそこでジッとしていることね」

「ええ、そうせざるを得ないようですね。ですが、どうするんです?時間を稼いでくれるなら、私としては願ったり叶ったりですよ?」

 

 確かに、このまま待っていては意味がない。だがそんなことを考えないほど私はバカじゃない。

 この防御領域は、攻撃の準備でもあるのだ。

 

 魔法陣というものがある。これは戦争や、都市に近づく魔物の群れを一掃するのに用いられるのに使われるものだ。

 一人の魔法を基準に、魔法陣を、それに組み込まれた要素を利用して、空気中に漂う魔力を取り込み魔法の威力を増幅、拡大。場合によっては他の人間からも魔力を受け取って発動させる大規模破壊。

 こんなもの、一対一の戦いで使おうとすれば確実に邪魔される。二次元的にわかりやすく陣を描かなければならないのだ、邪魔しないわけがない。

 

 だが三次元的に魔法陣を描いたなら?

 

 要するに、組み込みたい要素さえ束ねてまとめることができれば二次元である必要は無いのだ。そして、三次元の魔法陣は描くのが難しいが、それと同時に見破るのも至難だ。

 

 (できた……!)

「っ!まさかっ!?」

 

 気付いたようだがもう遅い。

 

 莫大な冷気が吹き荒れる。周囲の領域ももういらない。あるのは私だけでいい。

 

「ふぅ……」

 

 動くだけで地面が凍り、触れるだけで生物が凍り、息を吐くだけで空気が凍る。私を除いて全ての活動を許さない、"身に纏う絶対零度"。

 

「『氷獄(コキュートス)』」

 

 さっさと終わらせるとしよう。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「化け……物………」

「好きに呼べ」

 

 崩れ落ちる男を一瞥し、ウィディー・エンヴィーは眉を潜めた。既に変装を解き、真っ白な髪と浅黒い肌を見せている彼の周りには、無数の人が倒れていた。そのどれもが、一つの外傷もなく意識を落としている。

 それは『権能』。この世において最強に位置する力の一つ。神と魔神にのみ振るうことの許された理にすら干渉する絶対の力だ。

 彼にとって、この場にいた人間は一欠片の本気を出すまでもない矮小な存在だった。

 

(違和感が拭えない)

 

 訳あって、彼は今この学校に在籍する全ての生徒と教師の名と顔を知っている。今倒れる者の中にいない者も、体調を崩した、家業の都合などの理由で休んでいるのも把握している。

 しかし唯一、何故この場にいないのかがわからない者がいた。

 

(アルト・スー………)

 

 本来ならただサボっただけと気にも留めないであろう存在。選抜大会の折、ウィディーはアルトと一度戦っているが、彼にとっては気にすることもない程度の実力でしかなかった。だが、アルトは周囲の人間に優等生として評価されていた人間だ。今日に限って都合良く無断で休んでいるというのに、ウィディーは強い違和感を覚えていた。

 

「………いや、今はそれどころじゃ無い」

 

 アルト・スーに対する思考を一度止め、ウィディーは人の倒れていない地面を探す。見つけたその場所に向かうと、懐からナイフを取り出し、それを自身の左手に突き刺した。

 

「っ!」

 

 痛みに僅かに顔を歪ませながら、そのナイフを肘辺りまで引き、傷を広げる。そしてナイフを抜き取りつつ、彼は左手を自身の手前に掲げた。ボタボタと血が流れ落ちる。その血は、地面に到達したと同時に、黒い瘴気を放ちながら何かの図形を描き始め、やがて魔法陣を描き出した。

 魔法陣が出来てなおも、彼は血を注ぎ続ける。

 

「あまり使いたくないんだがな………」

 

『暗く、昏く、冥く、闇く、その身を嘆き、その身を呪う』

 

 血の纏う黒い瘴気が増す。それは血の持ち主であるウィディーにすら生理的嫌悪感を与えた。

 

『犯し、穢し、蝕み、喰らい、その名を忘れ、その名を亡くす』

 

 陣が赤黒い光を放つ。その光はあまりにも悍しい。

 

『心を殺す。命を殺す。意味を殺す。存在を殺す。お前の全てを殺し尽くす』

 

 彼の言葉に憎悪が込もる。それはこの場にいない誰かに向けられていた。

 

『故にこそ、その身を成すは我が憎悪。その意を成すは我が怨嗟』

 

 黒い球体が魔法陣の中心に現れる。

 

『呪術式:饕餮(とうてつ)

 

 球体が地面に落ち、魔法陣も巻き込んで黒い染みを作り出していく。その染みから、白い、フクロウを思わせる仮面をつけた黒く長い首が現れた。

 

ゆるしてくれぇ……たすけてくれぇ……

「そう言ったあいつらを助けたのかテメェは?」

 

 怪物は人間には理解不能の言葉をこぼす。その言葉を理解しているのか、不快感を示しながら、ウィディーは怪物、饕餮の顔を掴み、力を込めた。仮面に大きくヒビが入り、饕餮は苦悶の叫びを上げる。ウィディーはそれを無視して饕餮の頭の上に乗った。

 

いたぃぃぃぃい

「いい気味だなクソ野郎。早く進め」

 

 ウィディーの指示に饕餮はズルリ、ズルリと地面の染みごと移動を開始する。

 最悪の呪いの一つが、戦場に向けて動き出した。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 痛い。痛い。痛い。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

「あがっ……!あ゛ぁ……!」

 

 激痛に思考を支配される。視界が朧気になる。魔法は既にまともに機能しておらず、俺は無様に地面を這いずるだけになっていた。

 

「すまない。苦しめるつもりは無かった。今ので首を落として殺せなかった僕の落ち度だ」

 

 ラバルドが何かを言っている。しかし内容は頭に入ってこない。ただひたすら痛い、苦しい。そんな耐え難い苦痛に悶えていると、投擲された剣によって生まれた土煙が収まり、視界が晴れた。

 先程までラバルドのいた場所には、水でできた手があった。思えば、俺の右手を切り落とした剣は飛んでくるタイミングがおかしかった、などと呑気な考えが頭に浮かぶ。

 

「さようならディア。君との日々は楽しかった」

 

 そんな、淡々とした口調でラバルドは言った。酷く無感動で、感情のない声色に悲しくなる。俺との関係は、俺が使徒であるというだけでそんな簡単に切り捨てられてしまうものなのか。

 

 せっかくの二度目の人生、後悔のないように生きようとして、後悔しないように選択した。それで俺は死ぬ事になり、結局大きな後悔を残す事になっている。あまりにも無様で笑えてくる。多分後悔だとかそういうもの以前に、俺は身の程知らずの愚か者だったのだろう。俺は自分の力を過信して、ラバルドを足止めできると思い込んだ馬鹿だ。

 今度こそ完全に死ぬだろうか。またどこかに転生するのだろうか。転生するのなら、今度は記憶は残るのだろうか。できるなら記憶はさっぱりと消してほしい。この後悔を忘れられるだろうから。ああでも、ルビアのことは忘れたくないなぁ。死に際故かゆっくり流れる時間の中で考える。

 気まぐれに、ラバルドの顔を見る。どうせ虚な無表情がそこにあるのだろうと視線を向けた。でも、そこには、

 

(ははっ……なんだよ……それ………)

 

 下唇を噛み、眉間に深く皺を寄せたラバルドが、そこにいた。唇からは血が滲み、その表情はあまりにも苦しげだった。

 

(ああ……そっか……)

 

 顔を見ればわかった。彼は、俺のことを殺したくないと思ってくれている。今でも俺のことを友人だと思ってくれているのだ。

 短い付き合いだが、彼の人となりはある程度知ったつもりだ。平和を愛し、平穏を好み、平凡を尊ぶ。

 彼は以前子供が好きだ言っていた、無垢であるからこそ、変えられるものがあるから。彼は以前戦いが嫌いだと言っていた、失うことしか、失わせることしか出来ないから。

 

 彼は俺を、親友と言ってくれた。

 

 なら、それなら、

 

(立て……!)

 

 痛みに耐えろ。前を向け。

 

(立ち上がれ、ディア!)

 

 決めたのだろう!俺は、俺は、今度こそ!!

 

 後悔の無い人生を送ると(・・・・・・・・・・・)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 ラバルドが振るった刃を、右腕で防ぐ(・・・・・)。魔力ではない正体不明の黒い力、それによって形作られた右腕は、彼の剣を易々と防ぎ火花を散らしている。

 

「俺は、」

 

 その黒は、俺に向けて莫大な力を供給する。

 

親友(・・)に殺されてやるつもりは無い」

 

 得体はしれない。どこから湧き出ているのか、何故突然現れたのか、何故操れるのか、どういう使い方なのか、何も分からない。

 けれどこの黒は、俺に諦めない為の力をくれる。

 

「その程度の力で、勝てると思ってるのか?」

「思ってないさ。でも、」

 

 当たり前だ、勝てるわけがない。使い方は分かっても使いこなせるわけじゃない。いきなり手にしたばかりの力で敵うなどとは思っていない。

 だがまずまずとして、俺の目的は勝つことじゃない。そう、

 

「逃げることならできる」

「…………」

 

 ラバルドは眉間に皺を寄せて剣を構える。俺も、再び拳を構える。

 

「次こそ殺す」

「逃げ切る」

 

 絶剣と、純黒の右手が激突する。

 それはまるで、何か大きな戦いの合図のようにも思えた。

 




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大胆な覚醒は主人公の特権。

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