過労死ワイ、戦いを全力で避けた結果怠惰の魔神扱いされる。 作:シーボーギウム
ちょっとまたアンケート置いておくので回答お願いします。
後、前話ちょっと編集しました。怪物の言葉が誤字報告かメモ帳にコピーでよめるようになってます。
今回今までで1番文字数多いです。
「ああ、もう!!」
苛立ち混じりに冷気を飛ばす。しかしそれは女の操る
副団長だと言っていた女は今、水と炎の二つの魔法を同時に使っていた。それも、汗一つ流さず涼しい顔で。
複数の属性を持って産まれること自体は珍しくない。私やディアのような使徒であれば、自分の持つ大罪属性と性質の似た美徳属性を使うことは可能だ。だがこれは性質が似ている、つまり相性のいい魔法が似ている属性だからこそ二つの属性を扱えているのだ。性質が似ているために、私であれば忍耐の魔力の使い方を学べば、それはいくらか傲慢の魔力の使い方に還元される。氷結魔法の使い方自体はどちらを使っても上達する。
だが、性質の異なる属性の魔力を使えるようにする場合は、属性毎に全く別の経験値が必要になる。属性一つ、魔法一つ使い方を極めるだけでも時間がかかる、性質か似ているならともかく全く違うものを極めようとするなど非効率極まりない。更に同時に複数使えるようにしようとすれば、余程の才能が無ければ身に付けるのに30〜50年はかかるだろう。
しかし目の前の女は複数の属性を、しかも
蒸気が舞う、火炎がうねる。それら全てが触れるだけでも即死しかねない絶大な威力を持っている。幸い、魔力量だけなら私が上だ。規模を押し付ければ攻撃を防げはする。だが、このままでは勝ち負け関係なく間に合わなくなる。
(何か策を……!)
『
早くディアの元に向かわなければと考え、意識を少しだけ女の後ろに向ける。
だからこそ、気付いた。
(何……で………)
「おや、向こうは終わったようですね」
激突していたはずの魔力が、怠惰の魔力が急速に萎んでいく。何で、何で何で何で何で何で何で何で何で!!!
「い、や……」
「貴女が戦う理由は無くなったようですが、諦めてくれませんか?あちらが終わった以上すぐにラバルド様がっ!?」
「嫌ァァァァァァァァァ!!!!!!!」
絶望する。涙が溢れ、凍る。
最悪に包まれながら、私は意識を手放した。
────────────
(まずい、このままでは街ごと……!)
目の前で魔力を、魔法を暴走させる少女を見て、クリス・マーブルは冷や汗を流す。その汗は彼女の身体から離れた瞬間に凍り付き、少女の起こすブリザードに巻き込まれた。
クリスの誤算は、少女、ルビアにとってディアが如何に大切な存在であるかを見誤ったことだ。彼女は本気を出せばラバルドがディアを仕留める前にルビアを屠ることもできた。だが、それは瞬殺できるという意味ではない。相応に時間がかかる試みだ。だからこそ、彼女はディアが殺され動揺した隙を突いてルビアを殺そうと考えていた。
しかし現実には、ディアの魔力が感じ取れなくなった瞬間これだ。このままではこの街は再起不能の最悪の状態に陥る。
(止めなければ……でも…………)
クリスは焦燥に駆られる。だがそれだけだ。彼女は自分では命懸けでやってもこの絶死の吹雪を止められないことを理解していた。ならば次善の策を、この場でルビアをどうにかできないのなら、そのことは考えずに自分ができる最善を尽くす。それが彼女が副団長たる理由の一つ。クリスは思考を切り替え、加速させる。
(幸いしばらく経ちましたが、大罪の魔力は既に
クリスは周囲の人々の避難誘導を始める。火炎魔法を使ってできる限り彼らを暖め、迫る暴威から彼らを守り、そして────
「落ち着け、ルビア」
────霜が降りた身体でルビアを横抱きにする少年を目にした。その足元には黒い影のような何かが蠢いている。いつの間にか吹雪は消え去り、ルビアも先程までとは違って穏やかな表情をしていた。そんな彼女を見て少年、ウィディーは表情を少し歪めた。
(首飾りが全部消費されやがる。もう少し遅かったら自滅してたかもしれねぇな……)
考えながらウィディーは感知できなくなったディアを探す。感知は成功したようだが、ウィディーは首を傾げた。
(これは……何だ?恐らくディアのだろうが……魔力じゃない……?)
クリスもルビアも感知出来なかった
件のクリスは、呼吸を整えるだけでも精一杯だった。身体からは冷や汗が流れ落ち、震えが止まらずにいる。
(勝て……ない………絶対に…………)
彼女はなまじ力があるからこそ、その場で彼の力を感じ取れてしまっていた。彼女の後ろに居た人々は既に気絶している。彼女にとって状況は依然最悪、その種類が変わっただけだった。
「……オレが相手する必要はねぇな」
「っ!」
そう言ったウィディーは黒い何かに手を突っ込み、何かを引っ張り出す。フクロウのような仮面を付けた、やはり真っ黒な怪物だった。
『ころしてくれ……しなせてくれ……』
怪物がおぞましい声を上げる中、クリスはその怪物の持つ魔力量までもが己とは比べ物にならないことに気がついた。怪物は縋るように彼女に迫る。
「頑張ってくれ。そいつ嫌いなんだ」
ウィディーは一言そう告げて彼女を通り過ぎる。
「嫌いなら出さなきゃいいじゃないですか……!」
悪態をつくクリスに向けて、化け物が襲いかかった。
────────────
甲高い激突音が何度も響く。片方は俺の黒い右腕、もう片方はラバルドの4本の剣だ。
さっきまでなら、彼のこの四本もの剣を同時に使うあまりにも特異な剣術に対応することは出来なかっただろう。だが、黒い腕は身体強化魔法を遥かに超える膂力と五感、肉体の強度をくれている。
現状、単純な身体能力だけなら俺はラバルドを超えていた。
「お、らぁ!!」
「ぐっ!」
右拳を叩き付ける。絶剣で防がれるが、ラバルドは大きく吹っ飛んだ。その間に右腕に意識を向け、少しでも使い方を理解しようとする。
(なるほどね……)
少しだけ、ほんの少しだけこの右腕の使い方が頭の中に流れる。だがそれ以上に、莫大な音で警鐘が鳴らされた。
(これ、使い切ったら死ぬな………)
俺は今のところ自分の中にある黒だけを使っている。だが、感知が曖昧で正確には分からないが、感覚的に、この力はそこら中に散らばっている。恐らく、本来はそれ等を自分に集めて使うのが正しい使い方だ。ある程度この力に慣れれば集めることもできるのだろうが、この戦いのうちにその技術を身に付けるのはほぼ無理だ。
(体内で循環させて身体強化に使う分には消費は少ない。だけどそれだけで勝てる程ラバルドも甘くない。これは多少危険な使い方もしないといけないな…………)
俺は右腕から弓の形の黒を創り出す。そして黒の矢を創り出し、それをつがえた。強化された身体能力でギリギリまで弦を引き、ラバルドに向けて放った。遠くで彼が俺の方へ迫りつつ、首を傾けるだけで矢を回避したのを強化された視力で確認する。
確認してから、俺は矢の軌道を曲げた。
ラバルドは突如180度向きを変えて襲いかかる矢に驚愕しながらも、今度は剣で弾いて軌道を強引に変える。
弾かれた矢を更にラバルドに向ける。弾かれ、軌道を修正し、また弾かれ、また修正する。この黒は、俺が望めば望むように操作できる。その上わずかだが魔力を吸収し、それを推進力に変えることができるのだ。彼が剣で弾けば、その魔力を吸収して飛距離が伸びる。実質、半永久的に避けなければならないというわけだ。
そこに俺自身も突っ込んだ。
矢を弾き、右手の剣を振り切った態勢のラバルドに向けて右拳を放つ。彼は反射的に左手の剣を盾のように構えて拳を受け、再び吹っ飛ばされた。それに矢を追従させ俺も突っ込むと、彼は空中に無数の水球を生み出しつつ剣を構えた。
次の瞬間、パパパパパパン!!と風船が破裂するような音が連続した。ラバルドは本来砲弾のように打ち出すのが普通である水球を足場にしたのだ。騎士として極まった身体能力と、魔法での強化によってほぼ人外の膂力を持つ彼ならば、空気中に水を生み出し、足場として使えば三次元挙動も容易いというわけだ。
だが忘れるなかれ、強化込みの身体能力なら、今は俺の方が高い。ラバルドが俺の背後に回り込んだのは知っているし、対処も可能だ。
俺は矢を操作して自身の背後に高速で突っ込ませる。ガキィン!と甲高い音が鳴り響き、一本目の剣を防ぐ。続く二本目の剣を裏拳気味に放った右手で弾き飛ばし、背後から迫る三本目の剣に矢を当てて軌道を逸らす。俺はその場で軽くバックステップをし、頭上から降ってきた四本目の剣を避けた。
「ちっ……」
ラバルドは舌打ちをしつつ眉間に皺を寄せる。正直俺も舌打ちがしたい気分だ。埒が明かない。実力的に現状ほぼ拮抗してしまっている為に、状況を打開する為の大技すら出す暇が無い。
だがここで、状況が変わった。
「仕方ない
「は?」
ラバルドの近くにあった四本の剣が光の粒子に変わり、一つに集まり、姿を変えた。
刀身だけで2m近くある大剣だ。その刀身は四角形で、切れ目がいくつも入っていた。
「ハァ!!」
咄嗟に右腕を上に構える。瞬間、凄まじい衝撃に襲われる。どうにかその場で踏ん張るが、代わりに全身の骨が軋んだ。痛みに顔を歪めながら見れば、刃が複数個に別れ、鞭のようにしなっていた。
蛇腹剣。確かそう呼称される武器だ。現実には構造上無理があるらしいが、この世界には魔法がある。あの剣には、確かな破壊力が内包されているだろう。
「言っただろう。持ち主の望む姿に形を変えると」
「まずっ!?」
ボッ!と空気を叩き、剣が高速で伸びてくる。身を逸らし、どうにか避けるが剣は頬を浅く裂いていった。
矢をラバルドに向かわせる。やはり弾かれるがおかげで隙が出来た。どうにか距離を取り、矢を手元に呼び寄せる。この剣相手では矢では多少の妨害にしかならない。矢を変形させ、槍のような形状に変形させた。
そこで、あまりにも異様な姿のラバルドを見た。
彼は、絶剣に似たデザインの鎧を身に付けていた。顔まで全て覆う
「ま、さか」
「言っただろう。
ラバルドが再び剣を構える。冷や汗を流しながら槍を構える。
戦いは、まだまだ終わらない。
────────────
その女は、眼下で繰り広げられるディアとラバルドの死闘を見ていた。
真っ白なワイシャツと黒のベスト、ネクタイ、黒のスラックスを身につけた臙脂色の髪を持つ美女だ。彼女はボブカットの髪を風に靡かせながら、ラバルドの屋敷の屋根の上に立っていた。その手には数枚の紙がある。
そんな彼女の傍に、ルビアを抱えたウィディーが降り立った。
「お前来てたのか」
「えぇ、本当ならグーラ様がいらっしゃる予定でしたが、この街には
「あぁ、あのガキか」
「その身長でガキて」
「あ゛?」
「いえ何も」
ウィディーはため息をつきながら女と同じく戦いに目を向ける。現状、全身鎧を身に付けたラバルド相手にディアは劣勢だ。このままでは間違いなく殺されるだろう。しかし2人は特に慌てる様子はなかった。
「で、何で戻ってきたんですか?ディアさんの元に向かってましたよね?」
「お前が見えたからな」
「え?私のこと好きなんですか?やめてくださいよ気持ち悪い」
「呪い殺すぞてめぇ……!」
無駄に煽る女にウィディーは青筋を立てる。しかし女はそんなウィディーを気にすることすらなく話題変える。その時女の雰囲気が真面目なものになったのを感じてウィディーも渋々怒りを収めた。
「私を見て戻ってきたってことは、何か理由があるんですよね?」
「あぁ、ディアを助けるのを頼みたい」
「やっぱり……これ、無理にでもグーラ様引っ張ってくるべきでしたかね?ディアさん善戦してますし、ウィディー様とグーラ様が全力で戦えばあの帝国最強殺せたんじゃないですか?」
「阿呆か、
一瞬で考えを否定したウィディーに、女も「ま、そりゃそうですか」と同意した。今のラバルドは確かに本気で戦っている。だが、それは全力であることと同義ではない。彼の周囲には家々が、その家の住人がいる。本気を出せば、ディアは即殺されるだろうが、代わりにこの街は地図から完全に消える事になるだろう。
だが、魔神が現れれば、彼は魔神の滅殺を優先して本気で戦いを始めるだろう。そうなれば、今この街にいる全ての人間が殺し尽くされることになる。
「ハァ……
「……悪いな」
「悪いと思うなら、初めから頼まないで下さい」
女はベストを脱ぎ、ネクタイを取る。ワイシャツのボタンを幾つか外した後で、彼女は己の手に1本の剣を出現させた。
「いつ抜きます?」
「ディアが動けなくなってから」
「了解しました」
「後あれには……」
「ええ、饕餮、使わせてもらいますね。対ラバルドは流石に協力してくださいね?魔神とバレない程度でいいので」
「もちろんだ」
頷いたウィディーから視線を戦いにズラし、女は意識を集中させていく。介入のタイミングを間違えれば洒落にならない事態に陥る。
「あー……いやだなぁ…………」
うんざりとした呟きが、風に攫われた。
────────────
「ぐぅ!?」
蹴りが入る。強化無しならそれだけで人体が真っ二つになりかねない威力がそこにはあった。ラバルドは空を舞う俺に追撃の剣を放つ。鞭のように迫る刃を黒の槍で防ぐが、そのまま地面に叩き付けられた。
激痛に耐えながら考える。このままじゃまずい。今度こそ殺される。
ラバルド自体の速度は全身鎧のせいで落ちている。だがわざわざ剣で防御する必要がなくなったことと、あの蛇腹剣がそのデメリットを完全に消している。
鞭は、上手く使えばその先端は約時速1000kmにも及ぶ。刃が着いていることや、本来の鞭に比べて圧倒的に重いことなど要因は様々だが、魔法で強化されたラバルドが振るあの剣の先端は、黒で強化された俺ですら反応の難しい異常な速度になっている。
この場を切り抜ける策はある。だがあまりにも博打が過ぎるのだ。この場はどうにかなっても、逃げれたとしてもその先で俺は死んでしまうかもしれない。だが、どの道このままでは死ぬのは明白。
(覚悟を決めろ)
恐怖を捩じ伏せ、槍に力を込める。槍を振り回し、その槍から無数の矢を射出した。
「無駄だ!!」
ラバルドの放つ蛇腹剣を矢と槍でどうにか弾き、なおも俺は矢を放ち続ける。自分の中の、何か大事なものが削れる様な感覚に冷や汗を流す。それが無くなっていくことに異常な恐怖を抱きながら、それでも矢を放ち続ける。
その様相は、さながら嵐だ。無数の黒の矢は、空中を飛び回っている。そのおかげでラバルドの剣が俺に届くことはなくなった。
槍も手放し、矢に変える。黒の嵐の中、俺はラバルドに向けて走り出した。
矢が帯のような薄く長い形状に変わり、俺に貼り付き、巻き付いていく。筋肉の動きを補助するように、体の動きを補強するように、俺を包んでいく。
「う、おおおおおおおおお!!!!!!!」
雄叫びを上げ、全身を、顔に至るまでの全てを黒の帯で包み込んだ俺はラバルドに向けて拳を放つ。黒に包まれ、更に身体能力の上がった俺の拳を彼は避けられず、腹部にまともにくらった。
瞬間、音が消える。
そう錯覚する程凄まじい爆音と共に、鎧の砕けたラバルドが吹き飛んでいく。これまでとは訳が違う。彼は強化された視覚ですら視認できない距離まで飛んで行った。
(今のうちに……!)
そのまま身体を反転させ、走り出そうとして、
「あ……れ……」
膝から崩れ落ちた。身を包んでいた黒が、空気に溶けるように消えていく。立とうと思っても、身体が動かなかった。
見誤った。この力を使い過ぎてしまった。力が入らない、完全に限界だ。
それでも、這ってでも動く。
死にたくない。生きたい。見たいものがあるんだ。まだ、やりたいことがあるんだ。動け、動いてくれ。右腕を伸ばして、その右腕も霧散した。諦めない。諦めたくない。
でも、運命は無慈悲に牙を剥く。
「もう、無理だよディア」
そんな、ラバルドの声。さっきとは違って、悲しみに満ちた声だった。
「愚かな俺は、まだ君のことを敵とは思えない。どうやっても、あの日々が嘘だとは思えない。だから、君のことを嫌いになれないんだ………でも…………」
苦渋に満ちた声だった。
「僕はそれ以前に騎士だ。だから君を殺さないといけない。なら、せめて────」
ラバルドに顔を向ける。その目から、涙が流れていた。
「────もう、苦しませたくない」
刃が迫る。再び、世界の時が遅くなる。今度こそダメだと目を瞑る。
「いやいや、最後の最後で貴女が諦めてどうするんですか」
意識が落ちる瞬間、そんな声が聞こえた気がした。
感想評価よろしくお願いします。
投稿頻度に関するアンケートしたばかりで忍びないのですが、一区切り付いたら1ヶ月程投稿を週1にして書きだめする期間を作ろうか考えています。ちょっと回答お願い致します。
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構わん、やれ。
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ダメです。