願いの宝石   作:ヒイラギナンテン

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 知らない誰かの物語。

 

 ――君が見た未来。どう感じた? 三つの願いが正しく叶う。その権利を君が得た。

 

 最初の願いはどうする? 力が欲しければ願えばいい。そうすれば君の思い描くそのままに、君は力を得る。どれほど奇天烈で不条理なものであろうとも不可能はない。

 

 そういう約束。蒼い石とはそういうものなのだから。

 

 

 

 

 目を開く。クラッとぐらついた体を右足を一歩出して支えた。

 

 周囲には誰もいない。何故、こういう風になったのかが分からなかった。前後の記憶が曖昧で、何故自分が此処にいるのだろうかと考える。しかし、本来自分がどこにいるべきだったのかも分からない。記憶の混乱。

 

 ……どうでもいいか。別に知らない場所にいるわけではないのだから。なんて事は無い学校に通う道だ。

 

 そう結論付けて、足下に落ちていた手提げの鞄を拾って歩き出す。動悸が早い己の胸に手を当て感傷に浸りながら。

 

 

 いつも通りの詰まらない授業。欠伸を噛み締めて窓から外を眺めながら過ごす。

 

 高校に入りたての去年は、こうしていると何度も教師に名指しで注意を受けていた。けれど今ではそれもなくなった。小中と変わらない当然だった。

 

 そのまま時間は過ぎて昼休みになる。チャイムから少しして、教室の入り口から入ってくるとある女子の姿が目に付いた。クラスが違う。ボーッと目で追いかけていると窓際で何か作業していた女子に話しかけた。友達なのだろう。

 

 普段は別段気に掛けることもないどこにでもある光景。けれど、違うクラスの眼鏡を掛けた女子が気になる。

 

 これを他人に話せば瞬く間に一目惚れだの何だのと囃し立てられることだろう。けれど、それは違う。

 

 予感なのだこれは……。

 

 ――高町さん

 

 彼女と話していたクラスメイトが口にした言葉。この部分だけがクローズアップして木霊する。

 

 口許を左手で覆って顔を伏せる。恐らく、酷く歪んだ笑みを見せているだろうから。それを隠すぐらいの感情は持ち合わせているのだから。

 

 

 動悸が加速するのを自覚すると、まるで自分ではない誰かのように感じられた。

 

 俺は彼女を知っていたか? いや、知らない知るはずがない。名も聞き覚えも無かったはずだ。つまりは本当。今朝の夢には俺の記憶は関与していない。

 

 夢の中で見た未来にはなにがしかの真実がある。

 

 

 

 

 放課後になると早々にパソコン教室に向かった。

 

 教室に入ると既に何人かの生徒の姿が見える。恐らくパソ部の奴らだろう。こちらに視線を集中させていたが素知らぬ顔で離れた場所のパソコンの前に座ると視線が外される。

 

 さてと……。

 

 起動し終えたパソコンの前で止まる。どうすれば良いのか分からないのだ。

 

「なあ、誰か助けてくれないか? パソコンの操作分からないんだ」

 

 先ほどこちらを見ていた集団に声を掛ける。

 

「どうかした?」

 

 一人、近寄ってきた。

 

「調べ物をしたいがやり方が分からない」

 

「いや……普通に検索すればいいと思うよ」

 

「それをどのようにすればいいのかが分からない」

 

 相手は非常に困ったような表情を浮かべる。

 

「えっと、何を調べたいんだい?」

 

「もう任せてしまって良いか? 海鳴市内に槙原動物病院ってのと翠屋というのが存在するか知りたい」

 

「なるほど、動物病院の方は知らないけれど、翠屋って喫茶店は結構有名だよ。僕のクラスメイトはその店の店主の娘だし。高町美由紀って子」

 

 昼のあの子か。ますます裏付けが取れた。あとは動物病院の方だけど・・・・・・。

 

「あったよ。ここだろう?」

 

 パソコンを弄っていた彼が、モニターを指さす。確認すると確かにあの建物の写真があった。

 

「ああ、ありがとう。ここであってる。あとはここと翠屋の場所を調べてもらえないか?」

 

 その言葉がよほどおかしかったのだろう。彼は苦笑すると、地図を印刷するよ。と言った。

 

 

 常に無い昂揚に満たされて、渡された地図を片手に動物病院に向かった。

 

 道中、世界が今までと異なっているように見えた。もちろんそれはただの錯覚で、気分の問題。

 

 

「見つけた」

 

 始まりの舞台。牧原動物病院の看板を見上げる。

 

 破壊痕などは見あたらない。間に合った。まだ始まっていない。そして夢の真偽を判断する分水嶺の役割。

 

 視線を下ろすと硝子越しに女性と目があった。愛想笑いをして立ち去る。

 

 まさに不審人物だな。

 

 二つ先の交差点から黒塗りの高級車が入って曲がって来る。

 

 まさかと感じながら擦れ違い様に車内を窺おうとしたが、黒の窓硝子は中を見ることを許さなかった。

 

 そしてすぐに車の止まる音。数歩歩いて、半身で振り返る。出てきたのはおっさん。それから少女三人。その容姿と、その内の一人が胸に何かを抱えているのを確認して歩き去る。

 

 くははは。はは。あはははは。そうか今夜か。

 

 十分だ。もう十分だ。

 

 愛してる。愛してる。愛してる――。口の中で繰り返す。

 

 頭の中では歓喜が湧いていた。

 

 あはははは。真実であれ真実でアレ。全てが真実でありますように――。

 

 彼女との出会いに想いを馳せる。

 

 

 

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