召喚までの成り行き
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
7月某日。藤丸立香はせっかくの夏休みに、空襲に遭ったかのように火の海に飲み込まれ、廃墟と化した街の中で、メモ書きされた中学生の頃なら超カッコよく感じていたような呪文を唱えていた。
お前はそんなところで何をしているんだ。もし誰かにそう聞かれたとしても、彼は答えられないだろう。
どうして、こうなったのか。
彼は助けを強く求めながら、余りにも濃い今日という日を回想した。
俺はついさっきまで、何かの適性を見出されて、極寒の地に建てられた何かの施設、カルデアにいたはずだった。
難解な話につい眠ってしまった結果、偉い人に怒られて出て行けと怒鳴られてしまい、自分に割り当てられた部屋でサボってた人、通称ロマンと雑談をしていたら、前触れなく白い部屋が耳をつんざくような警報音と共に赤い光に包まれた。
ロマンによるとさっきまで自分がいた部屋で何かがあったようで、自分を先輩呼びするよく分かんない女の子を助けに向かったら、いつの間にか件の空襲にでもあったかのような街ーー特異点・Fーーに突っ立っていたのだ。
そこからも物凄い勢いで事が進んでいった。
まず、飛び散る火の粉にビクビクしながら人を探していたら、武器を持ったガイコツに襲われた。明らかに危険な風貌を見て即座に逃げ出そうとしたが、頭がパニくっていたせいですっ転び、あわや命を落とすというところで、ガレキに圧し潰されて動けなかったはずの先輩呼び女の子、マシュが助けてくれたのだ。…目のやり場に困るコスプレに変身して。マシュは身体のラインが出ている衣装に恥じらうこともせず、手に持っていた大きな盾を振り抜きガイコツを砕いた。
腰が抜けて座り込んでいるのを助け起こしてくれたマシュが言うには、死ぬ寸前のところでサーヴァントという凄い人が融合して命を救ってくれたそうだが、理解出来なかったのでいい人がいてよかったということで流した。
カルデアと通信をするためにパワースポットを探さないといけないらしく、それに着いていったら女性の高い悲鳴が聞こえてきた。何事かと思って声の方向へ急ぐと、そこには自分に説教をしていた偉い人、オルガマリー・アニムスフィア所長がガイコツに群がられてガチ泣きしながら逃げ回るという光景があった。
俺もマシュも慌てて所長を助けたら(俺は見てるだけだったけど…)、所長の足元にパワースポットがあったようで、カルデアと通信を繋げて、所長が生き残っていたロマンと色々と話していた。
カルデアに帰るためには、この特異点・Fのどこかにある聖杯というとても貴重なアイテムを回収しないといけないと伝えられ、それを探そうとした矢先、シルエットのように真っ黒な禍々しい不審者ーーシャドウサーヴァントーーが不意打ち気味に襲ってきた。
マシュはサーヴァントさんと融合した影響で、身体能力が馬鹿みたいに高くなっていたが、鎖付きの杭を構えた長身の女性…に見える影は、それをあざ笑うかのようにマシュを翻弄した。徐々に疲弊していったマシュが危うく深い傷を負いそうになったその時、炎の弾が女性の影の攻撃に割り込んだ。
炎の弾を撃ったのは、これまたコスプレめいた兄貴肌な高身長の男だった。その男は呪文に使うような木の杖を構えて女性の影めがけて疾走し、なんと杖で女性の影の腹に刺突を繰り出した。
クリーンヒットに怯んだ隙に、追い打ちの炎の弾や杖術でノックアウトされた女性の影が光の粒に飲まれて消えていくのを尻目に、男を警戒するマシュに、その男は自分はクーフーリンだと名乗り、敵対するどころか協力を持ちかけた。
聖杯を持っているのは、なんとあのアーサー王で、しかも闇堕ちしてしまったらしい。ランサーならまだしも、キャスターの姿では単体でアーサー王に勝つのは難しいと考えたクーフーリンは、理性が残っている協力出来そうな相手を探してあちこちをうろついていたそうだ。
ちなみに、ランサーとかキャスターというのは、サーヴァントなら必ず持つ“クラス”というもので、要はクラスによって得意なことが違うってことだと言っていた。そうなんだと思っていると、マスターなのにそんな事も知らないのかよと少し呆れられたが、それならと他にも色々と教えてくれた。
サーヴァントには、“宝具”という、簡単に言ったら専用の必殺技があると言われた。クーフーリンは、巨大な藁人形に閉じ込めて焼き尽くす技を持っているそうで、疑似的にとはいえサーヴァントになったマシュも宝具が使えるはずらしいが、マシュは何故か使えないですと申し訳なさそうに言った。クーフーリン曰く、力の使い方を知らないでいきなり力を得たせいで、力が詰まっているそうだ。どうすればいいかと尋ねたら、手っ取り早い解決の手段があると言って、いきなり襲い掛かってきた。
宝具まで使ってマシュを本気にさせようとした甲斐あって、マシュは何とか宝具を使えるようになった。これで戦力に数えられるようになっただろと、俺たちはいよいよアーサー王を打倒しに向かうことになった。
その道を阻んだ双剣を巧みに使いこなすアーチャー(?)のシャドウサーヴァントを倒したところで、クーフーリンがおもむろに口を開いた。
「このままじゃ、無理だ」
いきなりのギブアップ宣言に、情緒が不安定気味な所長はキレた。今のアーチャーも強敵だったけど倒せたんだから、アーサー王もきっと倒せるはずだ、と。その反論に対して、クーフーリンは冷静に返した。
「確かにアイツも強かったが、あくまでシャドウサーヴァントだ。能力が本来より低い上に、宝具も使えねえ状態だ。あくまで残滓だからな。俺たちはそんな相手は、本当なら楽勝で倒さなきゃならねえ。なのに苦戦してる有様じゃ、騎士王サマにゃあっという間にやられちまうだろうよ」
アイツは格が違うからな。真剣な顔で告げられたその言葉に、俺たちはうつむいて沈黙した。命がけで宝具を習得したのに、それも無駄な努力だと暗に言われたように感じたからだ。そんな俺たちに対して、クーフーリンは、ニヤリと笑みを向けた。人を絶望させておいて、何を笑ってるんだと怒りたくなったが、その前にクーフーリンがこう言った。
「早とちりすんなよ。“このままじゃ無理だ”って言ったんだ。
ーーーあるだろ?即戦力を得られる手段が一つ」
その手段というのにピンと来なかったのは俺だけだったようで、他の面子はハッと顔を上げ、揃って声を上げた。
「「英霊召喚ね(ですね)!」
それは正解だったらしく、クーフーリンが満足そうな笑みを浮かべる。でも、召喚をするための触媒が無いと所長が言ったが、そこは大丈夫だとクーフーリンは言った。
「途中で拾ったり、シャドウサーヴァントの残骸として出てきた虹色の石があるだろ?アレが触媒代わりになる。幸い、ここらには召喚が何回かは出来るくらいには魔力が満ちてるから、召喚用の魔方陣…は嬢ちゃんの盾でいいか。それに石を3個か、まあ不安なら4個ぐらい捧げりゃ、簡潔ではあるが英霊召喚は出来るだろうぜ」
そう言ってから、ただしとクーフーリンは念押しした。
「知ってるだろうが、英霊召喚は肝心のサーヴァントが出てくる可能性が低い。何も出てこないならいい方で、下手すりゃ見境無しに暴れるバケモンが出てくるって可能性もある。
それに、あの石は触媒にはなるが、どんなサーヴァントとも所縁がない。どんなヤツが出てくるか分からないってこった。せっかくサーヴァントを召喚出来ても、命令を聞かない傲慢な野郎が出てくるかもしれねえ。その上でも、召喚出来なきゃまず負け戦だ」
さあ、どうする?
そんな責任を問う言葉に、返答を悩むことは無かった。召喚をしよう。
いいのかと聞かれても、気持ちは変わらなかった。どうせ何もしなかったらオシマイなら、足掻くだけ足搔きたい。
ふと、マシュの方を見る。マシュは不安そうにこちらを見返していたが、その眼は先輩を信じますと言っていた、と思う。
そう言うと、クーフーリンは目を丸くしたかと思ったら、突然大笑いし始めて、バンバンと背中を叩いてきた。手加減されているにしてもサーヴァントの怪力で叩かれて痛い思いをしていると、クーフーリンは笑いながら言った。
「いや~お前、てっきり日和るか自棄になるかと思ってたが、いい具合に吹っ切れたじゃねえか!さっきは脅すような言い方をしたが、安心しとけ。もしバケモンが出てきても速攻で捻じ伏せるし、傲慢な野郎が出てきても無理矢理黙らせて言うことを聞かせてやる。もし何にも出てこなかったとしたら、その時は潔く玉砕しようじゃねえか!」
玉砕という言葉に少し空気が微妙になりながらも、クーフーリンの言い分でやる気を取り戻せた俺たちは、早速英霊召喚の準備を始めた。クーフーリンはマシュに盾を置く場所や置き方を指示している。意味があるのかとちょっと不思議になったが、あるらしい。所長は詠唱文をメモ書きしてくれている。よく覚えてるなあと思ったが、魔術師なら当然らしい。
肝心の俺は、集中をしておいてほしいと言われた。召喚の際に強く助けを求める事で、サーヴァントが召喚出来る可能性が上がる、かもしれないらしい。眉唾臭いなあと思いながらも、藁にもすがる思いで集中していると、所長が声をかけてきた。
「はいこれ、詠唱の呪文。読み間違えないでね」
つっけんどんな態度で渡されたメモには、丁寧で読みやすい日本語が書かれていて、しかも読み仮名まで振られていた。いい人だなあと温かい眼差しを向けたら軽くキレられた。やっぱり理不尽だ。
「おーい、魔法陣が描けたぞー!早く召喚しようぜー!」
クーフーリンがこっちに呼びかけてくる。その声に応えて、俺は魔法陣の前に立ち、詠唱を始めた。
「誓いを此処に」
とまあ、そんな事があったのだ。既に3回詠唱を行い、その結果英霊は顕れなかった。だが、この場にいる誰も、最後の一回まで諦めるつもりは無かった。
この召喚にこの場にいる皆の命運がかかっていて、俺はその全てを背負っている。そうである以上、俺が諦めるのは絶対にダメなんだ。英霊召喚が奇跡なら、俺は今、その奇跡を起こさなければならないのだ。
「汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
だから、どうかお願いします。誰でもいいんです。助けてください。お礼に出来ることがあるなら何でもします。皆を助けられる力を、俺に貸してください!
瞬間、魔法陣から光が溢れ出た。魔法陣を中心に強く風が巻き起こり、立っているのもやっとな状態だ。
『これは…来たぞ!英霊だ!」
通信機からロマンの声が響いてくるが、それに反応をしている余裕がない。光は段々と束ねられ、3つの輪へと収束していき、風も徐々に収まっていく。その神々しい光景に目を惹かれながら、魔法陣の上に、誰かが降り立ったのがぼんやりと見た。
その時、俺はふと、パチパチと焚ける火の匂いのほかに、清々しい…そう、新緑の匂いを感じた。
やがて、召喚の余波は完全に収まり、俺たちは顕れたサーヴァントを視認した。
ーーーそこに立っていたのは、緑色の少女だった。
何を言っているんだと思うかもしれないが、ほぼ緑一色の服に身を包み、肩に付かない程の髪も、柔らかな光を湛えた眼も緑色に統一されている彼女の容姿を言葉にするには、これ以上の表現は無いように思えた。
背は低く、俺の胸ほどもないだろう背丈は、頭に被るやっぱり緑色の大きな帽子のせいか、尚更低く感じた。
その少女はこちらを目に留めると、爽やかな笑顔を浮かべて、元気にこう言った。
「召喚に応じ参上しました。貴方が私のって熱っ!?火!?火の海の中!?」
あ、こりゃダメだ。言葉は無くとも、俺たちの気持ちは一致した。
藤丸立香:fgoの主人公。
マシュ:fgoのメインキャラ。かわいい。
所長:fgoの最初で死ぬキャラ。
クーフーリン(術):最初に出会うサーヴァント。最初期に出会い、危ないところを助けてくれた頼れる兄貴肌なので、かなり頼られていそう。
召喚されたサーヴァント:火に弱い。特異点・Fとは致命的に相性が悪い。
8/8までに本編を投稿します。頑張ります。