ソレは、焼け朽ちた森の跡地から、街の中に輝いた金色の光輪を見ていた。
幼子の姿をした己が主を守る。異常なモノへ変貌した聖杯戦争から敗れ脱落し、聖杯の泥に霊基を侵されて。それでも尚、その強き意思は滲まず、影を主が拠点とした城を潜ませる森の中に陣取らせた。
影は、その光が英霊召喚によるものだと理解した。
英霊。即ち、敵。
「■■■■■ーーー!!」
岩の剣を固く握りしめ、獣と紛う雄叫びをあげる。すぐさま排除に向かおうとしたが、戦力が分からない以上、待ち構えるのが最善だと、正気を失おうと損なわれなかった数多の戦闘経験が囁く。
「■■…」
無論、狂化の鎖に縛られ、その上で理性無き獣に堕とされた影に、その囁きは届かない。しかし、辛うじて片隅に残った思考は、獣をほんの少し慎重にさせた。
あくまで様子見。敵勢を観察し、少しでも主の拠点へ向かう素振りを見せれば強襲する。最終的にそう結論付けた獣は、四肢に力を込めた。
地面が陥没する程の踏み込みから、全力の跳躍。さながら翼が生えたかの如く、獣は森を飛び立った。
焼け原を去っていく、その黒い巨人の後ろ姿を見たのは、とうに大部分が焼け落ち、表皮が剥がれ落ちた痛々しい姿の木々だけだった。
淡々と、騎士王アーサー…いや、騎士王アルトリアの能力を語っていくクーフーリン。まさか女性とは思っていなかったけど、そんな事に反応して時間を無駄にしていられない。
ロマンや所長と違って、質問が出来る知識なんて無いから黙ってはいるけど、これから自分たちが挑まなければならない相手が、どれだけ強い力を持っているのかは十分すぎるくらいに理解させられた。
ふと、流れるような語りに区切りが付いた。立香は語り終わったのかと期待してクーフーリンの顔を見てみたが、その表情に浮かぶ緊張は、さっきまでとは比べ物にならないくらいに強くなっていた。それを見て、立香はここからが本題なんだと気を引き締めた。
「さて、ここまで長々と語ってきたが、はっきり言って全部前座だと思っていい。いざ本番!って時に意識しとくべきものは、今から言う二つだけだ」
クーフーリンはそう言うと、ピースサインのように指を二つ突き出し、直後にその内の中指を曲げた。
「一つ目は魔力放出だ。ヤツの得意技で、必殺技とも言っていい。普通は魔力を肉体や武器に纏わせて強度を上げるだけだ。だが、ヤツが使うのは特別製で、魔力をジェットみてえに勢いよく噴射させて、それを維持出来るのが、ヤツの最大の強みだ。オマケに、噴射の勢いで動けるから機動力まで高い。多少離れていても油断するなよ。目視出来る距離なら、ヤツは一息の間に飛び込めるからな」
まくしたてるように喋った後、一息つくためか暫し黙り込む。その間に俺達の顔を一人ずつ見たのは、質問がないか暗に確認しているんだろう。誰も質問がないと判断してから、クーフーリンは二つ目の能力について語り始めた。
「二つ目は…察しはついてるだろうが、ヤツの宝具、聖剣だ。宝具がサーヴァントの一番の強みなのは分かってると思うが、ヤツの聖剣はその中でも別格だ」
聖剣。これは俺でも分かる。エクスカリバーだ。でも、別格というのがいまいち想像出来ない。
葉の宝具はまだ見てないから分からないけど、クーフーリンの宝具は、召喚した燃える巨大な藁人形に敵を閉じ込めて焼き尽くすとかいうかなりえげつないものだし、マシュの宝具は真名も分かっていないのに、そんなクーフーリンの宝具を受け切った凄い防御だ。それよりもずっと凄いとなると、ちょっと想像がつかない。
そんな事を考えていたら、疑問が顔に出ていたようで、軽く笑いながら聖剣…エクスカリバーがどんな宝具なのかを教えてくれた。
「簡単に言うとな、聖剣はビームだ」
え?
「それもただのビームじゃねえ、食らえば大体のヤツが耐えきれないような超威力の必殺ビームだ」
ランサーの俺の槍もすげえ宝具なんだけどな。そんなクーフーリンのぼやきはあまり耳に入らなかった。だって、剣からビームだ。そんなのめちゃくちゃかっこいいいじゃないか。敵だと言うのに、騎士王が急にヒーロー番組の主役のように思えてしまった。いけないいけない。頰をペシペシと叩き、気を引き締め直す。
「間違いなく、ヤツは開幕に聖剣をブッパなしてくる。まあ、嬢ちゃんの宝具は多分ヤツの聖剣と相性がいい。踏ん張ればギリギリ耐えられるはずだ。頼りにしてるぜ?」
「は、はいっ!マシュ・キリエライト、全力で皆さんを守ります!」
クーフーリンの言葉に、マシュは気迫を込めて力強く返事をした。カルデアの何処となく薄やかだったマシュとは別人に見えたけど、その足は震えていた。気持ちは分かる。大役を任されて、緊張しないはずがない。それでも、マシュは確かにやれるって言ったんだ。
所長をまねたわけじゃないけど、マシュの肩に手を置いた。長台詞が咄嗟に思いつかなかったので、ただ一言だけ。
「信じてる」
言葉と一緒に、親指をグッと立ててみたり。やってから気恥ずかしくなったけど、震えが止まり、少しは気負いを緩められたように見えたから、効果はあったと思う。所長が色々な感情が混ざっていそうな顔で見ていたけど、見られている事に気付いたのか、大袈裟に咳をしてから、クーフーリンに問いかけた。
「情報は以上ですね?では、打倒騎士王の作戦を『エネミーだ!この微弱な反応はガイコツだろう!数は五体!」
所長は最後まで言葉を続けられなかった。所長の言葉に割り込むように、ロマンが敵の襲来を警告したからだ。
同時に、一同の表情が変わる。ガイコツは道中で何度も倒している雑魚敵のような連中だが、魔力を宿している彼らは、確かに英霊に手傷を負わせられる存在なのだ。それに、一般人たる立香からすれば、たかがガイコツとはとても言えないのが本音である。
事実、マシュと合流する直前まで殺されかけていた相手な訳だから、立香からすればガイコツは油断ならない相手に間違いはなかった。
「作戦会議は後回しだな、まずはあいつらを「すいません!」…あん?」
戦闘態勢に入ろうとしていたクーフーリンだが、呼び止める声に動きを止め、声の主の方を見る。釣られて彼の視線先に目をやると、そこには葉が立っていた。
「ここは私に任せてもらえませんか?」
その言葉に、驕りや油断は感じられなかった。ガイコツは数だけならこちらの戦力より多いけど、英霊なら大して苦戦もしない相手だ。任せる事に不安はないけど、いきなりそんな事を言い出す理由が気になった。
「召喚されてから今まで、一度も戦ってないせいで、私の能力を見せられてないんです。これから決戦なのに、何が出来るかちゃんと分からないのは困りそうだなって」
返ってきた返事に、そういえばそうだと気付く。この場にいるサーヴァントの中で、戦っているところを見ていないのは葉だけだ。スキルは見られるけど、実際にどう戦うのかはそれだけでは分からない。
マシュに盾術とか殴打術なんてスキルは無いし、クーフーリンはルーン魔術のスキルがあるけど、主に炎を使って戦うのは実戦を見ていないと分からなかったと思う。
でも、俺一人の判断で決めていいものでも無い。そう思ったけど、皆も異論はないらしく、特に葉を止めたりはしなかった。クーフーリンなんかはいいぞやれと囃し立ててるし。
「ちょっとでも危ないと思ったら、すぐに助けに入るからね?」
「はい。それじゃ、行ってきます!」
ロマンが示す方向に歩いていく葉の背中を見送る。一応忠告はしたけど、別に問題はないだろう。さっきも言った通り、ガイコツは雑魚なのだ。戦えないくらい非力だったら止めただろうけど、補助寄りの能力とはいえ、葉もしっかり戦えるサーヴァントのはずだ。
……いや、炎にビビってたのを思い出すと少し不安だな……と、とにかく葉を信じよう、うん。
話してる間に、ガイコツの群れははっきり目視出来る距離まで近づいてきていた。手にはボロボロの槍や剣や弓を持っている。あっちも俺達を視認したようで、手に持っている武器を振り回してカタカタと音を立てながら不格好に走り出してきた。
「えい!」
葉は、武器らしい色鮮やかな扇子を構えると、突き上げるように扇子を一体のガイコツに向けて振るった。すると、その動作に呼応するようにガイコツの足元が隆起した。
ひび割れたコンクリートを突き抜けて出てきたのは、大きな土の塊だった。先端が鋭く尖っている土塊に足元から押し上げられたガイコツは、何の反応も出来ずに頭蓋ごと大半の骨を砕かれた。
「【葉符】虫食い紅葉!」
今度は、懐からカードを取り出し、技名を宣言するように叫んだ。直後、手に持っていたカードが鈍く発光する。それを認める事なくガイコツを指すように扇子を向けると、コンクリートの隙間から現れた茨が、二体のガイコツを拘束する。
脱出しようともがくガイコツの頭に、虫食いで欠けた葉っぱが命中した。葉っぱは見た目とは裏腹に強力だったようで、頭蓋骨に刺さるどころか跡形も無く砕いていた。脳を失っても司令塔の役割を果たしていた頭を失った二体のガイコツは、首から地面に倒れ伏し、二度と起き上がらなかった。
ここで、ようやくガイコツが攻撃をする。先に倒したガイコツの影にいた弓持ちが矢をつがえ、葉に向けて放った。弓持ちの攻撃は狙いが雑で、大体は明後日の方向に飛んでいくのだが、今回は珍しく真っ直ぐと葉の方に矢が飛んでいった。それを見て、思わず危ないと叫びそうになったが、矢が飛んでからではあまりにも遅い。それに、どの道忠告は不要だった。
いきなり飛んできた攻撃にも葉は動じず、半歩右に動いて見せる事で矢を回避した。的を失った矢はコンクリートにぶつかり、石の鏃がコツンと寂しい音を立てた。
「【月花符】向日葵!」
回避の直後に、葉はさっきとは違うカードを取り出した。叫びと共にカードが鈍く光ると、弓持ちの足元と頭上が輝き、その輝きの中から光の柱が放たれた。光の柱の奔流にガイコツは呑み込まれ、光が消えた時にはチリしか残っていなかった。
「……強い」
あっという間にガイコツを倒して、残るはもう一体だけだ。苦戦も何も無く、終始一方的に圧倒している。
技名らしきものを叫んでいるのは、スペルカードというものだろう。スペルカードについての説明は無かったが、立香にはスペルカードを構える葉の姿が、頭の中で杖を構えるクーフーリンの姿と重なって見えた。葉にとって、スペルカードが杖なんだろう。何となく、そう思わされた。
「【葉符】深緑の温もり!」
葉は油断なく、最後の一体に向けて三枚目のスペルカードを使用した。今までに使用したスペルカードとは違った効果を見せるようで、ガイコツを陽光のような暖かな光が包んだ。その結果、ガイコツは砕けず傷も付かず、むしろ所々に付いていた細かな傷が綺麗さっぱりと消え去り、動きが少し良くなった気がする。
どうしたのかと葉を見てみると、葉にも想定外だったのか、驚いた顔をしているがすぐに切り替え、最初と同じようにガイコツに向けて扇子を振り上げた。動きが良くなったと言ってもサーヴァントからすれば微々たる誤差らしく、結局そのガイコツも、他と同様にその骨を砕かれた。
敵を一掃し、後続がいない事を確認した葉は警戒を解き、こちらに戻ってきた。ガイコツ相手とはいえ、何もさせないまま圧倒する実力は流石サーヴァントだと思った。でも、それ以上に気になる事がある。
「葉、気になったんだけど、最後に使った技は何?」
多分、アレは攻撃のための技じゃない。スキルにあった治癒を利用したスペルカードだと思うけど、わざわざそんなものを敵に使った理由が分からない。色々考えたけど、本人に聞くのが一番だと思い、問い掛ける。一体どんな返事が来るかと思っていたら、真相はかなりしょうもなかった。
「えっと……アンデッドは回復に弱いって、現代の知識にあったんです。あのガイコツもアンデッドに見えたから試してみたんですが、ダメでした……」
文字通り赤裸々になりながらぼそぼそと打ち明ける葉に、俺も他の皆もかける言葉が見当たらなかった。せめて慰めの言葉をかけようとしたその時、遠くから獣のような叫び声が轟いてきた。
ガイコツとは比べ物にもならない化物が近付いている。その化物がこちらに向かってきている事を察してしまい、思わず頭を抱えた。
ヘラクレスの召喚への反応
省略、活動報告に追記します。
7:様子見
ヘラクレス:中途半端な出目のせいで扱いに困る。
クーフーリン:割と強くて多彩な葉にケルト魂がちょっと疼いた。
回復には引いたけど理由を聞いてバカ笑いしかけた。
瀬笈葉:向日葵や梅、沈丁花など、ボスモードのスペカも大体使える。(原作の技が少ないせい)
ガイコツ回復事件は長々とイジられる事になる。
スペルカード:当作では杖として扱われる。
次回は8/19か23