極小説   作:矢板人

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わがままな結婚

僕はわがままだ。

 

でも、今日は、大きな決断をする。

わがままなのにプロポーズする。

相手は、こんな僕と十年も付き合ってくれた彼女。

十年も付き合って、プロポーズもしてない。

それくらい僕はわがままだ。

 

でも、浮気はした事がない。

浮気のラインをどこに設定するかは人それぞれだが、

少なくとも、僕のラインでは、それはしてない。

だから、彼女は待っててくれたのか。

結婚をせがまれた事は一度もなく、匂わされ事もなく、

僕が求めたり、匂わす事すらなかった。

彼女は、そんな自分を受け入れていると思う。

 

イケメンではない、スタイルも良くない、ファッションも並以下。

正社員だが収入は並、貯金は社会通念上の結婚資金には程遠い、

ナルではないけどマイペース、会いたい時に会ってもらってるだけ、

指輪は用意してない、プロポーズの舞台も決めてない、

決めてないという事は、旅行もホテルもレストランも、

今日プロポーズしようという日の時点で、何も予約してない。

それくらいマイペースだ。

 

そんな自分が結婚したいと思ったのは、ただの思い付き。

ふと思い出したら十年。

それから始まった1分ほどの葛藤で出した結論。

なのに、僕は彼女に結婚の条件を突きつける。

 

僕には持論がある。

 

『人は一人の時二人が恋しくなり、二人になると一人を望む』

 

わがままなのは僕だけではないと思っている。

人間みんなわがままだ。

そして、これが、人間の偽らざる真理だと僕は思っている。

 

だから、結婚しても一緒に住むつもりはない。

今、一人住まいしている家を出るつもりも、

ここに彼女を迎えるつもりも、

新しい家を求めるつもりもない。

子供が出来ても、互いの家を行き来する。

 

彼女とは一緒にいたい。

でも、ねぐらを一緒にする事とは話は別だ。

僕が望むのはそういう結婚。

たぶん、ねぐらまで一緒にしたら、彼女を嫌いになる。

それは嫌だ。彼女はずっと好きでいたい。

彼女と一緒にいる世界観と自分だけの世界観は別にしたい。

一緒にしたら、両方の世界が壊れる。

 

僕は、彼女といつもの公園で待ち合わせ、

いつもの調子で話しかけ、それから何の伏線もなくプロポーズした。

 

「昨日思ったんだけどさ…」

 

言ったあとで、さすがの僕も思った。

 

(プロポーズなのに、『昨日』とかって…)

 

しかも、心の中で僕は苦笑いしてた。

普通だったらありえないと思う。さすがの僕でもそれは解る。

でも、僕は普通じゃないし。

でも、普通じゃないって事は、

少なくとも、自分の周りの人間の中では唯一無二。

個性だし、人と同じ人生を生きてない証拠だし…

ま、今はそれはどうでもいい。

いつもの僕らしく、僕は、自分が思うままに彼女にプロポーズした。

 

「…そんな感じで結婚しない?」

 

最後まで何だか…

言い終わったあとの僕の感想。

 

話を最後まで、相づちを入れるだけで黙って聞いていた彼女。

途中、軽く笑ったりしながら、

けれども、渋い顔とか、目つきが変わるとか、

ネガティブな表情は一切見せず、

僕の話が終わったあと、彼女は笑顔で言った。

 

「いいよ。」

 

それだけだった。細かいツッコミや確認などは一切なく、

彼女は僕の話を一方的に聞いて、プロポーズを受け入れた。

僕の結婚は、さばさばと決まった。

 

よく出来た彼女だ。

いや、そういう意味ではない。

そういう意味ではないけど、やっぱり彼女は最高の女だ。

でも、そういう意味ではない。

僕は知っていた。

そうじゃなければ、彼女はプロポーズを受け入れないと。

 

彼女も僕に負けないわがままだ。

 

でも、道徳のわがままじゃない。

僕も彼女も、自分が生きたいように生きている。

生きられている。

 

だから僕らは結婚できたのだ。

 

 

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