私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

12 / 26
 ユウラン・アルシップス 冒険者レベル11 経験点134000+4480

 HP103+14 MP111

 ファイター技能レベル11 ソーサラー技能レベル10 コンジャラー技能レベル8

 フェアリーテイマー技能レベル6

 スカウト技能レベル9 レンジャー技能レベル3 セージ技能レベル5

 エンハンサー技能レベル6 アルケミスト技能レベル5 ドラゴンレゾナンス技能レベル6

 器用度29 敏捷度29 筋力29 生命力38 知力40 精神力37

 レベル取得:<<魔法拡大/数>> <<魔法拡大/すべて>> <<マルチアクション>> <<頑健>> <<足さばき>> <<魔力撃>>

 魔法取得:<<武器習熟A/各種>> <<防具習熟A/非金属>> <<防具習熟A/金属>> <<防具習熟A/盾>> <<回避行動Ⅰ>> <<ターゲティング>> <<両手利き>> <<ブロッキング>> <<魔法収束>> <<鷹の目>> <<魔法制御>> <<MP軽減/各種>>

 脱法取得:<<必殺攻撃Ⅱ>> <<牽制攻撃Ⅱ>> <<全力攻撃Ⅱ>>


第五話「炎の断頭台」

 

 シムロンでできる仕事は無かったので、その日は部屋で【フライ】の魔法を使い時速50kmでアクマハンへ飛行する。街の中で空に飛びあがるのは法律的に問題があるのだが、地上を這っていれば問題は多分無い。

 

 大きな都市なのでアクマハンと違って門扉は開放されているし、地上を全力ダッシュして止められたことも無い。

 

 街に出てからは遮るもののない快適な空の旅。

 

 先日、略奪したお金を含めて12万Rほど支払い、ドラグニカの最強装備"逆鱗の面頬"をゲットしたので、MP問題が解決したのだ。これは竜化中に装備していれば10秒ごとにHPとMPを5点回復する代物なので、時間があれば眠らずともMPがモリモリ回復していく経済的にもやさしい装備なのだ。

 

 ともかく、空を飛んで直線で移動できるため、シムロンからアクマハンまでは1時間ちょっとで到着する――のだが、いつもと様子が違う。

 

 空から見下ろしたアクマハン周辺の景色は、いつもより激しい戦いの痕跡が色濃く残っている。3つの砦のうち、監視砦と守護者の砦から黒煙が細々と伸びあがっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 門前に着陸しようとすると、門の上から門番が慌てた様子で話しかけてきた。

 

「お前か!! いい時に来た! 扉は開けられんから、さっさと中に入って宿の親父にでも話を聞いてくるといい!」

「え? あぁ、はいはい」

 

 市内に着陸して、手を振って見送られながら"黒の戦士亭"を目指す。

 

 アクマハンでは資材を持ったドワーフや武装した男に神官たちが忙しなく行き交い、混乱する人々の声もよく聞こえてくる。

 

 "黒の戦士亭"に到着したのは時刻にして7時20分ほど。店内は混んでいるかと思いきや、既に多くの冒険者が出払っていた。

 

「店主、今日は朝から楽しそうですね」

「やっと来たか不良娘。俺たちゃ深夜から大騒ぎだ」

「で、どんな状況なんです?」

「ああ、ケルケスキャトルの奴が直々に攻めて来やがった。250の軍で守護者の砦を、監視砦の方は200を別の将が率いて墜としやがった。朝になってから動きは止まったがよ、兵士も戦士も合わせて82人が戦死した」

 

 冥族や危険な動植物で生存圏が狭いのがこの世の常。10万人都市などほとんどない場所において80人もの戦力が失われたのは大きな痛手だ。

 

 冥族は人口≒戦士階級なので、戦える層がヒト族と比較して莫大だ。彼らの性質上、非常に内輪もめしやすいので、戦える数と攻めてくる数がイコールではないのが救いか。

 

「幾らか減っていても、総勢400以上ですか。敵についてわかっていることは?」

 

「守護者の砦を墜としたのがケルケスキャトル、監視砦を墜としたのが配下のバジリスク、"幽明眼"のクオリスメナスだ。偵察は出しているが、帰ってこない。向こうの斥候に排除されてるらしい」

「……詳しいですね」

「何年戦ってると思ってやがる。で、お前さんの腕を見込んで上から直々に依頼が来てる」

 

「あれ、私そんな目立つことしましたっけ」

「単身で小部隊をいくつも排除していただろ。ったく」

 

 「斥候の依頼だ」と放り出されて、依頼者であるアクマハン総司令部の下へ。詳しい依頼内容を聞くためだ。

 

 町の中心に立った塔を訪れ、司令付きの秘書に案内され会議室へ。

 

 そこにはたっぷりとひげを蓄え、右目を眼帯で覆った男のドワーフが待ち構えていた。他にも武官らしきドワーフやリザードマンが数人、私を鋭い眼光でねめつける。

 

 眼帯のドワーフは髭に白髪が混じり始めており、年老いているにもかかわらず筋骨隆々。かつては凄腕の戦士だったことが伺える。

 

「お前さんが"レッド・スイーパー"ユウランか」

「はい、私がユウランです……何ですかそのトンチキな名前は」

「わしはアクマハンの部隊を統括する長、ヴァンダルだ。早速だが、お前さんの腕を見込んで依頼をしたい」

「何でしょうか」

「概要は聞いていると思うが、斥候だ。今の状況を軽く説明するとだな……」

 

 と、ヴァンダルたちは机に広げられた地図で簡単に状況説明をしてくれる。

 

 内容をかいつまむと以下のようになる。

 

1,昨夜占領されたのは西北西にある"監視砦"と南南東にある"守護者の砦"、失われたと思しき戦闘要員は82人。

 

2,孤立した"死にたがり"の砦とは狼煙や手旗信号で連絡しているが、戦闘要員58名の脱出はほぼほぼ無理筋である。

 

3,救出に向かいたいが、敵情を探ろうにもこちらの斥候が排除されている。

 

4,依頼としては、監視砦の調査。難しければ敵斥候の排除。

 

5,基本報酬は9000Rで、追加は情報による。

 

「シムロンに救援依頼は?」

「ここが墜ちるようならやるが、そうでもないなら我々で打ち砕く。孤立した味方を含めれば260もの大部隊になるのだ、各個撃破してみせよう」

「……まぁ、スタンスは分かりました。では、行って来ましょう」

 

 念のため、敵将の情報を聞いておいて――見抜いた。"幽明眼"のクオリスメナスは硝子のバジリスク(レベル11)だ。"炎魔眼"ケルケスキャトルはルビーバジリスク(レベル14)で、経験点のなんとうま()そうなことか。

 

 バジリスクは鉱石を冠する称号を名前の頭に付けており、その名の通り邪眼で睨みつけた相手を石に変えてしまう。人型形態とレベルが1高いコモドドラゴン似の形態に変化する事が可能であり、コモド変身後は高い戦闘能力を誇る。あと巨体になって経験点も増える。

 

 そんな強敵相手に援軍要請を出し渋るとは、こちらも渋い顔にならざるをえないが、私が何を喚いても彼らの矜持は曲がらないだろう。

 

 手持ちの通話のピアスを渡して、さっさと斥候に出る。

 

 監視砦は少し小高い丘にあるので、無策で近づけばぞろぞろと砦から飛び出してきた冥族が襲い掛かってくるだろう。

 

 ……別にいいのでは?

 

 私並の戦力はそうそう出てこない。大抵の敵は雑魚なので、出てきたやつを倒せば敵の戦力も分かるし一石二鳥だ。

 

 敵の斥候が釣れたらなおヨシ。

 

 時速33キロ近くで爆走できる私にかかれば、監視砦まではものの12分程度だ。

 

 ちょっと草原を爆走してやると、黒い影が4つ。ものの見事に釣れた。

 

『何奴! 味方の速度ではないな!』

「何言ってんのか分かんねえよ!!」

 

 敵はシャットマンのニンジャだ!

 

 暗殺者とも言う。10レベルもあって、並の冒険者なら手も足も出ない連中である。

 

 彼我の距離は30mで、2体2体で固まっているので、殺し切れるのは半分だけだろう。

 

 先手を取っていつもの如くブレスと【ファイアボール】の2連射。2体ともお亡くなりだ。

 

 一瞬で消し炭になった同族を見たシャットマンニンジャだったが、やはりプルートゥス(冥族)は破壊を是とする種族。味方の死も恐れずに突っ込んでくる。

 

 質のいい武器を使って連続攻撃を仕掛けてくるが、当たらなければどうという事も無い。レベル10程度の冥族では私に触れる事すら叶わない。

 

 反撃の炎で追い詰められた彼らは逃げても【ファイアボール】で簡単に始末されることを理解し、死地だと悟って一矢報いるための反撃を――まぁ無駄だったんですけど。

 

 馬鹿にならない金額になるので、40分かけて悠々と剥ぎ取りをする。竜片12個と8000R分の武器だ、やったー!

 

 草原が少々焦げたが、別にわざわざ冥族が出てきたりはしなかった。

 

 追加のニンジャも来ないので、堂々と砦に接近する。

 

 監視砦は高さ7mほどの城壁に囲まれている塔で、城壁も塔も壁が所々壊されている。

 

 私が城壁に近づくなりゴブリンやらマシナルエイプやらが弓や石や銃でバカスカ狙ってくるものの、達成値的に全くあたら――あいた、一発当たったがノーダメージ。ここにいた兵士が使っていたであろう大砲もあったが、使えないのか使えなくなったのか、こちらに向けられることは無かった。

 

 【ミサイルプロテクション】の魔法が掛かっているので、射撃攻撃は50%の確率で絶対に回避できるようになっているんだけど。まぁ、経験点がもらえるので、当たったのは逆に運がいい。

 

 射的の的になるつもりは無いので、さっさと攻める。

 

 射程25mの壁を貫く(・・・・)ブレスが、城壁の上の冥族をこんがりと焼いていく。カンカンカンと敵の襲来を告げる鐘が鳴り、砦全体が慌ただしくなる。

 

 ああ、別に壁が消えてなくなったわけではありません。火竜系と水竜系のドラグニカはブレスが射撃ではなく、射程内の全てを焼く攻撃なので、壁などの遮蔽物に遮られないだけです。

 

 物理法則? あぁんねぇよそんなもん!

 

 13体ほど火を噴きながら倒していると門が開いて中から冥族がわらわらと飛び出してくる。気炎を上げながらぶっ殺してやると息巻いて――あ、これ戦闘中なので竜回帰(レゾナンス)は高いレベルの物を使えますし竜闘気も溜まってるんですよね。

 

 というわけで、21体の冥族が釣れた。将ではない一般的なバジリスク――ゼルド・ノーブルと同じように人間形態で眼帯をしている――やいつぞやの時は苦戦したダークオーガ、ミノタウロスにトロールにと沢山やって来ている。

 

 密集して。

 

 カモが葱背負(しょ)ってやって来たようなものだ。

 

 【竜闘気:闇竜の脅威】で純エネルギーのブレス、炎のブレス、【ファイアボール】を放って全滅だ。攻撃されるどころか何もさせずに勝利。

 

 この手に限る(これしかしていません)。

 

 私相手に格下が生き残ろうとするなら、ブレスか魔法への抵抗と120を越す高いHPが必要不可欠になる。同格でも90近くは必要になるし、格上ならそもそも私は相手をしない。うーんこのクソゲー。こちらが使えない永続バフを盛った範囲攻撃持ちとか、普通に相手したくありません。

 

 で、流石に拠点の前で剥ぎ取る気はないので、木製部分が燻っている門扉をくぐり、お邪魔させていただく。

 

 冥族に逃げられると厄介なので、城門は閉めておこうかとも思ったが、騒ぎを聞きつけた第2陣の登場だ。

 

 塔の入り口からわらわらと虫のように冥族が飛び出し、城壁の中から、塔の裏側からも続々とやってくる。

 

 その数40体、軍勢の1/5である!

 

 ……釣れ過ぎでは?

 

 とはいえ、大半がコボルト(10体)ゴブリン(13体)シャットマン(6体)のようなゴミカスである。540点の無料配布美味しいです、と思わずニッコリ。

 

 しかし、強敵は居るもので、5メートルはあるかという巨体の持ち主、オーガバーサーカー(レベル11)3体のエントリーだ! 体がでかすぎて塔に入らなかったのだろう。

 

 更に、私に向かって冥族が殺到してきた隙をついて、またもやシャットマンのニンジャが暗殺すべく背後からアンブッシュ。

 

(……まとめて排除はできませんが、別に攻撃効きませんし、打点の高いオーガバーサーカーにだけ気を遣えばいいでしょう)

 

 たまたま範囲外に居た雑魚を除いたほとんどが焼け死に、大物もほとんど死に掛け。

 

 ニンジャによる背後からの攻撃は偶然1発当たってしまったがノーダメージで、ほとんど舞うように回避。味方ごと殺す勢いで斬りかかってきたバーサーカーの巨大剣による乱舞でさえ、金属鎧の重さを感じさせない軽やかな動きでひらりひらりと避ける。

 

 あとは焼肉、追加で1020点ゴチになります。

 

 これで82体の冥族を始末したわけだが、これで2940点である。

 

 …………。

 

 これは偵察だから。ちょっと威力偵察をしてくるだけだから。

 

 軍隊としてはありえない独断専行になるが、そもそも実力主義の冒険者ですし、ちょっと小突いたら全滅する程度の軍勢なら外に出られる前に建物という閉所でまとめて倒した方がお得。

 

 そういうわけで、門を力づくで閉め、気配を頼りに小粒の冥族を焼きながら、まずは城壁内部を掃除する。

 

 とはいえ、私の探索能力を上回って隠密できるような冥族はおらず、10体350点の獲得だ。

 

 物資やベッドが幾らか血濡れて燃えてしまったが……ここを取り戻すためのヒト族の血を考えれば安い方だろう。

 

 城壁から出ると、待ち構えていた冥族との戦闘になった。親玉はまだ出てきていないようで、どいつも小粒だったので焼いて終了。27体で430点。

 

 時間がもったいないのでスーパーオートローバー君に死体の剥ぎ取りをさせながら塔へ突入。

 

 塔とは言っても6階建てで、1階あたりが並の建物よりも広く、もともと40人近くが住んでいた場所だ。そんな所に冥族を150体近く押し込めば大渋滞するのは当たり前で、押し寄せる冥族と1階で戦っていたが、特筆すべき戦力は居なかった。

 

 強い冥族は押しなべて巨体であったりするので、オーガバーサーカーのような戦力は外であらかた倒してしまったのだろう。

 

 引火するようなものがない1階の室内で、殺到する冥族を燃やして燃やして燃やして燃やす。石造りの室内はサウナよりも強く熱せられ、呼吸するだけで肺が焼ける程の熱気がこもっていた。積み上げられた死体が焦げ、炭になり、蒸発した汗や血液がむせ返るほどに充満する。

 

 積み上がった死体がドロドロの液体になって他の部屋や外に流れ、泡の弾けるような音がプツプツと響くのみで、すっかり塔は静まり返ってしまった。先ほどまでは私以外の怒声と悲鳴で溢れかえっていたというのに。

 

 冥族の波濤も止まったようで、階段の上からこっそりと覗き込んできたゴブリンもいたが、私と目が合うなりサッと引いてしまった。

 

 78体、2570点分を処分した。情報が正しければ敵は残り53体ほどであるが、入念にバフを積んだ敵将とやり合うのは流石に勘弁願いたい。

 

 しかし、"幽明眼"のクオリスメナスはどれだけ暴れても降りてこないようで、傲慢なのか頭が足りないのか待ち構えているのかは分からない。

 

 …………私にいい考えがある。

 

 塔の外に出て、扉を【ハードロック】の呪文で封鎖する。これで扉は破壊できなくなったので、壁を壊したり効果を消さない限り脱出不可能な牢獄の完成だ。崩落している壁もあるけど……まぁ誤差だ。

 

 それから、【マナ・アブソーブ】で魔法無限化の準備を整え、塔に向かって片っ端から【シースルー】。これによって、指定したポイントを中心に半径6mの空間を透かして見れるようになった。

 

 これで私だけが塔の大部分を透かして見ることができる。

 

 塔の正面半分は完全に透けて見えるようになり――目標が居た。

 

 "幽明眼"のクオリスメナスだ。他にも取り巻きのサキュバスが2体と、オーガの神官が3体、彼と同じ階層で泰然と待ち構えていた。正面から挑んでいたら苦戦はしただろうが、最終的には勝てただろう。

 

 したっぱらしき冥族が何やら報告しているものの、怒鳴りつけて追い返している。

 

 塔一階の入り口の扉の前では数体の冥族が固まってアレコレと調べているが、脱出はできそうにない。

 

 ここまでくれば分かりますね?

 

 効果時間、射程、対象の数を増やして確実化(2回振る)した【スリープ】で眠らせる。

 

 そして全員寝た。

 

 塔の奥まった場所にいる冥族もいるので、打ち漏らしは多々あるが、さして問題ではない。

 

 皆殺しだ。

 

 焼いたり止めを刺したりして最上階へ上がり、"幽明眼"のクオリスメナス以外の息の根を止める。

 

 このバジリスクには、是非とも形態変化してもらい、部位数を増やして経験点を増やしてもらわなければならない。貴重品がないか部屋を一通り探した後、起こさないように外へ連れ出して、地べたに寝かせる。

 

 そして【ブリンク】や【タング】を掛けてから、炎のブレスで叩き起こす。

 

《グァア!? なっ、何だ!?》

《いい目覚めですね。自慢の部下は皆殺しにしましたよ》

 

 クオリスメナスは両目を覆う眼帯を頭に巻き、体をすっぽりと覆うローブに身を包んだ男の姿をしていた。こうして見るとヒトそっくりで、《烙印》が無ければヒトの街に居ても違和感は少ないだろう。

 

 で、その彼は戸惑いながらも状況把握に努めており、私の言葉に気を取られて周囲を見渡し、部下が全滅していることに気付いた。

 

《きっ、貴様ァー!》

《さっさと変身したらどうです? もしかしたら勝てるかもしれませんよ》

《グッ……ググッググ!》

 

 プルプル震えて血管が千切れているくらいに顔色が赤くなったかと思うと、破裂した。

 

《血祭りにあげてやるわッ!!》

 

 クオリスメナスは自身の姿を巨大なトカゲの姿に変身させると、鋭い牙の並んだ大顎を開けて高らかに咆哮した。体高は2,3メートルはある巨体だ。白みがかった鱗に太陽が反射して少し眩しい。顔はトカゲにそっくりだが、どことなく魚に似てなくもない。

 

 や  っ  た  ぜ。

 

 ブレスと【ファイアボール】でこんがり焼いてやると、この世の終わりのような絶叫をあげてクオリスメナスが悶え苦しむ。炎弱点だもんね。

 

 先制を取ったので、もう1セット。

 

 自慢の邪眼は沸騰して白く濁り、全身にすさまじい大火傷を負って地面をのたうち回る。苦痛に喘いだのも束の間、【エネルギー・ジャベリン】と巨体による攻撃を繰り出してきたが、魔法は抵抗して物理は避けた。

 

 一通り暴れたものの、既に虫の息だったので最後のブレスを噴いて介錯。肺すら焦げ付き、辞世の句すら読めなかっただろう。

 

 倒した証拠に首を切り取って、監視砦を去る。

 

 外に出ると新鮮な空気が肺一杯に流れ込んできて気持ちがいい。太陽も高く登っており、今が戦争中でなければ丘の上で寝転がっていただろう。

 

 時間はもう11時を回っているので、アクマハンに帰ったらご飯にしよう。

 

(というか、大物は剥ぎ取ったので、滞在時間3時間半のうち90分は戦っていた計算になりますね)

 

 倒した冥族は230体、経験点は5680点、竜片63個と非常にコスパがいい。

 

 とはいえ、一刻を争う状況であることに変わりはない。情報を手に入れたことを通話のピアスで連絡すると、戸惑いの声が返ってきた。

 

「……? なんだ? もう一回言ってくれ、この道具調子が悪いみたいだ」

「監視砦に生きた冥族はいません。敵将クオリスメナスを討ち取って全て排除しました。敵の斥候も6体は始末してます」

「250の軍勢だぞ!?」

「……でしたら、とりあえず実物を持って来ましょう。それを見て、別の者に再確認させるなりしてください」

 

 走ってアクマハンに近づくと、見張りをしていた兵士の1人が大声を上げ、門が開いていく。

 

 何人もの兵士が槍や銃を持って出迎えに来ていたので、首を掲げて大声で知らせる。

 

「敵将クオリスメナス、討ち取ったり!」

 

 兵士たちはその言葉に困惑したが、ユウランの手に吊り下げられている、焼け爛れた首と乳白色の邪眼を見てワッと歓声を上げた。

 

「幽明眼だ!」

「奴は死んだのか!?」

「なんだっていい、攻勢のチャンスだ!」

 

 兵士は大歓迎状態だったが、ヴァンダルたち上層部は困惑半分といった感じだ。

 

 首を載せる板を貰ったので、それと共に報告に向かったところ、かなり正気を疑われた。偵察の任務で冥族の掃討をやったこともそうだが、それをやり遂げたこと、あまつさえ敵の主要な将を討ち取ったことも、まともなヒトは考えもしないのだから。

 

「……間違いありません。これは幽明眼の首です」

 

 武官が断言すると、彼はうぅんと唸った。

 

「あ、そうだ。奴の懐からこんなものが出てきましたよ」

 

 忘れないうちに、奴の持っていた命令書を手渡す。

 

「う、うむ。…………これは奴らの作戦だな。陽が沈んだと同時に、砦は無視してアクマハンへ仕掛ける算段らしい」

 

 冥族らしい簡潔な内容だ。

 

 策を弄するタイプの冥族は非常に珍しいし、策略に頭を使っているとはっきり分かれば軟弱とか惰弱とか罵られる種族なので……。

 

 それからは、砦に居た230体と斥候について簡潔に話し、生存者がいないことや、馬が3頭だけ被害を免れていたことも伝える。

 

「では、ユウラン殿にはしばし休んでいただきたい。我らの方針が決まり次第、また働いていただきたく」

「分かりました。邪眼は戦利品としていただきます。それと、斥候の依頼は終わりましたので、追加報酬の方は期待させていただきますよ」

「…………うむ」

「"黒の剣士亭"にいますので、ご用の際はそちらまで」

 

 宿に戻ってこびりついた血やら何やらを洗い落とし、ソーサラーのレベルを上げたので上位のファミリア(使い魔)を更新する。もちろん、MPが一番多い蛙――と言いたいが、MP問題は金で解決できるので、暗視能力を永続的に提供してくれる猫のファミリアを小さめに作る。

 

 ファミリアへのダメージは私へのダメージに変換されるものの、ファミリアが私に接触している限り範囲攻撃で2重のダメージ!みたいなことにはならない。

 

 蛇のファミリアを作ってピット器官!ピット器官!ヘビは温度を感知する!まるでヘビ博士だなと強引な解釈を迫りたかったが、差別化できるのは透明な敵がいる時となり、暗視と大差ない上に、私は火噴き竜なので戦闘中は役に立たない。

 

「ユウラン様よろ」

「え? ……アッハイ」

 

 と、このように上位のファミリアは自意識を持って話す。

 

 魔女の使い魔は黒猫と相場が決まっているものの、私のネッコは銀地に黒い模様のいわゆるアメショだ。

 

 名前は何にしようかなぁ、と悩んでいた所、扉がノックされた。

 

 猫にはとりあえずフードの中に入って一言も話さないように厳命しておいて、応対する。

 

「何でしょうか」

「次の依頼だとよ、お客さんが下で待ってるぜ」

 

***

 

 追加報酬で20000Rをいただき、次なる依頼は監視砦に送り込む調査チームの行き帰りを護衛して、"死にたがり"の砦で派遣戦士をやることだ。敵が攻めてきたら戦うし、命令書の通りに冥族がアクマハンへ進軍してきても戦うわけだ。

 

 護衛は死体にビックリしたり馬を連れ帰ってきて終わりだ。ニンジャが2体焼きネギトロになったが、他にはなんの障害も無かった。

 

 "死にたがり"の砦では色々と質問攻めにあったので、色々と話を聞かせる。ここの戦力は、レベル10の騎兵軍師のヒト男性が最高で、次点でレベル9,8が数人だ。どいつもこいつも顔が濃く、一廉の戦士なのだろう。

 

 夜になる直前にはアクマハンから狼煙が上がり、出撃の合図が出た。20名が守りの備えとして残り、総勢39名での出陣だ。

 

 アクマハンの城壁に取り付いた冥族の後背か側面を突く算段で、私は初撃や騎兵軍師さんの護衛、大物狩りに勤しむ予定である。二つの砦に居た仲間を皆殺しにされた上、戦士としての面子もあるので、私一人を砦に放り込んで終わりとはいかないのだそう。

 

 夜の帳が完全に下りた頃には、アクマハンに接近する冥族の隊列が見えたような気がした。

 

 いや、事実、我々は同じ目的地を目指していたのだから見えるようになるのは当然であった。

 

 城壁の扉付近や、その周囲には沢山の篝火が焚かれ、エルフやドワーフ、ホムンクルスにタイタスといった暗視能力のある種族が城壁から身を乗り出しているのが見える。

 

 また、身を隠す胸壁と胸壁の間に大砲が10門は顔を出していた。槍を持った兵士とはまた違った、制服に身を包んだ砲兵たちがキビキビと動いている。交戦はまだのようだ。

 

「あとどのくらいで突っ込むんです?」

「ん? 冥族がもう見えたか? 目と鼻の距離に」

 

 騎獣用の甲冑と鋼鉄の角を付けたウォーホースをパカパカと乗りこなしながら、騎兵軍師は軽い調子で聞き返した。

 

「いえ。まだ城壁で戦闘は始まってませんし……」

「ならまだだ。俺たちは50mの少し手前から走り出す。こいつらがバシバシ撃った後で、うぉーっと突っ込むわけだな」

 

 後ろを指さし、城壁の砲兵たちと同じような制服に身を包む長銃の使い手たちを示す。総勢10人の銃士隊は私に戦列歩兵を想起させたが、この世界(ドラグエディア)の銃の素の有効射程は最大でも60m程度なのでもっと酷い。

 

 しばらく行軍していると、篝火の影に異形が映った。禍々しい鬨の声が遅れて響き、大砲の唸り声がいちにぃ、さんと腹の底を鳴らす。

 

 7メートル越えの巨人が守護者の砦の瓦礫を両手に握って投擲し、それを狙って銃撃が集中。翼のある冥族が壁を越えて城壁に取り付けば、魔法や剣が撃退する。

 

 騎兵軍師は同じく騎乗しているホムンクルスの銃手と一言二言やり取りしてから、私に向き直った。

 

「最初の一発、何かデカイ魔法は撃てるか?」

「【ブリザード】を撃ちましょう」彼は人差し指を顔の前でクイクイと動かした。

「上出来だ、よし急ぐぞ」

 

 俺たちが着く頃にゃ夢中になって前しか見てねぇよ、と軽口を叩いていたが、篝火を遮って何かがこちらに接近してくる。

 

 ホムンクルスの銃手が停止を命令し、銃兵たちに前方を狙わせた。

 

ヒルジャイアント(レベル10)が3体ですね」

 

 巨人の中では一番小さいが、これまた5メートルはある。夜闇が遮蔽にならない冥族だ、当然我々に気付いて予備兵力―――予備と呼んでいい矮小さではないが――を差し向けてきた。私以外がやり合えば、勝ちはするだろうが結構死ぬだろう。

 

 【ライト】で照らされた騎兵軍師の顔も一瞬だけ皺が寄っていた。

 

「構えッ!」

 

 右の拳を振り上げると、銃士隊は跪いて銃口を並べ、他の兵士や戦士は得物を構えて突撃の態勢を整えた。

 

 遠くで砲火の声が木霊する中、小さな地響きが少しずつ、少しずつ迫ってくる。

 

「2体受け持ちましょう、引き付けてください」

「……できるのか?」

「私めっちゃタフですから」

 

 ズシン、ズシンと鳴る足音が間近に迫った時、ユウランの頭の中で賽が振られ、騎兵軍師の号令が下る。

 

「狙え――――」

 

 刹那、飛び出す赤い小竜。

 

 間近に迫ったヒルジャイアントの1体に向かって凄まじい業火と炎の玉を撃ち、あっという間に消し炭にしてみせた。

 

「――――」

「掛かってこいッ! 小物に勝てない図体だけの脳無しが!」

「――撃てぇぇええええ!!」

 

 その巨体に弾丸を受けたヒルジャイアントは、一拍遅れて痛みに呻き、味方が死んで食える肉が増えたことを内心悦びながらも、一番近くてうるさい柔らか肉を標的にした。

 

 巨体を活かした蹴りとその手の棍棒、10歳の子供が耐えられるはずもない暴力に騎兵軍師は己の選択を一瞬後悔した。

 

 が、蝶と戯れるようにひらりと避け、傷一つ負わない。すかさず戦士たちが乱戦に加わり巨人に得物を突き立てていく。

 

 私も制御された火球を放ち、味方だけを巻き込まずヒルジャイアントの全身を焼く。こちらを狙った蹴りや武器は空振り、もう一体の巨人は兵士を二人吹っ飛ばしていた。

 

 だが、そこが限界地点だった。火球と弾丸に呑まれた巨人は倒れ伏し、戦士たちに斬り伏せられ、予備戦力は撃破される。

 

 吹っ飛ばされた者たちも戻り、敵までの道は開けた。

 

「後はどうするんです?」

「計画変更。こっちに構うな、突っ込め!」

 

 意外にもお許しが出たので、全速力で城門前に。弓や石で壁上の兵士を狙う冥族を尻目に、破城槌やら巨人やらに向かってブレスと火球をお見舞いしてやる。

 

 すると、消し炭になった破城槌の周りで8体くらいが転がっている。これでしばらくは扉を破られることも無い。

 

 こちらに耳目が集まったものの、次の狙いは魔法を使っている連中だ。

 

 そこまで広い戦場でもないので、一気に移動するのではなく炎をまき散らしながら進む。草刈りのように雑魚の命を刈り取ることで、経験点が次々と入ってくる。

 

 これを阻止しに来た腕自慢の冥族は軒並み焼かれ、魔法で城壁の兵士を狙っていた顔なしども3体を焼き焦がす。湿地帯が近いせいか、水棲系の冥族もたびたび見かけるものの、あまり関係はない。

 

 魔法は使ったり使わなかったりでMPを高めに保ちつつ、強い敵がいる方へ向かう。40体ほど倒したところで私を避ける冥族も出始め、彼らの統制が利かなくなっているのを肌で感じる。

 

 敵陣を喰い破って滅茶苦茶にしてやることの何という快感か。

 

 このまま狩り尽くしてもよかったのだが、数が減ったのを好機とみて城門が開き、逆襲の部隊が飛び出して扉付近で戦闘を開始した。

 

 彼らから離れるように、敵陣に食い込むように進んでいくと、正面に居た冥族が道を開けるように左右にずれた。空いた場所から泰然と歩み寄ってくるのは赤髪の目隠し男――炎魔眼のケルケスキャトルとその配下たちだ。

 

《……小癪なコバエめ、いい気になって私を不快にさせるとはな》

《トカゲは竜のエサと相場が決まってるんですよ》

《最期に絞った知恵がそれか? 私を前にひれ伏さぬ愚行の罰、その身をもって味わうがいい》

 

 幽明眼を倒す時に喋れるようにしたバジリスク語で煽るも、冥族の支配者らしい振る舞いで流された。

 

 彼が見下すような目つきのまま顎で合図をすると、オーガウォーロード(レベル13)が私の10m先に立ち、サキュバスと2足歩行の樹木・ウォークツリーオールドが2体ずつ炎魔眼を囲うように立つ。

 

 ……ところで、戦闘の開始はいつごろかご存じだろうか。「ドラゴンソード」はTRPGで、言うまでもなく人間が管理する遊びであるため、1回の戦闘というものは区切られている。今いるような大きな戦場でさえ――数百のNPCの管理は不可能なので――必要でない戦闘はカットされ、戦闘は何度も仕切り直されるのが通常だ。

 

 当たり前だが、リアル的な運用を想定していないわけだ。

 

 なので、私は戦闘が一続きであるとみなし、先制判定や魔物知識判定を戦場へ突撃した時に一括で済ませ、竜闘気を貯め続けていた。

 

(どいつもこいつも強化されていますね。財宝用のポイントでも強化されている敵とか初めて見ますけど、これって使えるんですかね?)

 

 そんな疑問を抱きつつ、炎魔眼が持つ財宝ポイントの自動反撃能力の射程外に出て、後衛のサキュバス中心に炎と純エネルギーのブレスに加え、6倍拡大【スロウ】をごちそうしてやる。【スロウ】は1/3の確率で行動ができなくなり、移動速度も遅くなる劇強魔法だ。サキュバスの一体には抵抗されたものの、他には掛かったのでアドバンテージだ。

 

 そこで、敵からも魔法のお返しが来た。

 

「【バインドオペレーション】」行動を束縛する呪文だ――TRPGではよく遺失魔法扱いになる。抵抗はできたが、行動にペナルティが入る。

「【フィールド・プロテクションⅡ】」ダメージ軽減。

「我らの同胞を燃やした報いだ! 【ファイアストーム】!!」雑魚魔力だったので無傷。

「【ファイアプロテクター】!」……一瞬だけ炎ダメージ無効、厄介な。

「【エネルギージャベリン】」【ミサイルプロテクション】で回避だ。

 

《チンケな火吹き蝿め、思い知れ――【ライトニング・バインド】》

 

「あー……不味いですね」

 

 行動にペナルティかつダメージ。魔法やブレスのダメージ期待値が下げられ、相手の行動が通りやすくなってしまう。

 

 突っ込んでおいてアレだが、HP100越えの敵を真正面から倒すには時期が早かったか。

 

 しかし、この危険な魔法の撃ち合いに割って入ろうなどという者は人冥問わずいない。

 

 私はたった一人で立ち向かわなければならない――が、冥族の辞書に連携という言葉はあんまり載ってない。こちらに集中砲火した死に掛けのサキュバスは自分だけを回復するし、全員に掛ければMPを大量に消費する【ファイアプロテクター】も2度目は無かった。

 

 合理的であることと利己的であることは、しばしば反発しあう。それは密猟をしたユウランもよく分かっていた。

 

 その拙い連携の間隙に、厄介な魔法使いであるサキュバスを1体焼き殺したのも束の間、激しい魔法の冷気に耐え【ライトニングバインド】による雷の戒めに囚われた私の前にオーガウォーロードが立ちはだかる。

 

 気の抜けることを言うが、こいつは【スロウ】のせいで数十秒間モタモタと歩いてやって来ていた。

 

『将の前に一人で乗り込んでくるとは、命知らずめ!』

『すっとろい動きで何をほざく!』

 

 【スロウ】のせいでまともに剣を振れないオーガウォーロードを尻目に、ブレスと【エネルギージャベリン】でもう一体のサキュバスを撃破。脅威となるスペルユーザーは排除できたが、依然として危機的状況であることに変わりはない。

 

 電撃に苛まれ、体力も残り1/3と少なくなってきた。

 

《ボロクズが、死ねいッ! 【シャイニング・スポット】!》

 

 眩い光の魔力が私の身体を貫き、ウォークツリーオールドの放つ冷気が体力を削っていく。

 

 だが、運は味方した。

 

 オーガウォーロードはまたもや魔法に囚われ、攻撃を阻害される。魔法も剣も使える冥族なので、剣を避けることができても魔法で着実にダメージが積み重なる以上、一人でも動かない方がいい。

 

(……そろそろ耐久しないと不味いですね。【エクステンドヒーリング】)

 

 新たな竜回帰(レゾナンス)、【荘厳なる光輝Ⅱ・燐光】で体力を5回復しながら、妖精魔法でも回復を重ねる。これで回復量は32、117ものHPを持つ私にとって竜回帰(レゾナンス)の回復量は微々たるものだが、今は炎属性の強化よりも生存への積み重ねが重要なのだ。

 

 体力の1/4を一気に回復し、敵も削る。敵の攻撃を耐え忍べば、逆転のチャンスはやって来る。

 

 激しい魔法の雨に撃たれながら、一歩も動かずに炎と純エネルギーのブレスを撃ち返す。戦場は炎と冷気と魔力が行き交う危険地帯となり、血と汗と命が散る。雑兵には立ち入ることすら許されないレベルの激しい破壊の嵐に、戦場であってもなお人目を引いた。

 

 まぁ、雑魚でも魔法を撃たれるとダメージが重なるので危ないんですけど、"賢い"冥族は目の前の城の相手で忙しい。プルートゥスの本懐が破壊で、ヒト族のような創造性に欠けていたとしても、戦争は権力闘争の手段でしかないのだ。わざわざ獲物をかっさらって自身の将に糾弾される余地は作るまい。

 

「いい加減に、くたばれッ!!」

 

 6度目のブレスともなれば、チクチクと魔法を撃ってきた遠くのウォークツリーオールドが倒れ、目の前で木の腕を振り回すもう一体とオーガウォーロードが巻き込まれて絶叫する。

 

 【スロウ】によって思うように動けないがために燻っていたオーガウォーロードだったが、ついに見違えるほどの俊敏さで動き、移動ができない私に本来の実力の――決死の一撃を振るう。

 

『ぜぇああああ!』

「当たるかぁッ!」

 

 紙一重の回避。金属鎧を着て魔法の雷に攻められているとは思えない柔軟さで身を捻ると、その数センチ先を鋭い剣先が通り抜ける。

 

 まさに薄氷の戦い。【ライトニングバインド】の継続ダメージがある限り体力は10ちょっとしか回復できない上、一撃でも追加の攻撃を喰らえばその均衡が崩れ、あっという間に私は死ぬ。

 

《クハハハハハハハ!! 踊れ踊れ! 踊って無様に死ね!》

(……あいつ、とうとうMP切れましたね)

 

 ケルケスキャトルの放つ魔法の閃光がユウランを貫くも、溢れる精神力で跳ね除ける。敵も威勢はいいが、攻撃能力は限界に達している。最も厄介な敵将が考えなしに魔法を放ってくれたおかげで余計な心配をせずに済む。

 

『しぶといッ! 【エネルギージャベリン】!』

『森の同胞の仇ィ!』

「効くかよッ! 甘い!」

 

 マナの槍でのけぞったユウランに、オーガウォーロードとウォークツリーオールドが必死に腕を振るが、やはり小さな身体を捉え切れない。

 

《何をしている! さっさと始末しろ!》

 

 魔法を撃てなくなったケルケスキャトルの真紅の邪眼が光り、小さな爆発が間近で起こる。が、効かない。火竜の血を引くが故に、半端な炎では傷つけられない。

 

「……この程度ですか」

《クッ……使えない手下どもめ》

 

 私が噴いた純エネルギーのブレスを鬱陶しそうに跳ね除けながら、ケルケスキャトルは避けていた変身を考慮に入れ始めているようだ。強大になるが知性の衰える変身、それを彼らは好まないが故に、拮抗していた天秤は彼女こちらの方へ傾き始めている。

 

「4体目――とどめだッ!」

『グゥァアアアアア!!』

 

 炎に焼かれ生気を奪われたオーガウォーロードは、とうとうその巨体を地に臥した。

 

 ウォークツリーオールドも頭に上った血が引いていったのか、流石に不利を悟り、戦いは継続するが背後を振り返ってケルケスキャトルを見た。

 

《…………使えん、使えん愚図どもめ》

《お前もその一人だ、すぐに地獄へ送ってやる》

《この私がッ……この"炎魔眼"ケルケスキャトルが、お、追い詰められて2度も変化せざるを得ないだと……!?》

 

 一廉の将は私に蹴散らされ、雑兵も草を刈るように始末された。戦場では大砲の間隔が長くなり、下級の冥族は逃げ出すものがちらほらと。手柄を上げたいレベル6~7程度の冥族が声を張り上げて繋ぎ止めているが、私による大物狩りはアクマハン側の士気を著しく高めていた。

 

 数十年は続いてきた戦乱の一つが、一大勢力を築き上げた将の一人が、いま、崩れ落ちようとしている。

 

《お前が無様に逃げても、戦略的にはこっちの勝ちです》

 

 こういうのは言ったもん勝ちだ。ねぇ今どんな気持ち?

 

《ほら、さっさとお逃げ。どうせ腰抜けに部下はできないだろうし》

《……この、この私がッ! こんなところで負けるはずがないのだァァアアアア!!》

 

 口の端から泡を飛ばして剣を抜くと、達人の身のこなしで斬りかかる!

 

 しかし、反則的手法と呼吸法で回避能力が増している私には、生半可な腕では当てる事すら難しい。

 

《……小物が》

 

 【ライトニングバインド】を振りほどき、炎のブレスを2体にまとめて浴びせかける。戦いが始まって90秒、ほぼ延々と放たれ続けた炎はバジリスクに流れる毒の血液さえも蒸発させ、夜闇に輝く一筋の光となって生命を奪わんとする。

 

 ウォークツリーオールドが炎の奔流から――この戦場から離脱しようとするも判断が遅い。ケルケスキャトルのように遮二無二に立ち向かって来れば、まだ勝ち目はあったというのに。

 

 及び腰の敵が逃げる前に行く手を塞ぎ、燃やす。とうとうこの2足歩行の樹木も焼け死んだ。

 

 これで1対1、タイマンだ。

 

 数の優勢を誇り、対アクマハン戦の勝利を確信していたはずのケルケスキャトルは意を決したように立ち止まって、巨大なトカゲじみた姿へ変貌し始める。

 

 これを初手でやられるとキツかったのだが、知性の衰えた頭で【ライトニングバインド】は撃ってこなかっただろう。

 

《クッ、こ、このスガタニハ、……ガ》

「ガ?」

「グァガァアアアアア!!」

 

 体高4m以上はあるかという巨大な4足歩行のトカゲだ。目が多かったり口が広くて魚っぽかったりMPが全快したりするが、もはや誤差の範疇だ。

 

 距離をとってブレス2種と【ファイアボール】、この3種の神器でヤキを入れてやると、どの身体部位もHPは1/3から1/4ほど削れている。

 

「……数の暴力はやはり手ごわかったですね」

「ギャァアアアアス!」

 

 邪眼が光り、紅玉化と爆発の凝視によって大気が震える。

 

(あっべ、敵の自動成功ですかい!)

 

 爆発に関しては無問題であったが、内ももの一部がルビーと化し、先ほどよりも動きは精彩を欠く。数値にして1のマイナスなため、大して影響はない。

 

 驚いている隙に巨体が急接近、毒血の滴る鉤爪で乙女の柔肌を切り裂こうとするも、精彩を欠いてなお切っ先は届かない。魔法の光槍でさえ、私の心臓を穿つにはまだまだまだまだ物足りない。

 

 またしても私は巨体をすり抜けて距離を取り、3種の神器。炎を操りヒトをルビーに変えてしまう邪眼でさえ、この炎からは逃れられなかった。邪眼は光を失い、全身からは毒の血液が滴り落ちる。至近で戦えば大なり小なりダメージはあっただろう。

 

 しかし、目玉はまだある。その一つで距離をとった私を捉え、執念で追いすがってくると、足を僅かにもつれさせた私を顎で捕捉し、渾身の力で噛み砕いた。

 

 が、異様なほどに堅い、私は。使える魔法、錬金術、呼吸法、防具の使い方で物理的なエネルギーがほとんど半減されたのだ。滑るように魔導鎧を通り過ぎた牙は、魔法を撃つのとほとんど変わらないダメージを与えるだけだった。今の攻撃がよしんば続いたとして、あと5回は当てなければ倒すことはできないし、逃げ回る私に対しては魔法と物理攻撃を同時にぶつけることはできない。

 

「詰みです」

「グガッ……ギャァアアアオオオオオオオッ!!」

 

 著しく知性の衰えた頭で理解しているのだろうか、戦場に虚しく咆哮だけが響き、ケルケスキャトル率いる軍は崩壊。アクマハン軍は追撃に移行し、鬨の声と冥族の悲鳴が轟く。

 

"炎魔眼"ケルケスキャトル、討ち取ったりぃぃいいい!!」

 

 戦場に首が掲げられ、血塗られた勝利を鮮やかに彩った。

 

 兵士たちの、戦士たちの、全ての戦ってきた者たちの叫びは鳴りやむことを知らない。

 

 追撃を終えた者が縄で縛ったラミアであったり、痛めつけた冥族の首を持ち帰ってくると城門は閉ざされ、戦いが終わった。

 

 戦争に参加していた神官に紅玉化を解除してもらえたが、これからはポーション類も持ち歩くことにしよう。不運が重なれば命がいくつあっても足りない。

 

 その後も斥候であったり連絡であったりと、忙しく走り回るヒトは居たが、多くの者は汚れた身なりを清めてから娼館に繰り出していた。

 

 ぐ、ぎぎぎ……。

 

「どうしたヒーロー! 腹が減ってんなら明日まで待った方が良いぞ!」

 

 肩を落としてトボトボと帰っていると、騎兵軍師に声を掛けられた。

 

「え? いや、別にそういうわけじゃありませんが」

「そうか。ま、明日は上から呼び出しがあるだろうよ、報酬は期待しておけよな」

「はぁ……」

 

 それだけ言うと彼はさっさとどこかへ行ってしまった。

 

 どうせにゃんにゃんするんだろ羨ま死刑!

 

***

 

 起きると宴が始まっていた。

 

 どこかの在庫を放出したのか、樽一杯のエールや香ばしいソーセージが振る舞われ、街を挙げて飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。

 

 単なる戦ならこうも盛り上がることは無いが、三獄頭が墜ちたとなれば話は別。

 

 炎魔眼の支配領域を狙った血で血を洗う冥族同士の権力争いが始まり、まとまった戦力をヒト族との戦いに派遣するような余裕がなくなり、束の間の平和になるのだそう。

 

「乾杯!!」

「かんぱーい!」

 

 "黒の戦士亭"でも既に酔っ払いが出来上がっており、流れで私にも不味いビールが振る舞われたので、ジョッキで一気飲み。今世初めてのアルコールデビューだ。生命力が溢れているので、多少のアルコールでは全く酔わない。

 

 街の中は独特な乾杯の音頭を大声で歌う男だらけで、そこかしこで肩を組んで高らかに笑い合っている。

 

「そういや、ヴァンダルさんが昼の12時に顔出してほしいってよ」

「あの人が? 分かりました、頭に入れておきます。何か依頼は?」

「今日はねえよ!!」

 

 キレた店主に外へ放り出されたので、時間になるまで暇を潰すべく出店を見て回ろうとすると、早速何かを聞きつけたハーフリングの吟遊詩人がやって来た。

 

 同族ですかなどと半笑いで聞いてくるので、凄んでやれば一瞬だけ黙り、舌の根の乾かぬ内に歌を作りたいから戦いについて話して話してと纏わりついてくる。

 

 ハーフリングに興味を持たれたらもう諦めた方が良い。しょうがないので話してやると、これが意外にもまともな唄になっていた。

 

「じゃあ最後に、お姉さんの二つ名は?」

「はい? いや、そんなのそっちで決めてください。カッコいい奴でお願いしますよ」

「じゃあ"炎の断頭台"にしよう!」

「…………いや、それは何というか縁起が悪い」

「かんっせぇ~い! 早速広場で唄ってくるね!」

「あっおいこら!」

 

 追いかけて問い詰めても二つ名など咄嗟に出てくるわけもない。そんな考えが脳裏をよぎったために、ピューッと走り去っていったハーフリングの少女の背を見送ることしかできなかった。

 

 後で知った話だが、赤き竜の少女――"炎の断頭台"ユウランが、"三獄頭"が一の首を単身で切り落としたというニュースがあっという間にアクマハン中に知れ渡ることになる。

 

 そんなことは露知らず、時間を潰してから、ノコノコとヴァンダルに呼び出されてみれば、塔の中の広場には兵士や冒険者たちがすし詰めにされていた。

 

 ハーフリングやドワーフやタツビトリ(カモノハシ)が潰されないように集まっているスペースに避難していると、人ごみをかき分けて来た騎兵軍師がいたいたと迷子を見つめるような目で手招きしている。何歳だと思ってるんだ。

 

「お前はこっちだ」

「保護者かアンタは。それで、何の催しなんです?」

「聞いてないのか? 論功行賞だよ」

 

 そのまま舞台のある最前列で待たされると、ヴァンダル司令官もといヴァンダル市長が壇上にあがり、演説と褒賞の授与を行っていく。騎兵軍師も部隊を率いて云々で第何位かの賞を貰っていた。

 

 ……これは結構な大ごとだなぁ!

 

「では最後に、ユウラン・アルシップス! 前へ」

 

 期待に胸を膨らませながら壇上へ上がる。多くの耳目がこちらに向けられ、会場も水を打ったように静まり返っていた。

 

「貴君は困難な偵察任務の遂行、並びに"監視砦"の奪還における最大の功に加え、200を越す冥族を誅し、"炎魔眼"およびその副将"幽明眼"を討ち取った功績をアクマハン最大のものとして称え、報奨金150000Rと、黒炎に鍛えられしダイナペレクスを授与する」

 

 彼のハンドシグナルとともに兵士が2人がかりで持ってきたのは、恐竜を思わせる意匠が施された両刃の斧だ。柄は長く2メートルはあり、刃も肉厚で常人が振るうには重すぎる逸品だ。

 

 いや、実際振れる者が居なかったのだろう。私もデータ的に扱えないし、ダイナペレクスを扱える戦士など、余程の筋肉馬鹿かヒト族の超英雄くらいだ。

 

 とはいえ、「ドラゴンソード」最高の破壊力を誇る武器なので、ありがたく頂いておく。

 

 恭しく受け取ってから、集まっている連中に向けて両手で掲げてみせると、わっと多くの者が歓声に沸く。

 

 なんて気持ちいいんだ。5,6人で分割するような額の報酬を独り占めできるなんて。

 

(あー……昨日だけで名誉点500点も稼いだのか)

 

 首2つで250点、竜の片鱗で330点だ。一応、これまでに稼いだ分と合わせて"都市レベルの有名人"というレベルにはなるが、有名過ぎても困りものだ。次から竜の片鱗は買い取ってもらうようにしよう。

 

 そんなこんなで懐も温まったので、消耗品を補充してから【フライ】でシムロンに帰る。能力値成長は渋いが、経験点的にはかなり美味しかった。今度は森狩りでもしようかな。

 

 買い物とかちょっとした宴に時間を取られたので、いつもの深夜帰宅だ。

 

 冥族勢力の虐殺は金にも経験点にもなることが分かったので、小さな依頼をこなしつつ奴らの集落なんかを焼き討ちするのが一番か。

 

 元三獄頭の一勢力と隣接するテンシライに足を運ぶのもいいかもしれないし、冥族領域に飛んで行って手当たり次第に倒すのもいい。

 

 なんなら、行く街を増やして三角配達で経験点を稼ぐのもアリだ。

 

 このまま私単独でボコれる程度の有象無象しか湧かない世界だといいんだけどな。

 

 




**断頭台*ウラ*
これは人気キャラやなぁ!

タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?

  • ちんちんはやめろ
  • 主人公の属性押し出せ
  • そのままでいろ
  • なろうみたく長くしろ
  • 副題付けろ
  • もっと中二病にするとかさぁ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。