私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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 ユウラン・アルシップス 冒険者レベル13 経験点174000+80

 HP112+17 MP128

 ファイター技能レベル13 ソーサラー技能レベル12 コンジャラー技能レベル8

 フェアリーテイマー技能レベル6 プリースト技能レベル2

 スカウト技能レベル9 レンジャー技能レベル3 セージ技能レベル5

 エンハンサー技能レベル6 アルケミスト技能レベル6 ドラゴンレゾナンス技能レベル6

 器用度30 敏捷度30 筋力32 生命力41 知力44 精神力42

 レベル取得:<<魔法拡大/数>> <<魔法拡大/すべて>> <<マルチアクション>> <<頑健>> <<足さばき>> <<魔力撃>> <<クリティカルキャスト>>

 魔法取得:<<武器習熟A/各種>> <<防具習熟A/非金属>> <<防具習熟A/金属>> <<防具習熟A/盾>> <<回避行動Ⅰ>> <<ターゲティング>> <<両手利き>> <<ブロッキング>> <<魔法収束>> <<鷹の目>> <<魔法制御>> <<MP軽減/各種>> <<武器習熟S/各種>> <<武器の達人>> <<命中強化Ⅱ>>

 脱法取得:<<必殺攻撃Ⅱ>> <<牽制攻撃Ⅱ>> <<全力攻撃Ⅱ>> <<薙ぎ払いⅡ>>



第七話「たくさんのおともだち」

 

 その日は騒がしい夜だった。悪魔(デーモン)は嵐の夜の雨粒のように、死を人々に降り注いだ。

 

 

 

 ユウラン・アルシップスの生家で衣食住の面倒を見てもらっているアルファス・ベータ・ガァマの3人は、ホムンクルス特有の気質もあってかよく働き、アルシップス商会の良き従業員となっていた。

 

 3か月の間、ユウラン・アルシップスを仮の主と仰いで仕える。

 

 それがホムンクルスとユウランが交わした約束だった。

 

 そして、彼らは3人をほっぽりだしてどこかへ行ってしまったユウランとの約束を律儀に履行しており、3か月の間は彼女を仮の主としてみなし、アルシップス商会を手伝うことで間接的に奉仕していた。契約を履行しようにも本人が居ないのだから仕方がない。

 

 ただ、アルシップス商会側としては、娘が紹介したという色眼鏡があっても、初めの頃の扱いは短期の労働者とそう変わらない。まずは雑用や荷馬車の護衛が専らの仕事で、冒険者をやるよりは少ないが給金も出た。

 

 3人は休みの日になれば街へ出かけて、名前も知らない大昔のエルフのご主人様について調査する。あと、家族が心配していたのでユウランの居場所も。

 

 とはいえ、最近のシムロン西岸地区は何かと物騒で、誘拐や殺人がよく起こっているらしく、防衛省や一部の自警団が見回っている。シムロン西の外壁から歩いて30分と、彼女の実家は西岸地区と近い立地に建っているため、その日(・・・)を含めて、3人は夜間警備を担っていた。

 

 ユニコーンを密猟して手配もされていないような娘が「一流の冒険者くらいの実力はある」と太鼓判を押すだけのことはあって、クラークもその腕前を信用するようになっていた。当然ながら、馬車護衛の時の働きぶりも評価してのことだ。

 

「異常ないよ~」

「こちらもだ」

「こっちもだぜ」

 

 アルファスとベータが屋敷の周囲の見回りを終え、一息つく。

 

 ガァマが魔法瓶からホットココアをマグカップに注ぐと、3人は暗闇の中で立ち込める白い湯気をふーっと吹き飛ばして、ゆっくりと口に含んだ。リーネが3人の為に用意してくれたものだ。

 

「そういえば、仮の主のウワサ聞いて来たよ~」

「噂なぁ……冒険者の宿もロクに分からなかったしよ、そうそう驚く話も無いだろ」

 

 アルファスは木箱の上に座ってどこかを向いた。ユウランについての噂は大体が下水道で悪魔を倒したとか、凄い速さで走ってる赤い変なのがいるとか、夜に凄い速さで走ったり飛んだりしている赤いのがいるとかだ。

 

 都市伝説の速いババアみたいな話しかないので、アルファス含めた3人が冒険者の宿に辿り着くまでにはかなり苦労した。その上、依頼が終わって帰ってきた時と早朝くらいしか居ないので、仕事がある身の上としては非常に会いにくい。

 

 ユウランは家族を放ってどこかへ行くし、奉仕しろと言ったくせに何も求めない。何をしているのか、何をしたいのかさっぱり分からない人だ。

 

「それがね~、今日はアクマハンでのお話なんだよ」

「アクマハン……ですか。確か、南部の街でしたね」

「そーそー」

 

 紅一点のベータが傭兵から聞いたと前置きすると、ガァマは眼鏡をクイッとあげて彼女の方を向く。

 

「あのねぇ、アクマハンに200の冥族軍が侵攻してきたんだけどね、ユウランちゃんが軍勢の半分を倒して、将軍を二人も討ち取ったんだって~」

「ほほう? アクマハンですと……"三獄頭"でしたかね。その配下の将を?」

「ううん。"三獄頭"の炎魔眼と配下の将だって~」

「妙ですね……地域を支配する冥族にしては軍勢が少ない。500か600は居てもおかしくはないというのに」

「じゃあ違うのかも。噂だし」

 

「なぁ、なんか聞こえねえか?」

 

 アルファスが二人の話に割って入る。言われてから二人が周囲を見回し、ベータが屋敷を囲う壁にひょいとのぼった。

 

「燃えてる……」

「何が見えたんですか?」

「街の方が燃えてるよ!」

 

 小高い丘の上にある屋敷からだと、周囲の景色はよく見える。

 

 シムロン西岸地区で火の手が上がっており、夜空を煌煌と照らしている。熱を感じることは無いが、火勢は強く、2,3キロは離れているにもかかわらず、誰かの悲鳴が今にも聞こえてきそうだ。

 

「街の方か。こっちには影響無さそうだな」

「…………」

「ええ、念のため見回っておきましょうか? ……ベータ?」

「何か近づいてきてる」

 

 門の上からだとシムロンから西へ延びる街道がよく見えるのだが、その周辺に建てられた一軒の木造家屋が崩れていた。暗闇を見通すホムンクルスの目は、倒壊した家から出てきた何者かの輪郭をぼんやりと捉えた。

 

 ――――――――ァァ

 

 聞こえる。

 

「……なぁ、ガァマ聞こえたか?」

「いえ? 何がです?」

 

 ――――ァァァァアアア!

 

 聞こえる。聞こえてくる。

 

 女性の悲鳴、男性の絶叫、何者かの笑い声。

 

『この家にヒトの若いメスは居るかぁ?』

 

 そして、すぐそこに。

 

 彼らが先ほどまでココアを飲んでいた門の真上、格子扉の縁にそいつは座り込んでいた。

 

『ヒヒヒ、おともだちだってよ。メスの、若いメスのおともだちが欲しいんだとよ』

 

 極彩色の刺々しい球体が喋っていた。

 

 そいつには、球体の半分にも満たないような大きさの体がぶら下がっている。フグのような棘の球体が頭なら、首から下は子供が粘土で作ったようなぐにゃぐにゃのヒト型だった。

 

 ベータが塀の上で2挺拳銃を、アルファスが拳を構えてガァマを見た。初めて見る異形であったので、彼の見識を求める。

 

「……分からない、が、恐らく悪魔(デーモン)だ」

 

 彼の見解は正しいが、彼らの行動は致命的に間違っていた。

 

 戦っても勝ち目の無い相手だ。どう行動しようとも、どうにもならなかったと言うべきか。

 

 既に選択は為された。

 

 機先を制するべく弾丸を放ったベータの脇腹に極彩色の棘が突き刺さり、ぐにゃぐにゃで丸太のような触腕がアルファスの胴体をかちあげた。ガァマの【ブラントウェポン】は弾かれ、ベータの弾丸はあらぬ方向を穿ち、アルファスの拳は空を切る。

 

『ヒヒヒ、メスはいるからなぁオスは食べちゃおう』

「かはっ……! な、にを……!?」

 

 触腕が玩具を握る幼児のように地に伏せたアルファスを掴むと、悪魔は頭の棘に彼の腕を突き刺して力を込める。

 

「ぐあっ! ぃやめろ、やめろあっがぁあああああああああッ!!」

 

 ブチブチブチィと力任せに片腕を引き千切ると、腕以外はポイと捨てる。その異形は触腕で器用に腕の皮を引き剥がし、機械の部分は捨て、腕の繊維の一本一本を丁寧につまみとって、球体の裂け目に出来た悍ましい口に運ぶ。涎をこぼしながら、あふれ出る血潮を見せつけるように飲み、恐怖を煽る。

 

『あ~ん……うまいなぁ、ヒトは生がうまいなぁ』

「うぁ……」

「……なんなんだ! こいつは!?」

「あっ、はぁはぁっ、っ……」

 

 当たり前だが、打ち所が悪ければ転んだだけでも致命傷になる。腕の骨が一本折れるだけで行動できなくなる。悪魔に比べると、ヒト族は脆弱な生き物だ。

 

 ベータは右のわき腹を貫かれて戦う事が困難であるし、アルファスはたった一度の打撃で内臓を傷つけられ、おまけに腕の出血が激しいので浅く呼吸を繰り返すことしかできない。

 

 ガァマは唯一無傷だが、魔法はろくに効かない上に逃げ出しても棘の射出を喰らうだけで死ぬ。

 

 絶望。

 

 異形がニヤリと嗜虐的に笑った瞬間、赤い何かが落ちてきた。

 

 それは投げ捨てられたアルファスと異形の間に立ち、呆然とする男に指示する。

 

「ガァマ、彼を運びなさい。邪魔です」

「あ、あな……あなたは!!」

『うぅーん? メスが増えたなぁ、《烙印》もあるしおやつでいいなぁ!』

「仮の主!」

 

 そうだ、彼女だ、ユウラン・アルシップスだ。強く、自信に溢れ、レッドドラゴンの血を引き誰よりも苛烈に戦う少女だ。

 

 漆黒の鱗で創られた不気味な面頬、その下の真紅の竜鱗。分厚い牙に額から天を刺す2本の黒角。知り合っていなければ、彼女が冥族ではなく竜化したドラグニカだとは気付けなかっただろう。

 

 ユウランは鋭い鉤爪の手で炎の舌(フランベルジュ)とスパイクシールドを握りしめ、まっすぐに異形と向き合う。

 

 だが、彼我の体格差は3倍にも及ぶ。

 

 勝てない、勝てるわけがない、勝利のビジョンが全くといっていいほど見えない。3人居て戦いが成立しない怪物を相手にどうやって――

 

「私がッ――」

「おやつはテメーだボケ」

 

 ――代わりに死ぬ、とガァマは言えなかった。

 

 彼女が発するあまりにも強大なプレッシャーに硬直せざるを得なかったのだ。

 

 ガァマが一歩でも踏み出せば否応なく始まっていた。確実に戦いが。

 

 異形ですら、貪っていた腕を取りこぼし、身構えた。

 

(……なんて、大きいんだ)

 

 ガァマは思い出す。古の記憶を。かつての自分たちの主が、いつだって部下に預けてきた頼もしい背中を。

 

 そして最後に、主は一人で行ってしまったことを。

 

 目眩がするような緊張状態の中、1分か、5分か、とてつもなく長い時間が過ぎ去ったような――「うわぁぁぁぁあああああ!!」――ガァマは絶叫して走り出していた。ユウランの足元で今にも死にそうな顔をしているアルファスを引きずり、一刻も早く戦場から遠ざかる。

 

「10センチでもいい、離れてくれたならやりやすいッ――」

 

 この場に居る誰もがその言葉の意味を理解しなかったし、覚えてもいない。あまりの衝撃にかき消されたからだ。

 

 まず――爆炎。迸る業火の濁流の中で爆発音が2度轟き、何かの呻き声が聞こえた。

 

 わずか10秒。

 

 目が焼けるような熱と光が晴れると、残火の中に生者は居なかった。

 

 おまけにどこから出てきていたのか、異形とベータ、ガァマたちの間にはストーンサーバントが配置されており、万が一の射撃攻撃も防げるようになっていた。

 

 ……強い。あまりにも、目が眩むほどに。

 

「事情は後で聞きます。まずは回復を。【エクステンドヒーリング】」

 

 二人の傷には薄皮が張り、みるみるうちに塞がったものの、流れでた血が補充されるわけでもなく顔色は悪い。

 

 ガァマがベータに、ユウランがアルファスに肩を貸して別館に向かう。そのわずかな時間で、スキャットと呼ばれた猫が彼女のフードから飛び出してどこかへ行った。

 

「今のは?」

「監視を命じました。私の使い魔です」

 

 本館に土足で上がり込むと、怪我をした二人を一旦エントランス近くに置く。ガァマは指示を受けて中に居るユウランの家族を呼びに行った。

 

 彼が次女と三女とクラークを呼び終わった頃には、ユウランが別館からリーネを毛布ごとお姫様抱っこで連れて来ていた。

 

 物音に気付いて起きてきた私兵たちが使用人を連れて合流しており、16人ものヒトがエントランスに集まっていた。皆一様に不安げな顔をしており、竜化しているユウランのことも少し怖がっている。

 

「ユウラン……!? その格好は、いや、これは一体どういうことなんだ!?」

「ガァマ、説明してなかったのですか?」

「……申し訳ございません。私も状況が掴めておらず」

 

 突然異形に襲われたことは分かるが、論理的に説明できるほど情報を把握していない。

 

「……西岸地区の火災の現場からココの街道を通る形で悪魔が湧いてます。誰かもしくは何かが無作為に召喚している可能性があります。非常に危険なので、避難のためどこか安全な場所があるといいのですが」

「安全な場所か……」

 

 ユウランから話を振られたクラークがしばし悩んでいると、目を覚ましたリーネが普段使っていない地下の物置があると述べた。

 

 なお下の子二人は寝ぼけ眼でガァマにしがみついており、全く状況を把握していない。

 

「ではそこに居て下さい」

「ユウランはどうするの……?」

 

 リーネが不安そうに語りかけるも、「準備ができてるので魔法をかけます」とだけ述べた。

 

「【ブレイブハート】【バーチャルタフネス】【フィールド・プロテクション】【プロテクション】【アース・シールド】【タフ・パワー】【サモンフェアリー】。……気休めにはなります、行きましょう」

 

 ユウランはケットシーとかいう妖精を家族の護衛につけたようで、少しでも安全な場所に移るべく地下の物置を目指した。

 

 避難自体は、物置が本館の中にあったこともあって非常にスムーズに進んだ。というのも、皆の前で様々な魔法を使ってみせた、歴戦の風格を醸し出す天才少女に対して誰も何も言えなかったのだ。

 

 幼いころの彼女を知る私兵や使用人でさえあまりの変わりように驚いていたし、屋敷の主人が異を唱えないのだから余計な疑問を差し挟むこともない。

 

 ピリピリとした雰囲気だけを纏い、目を覚ました妹たちでさえ口をつぐんだ。

 

 物置への階段を皆が下りている最中、彼女はしきりに周囲を見渡し、使い魔との交信に集中力を割いていた。

 

 ガァマ以外が中に入ると、使い魔の猫が滑り込むように現場にやって来る。

 

「いいですか、もしも気が狂って略奪に走った使用人がいたら殺しなさい。パニックになって出ようとしても殺しなさい。家族に累を及ぼす奴もです」

「はいにゃ~」

「ゴーレムも中に居ますし、そうそうそんな事にはならないと思いますが、念のため」

「……あなたは何処へ?」

 

 ガァマが抱いた当然の疑問に、フランベルジュを肩に担いで返す。

 

「あなたも中へ」

「私もっ! お供させて下さい!」

「邪魔です。はっきり言って、あなた程度が付いてこれる戦いじゃありません」

 

 ガァマは思い出す。古の記憶を。

 

 一人で行ってしまった主人も、同じことを言った。

 

「そ、それでもいい……私は」

「外に出てみろ。敵より先に私が首を斬ってやる」

 

 ユウランは有無を言わさずガァマを地下に叩き込み、地上へ通じる狭い隠し戸を閉じた。

 

 ガァマが、ホムンクルスたちが伸ばした手は届かない。

 

***

 

 240点をゲットして家族を地下に押し込んで、気休めに「破壊された屋敷」の幻覚を屋敷の一部に掛けてから、敷地の外に出る。

 

 非戦闘員が剥き出しのまま悪魔に襲撃されると絶対に守り切れないので、家に地下があってよかった。

 

(地下への入り口にも幻覚を掛けてますし、魔法の有無でバレないように適当な場所でも魔法をかけてる。時間稼ぎにはなりますね)

 

 とはいえ、空から確認できた悪魔は17体ほど。どれも10レベルを超えており、並の兵士では止めるどころか時間稼ぎにもなりゃしない。

 

 だからといって馬鹿正直に一体一体倒しに行くと、私の居ぬ間に悪魔がやって来て家族にダイレクトアタックしてくる可能性が高まるわけだ。

 

 じゃあどうするか?

 

 そうだね、【スリープ】だね。

 

 姿が完全に隠れていなければ無限拡大【スリープ】で狙撃するように眠らせてしまえばいい。

 

 敵が10レベルを超えてはいるが、どいつもこいつも精々13レベル程度の下位(・・)の悪魔ばかりだ。魔法に対する抵抗力も数値で言えば21~30。

 

 一方で、私が持つ突破力は28~37と、かなり勝率が高い。相手側が5/36の確率を突破してきても、私は魔法確実化の効果で賽を2度振れるので1-(6/36)×(6/36)の確率で勝てる。なお敵の「自動成功」については考えないものとする。

 

 私は屋敷を囲う塀の上に立ち、丘の下、街道、シムロンへ続く家々を見下ろし、ちょうど女児をさらっている血濡れの悪魔を視界に収める。

 

 奴らの行先は――方角的には、街道を無視して西南西へ歩く一人の女の所だ。傍から見ても普通の村娘にしか見えない。彼女は亜麻色の髪を低い位置で束ねており、歳は20代後半だろうか。

 

 そばに人体でできた巨大な化け物を連れてなければ、その平凡な女を見逃していただろう。

 

 化け物は6本の右腕(・・)を蜘蛛のように曲げてのそのそと歩いており、その腕足(うであし)の生えた肌色の胴体には黄ばんだ乱杭歯付きの口が付いている。体高は5メートルほどで、レベルは14、7部位の動物だ。

 

 今更だが、この『部位』というものはソイツを構成するパーツと考えてよい。

 

 ただし、パーツと言っても大きく、ヒト族は本体だけの1部位だし、肌色の化け物は6つの腕足も胴体もデカいので7部位になる。ゴーレムなんかは右半身と左半身で2部位になったりする。

 

 で、その肌色の化け物――名前は???だ、オリジナルモンスターかな――仮称を「フォモォ」としよう。

 

 フォモォは2ターンキルできるし物理一辺倒なので、見た目の悍ましさに反して経験点の詰まったおやつでしかないのだが、女の方は駄目だ。

 

 レベルは17、神聖魔法と喚起魔法(デーモンマンサー)をレベル15で行使できる国家転覆級の化け物だ。HP638MP185と、レベル17にしては馬鹿でかい耐久力に加え、私の達成値では見抜くことができないのであろう未知の特殊能力がずらりと並んでいる。物理攻撃能力に関してはレベル1にも満たないが、魔力は28と小神級の基準値を誇る。

 

 …………なんだこいつ!?

 

 明らかに、私一人で対処できる相手ではない。「15レベル未満は死ぬ」みたいな能力を持っていてもおかしくはないし、初見で対処できずに死ぬような能力を持っている可能性だって高い。というか、あの女はレベル15以上のPCが戦うような敵だ。

 

 データ人間らしく数値で比較すると、4部位だった"炎魔眼"ケルケスキャトルでさえ最大HP164合計HP464だし、魔法やインチキでバフをしている私の魔力でさえ22か23の基準値が精々だ。

 

 私も無敵ではないので、無策で挑めば女を倒し切る前に、既に召喚されている取り巻きの悪魔どもにボコボコにされて死ぬ。

 

(……優先順位を考えましょう。第一の脅威は、家族に直接累を及ぼす可能性が高い悪魔ども。あの女がこれから悪魔を召喚する可能性があっても、頭数を減らすことが最優先でしょう。でもって、女はこっちに来られても勝てないのでちょっかいは出さない)

 

 初志貫徹だ。

 

 無限拡大【スリープ】で目につく悪魔を眠らせた後、【ブレードネット】で行動するたびに継続ダメージを与えられるようにし、【スロウ】で行動や移動を縛り、デバフを掛けてから【エネルギージャベリン】で300m以上の長距離から一方的に狙撃する。

 

 逆鱗の面頬によるMPの自動回復があっても、1ターンあたりのMP収支はマイナスになるので、目につく敵は全て眠らせ、建物に隠れている敵がいれば【シースルー】で一部を透視して【スリープ】を掛ける。

 

 【スリープ】は精神に作用する魔法なので、悪魔の中には効かない敵もいた。そういう奴らの中で、こちらに向かってきた奴は590点分倒したが、逃げた奴は行動を阻害できないので見逃してる。

 

 そうして14体3250点分を眠らせ、弱体させ、目覚めのエネジャで一体ずつ熱烈にご挨拶していく。悪魔が行動すれば魔力の刃が肉を斬り、射角から私の位置を割り出しても移動が遅いので逃げるにしても戦うにしても難しい。ディスペルをしても私の達成値が高く、解除が不可能な上にダメージを喰らうので、問題なく倒すことができた。

 

 悪魔の中には【ブレードネット】の効果時間切れを狙っている奴もいたが、それは星が太陽に飲み込まれても無理だ。

 

(人目が無いと思う存分反則できていいですね)

 

 ……と思っていたら、例の化け物女の周囲に黒い液体が湧き、それが5体分の悪魔の形になって解き放たれた。

 

「……はぁ!? 悪魔の大量召喚!?」

 

 悪魔という名の通り、奴らを顕現させて使役するには七面倒な手順や制限が存在する。供物をささげて1時間の魔法の行使を行う必要があるし、複数体を同時に使役すると契約が破棄されたり契約者が死ぬ場合もある。

 

 そういう奴らをお菓子を渡すようにポンポン5体も出されちゃ敵わない。

 

 ただ、女のステータスを確認する限り、召喚コストが悪魔の合計レベル*1のMPであることは判明した。

 

 インチキ効果も大概にしろ! コストと効果が釣り合ってねぇんだわ。

 

 召喚された悪魔は13レベルが5体。どいつも3部位で精神に対する効果が効かない。ヤギのように2つに分かれた蹄で体を支えており、6,7メートル近い鉤爪のある獅子の顔の巨人だ。名前はゴーオン。

 

 何かを命令され、家屋の方へ向かうとしたので、女から少し離れたところで【スロウ】と【ブレードネット】をかけてやる。

 

 眠らせた悪魔を起こされるかもしれないので、まずは召喚されたばかりの悪魔に【エネルギージャベリン】。すると運よく5体とも気を引けたが、13レベルの悪魔たちが、更に4レベルの悪魔を召喚してこっちに差し向けてきたので、同じ魔法を繰り返す。

 

 で、何故かもう一度召喚して差し向けてきたので、今度は改めて召喚された5体のうち2体だけに【エネルギージャベリン】で攻撃する。

 

 何故かって?

 

 エネルギー無限の固定砲台に向かっていく馬鹿は居ないということ。MPが切れたとでも思いこんでくれたら御の字だ。

 

 慌てたふりでもして、私からは透明に見える屋敷の塀に隠れる。坂道で見えづらい場所には【シースルー】を打って、視界を広くとっておく。

 

 20秒もすると奴らが召喚した雑魚悪魔がやってきたので処理。13レベルの奴らが坂道の半分、ここまであと50mくらいの所に来た段階で塀に登り今度は【ファイアボール】と貯めた竜闘気のブレスで歓迎する。

 

 悪魔の癖に神聖魔法が使えるので、生き残った悪魔の体力は満タンから【ブレードネット】分しか減ってないが、逃げても普通に殺せる距離だ。

 

『貴様ぁ、一人か!?』

「…………」

 

 わざわざ教える必要はないので爆殺!

 

 HPの盛られていない13レベル程度、逃げようが向かって来ようがデバフが掛かってこっちが無限拡大できる時点でカスなのだ。

 

 スーパーオートローバー君に剥ぎ取りを任せ、貯まった経験点でプリースト技能を4レベルに上昇。【フィールド・レジスト】で氷ダメージを軽減し、【セイクリッド・ウェポン】と【セイクリッド・シールド】で攻防を上昇させておく。悪魔に対しては全く役に立たないが、折角だし。

 

 視界の中で動く奴は――例の女と化け物以外は――居ないので、監視を続けながらMPの回復を待つ。不幸中の幸いか、街道沿いの家屋では火事になっていない。

 

 尤も、そうなっていたとしても離れなかっただろうが。

 

 3分ほど待ってMPが溜まったので、攻撃を再開。倒せる奴から一体ずつ始末していく。

 

 そのサイクルを繰り返していると、シムロンの方から何かが聞こえてきた。

 

 賽が振られる。これは指揮官(コマンダー)技能を修めた者が使う戦鼓(せんこ)という技だ。大気のマナを伝い、戦場中に声を轟かせ、味方に指示を与えるとともに戦闘能力を高めている。データ的に言えば、命中とか回避とか抵抗力とかが上がる。

 

 竜血法師(ドラゴンレゾナンス)技能がバランスブレイカーだの手抜きだの言われる所以(ゆえん)であるのだが、竜血法師(ドラゴンレゾナンス)が自己強化に特化しているなら、指揮官(コマンダー)は味方への支援を行う。シナリオブックで出したくせに指揮官(コマンダー)練気験者(エンハンサー)のパクリな手抜き作業でデータを作成しているし、実際のセッションで使うことが推奨されないとくれば揶揄されて当然といえば当然だ。

 

 アクマハンで出会った騎兵軍師もコマンダー技能持ちだったが、今聞こえている者の戦鼓(せんこ)には遠く及ばない。

 

 今聞こえる戦鼓(せんこ)の効果範囲は500mはあるだろうか。眠れない夜もあっただろうに、この丘まで届くほどの凄まじい咆哮には戦慄を禁じ得ない。

 

 私であれば――つまりデータ的に考えれば、戦鼓(せんこ)の効果範囲は名誉点に依存するため、"炎魔眼"クラスのネームドを6体も倒せば同程度の効果範囲になるだろう。

 

(このレベルの使い手がいるのも当然ですかね、シムロンくらいの大都市なら)

 

 その戦鼓(せんこ)の使い手を含めた一団は西岸地区ではなく、街道の方へ――つまり私の側に近づいてくる。

 

 チラリと姿が見え始めたが、ただの一団ではないようだ。彼らは複数の冒険者パーティやシムロンの兵士、魔法機器を引き連れた戦闘集団であり、先頭にはシムロン市の式典で見かけるような旗が夜空にはためいていた。

 

 【シースルー】からの【スリープ】で悪魔を制圧した辺りに一団が来ると、戸惑いながらも悪魔に止めを刺していた。潜伏していたであろう悪魔とも戦闘になっていたので、経験点目的で【スリープ】をぶち込んで支援しておく。戦闘に参加したので、追加の540点だ。

 

 ただ、破壊された家屋の前や街道で、3~7メートルもあるような悪魔たちが眠りこけているのは相当奇妙な光景である。

 

 ついでに、私の所には透明な悪魔が来たのでぶっ殺しておく。家族を隠していた時から居たのならとっくに気付いているだろうし、十中八九今来たばかりの悪魔だろう。これで、安全はある程度確保されたと考えてもいい。

 

 さて、数は暴力だが、ドラグエディアにおいては時折個が群を凌駕する。

 

 いくら戦闘集団を率いているとはいえ、あの女と戦ったら全滅は必至だ。

 

 【フライ】で旗の下へ向かうと、どこかで見た覚えのある顔が一つあった。翡翠のような瞳をした金髪のエルフ――ヴァレンタインだ。市長の護衛役とか言っていた彼は双頭の竜の旗を掲げ、陣頭指揮にあたっていた。

 

 いくつもの松明や魔法の光で煌めいていたので、私も分かりやすく無限【ライト】松明を装備すると、下の方の集団が弓や剣を構えて騒がしくなった。竜化したユウラン()のビッグ♂ダーク♂ホーンを見て敵だと思っているようだ。

 

 危うく殺気立った集団の中へ飛び降りる所だったので、少し離れたところで着地。彼も集団のざわめきに気付いたようで、横の女性に断りを入れてから近づいてきた。

 

「――――ユウラン・アルシップスか。勇名はかねがね。できればもう少し穏便に来てほしかったがね」

「どうも、マナを補充してる最中なので、怖がらせてしまいましたか。それで、市長の護衛が何故ここに?」

「彼女が行くと言ってね」

「我らの街の危機じゃないか、上に立つ者が前に出るのは当然のことだ」

 

 会話に割って入ったのは、紫の目をした黒髪の女性だ。身長は私よりも30センチ以上高く、長い黒髪を後ろで束ね、パンツルックの服を着こなす麗人だ。後衛が身に着ける非金属鎧のマナコートで身を守っているので、戦場に立つ資格はあるのだろう。

 

「いきなりすまないね。私はシムロンで議員をしているロームレッダだ。敵の攻撃が激しくないと思っていたが、こんな所で逸材に巡り逢えるとは。開祖の導きかな」

 

 ロームレッダは人好きのする笑みを浮かべたが、私は捕食者のような威厳も感じ取った。堂々とした振る舞いをした彼女にはカリスマがあるのだろう、火災発生から2,3時間も経っていなさそうだというのに、現場へ戦闘集団を率いて駆け付けられるほど統率(とうそつ)が執れている。

 

「市長。戦場で口説くのはお止めください」

「や、悪いね。それでユウラン嬢、君は何故我々の前に?」

「おっと、本題はそれですね」

 

 私は見たことを話した。勝ち目が無さそうな敵に向かって突撃する集団を見過ごすほど冷血でもなければ、計算ができないわけでもない。

 

「西に行くと化け物を連れた黒幕らしき人物がいます。そいつが悪魔を呼び出しているところを見ましたが、少なくとも…………」

 

 私はサッと集団を観察して力量を判定する。ヴァレンタインは戦士と妖精使いをレベル14で修めた超優秀な魔法戦士だ。コマンダー技能も11あり、その他サブ技能も充実している。私に伍す存在で、戦闘になるなら十分に戦力足りえる。

 

 ロームレッダは魔法機術(マギテック)技能を13レベルで修めているが、銃を持っていないし戦力としては当てにならない。取り巻きが湧いた時に死ぬ筆頭だ。

 

 他は有象無象のカス。腕足の化け物と戦う時は役に立つかもしれないが、あの女がいる時は別だ。

 

 戦力が調整された"ボス戦"ではなく、レベル10~13をローコストでポンポン呼び出す奴が相手だと物量で押されるのがオチだ。

 

 敵が来た? 囲んでぶっころそ☆

 

 となるのが常識的な思考回路であり、誰が相手でも呆れるほど有効な戦術である。あの女から見て、敵が多ければ多いほど召喚へのハードルは低くなるのは当然だし、そんな有象無象なら居ても邪魔なだけだ。

 

「……ヴァレンタイン氏以外は付いてくるべきではない」

 

 至極真面目に考えたのに、ロームレッダ市長はヴァレンタインと顔を見合わせて小さく笑った。彼の方は苦笑いだが。

 

「それを聞いて我々が行かないとでも?」

「……今のユウラン・アルシップスが言うのであれば、相当なのだろう」

「ですね。二人でも正味勝てるかは怪しいモンです」

 

 市長が敵に突っ込んで死ぬとか洒落にならない。ようやく分かってくれたか。

 

「遺族に向かってソレを言えとでも? 危機に飛び込むからこそ、ヒトは私に付いてくる」

「……そういうことだ。悪いな、ユウラン・アルシップス。市長はこういうお方だ」

 

 ロームレッダが大胆不敵に笑うと、ヴァレンタインは双頭の竜の旗を掲げた。

 

「さぁお前たち!! 休息は取れたか? この先にいる事件の首謀者を討ちに征くぞっ!!」

「ユウラン嬢。道案内だけでも頼めるか?」

「……行かないとは言ってません。奴をぶちのめさないと気が済みませんから」

 

 戦うなら戦うで、私が参戦しなければ身近な脅威を排除することはできないだろう。

 

 街道沿いに行軍すると、腕足の足跡――つまり巨大な手形が道なりに続いていた。

 

 緊張感を適度に保ち、更に進むと、遠くから場違いなほど明るい歌声と小さな振動音が聞こえてきた。

 

 何も知らない旅人がいるのだろうか?

 

 偵察に行こうとした斥候を、勝手に制止する。

 

「私が先行して見てきます」

「……ああ、頼んだ」

 

 真夜中に歌いながら街道を進むヒト族が一体何処にいる?

 

 私自身、配達の暇な時間は歌いながら街道を飛んでたりはするが、夜にそんなことをする人物は見たことも無い。必然、対象は絞られる。

 

「ラ、ラ、ラ、ラ~♪」

 

 集団行動をしている市長たちを置いて進むと、音源にはすぐに辿り着いた。

 

 小さな林沿いに道を曲がると、道を外れた小屋の前に切株に座った亜麻色の髪の女がいた。

 

 彼女が陽気な唄を歌う傍らで、2体の腕足の化け物が歌に合わせてズシンズシンとリズムをとり、捕らえられた5人のヒト族が怯えながら手拍子を打っている。更にその隣には、ぐちゃぐちゃにまぜられた悪魔とヒトの融合物体が8個は転がっており、もぞもぞと蠢いている。

 

「あら、女の子のおともだちね? こっちにきて、わたしのおともだちとおともだちになりましょう?」

 

「逃げて逃げて逃げて逃げて」

「いやだぁぁあああああああああ!!」

「助けてぇえぇええ! どっがい"っでよぼぉぉおおおお!!」

 

 種族もバラバラなヒト族たちがあらん限りの絶叫で私に逃走を促す。

 

「……イカレやろーが」

 

 少女の身を案じた善良な心根の発露によるものではないことくらい想像がつく。転がっている悪魔とヒトの肉団子を見れば、「材料」が揃うことを恐れているのは間違いなかった。

 

 あまりにも悲痛な叫びに、駆け足で後続が追い付くと、息を呑む声が聞こえた。悍ましく、ヒトの尊厳を踏みにじる狂気の所業に武具の金属音が鳴る。

 

「そっちのおともだちも! こっちへおいで! みーーーんなで、仲良くなりましょう?」

「どの口がァあああああッ!!」

 

「下がれッ! 死にたいか!?」

 

 市長隷下の一人が怒りのまま飛び出そうとしたので移動を妨害。あらん限りの声で制止する。

 

 だが、こっちの怒りなど露知らず、亜麻色の髪の女は立ち上がって優し気に語りかける。

 

「沢山のおともだちが来てくれて嬉しいわ。それじゃあ、一足先におともだちになりましょうね?」

「ヒッ……!」

 

 振り返った女の顔を見て、囚われていたヒト族たちが逃げ出そうとした瞬間、気狂い女の足元に黒い液体が広がって、悪魔が5体湧き上る。いずれもレベル12,13であり、常なら激戦を予想しただろう。

 

 刹那、女が何かを呟くと、ヒト族たちと悪魔たちは磁石がくっつくように引き寄せられて、でたらめな1つの塊になってしまった。

 

「ほら♪ みんなもおいで、一緒におともだちになろう?」

 

 パン、と手を打てば、出来上がったばかりの塊と沢山の肉団子と2体の腕足の化け物が、先ほどの光景を焼き直すように「1つ」になる。

 

 巨大な肉団子は表面を波打たせ、くぐもった何十もの悲鳴とともに形を変えていく。

 

 

 誰も身動きが取れない。

 

 

 パンをこねるよりも簡単に、命が弄ばれていく様をまじまじと見せつけられてなお、動けない。

 

「もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともーーーーーーっとおともだちができるといいなぁ」

 

 いつの間に鼻が慣れてしまったのだろう。飲み込んだ(つば)には血の風味が混じっていた。

 

「ぉぁあああぉ、ぉぁあああ、ああああ」

 

 かすかな声が聞こえる。ヒトと悪魔でこねられた怪物が誕生する。産まれてしまう。輪廻転生を穢す冒涜的な命として生まれ変わってしまう。

 

 ソレは薄いオレンジに白や黒や紅が入り混じった肌をしていた。鉤爪や蹄や手足の指が混ざっているおおきなおおきな7本の"右手そのものの足"。骨や臓器や顔が浮かび上がっている胴体。臍の緒のように垂れ下がった細長い首には赤子のような頭が付属しており、持ち主がいたはずの顔のパーツがブツブツと、蓮の実が連なるように赤子の顔で集合体を形成していた。

 

 我々が掲げる小さな光を照り返し、ぬらぬらと様々の体液が垂れ落ちる。生理的嫌悪を催すブツブツの赤子の巨頭は口を開け、空気を吸い込み産声を上げた。

 

「おぎゃぁぁあぁあああ! おぎゃぁああ! ぎゃぁあああ」

「あなたはおしゃべりが苦手なの? 話せない子はおともだちじゃないわぁ」

 

 明るく冷酷な言葉を放った彼女の瞳は松明の炎を受けて煌々と揺らめく。

 

 条理の外の存在が放つ異彩に我々はただただ圧倒されていた。

 

(あの召喚は手番を使わない補助動作、融合の特殊能力は手番を使う主動作ですが私と同じように2度使える。……再度、魔物知識判定ですね。まだ戦闘ではない)

 

 判定値を上げる帽子を一瞬だけ装備。集中し、呼吸を整え、腕輪を破壊して魔法的感覚を鋭敏に研ぎ澄ませ――

 

(――っしゃ! 6ゾロ最大値! 特殊能力を少しだけ抜きましたね)

 

 ついでにもう一体の怪物――"おおきなおともだち"の能力も見抜く。

 

(レベル16、腕足7本と胴体と頭の9部位で、殺れば死んでくれるコア部位は無し。腕には物理攻撃と悪魔にちなんだ特殊能力、胴体は2つの魔法を同時に唱えられるスペルユーザー、頭は物理攻撃に対する回避補正と全自動行動阻害バラマキに呪歌に魔法、何でもありですね。こんなんGMがパラメーターの多さに憤死しますよ……)

 

 ヒト族の限界(レベル15)を超えた領域の敵だ。体力は200を上回り、攻撃はどれも痛手になりうる。

 

 しかし、絶望的な強さではない。この集団で戦えば、戦闘に参加した8割は死ぬだろうが十分討伐可能な強さだ。

 

 我に返ったロームレッダは異様な怪物を前に背筋を伸ばし、ヴァレンタインは額を伝う冷や汗を指先で拭った。

 

 張り詰めていく空気の中、何かが近づいて来た。それは風を切る様な音を伴い――

 

 ――ズドン!!

 

 砲弾のように我々の真横へ着地した。

 

 それはフクロウを思わせる黒い甲冑を纏った騎士――"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"だ。この土壇場の土壇場で冥族殺しの英雄が駆け付けてきた。

 

 "運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"は黒光りする両手剣を抜き、私、ヴァレンタインと共に得物を構える。

 

『尋常ならざる難敵と見た。この命、預けよう』

「ふっ、御伽話の英雄と肩を並べられるとはな」

 

 "運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"をよく観察し、こちらも能力を見抜く。ファイターレベル14、マギテックレベル13に加えてエンハンサーとアルケミストを修めている。素で私の倍くらい硬いのが特徴だ。

 

 ……?

 

 まさか"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"も魔物じゃないだろうな。盾も持っていないのに防護点が尋常じゃないくらい高く、物理に対しては滅法強いと見た。

 

 とはいえ、運よく三人揃ったお陰で、ようやく「勝負」の土台に立てた。雑兵は下がらせてもいいだろう。

 

「それじゃあ、もっとたくさんのおともだちを連れてくるわぁ。おともだちがいないと遊べないものね、わたしたちみーんなでおともだちになりましょうね」

「ぎゃぁあ! おぎゃあ! あぎゃあ!」

 

 化け物女は歪な怪物の存在を完全に無視し、魔法を―――――

 

「させるか」

 

 私が真っ先に動いた。腰の袋から動物原素の詰まった赤い結晶を取って砕くと、細かい粒子が身体の中へ溶けるように吸い込まれていき、瞬発力を爆発的に増幅せしめた。1回あたり20000Rと金にものを言わせた錬金術によって事の起こりを制し、イカレた女が魔法を発動するよりも早く大気を炎で満たす。

 

 火焔の吐息が女と怪物を焼き焦がす最中、【タフ・パワー】と【ブレイブハート】を味方二人――とロームレッダ――に対して掛け、攻撃全般への抵抗と精神への影響を無効化する効果を付与する。

 

 炎が晴れた瞬間、"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"が射出したワイヤーアンカーで化け物女を拘束したと同時、黒光りする剣で腕足を巻き込みながら空間を薙ぎ払う。化け物女は炎の衝撃でふらりふらりとよろけて致命傷を避けたが、【ファイアジャベリン】を投げつつ背後に回り込んだヴァレンタインがクレイモアを薙ぎ払う。

 

 腰を半分ほど両断する一撃。間違いなく致命傷で――「まだ生きている!!」私が叫ぶとヴァレンタインは息を呑んだ。

 

 その女は血の一滴も流さないどころか、斬られた端から身体が元通りにくっつき、修復されていく。

 

「ああクソッ!」

「……かわいそう。あなた、ひとりぼっちなのね?」

「あ"あ"!?」

 

 異常な女は何かに気付いたように、憐れみを込めて私に同情してきた。心の底から、可哀相で可哀相で仕方がないという風に。

 

「わたし、サリーよ。あなたのこともおともだちにしてあげる、今度はたくさんのおともだちと一緒になりましょうね」

 

 女はまばたきもせずにジッとこちらを見つめると、魔法を発動して消えた。恐らく神殿にワープする【エスケープ】の魔法だろう。

 

 敵が減ったのは喜ばしい――サリーの所業を考えれば良くない――が、脅威は去ったわけじゃない。

 

 "おおきなおともだち"の巨大な右手の脚――腕足の一つが、焼け焦げた巨頭の表面にある目玉や耳に手をかざすと、表面に生えている小さな食指が無数に伸びて"穴"をほじる。小さな目玉がぽろぽろと巨頭の表面から零れ落ち、血や黄色い液体がぼとぼとと嫌な音を立てるたびに、赤子がキャッキャと笑う。

 

 香ばしく血生臭い風が3人と後背の部隊を撫でると、胴体に悪魔どもの顔が浮かび上がってきた。5、10……30はある顔はどれも一様に激しい怒りを(たた)え、自由に動くちっぽけな生き物どもを睨みつけた。

 

「あ"あ"あ"あぁぁぁあぁあぉ"っぉぁああ"あ"あ"!!!」

 

「……楽にはいかないようだな」

『どの道ヒトの敵だ。ここで滅する』

「こんな奴相手におっ()んだりしないで下さいよ」

 

 激しく足踏みをして狂瀾怒濤する怪物を相手に、まともな殺し合いが成立するのはこの3人だけだ。

 

 敗北はシムロンの全壊を意味し、運が良くても周辺地域からヒトは居なくなる。

 

 街道脇の小さな林の側で、地域全ての命を懸けた死闘の幕が上がる。

 




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