私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない 作:傘花ぐちちく
「お"ぎゃぁ"あ"あ"あ"あ"ああ!!」
"おおきなおともだち"は遠くに木霊するほどの声量で悍ましい産声を上げた。産声とは言うがおよそ赤子のものではなく、男も女も子供も老人も、全ての者の怨嗟がこもった叫びであった。
大抵の者は聞くだけで立ち向かう意思を削られるし、屈強な者も――私でさえ――1時間も聞き続ければ発狂する。心を強く持たなければ、まともに立ち向かうことはできない。
「――くッ、すまないが任せたぞ!」
部隊を引き連れて何とか逃れようとする市長たちを怪物は美味しそうに見つめながら、攻撃してきた3人を目蓋の無い沢山の目玉でギョッと睨んだ。
「来ますよッ!!」
私が叫んだと同時、巨大な腕に支えられた全身を躍動させて、"おおきなおともだち"が暴れまわる。胴体と頭に浮かび上がったデスマスクからは魔法の詠唱が始まり、巨体による暴力の嵐が荒れ狂う。
極光が3人を貫き、炎がヴァレンタインを焼く。腕足による薙ぎ払いや毒液の散布によって常人ならミンチになっているところだが、私と"
しかし、この中で最も"軽装"なのはヴァレンタインだった。敵の巨体を攻撃するにあたっては、その"足元"に飛び込まざるをえないのだが、彼は市長に気を取られデタラメに振り回される腕足に2度3度と掠ってしまう。
それだけで強烈な衝撃が全身を駆け巡り、ヴァレンタインの臓腑は傷つき、血を噴き出す。達人でなければ避けることもできない暴力の中、気を失い掛けたヴァレンタインはその死の間際で踏ん張った。不屈の精神力と震える足で再び剣を握り締める。
私に言わせれば、HPがゼロになった状態だ。次にそうなったら死亡判定が入り、失敗すれば死ぬ。
「ヴァレンタイン! 下がりなさい!」
「がはっ! ……足を引っ張るのが、まさか私とはな」
攻撃の間隙に回復用ジェムを放ってヴァレンタインの体力を回復、さらに妖精魔法で全体のHPを回復し、盾をウェポンホルダーにしまいながら
これが普通の冥族の群れであれば5体分――つまり5部位を攻撃できたのだが、あまりに身体が大きいせいで攻撃できる箇所が制限されている。
「クソッ! 体がデカ過ぎます!」
「助かった! 気をしっかり持てよ――あぁああああああ!!」
ヴァレンタインの
敵の狂気の叫びは【ブレイブハート】で防げているものの、私は回復に手番を割かざるを得ないため、穴を埋めるように強化をしてもらえるのは"数"の強みだ。
それに、下がれと言っても彼はやる気であり、妖精魔法で回復を行い大剣にマナを通し――大木を切り落とすかのように薙ぎ払った。その一撃は私や"
しかし、敵はまだまだまだまだタフだ。7本ある足の2本だけ体力が半分になった状態であり、倒すまでの道のりは迂遠だ。なにより、こいつは足1本だけになったとしても跳ね回って人を殺しまわる事だろう。
戦いは苛烈を極めた。無数の腕足の踏みつけや振り子運動を避けたと思ったら、撒き散らされる体液の毒と酸に灼かれ、【アシッドクラウド】の毒雲に包まれ【サンダーボルト】の雷が降り注ぐ。
物理攻撃は巨体で避けにくく、潤沢なMPを背景にした魔法を乱発してくるため、一度に多数を喰らえば死ぬ。一瞬の油断が命取りで、怪物の前で足を止めることは即ち死だ。
確実に相手の命を削れてはいるが、掛けられる支援には限りがあるし、持久戦ができる相手でもない。体力に少しでも余裕ができたらガンガン攻めていかないと、一つの手違いで壊滅しかねない。
攻めのタイミングが精確に把握できるのは、データ的な意味では私しかいない。
「余裕が出てきたでしょうッ! 攻めに転じますよ!」
「承知した!」
『まずは1本!』
傷ついた腕足の1本に狙いを定め、攻撃を掻い潜りながら時間差で切り裂いていく。クレイモアが刻んだ傷を炎の舌が舐め、黒剣がグチャグチャに破壊した。
「お"お"お"お"お"お"ッ!!」
ピタリと息を合わせた連続攻撃に、酸の血を噴き出した腕足の一本がだらりと力を失い、傷の再生を止めた。痛みに駆られた"おおきなおともだち"は絶叫を上げ、大地を踏み鳴らして癇癪を起こした子供のように暴れ回る。
近くにあった小屋などは既に倒壊しており、土の地面は怪物の足跡で徐々に徐々に沈降しつつある。
「ギィィィ……――――!!」
「うるさッ――!?」
身を蝕む狂音が発せられた瞬間、重厚な酸の雲が3人の身体へ浸潤し、皮膚を灼き、衝撃の魔法がマナごと体力を奪っていく。
避けようのない魔法攻撃の雨に血は絶えず流れ続ける。これをどうにかするには、1本止めるのもやっとだった腕足を3本も破壊した上で、魔法を唱える胴体と頭の口をぶっ潰さなければならない。
その腕足は渾身の力やマナのこもった一撃で地面をズンと揺らし、喰らえばひとたまりもないソレを我々は這う這うの体で避ける。クリーンヒットするようなヘマは誰もしていないが、体に擦るだけでも内臓が揺らされ骨が軋むほどの衝撃だ。
『……これは骨が折れるぞ』
「いいえ、いけますッ!」
私の判断で更なる攻撃を敢行。腰の袋から取り出した金色のジェム――クリティカル率アップ――を砕き、炎の舌に更なる力を込めて怪物の足元を駆け、薙ぎ払う。
激しく動いていたはずの2本目の足は自らの血で傷口を爛れさせ、ついに再生を止めて力を失った。間髪入れずに二人も続き、3本目の足を切り落とさんと走る。
怪物が痛みに呻いた一瞬、ヴァレンタインはちょうど斬りやすく
二人は胴体から射出と見紛う勢いで飛び出してきた食指――異様に長い人差し指――を回避しながら、次の攻撃の位置取りをしつつ、足元の小動物を潰そうと躍起になっている"おおきなおともだち"の腕足を避ける。
(こいつの知能が動物並みで助かりましたね……いえ、悪意だけは人並みにビンビン感じますがね)
"おおきなおともだち"は悪魔とヒト族が融合して出来上がった、動物並の知性しか持たない存在であり、明確な戦術を使って戦いはしないが、小さな物をたくさん踏み潰したいという悪意めいた意思を持っていた。
戦いが始まってすぐは怒りが勝っていた様子だったが、逃げ出した小さい奴らのほうが簡単に踏み潰せそうだ――などと考えていそうであった。"おおきなおともだち"の腕足やら胴体にある数多の目がよそに向けられており、口々も「あっち」などと言っている。
しかし、本来、この巨体なら3人など振り切って何処へでも行けるのだが、腕足2本が単なる重りに変わってしまったことと足元の「小さいの」によって、戦うか逃げるかどちらかに専念しなければ思う通りに動けなくなっている。
その思い通りの移動を妨げているのが私だ。
時に、踏ん張る腕足を蹴とばし、背中の盾ごと体重を掛けたり、腕足の皮膚だけを踏みつけて痛みを与えたりと、体を張ることで"おおきなおともだち"を
データ的に言えば、敵の移動を妨害しやすくする<<ブロッキング>>の技術を習得しており、これによって現在のところ、戦闘からノーリスクで逃げおおせるような真似を許していない。
"
一方で私の方も、"
(防護点27って何装備してんですか!? 一番硬いので14ですよ!? 反則だ反則ぅ! 味方だからいいですけど!)
多芸多才な私に最も頑丈な"
とはいえ、そんな我々をもってしても余裕があるわけでは無い。
腕足が時々全方位に射出する毒の血や鋭い骨は避けようがないし、魔力の篭った破壊的な一撃を回避するにも運がいる。当たれば、"
ドワーフのデスマスクが現れた腕足にヴァレンタインは体を持っていかれそうになるし、身を捻って避けようとした渾身の一撃は"
一発逆転。腕足が暴れる限り、その言葉が常にチラついている。
終いには、赤子の巨頭が唱える【サンダーボルト】に胴体の口々が詠唱する【アシッドクラウド】が、装甲や回避などどこ吹く風といったように皮膚を突き破って血を啜る。
3人が血を流し痛みに身を捩る度に赤子の巨頭は嗤い、全身の口々が三日月のような笑みと嗤い声を滲ませるのだ。
猛攻が鎧を掠める瞬間、毒が体を蝕む瞬間、呪詛に体が竦む瞬間、かつてはまともであったヒト族のデスマスクさえも、死と破壊の時を垂涎の眼差しで望んでいる。
そして、一人欠ければ、この怪物の移動を妨害することは叶わなくなり、悠々と戦場から立ち去って人々を虐殺し始めるだろう。
無事な者などいないが、戦いを通じて思い知らされた怪物の本性を前に、皆一歩として引かず、闘志を燃やして敢然と立ち向かう。
「ヴァレンタイン!」
「――! 心得た!」
すれ違う一瞬、私はヴァレンタインの武器へ錬金術の金色の粒子を纏わせ、【エクステンドヒーリング】による味方の回復と3本の腕足へ攻撃を済ませる。
"おおきなおともだち"も傷ついた3本の腕足を身をよじるようにして逃がそうとするが、ヒーリングポーションを早飲みした"
彼女の黒い剣は腕足を深々と切り裂き、一目でわかるほどの大きな裂傷を刻む。
「ぎゃぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
甲高い悲鳴を上げた"おおきなおともだち"の足に、金の粒子を纏ったヴァレンタインのクレイモアが快刀乱麻の一撃を放ったが、足が徐々に再生して機能停止を食い止めた。
その足さえ機能停止に追い込めば、怪物は体重を支えきれなくなり、頭部や胴体に攻撃を当てられるようになる。勝利への道筋がもうすぐ首を垂れる。
「畳みかけろッ! 押し切れる!!」
怪物は馬鹿の一つ覚えのように【アシッドクラウド】で攻撃し続けていたが、足さえ使えなくしてしまえばこちらのものだ。
私は打たれ弱いヴァレンタインへの回復を回復用のジェムを砕いて済ませ、回復の代わりに魔力を良く制御した【ファイアボール】で傷を焼き焦がした。
"おおきなおともだち"の真下にいた3人は、膝に当たる部位をガクリと曲げた怪物の下から素早く逃れつつ、常に体表を切り裂き攻撃の手を緩めなかった。
ヴァレンタインが大きく胴を裂きながら2本の足に再起不能な傷を負わせ、"
「い"ぎゃっ! い"ぎゃあ"ぁっ! い"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
怪物は5つの腕足を引きずり、胴体から伸びる沢山の食指と残り2本の腕足で巨体を動かし、紐のような首をもたげて3つの獲物を睨んだ。
「ギギギイ"イ"イ"ィ"ィィ……――――!!」
呪われた絶叫が身体を蝕み、相も変わらず【アシッドクラウド】を連打するが、巨大な腕足による連撃が無いお陰で脅威はほとんど取り去られた。
あと一息というところで
押せば勝てると誰もが思った瞬間、またしても【アシッドクラウド】が3人の全身を灼き、【サンダーボルト】が身体を貫いた。
ヴァレンタインはほんの一瞬だけ白目を剥いて意識を飛ばしかけた。
彼はギリギリで踏みとどまっており、子供が小突いても気絶させられるほどの境界線上に立っている。しかし、既に手持ちのリソースは尽きかけていた。
「ヴァレンタイン!」
「っ……!」
胴体の口が紡ぐ魔法の詠唱を息の根ごと止めるべく、
「しくじった……!」
『くっ! ヴァレンタイン!』
「……彼女のため、こんなところでは死なんッ!」
最後っ屁に等しい攻撃でも死に瀕する危険がある。安全策を取って、ヴァレンタインは後始末を二人に任せてしまえばいいし、それをしても私たちは決して責めないが、彼は逆に飛び込んだ。
ヴァレンタインは引きずられた腕足を踏み台にして飛び上がり、クレイモアを胴体に深く深く突き刺す。胴体の異様に長い食指に捕まる前に素早く大剣ごと飛び退き、こじ開けた傷跡に【ファイアジャベリン】を叩き込んだ。
瞬間、可燃性のガスか何かに引火したのか胴体の中から凄まじい爆発音が響き、ヴァレンタインが穿った穴や体表の口から炎が飛び出した。
「わーお……」
「お喋りな
彼自身、軽口を叩けるほどに勝利の手ごたえがした。
残った赤子の巨頭が光線の魔法で3人を狙い、透明化したりマナが込められた腕足で長身の二人を殴りつけたが、最早絶命に至る一撃は無い。
「あとは早い者勝ちですよ、っと!」
『悪いな、首は貰ったぞ』
それでもまだ、巨頭はしぶとく口を動かして呪いの言葉を紡ごうとしていたが、"
しかし、頭も胴もとっくに壊れたというのに、残った2本の腕足は元気に跳ね回っていた。とはいえ、もう大した脅威でもなくなったのでさっくりと処理された。
「はぁ、はぁ……」
『ふぅー……』
ヴァレンタインも"
終わってみればたったの11ラウンドと、実時間にして2分未満でしかないが、毎ターン3度の魔法と2度の強力な物理攻撃(たまに範囲攻撃)で攻め立てられた身にしてみれば、凄まじい攻撃密度だったとしか言えない。疲れるのもやむなしだろう。
私は全然平気ですが。
「これにて一件落着、とはいきませんよね」
「……ああ、後始末が残っている」
「
『……ヘルメイラ』
「ヘルメイラはこの後どうします?」
『火事の方へ向かうつもりだ』
「そうですか。……まぁ回復くらいはしますよ」
体力を回復した二人が立ち上がると、鎧や甲冑の隙間に溜まった血がびしゃびしゃと落ちてきた。私もちょっと鎧の中の服を絞ると、同じように血が滴り落ちた。これ全部自分の血かぁ……。
『まだ西岸地区に悪魔どもが居るかもしれない。来ないのか』ヘルメイラの声は心なしか冷たかった。
「逃げた悪魔に家族を殺されちゃたまりませんからね。この辺を見張ってますよ」
「……悪魔か。あの女、確かサリーと名乗っていたな、知り合いか?」
「んなわけあるかい。あんなサイコ野郎……」
『それはそうだろうな……』
「その割には目を付けられていたようだが」
「……疑ってるんです?」
ヴァレンタインは曖昧な笑みを浮かべ、一応な、とだけ答えた。
市長の護衛という立ち位置の男だ。聞かざるを得ないのだろう。
『奴を倒さない限り同じようなことが起こる。シムロンとしてはどうするつもりだ』
「私に聞かれてもな。……市長もお考えだとは思うが、奴は広域に手配されるだろう」
「あ、もしかして似顔絵書いてビラとか配ります? お安く配達しますよ」
「……市長には言っておこう。では、そろそろ行くとするよ」
『私も征く。西岸地区で悪魔どもを見つけ次第倒さなければ』
ヴァレンタインは戦闘に巻き込まれてボロボロになった旗を回収し、部隊の面倒があるからと足早に去っていった。
ヘルメイラはフクロウに似た甲冑の表面に青いラインを走らせ、空を飛んであっという間に東へ飛んでいく。
二人と別れた私は家に戻り、プリースト技能を6レベルに上げて無限化した強化を自分に施す。能力値を上昇させる
私は大体114回依頼をこなしているので、1/5だ。ヤバい。
……前から思っていましたが、神聖魔法ってのは神から奇跡として魔法を授かっているので、無限拡大みたいな真似ができるとはあんまり思わなかったんですよね。
神の力が枯れ果てる様子はないので、やっぱり私の"解釈"が無限に等しいマナを生み出しているということになる。
何だってこんな力があるんでしょうね?
そんなことを考えながら夜明けを迎える。
西岸地区は朝になっても黒い煙をもうもうと吐き出しており、私はそれを屋敷の塀からボーッと眺めていた。
悪魔の襲撃は無かったし、周囲の探索もしたがそれらしい痕跡はなかった。
事態は一夜を明け、終息した。
屋敷に掛けた幻覚を解除しながら、地下の物置から家族を引き上げる。
「ユウラン……! 無事だったか!」
「そりゃ使い魔が生きてますから。ほら、後がつっかえてるでしょ」
入り口を塞ぐ父をどかして母と妹を引き上げて、あとはホムンクルスに任せる。
私を認識した母は、声を震わせながら私を抱きしめた。
「ああ……ユウラン、いきなりいなくなって、心配したのよ」
「心労を掛けてごめんなさい。でもまぁ、屋敷くらいある怪物も余裕で倒せるし」
「ユウラン? どうしてこんなに血の匂いが……」
鎧の表面をペタペタと触る病的に細い手が、鎧の隙間スッと差し込まれる。
「血だらけじゃない!」
「なんだと!?」
「あの、体力はもう回復してますから……」
泣いた病人と親にはそうそう勝てないものだ。
力づくで抵抗することはしたくないので、私は大人しく連行されて女性の使用人と母にひん剥かれた。
当然、私は珠の肌の美少女なのでどれだけ傷ついて回復しても痕跡なんざ残らないのですが、それを見たリーネが安心して体調を崩した。
地下の物置という空気のよろしくない環境にいたのだから当然ではある。一応、【キュア・ディジーズ】や【リムーブ・カース】を試したが効いている様子は無い。【ブレス】で生命力と筋力を向上させたが、これもいつまで保つか。
「
真っ白なシーツに体を預けたリーネは、それはもう嬉しそうに微笑んだ。
「それは……そうですよ。天才ですから」
「見ない間に、また成長したのね。子供の成長って早いわ……」
握りしめた母の手は少し乾燥していた。
あるのか分からないが、保湿クリームとかが売っていたら今度買ってこよう。
それに、あんまり心労を掛けるのもよくないし、これからは顔を見せるようにもしよう。
「母さん、今度……」
「?」
見上げた母の顔は少し老けていた。昨日あんな事があったせいかもしれないが、肌が青白く、美しい頃の面影を残していた金髪はあまり手入れされていないようだった。やつれて顔の皺も増えている。まだ28歳の女性だというのに。
「今度、こんど…………」
今度って
美容に効く品を買ってくると言って、母は何と思う?
私の声は震えていないか?
「髪の結い方、教えてください」
「そうね……ユウランの髪の毛はとってもサラサラで教え甲斐があるわ。ほら、後ろ向いて?」
頬を伝った指が優しく髪を梳く。
「だっ、駄目です……」
「あら、どうして?」
「まとめる物が、無いので。今度買ってきますよ、母さんの分も」
「それじゃあ、また会いに来てくれる?」
「……はい、音沙汰もなくて、ごめんなさい」
「いいのよ、ユウランの好きにやって。あなたが私を追い抜いて成長しているのが分かって、とっても安心したもの」
すっかり安心したような母の顔に絶望した。
だって、まるで、諦めたように笑っているから。
***
『彼女の成長速度は異常だ』
《おう。あの"ポーラ"にしちゃ性格も尖ってたしな。天然の鬼才ってやつか》
『……転生体でなくとも、彼女のような者がいるのは心強い』
《だッはッは!! 違ぇねえ! 妙なやつも現れたしなぁ》
『あぁ、あのサリーとかいう女。私一人では到底勝てそうにもない』
《……おうよ。歴代の
『歯痒いな……己が身の未熟故に、冥族を狩り尽くせぬ』
《仕方ねぇ。俺たちに付いてこられる奴なんざそうそういねぇからな》
***
母を見舞った後は、アルファス、ベータの所へ行く。
二人も母と同じく別館の一室で寝かされており、私が入るとベッドの傍で見守っていたガァマが立ち上がった。
「ああ、いいですよ座ってて。調子はどうです?」
「私はね~、1か月くらい休めば問題ないって~」
悪魔に脇腹を射抜かれたベータは、顔だけをこちらに向けた。
診断結果は母を定期的に診ている医師によるものだ。今朝、地下から出てすぐに、父が呼んでくるよう指示していたそうだ。
とはいえ、外科手術をしたわけでもないし、私がいくらか魔法で回復したものの、失った体力はそうそう戻らない。
「分かりました。ゆっくり休んでください。アルファスはどうです?」
「……腕は無くなっちまったが、まぁ元気さ」
「そうでしたか。あなたたちが見張りをしたお陰で家族に被害が及びませんでした。まずは私から手当てを出しましょう、一人15000R、受け取って下さい」
「!?」
「腕が治るまでの期間は面倒を見ますし、この場所が嫌なら宿代生活費くらいは出します。部位欠損が治せるようになるまでは時間を要しますが、2年は掛からないでしょう」
呆然とする3人の前にリーンの詰まった袋を3つ置く。
「仮の主の期間はあと1か月ちょっとですが、この件に関する3人への支援は腕の完治まで続けましょう。他に何かあります?」
「私からよろしいでしょうか」
「はいどうぞガァマ君」
「わたくしめをあなた様の従者にしていただきたく」
「えっ」
そう言うやいなや、緑髪の眼鏡ホムンクルスは膝をついて頭を下げた。どこかの作法なのか知らないが、中々様になっている。
とはいえ、突拍子もない提案に思わず思考がNow Loadingだ。
命令を聞く人間が居るということは結構便利だと感じている。
例えば、配達の仕事の募集とか物資の買い出しに時間を取られずに済むし、単純に前交渉に使える窓口が一個増えるだけでもやれることの幅は広がる。
大昔の主を探しているとか何とか、そんな感じの事を聞いた覚えがあったのだが……。
「いや、私はいいんですけど、どういう心境の変化ですか?」
「そうだよガァマ~、前の主の事はどうするのさ~」
「考えてもみなさいベータ。朧気ながらも大英雄と知っている方の痕跡が失われているのです。それに、この方であれば前の主も許して下さる」
(なんだか凄い評価されてるぞ……)
ホムンクルス3人が
父に、3人に対する私の対応方針を伝えて、生活費を押し付けた頃には昼になっていた。
屋台で買った昼食を腹に放り込んでから消耗品の買い出しを済ませておく。なんだかんだで3万Rくらいは消耗品で吹っ飛ばしたので、錬金術協会や魔道具屋に赴いて大人買いだ。
遺跡の戦利品などは"稲妻の鉄槌亭"で精算してもらった頃には夕方になっていたので、市外に出て探し屋のダーシャに教えてもらった遺跡へ飛ぶ。
魔法機器文明期の初期にできたという遺跡で、表層は野生動物が棲んでいるような有様だ。
森に呑まれた石造りの建造物であったので、魔法機器を中心とする文明の遺跡とはとても思えないが、さらに前の時代の影響を色濃く受けているのだろう。造りは堅牢そうにも思えたが、1500年以上は経過しているので所々ヒビが目立っているし、何なら一部は崩れている。
内部には人がいた痕跡どころかロクな物すら残っていない。せいぜい動物の骨が落ちているくらいだ。
削られたスペースを見てここは長椅子代わりにしていたのかな、とか考えるくらい何もない。
しかし、注意深く探索すると、埃に埋もれた一枚岩の地面に僅かな切れ込みが入っていた。吸盤があれば簡単に外せたのだろうが、生憎そんなものを持ち合わせてはいない。
【テレキネシス】で代用して石蓋を外すと人一人がやっと通れるくらいの狭い地下階段が見つかった。ゴーレムを置いて、私以外を通さないよう命令して、突入。
長い階段の先は大空洞に繋がっており、本来在る筈だった地下階段が地殻変動でどこかへ行ってしまった形跡がある。
ということは、魔法機器文明期の前である魔法王たちの時代の物品が見つかる可能性は低いし、なんなら金目の物自体が少なそうだ。その分、経験点になりそうな魔物はわんさかいそうだ。
そういうわけで地下世界を探検すると、
巨大な一つ目に翼と触手が生えたレベル11の怪物も居たし、なんなら地殻変動で移動したであろう何かの部屋もあった。見つかったのは1800R位に換金できそうな銀細工だったが、まぁゴミみたいな遺跡にしてはそこそこの成果だ。
経験点は1180点と、隙間時間で行うにしては多めな方だ。
明け方には"稲妻の鉄槌亭"に戻って就寝。
8時に頃に起床して酒場に降りると、市長ロームレッダとヴァレンタインがちょうどのタイミングで店に入ってきた。
「やぁ、ユウラン嬢。先日の戦いの疲れは取れたかな?」
「そうですね、昨日はちょっとゆっくりしましたよ。あ、ボーマン、これ買い取って下さい。それと朝食を」
「いっぺんに言うんじゃねぇ!」
素材の入った袋を持ってカウンターの奥へ引っ込んでいった店主を見送ると、横にロームレッダが座った。艶のある長い黒髪からは優雅な薔薇の香りが漂う。
「市長、今日は一体何の用事で?」
「この前の功績の話さ。君には依頼をしていなかったが、よくぞ市民たちを守ってくれた。ヘルメイラ嬢には固辞されてしまったが、どうか受け取ってほしい」
と、袋に入ったリーンを手渡される。額は30000R、剥ぎ取り分の額を除いても多めの報酬だ。
「勿論です。何かと入用ですから」
「それはよかった。君のように有能な冒険者に正当な支払いができなければ、都市中の冒険者に後ろ指をさされてしまう」
「ですか。これを渡すためにわざわざここまで?」
「いや、もう一つ特別な話があるんだ」
ロームレッダは爽やかにはにかみ、私の手をそっと握る。
「私のために力を振るってくれないか」
「専属ってことですかね? 申し訳ないですが、優先する用事があるので」
「母上の治療のことだろう?」
「…………」
母が何かを患っている事については掴んでいるようだ。あらかじめ調べていたのか、それとも戦いの後の短い期間に調べ上げたのかは不明だが、シムロン市のトップに良くも悪くも目を付けられたのは間違いない。
脅してくるのか……?
私が表情を引っ込めると、ヴァレンタインが真後ろに立った。
「下がるんだ、ヴァレンタイン」
「……ユウラン・アルシップス、できればその物騒な殺気を鎮めてほしいのだがね」
「彼女が怒るのは当然だ。……2度も言わせてくれるな」
「……」
ロームレッダは彼を一瞥もせずに――
ヴァレンタインはあからさまな警戒態勢を解いて、一歩二歩と距離を取る。尤も、護衛である以上、十二分に彼の間合いではあったが。
「市長、そういう事情で忙しいのです。短時間で終わる依頼を2,3日に30か40個ほど投げていただければ、すぐに専属というのもやぶさかではありません」
「……ん?」
市長が怪訝な顔をする。
「下水道掃除のような簡単な依頼を大量に頂けるのなら、契約いたしましょう」
「すまない、整理させてほしい。ユウラン嬢、君のお母上の治療のために……冒険者をやっているのだろう?」
「ええ。金貨を積み上げて神官を呼ぶより、苦行で自分を鍛えた方が早いですから」
「…………恐るべき天才少女、だな。いや参った! それで、下水道掃除でいいのかい?」
「別に、それに限りませんがね。店を通して依頼していただければ、拘束時間が短い限り、お受けしますよ」
「私とお茶をしていただくことも?」
「それが依頼なら」
ロームレッダの茶目っ気あふれる問いかけにも姿勢を崩さず答える。
私の返事を聞いた彼女は満足げに頷くと、鷹揚に"稲妻の鉄槌亭"を後にした。
「ほら、朝食だ。で、何だって?」
「運がよかったら依頼を出してくれるそうです。それで店主、今日の依頼は?」
***
「なぁ、ヴァレンタイン。彼女をどう見る?」
「……敗北するつもりはないが、敵に回せば一気に喉元を喰い破ってくるだろう」
「それ程までに鋭い牙を持っていると思うか?」
「…………そうは見ていないと?」
「ああ。単に人付き合いが苦手なだけさ。可愛いものだよ」
ゆうらんちゃん(……一人でもギリギリ勝てそうなのがいやらしい)
ふたり(なんだこのょぅし"ょ……)
タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?
-
ちんちんはやめろ
-
主人公の属性押し出せ
-
そのままでいろ
-
なろうみたく長くしろ
-
副題付けろ
-
もっと中二病にするとかさぁ