私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

17 / 26
第十話「六色同盟」

***

 

 これから暴虐の限りを尽くすにあたって、司祭からこの都市――冥都アルカンハイトの要所について教わった。

 

 最も重要な場所は交易所だろう。アルカンハイト城近くに作られた河川港の側では、この都市の生命線とも呼べる食料品の供給が行われている。そこに設置された交易所は実質的な心臓部だ。

 

 交易所を完全に破壊することは簡単だが、そうなると冥族のみならず奴隷や浮民が真っ先に割を食うのでナシだ。

 

 次は各勢力の拠点だ。"煌黄(こうき)剣"アルカンハイトというゼルド・ノーブルが治めているこの都市には、当然だがいくつもの勢力が存在する。戦国大名に対する国人のようなものだ。

 

 我々が潰したジェネラルテイルエイプの勢力はその一つであり、他にもアルカンハイトの弟が築いた勢力、オーガジェネラルが率いる勢力、戦神ラギダを始めとする混沌の神々に仕える神殿勢力、交易を一手に担うタツビトリの商人の勢力、食料品を供給する海賊の勢力が存在する。

 

 前半3つが遠慮なく潰せる勢力で、活動拠点も教えてもらった。

 

 あとは、重要人物などを閉じ込める監獄。高級品のヒト族を生産する人間牧場。読んで字のごとく奴隷市場。城下町と城を隔てている巨大な門、通称"竜の顎"。エトセトラエトセトラ。

 

 聞くべき情報は聞けたので、少し遠回りをしながら監獄を目指す。

 

 移動中にガァマが更に配達の依頼を終えたため、1000点と能力値成長をゲット。無事プリースト技能が13レベルとなり、目標達成だ。

 

 感動もクソも無いが、むしろ本番はここからだ。

 

 信者の頼みを放り捨ててプリースト技能を神に剥奪されたら元も子もないし、そもそも絶対に治る保証もない。信者は助けるし、経験点も稼ぐ、両方やらなくちゃならないのが私のつらいとこだ。

 

 230点、90点、180点と死体を作りながら監獄へ到着。

 

 2メートルはある高い鉄柵で囲まれた四角い建物が監獄だ。出入口の前にはミノタウロスが2体待ち構えており、見回っている冥族もいる。

 

 当然、正面突破だ。

 

「行きますよ」

「ああ、助けられる命は一つでも多い方が良い」

 

 門番を10秒足らずでミンチに。140点。私は炎のブレスで鉄柵を柔らかくしてから、マナを通したポールメイスを思いっきり叩きつける。

 

 ガンガン響く金属音に駆け寄ってきた冥族はニースがあっという間に両断してみせる。70点。

 

 もう60点稼いだ時には、鉄柵は歪みに歪んで、ヒトが2,3人通れそうな穴が出来上がった。ついでに柵の扉は【アンロック】で開けておく。

 

「脱出経路ヨシ!」

「次は監獄の扉だ、頼むぞ」

 

 【アンロック】で金属扉にかかった鍵を解除し、中に押し入ると警報が鳴り響き、ちょうど巡回していた冥族と目が合った。

 

 錠を解除する魔法であって、罠を解除する魔法じゃないんですね、と思いながら血の華を咲かせる。40点。

 

 牢屋は奴隷市場に並べられる奴隷の仮置き場になっているようで、個室大部屋問わず、沢山のヒト族が収監されていた。

 

「レジスタンスは犬人の男とヒトの女だったな。白い耳と赤い髪が特徴らしいが、アテになるか?」

 

 どのヒト族も身なりは汚れており、髪の毛はくすんでいる。

 

「さぁ? ただ、大部屋にぶち込んだりはしないでしょう。反抗しにくいよう個室に閉じ込めていると思います」

 

 全員を解放しても食料や護衛の問題で脱落するのだから、今回は目的の人物だけを連れ去る。

 

 施設の奥まった場所にある個室を覗くと、壁に枝垂れかかった犬人の男がいた。ただ、足音がしているというのに、こちらへ反応一つ返さない。

 

「あなたがレジスタンスのパーシーですね? 解放しに来ましたよ」

「……」

「【サニティ】」

 

 HPがあるのは見て分かったので、正気に戻す魔法を発動すると驚いて顔を上げた。

 

「突然なんだ!?」

「レジスタンスのパーシーですね?」

「……? お前たち冥族に話すことは無いっ!」

 

 私とニースは顔を見合わせた。

 

 彼女はフクロウのようなシルエットの全身甲冑で、私は黒い竜鱗の面頬を付け長い角を生やした竜化状態だ。冥族だと思われても当然といえば当然か。

 

 素顔を見せて説得すると彼は一転して頷いた。

 

「それじゃ、開錠しますね。【アンロック】」

「ユウラン、待――」

「さぁ、出てください」

 

 ピリリリリリリ!

 

 再び警報が鳴る。どうやら扉には警報の罠が仕掛けてあったらしい。すんません。

 

「ええと……時間短縮です」

「パーシーとやら、歩けるな? 急げ」

 

 もう一人を探して連れ出し、巡回している兵を倒す。70点。

 

 スッタカと監獄を走るも、出口にはミノタウロスと赤のゼルド・ノーブルが待ち構えていた。130点。

 

 監獄を出る前に【イリュージョン】の魔法で上級冥族の姿を自分たちに被せる。ゼルド・ノーブルとかミノタウロスに化けた我々が外に出ると、巡回のコボルトたちがこちらを見てきた。

 

『あ、どうしたんですか?』

 

 私は唯一の男であるパーシーにアイコンタクトをする。

 

『貴様ら! 奴隷が逃げたぞ! どこへ行った!?』

『え? いやヒト族なんて……』

『逃がしたのか!? 裏切り者め!』

『たわびゅ!?』『ぱぎゃ!』『もぱっ!?』

 

 30点。濡れ衣を着せてヒトを見ていない(・・・・・・・・)冥族を始末、自然な形で外へ飛び出した。

 

 我ながら惚れ惚れする作戦だ。

 

 適当な場所で魔法を解除し、隠されし町へパーシーとヒトの女性を連れていくと、依頼達成で経験点が手に入った。

 

「ありがとうございます……」

「いえ、当然の事をしただけです。我々は冥族の数を少しでも減らしてから帰投します。この都市のヒト族を救うにしても、軍が必要になりますから」

 

 レジスタンスに入ってくれよ!みたいな勧誘は全て断る。カスみたいな組織でクソみたいな行動制限を受けながらゴミみたいな都市で抵抗運動をするつもりは全くない。冥族を殺すだけ殺して外から軍を連れてくる方がマシだ。

 

 現在時刻は大体14時。まだまだ時間に余裕がある。

 

 手始めに、我々は神殿を襲撃した。混沌の陣営――要は冥族側の神を信奉する連中を片っ端から潰す。不死神の信者が【サモン・アンデッド】で物量作戦を仕掛けてきたりもしたが、格下の物量などまるで意味が無いし、他の神殿の連中は普通に死んだ。魔晶石などのリソースを幾らか吐いたが、2840+2230+4890点をゲットだ。

 

「150は越えましたね」

「ああ。次はどうする?」

 

 愛用のパイプをニースに貸し、マナの回復を助ける。

 

 神殿を焼き討ちしたので、冥都アルカンハイトは昼間らしからぬ喧騒に包まれていた。

 

 その混乱の間隙を抜け、次の勢力の所へ向かう。

 

 領主アルカンハイトの弟の屋敷だ。

 

 門番を倒して乗り込み、音を聞きつけた見張りや兵隊を片っ端から斬り伏せる。美しい庭園を通って屋敷の扉を蹴破ると、メイド服を着た奴隷が悲鳴を上げた。上位冥族の奴隷は、まだまともな暮らしができているものの、悪いが今日で終わりだ。

 

 高レベル特有の高達成値【ディスペル】で魔法の首輪の"魔法"の部分を消去。屋敷の外へ逃げるよう脅しながら駆け巡る。冥族の血しぶきが真っ赤な絨毯を汚し、扉を破壊する音や原始的な咆哮だけが闘争の世界を満たしていた。

 

 屋敷の主であるアルカンハイト弟を探して廊下へ飛び出すと、通路にあふれ出した黒い隊伍が二人を待ち構えていた。両方向から殺到するオーガやシャットマンの群れに対して、二人は背中を合わせて片方の突撃を真っ向から粉砕。片っ端から斬り捨て黒い壁を次々死体に変えていく。

 

 とはいえ、全身数値人間の私は魔法をチマチマ喰らう程度で済んでいるが、ニースの方は物理的に回避し得ない攻撃を何度も喰らっている。

 

(奴隷のヒトもいますし、なるたけ避けるつもりだったのですが……消耗が激しくなる前に始末しますか)

 

 通路を埋め尽くす冥族に向かって炎のブレスを吐くと、消し炭が大量生産されるとともに屋敷へ引火し、轟々と燃え盛る。片側を始末してからニースと肩を並べ、迫る炎よりも早く敵を磨り潰す人間扇風機と化した。

 

 荒れ狂う冥族を殺し、殺し、殺し、屋敷の入り口の大広間へ戻ると、壁をぶち破りながら1匹の竜が現れる。

 

 現れたのはイエロー・バイカウント(レベル13)――激怒に身を震わせるアルカンハイトの弟だったが、あえなく10秒で斬り殺される。3170点。

 

 屋敷の炎が更に強くなると、私たちは外に飛び出た。

 

 黒煙が空に立ち上り、屋敷が音を立てて崩れ落ちる。

 

 橙の光に照らされながら、ニースは笑った。

 

「ふふっ……ははははは!」

「えっ、何です急に」

「いや、な。隣で共に戦う者がいる、それを思うとつい口に出てしまった」

 

 インテリジェンス・アーマーのウラエヌスは居るが、長い間ある意味一人で戦ってきたのであろう。ニースの声は弾んでいた。

 

 逃げ遅れた下級冥族が燃え盛る木材に潰される。奴隷の中には斬り伏せられた竜に縋りつく者もいたが、ある程度は逃げ延びただろう。

 

「じゃ、撤収しますか。次は――」

 

 と言葉が出かかった瞬間、大きな影が頭上を横切る。燃え盛っていた屋敷の炎が一回り小さく灯り、私は背筋に這いよる寒気に身震いした。

 

 大きな影は奴隷が手入れしたであろう美しい庭園、その中心にある噴水の真上で止まると、凍り付いた噴水をバキバキと押し潰し――一体と一人が姿を現した。

 

 一体は竜だ。先ほど炎上した屋敷と同程度の巨体、青い鱗には霜が降り、空気が凍り付くような冷気を発している。かなり老成した個体であることは容易に想像がついた。グレータードラゴン(レベル18)といったところか。

 

 もう一人もまた、竜であった。人型の竜だ。竜の顔、リザードマンとはまた違うがっしりとした鱗の身体、鋭い爪に長い尻尾、皮膜の翼、光を反射しない漆黒の鱗。――パラディンだ。神話に語られる混沌竜が使命を背負わせ受肉させた存在。

 

 その混沌竜のパラディンが、こちらを睥睨(へいげい)して口を開いた。

 

「忌々しい小ネズミが2匹、我らの領域で騒いでいるかと思えば……思わぬ掘り出し物だな」

「……あなたが件のアルカンハイトですか? ゼルド・ノーブルだと聞いていたのですがね」

 

「馬鹿め、奴は既に死んだわ」

 

 黒のパラディンは嫌な笑みを浮かべて、自身の存在を知らしめた。

 

「我は混沌の第一の僕、ヴァルムリルカルドス。彼奴ら"三獄頭"どもの支配領域は、今や"六色同盟"のものだ」

 

「"六色同盟"、ですか……そこなドラゴンもヴァ、ヴァ……あなたの下僕か何かで?」

「ヴァルムリルカルドスだ、ユウラン」

「よくパッと言えますね」

 

 ついでに、小声でささやきながら、彼女へ小さな瓶に入った酒を渡す。コンバージョンセイク、直訳で変換の酒だ。

 

「ダメージをマナで打ち消せます。効き目は1回きり」

「助かる」

 

 敵は会話に興じる余裕があるみたいなので、思う存分にその隙を利用させてもらう。

 

「こやつは"氷獄蒼竜"ゼースィルカイダス・ダンリスルス、"六色同盟"の青を司るグレーターブルードラゴンだ」

『いかにも、炎の人竜(ドラグニカ)とヒトの戦士よ! 長い語らいは不要、貪るには悪くない馳走よ』

 

 ゼースィルカイダスはドラゴン語で尊大に話すと、巨大な牙の隙間から凍てつく吐息を漏らす。いや、このドラゴンそのものが巨大な冷却装置のようで、そこに存在するだけで気温がみるみるうちに低下していく。

 

 私は話を聞きながら変換の酒を呷り、魔物知識判定に使う帽子を被り、能力を見抜いた。レベルは20、小神(マイナーゴッド)一歩手前の格で、対策なしに挑めば苛烈な攻撃の前にあっという間に氷の彫像にされる。

 

 激戦に備えて貯めていた経験点を消費する。レンジャー技能のレベルを一気に9まで上げ、ポーションを手番消費無しで飲み干せるようにした。回復手段の確保が必須になるだろう。

 

 ニースは兜の一部を開き、そこへ瓶の口を差し込んで変換の酒を飲み干す。

 

「まぁ待て。戦士の方はともかく、人竜(ドラグニカ)の方は、是が非でも我らの陣営に加えたい」

『ほう? 奴がか』

 

「は?」

「共に来い。来ぬなら貴様を追って街を焼き、ヒトを喰らい、地の果てまで追い詰めよう」

 

「貴様のような無法者に戦友(とも)を渡すものか。我が黒鉄の剣ガイアルにて、"六色同盟"とやらに楔を打ち込んでやろう」

「勝てるとでも思っているのか?」

 

 ニースが黒剣を構えて戦闘態勢に入る。

 

 ヴァルムリルカルドスが嘲笑うように両手を広げ、無手の手を見せつける。

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"は両翼を広げて飛び立つ準備を整えた。

 

 場に殺意が満ちる。

 

『蘇らせれば、殺しても構わぬだろう?』

「ああ、頭や脊髄を壊してくれるな? 蘇生できなくなってしまう」

 

「…………ニース、ヴァルムの方は倒し易い。ブルードラゴンの方は不味ければ逃げよう」

「ああ。ゼースィルカイダスは底が見えない」

 

 ヴァルムリルカルドスはレベルこそ15だが、HPは116で防護点8。ソーサラーとコンジャラーの魔法を13レベルで行使でき、神聖魔法は15レベルで行使できる。

 

 確かに強いが、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"と比べればあまりに脆弱であり、何故こうまで威張れるのか理解に苦しむ。

 

『ククク……我を前にやる気になったか! では、我が冷気の抱擁で震え凍え()くといい!』

 

 赤いジェムを砕いて反応速度を爆発的に向上。先制を取る。

 

 【フィールド・レジスト】で冷気への耐性を強め、素早い足さばきで漆黒の竜人に近寄り戦斧を振りかぶる。竜人は近接戦の能力は低く、容易に深手を負わせられた。

 

 それと同時に、ニースと自分の武器を【ファイアウェポン】で強化。再びの戦斧の一撃でヴァルムリルカルドス(漆黒の竜人)は胴体を両断されて死んだ。

 

 だというのに、ゼースィルカイダスは目を細めるだけで動じることすらない。むしろ、単独になったことで戦いやすくなったとでも言わんばかりに巨大な翼を振り下ろす。

 

「うぉぉぉおおおおお!!」

 

 一度の羽ばたきで巨体が宙に浮くと、ニースが気合の咆哮と共に飛び上がって全力の一撃を叩き下ろす。が、巨体に見合わぬ軽やかさで炎の黒剣をひらりと避けた。

 

 頭上の巨竜を見上げたニースは、一瞬の交叉であったにも関わらず、近づくだけでも身体が凍り付く極低温であると気付いた。魔法機術の粋を集めた鎧であるウラエヌスの断熱機能は、運よくその冷気を寄せ付けなかったが、ユウラン()はそうはいかない。

 

 水・氷属性の攻撃は弱点(追加ダメージを喰らう)なのだ。

 

「気を付けろユウラン! 奴の身体は!」

『クハハハハハハ!! 地を這う虫けらどもよ! 我が"氷獄"の異名、身をもって味わうがいい!』

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"はほんの5メートルだけ上昇し、自身の冷気によって凍った空気を纏い、液化した空気をも周囲に対流させている。

 

 そして凍える臓腑から噴き出した冷気を二人に浴びせかけると、体を回転させてその巨大な翼と尻尾を叩きつけるように機動!

 

 ユウラン()は冷気に蝕まれながらも巨体の一撃を避けようとするが、空に居るとは思えない機動力と体に纏った氷塊によって目算がずれ、翼に体が掠ったかと思えば尻尾の一撃で弾き飛ばされる。宙返りで受け身をとったが血の塊を吐き出し、手足のかじかみに毒づく。

 

「がはッ! クソァ……!」

「無事か!?」

「ええ、それより少し離れて! 炎を浴びせて、奴の技を挫く!」

 

 あまりの低温に戦場に霧がかかる。

 

 空を飛ぶ"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"は液化した空気の水流と体表面で凝華した空気を操作し、致死的な氷の渦で空間を飲み込もうとしている。彼の必殺、"フィンブル・メイルシュトローム"だ。

 

 ヒーリングポーションを素早く飲み干し、緑のジェム(【パラライズ】)を翼の片方に投げ当てて瞬間的に麻痺させる。それから【バーチャルタフネス】でニースに疑似的な耐久力を与え、5m上空の"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"に強烈なブレスを浴びせ掛ける!

 

 液化空気と凝華空気に炎を浴びせると、彼の周囲にある潮流は霧散した。炎を浴びせなければフルパワーのフィンブル・メイルシュトロームが炸裂するところであり、初手で能力を見破らなければユウラン()は今頃かき氷になっていたことだろう。

 

『ぬぅ! 初見で破ったか!』

「【レジストボム】!」

 

 ニースの鎧から飛び出た魔法の爆弾が炸裂し、冷気への耐性を周囲にコーティングすると同時、跳躍して麻痺した翼に炎の剣を振りかざす。

 

『グゥ!?』

 

 炎は"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の氷を溶かしながら鱗を裂き、皮膜の翼に穴を開けた!

 

 纏っていた氷塊は溶け落ちて落下するが、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"はすぐさま新たな氷塊を纏う。

 

『我に傷を付けるか! 【メテオ・ストライク】!』

 

 小さな隕石が降り注ぐ中、再び纏った氷で一回り大きくなった"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"が地面スレスレの軌道で頭から突進、私を角で弾き飛ばし、全身で轢殺しようと巨体をバレルロール!

 

 翼でニースを強かに打ち付け、転がされたユウラン()を翼と尻尾で潰そうとするも、素早く回避する。

 

『ふん、なるほどな』

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"は2度の激突で我々の特徴を見抜く。恐らくこう考えているのだろう、ニースは異常に硬く、ユウランはすばしっこいが脆く器用で厄介だ。

 

 彼が冷静に算盤を弾くと同時に、私もまた勝機を掴んだ。渾身の一撃を叩き込めば片翼は機能を停止(HPがゼロになる)し、はちゃめちゃな機動力は失われる、と。

 

 私はダイナペレクスにありったけのマナを込め、竜闘気解放(ドラゴン・シャウト)による原始的な闘争本能そのままに、宙返りで向き直った"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の負傷した翼へ飛び込む。

 

『良い一撃だ! だが詰めが甘かったな』

 

 凍った床面によって僅かに踏み込みが浅かった。片翼を()がんばかりの一閃は数ミリ届かず、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"が大口を開け――爆発。【ファイアボール】の炸裂で反撃を防いだ。

 

『小癪な!』

「――はぁ!」

 

 爆発に気を取られた刹那、翼に麻痺のジェムを投げ当てたニースが驚異的脚力で跳躍し、胴体翼尻尾と巨体を駆け下りながら切り裂いた!

 

『我が翼を落とせば勝てるなどと、思い上がったなぁ!!』

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"はニースを振り落として無視。【ヘイスト】で五体を加速しながら最優先目標である私へ迫る!

 

「いい"っ!?」

 

 向かってくる"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"から逃れると、数ミリ後ろの空間を巨大な牙が噛み砕き、当たれば骨ごと引き裂く長大な鉤爪が鎧の表面を走る。

 

 彼はゴロゴロ転がる私を追い越すと、空中で翼を広げて急制動。進行方向に対して垂直に方向転換しながら体を捻ってロールし、翼で庭園のレンガを抉りながらユウラン()を吹き飛ばすと、両脚で地面を蹴とばしてユウラン()が飛んだ先へ急加速、側に居たニースごと大地をサマーソルトで抉り飛ばした。

 

 この無茶苦茶な機動を全長20m体高8m越えの超生物がやって来るのだから始末に負えない。片翼を機能不全にでも追い込まなければ、まともに戦う事もできない。

 

 二人して半焼状態の屋敷に叩き込まれたが、この混戦の最中で悠長に膝をついている暇はない。

 

「ユウラン! 生きているか!?」

「がはっ! ごほ!」

(やばい、一気に70点も持っていかれた!)

 

 データ的に言えば、HPは半分を切り、安全な水準まで回復しなければ次のターンで死ぬ。

 

『しぶとい奴め』

 

 私は血を吐き捨てながら回復のジェムを砕いてポーションを飲み干し、魔法でニースも回復する。これで体力は安全圏だ。

 

 素早く呼吸を整えた我々は"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の視線が僅かに逸れた瞬間、同時に駆け出して朽ちた壁を突き破る。私は未だ低空に留まる彼の翼に戦斧を振り、ニースは飛びながら(・・・・・)懐に潜り込む。

 

『な――グオッ!?』

「動けなくなったとでも思いましたかァ!?」

 

 燃え盛る戦斧が片翼の根元を深く斬り、皮膜を裂くと"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の凶悪な飛行能力は喪失した。時間をおけば回復するだろうが、そのような時間はこの凍てつく死闘に存在しない。

 

黒鉄(くろがね)(つるぎ)――――受けてみろォ!」

『ガァアアアア!!』

 

 体勢を崩した隙をニースが見逃すはずもなく、全身を切り刻んだ。

 

 炎が巨竜の冷気を振り払い、気体に昇華した冷たい空気が二人の横を鋭く駆け抜ける。

 

『殺してやる……殺してやるぞ!!』

 

 再び大気が冷却され、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"が極低温の氷を纏う。怒り狂った彼は大地を踏み鳴らし、スタンプのように私を圧し潰そうと狙いを定めた。

 

 折角なので地響きに合わせて私が煽ると、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"はこちらを執拗に狙う。ニースは飛び回ってどうにか気を引こうとするが、翼と尻尾で牽制されるのみで全く相手にされない。

 

「ほら! どこを! 狙ってるんですか!」

『――――貴様らだ!』

 

 瞬間、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"が跳び上がると強烈な冷気のブレスが炸裂し、二人の頭上で氷の華が咲いた。鎧の上は霜が降りて空気が張り付き、服の中にさえ凍えるような冷気が侵入する。体の一部は肉ごと凍り付き、回復しなければ勝っても切り落とさなければならなくなる。

 

 私が地面に張り付いたブーツを強引に引き剥がして横っ飛びすると、その空間を顎が横切る。

 

(クッソ……私の方が柔いから集中狙いしてくるし、【ヘイスト】で連続行動されたら死にかねない……)

 

 振り下ろされた鉤爪の軌道を戦斧で弾いて逸らし、巨体による突進を股下くぐりで避ける。

 

「ユウラン!」

「――! ええ!」

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の背中に乗ったニースが黒剣を差し込んで肉を抉り、胴体に麻痺のジェムを撒いて動きを一瞬だけ麻痺させた。

 

(その一瞬が欲しかった!)

 

 私の竜回帰(レゾナンス)に呼応してダイナペレクスの纏う轟炎が唸り、更にマナを込めてパワーを研ぎ澄ませながら、尻尾、そして胴体に飛び上がり――私史上最大の破壊力を振り下ろす。

 

「どらぁぁあああああ!!」

『グァアアアアア!!』

 

 漆黒の戦斧は鱗を砕き肉まで叩き潰して骨に届いた。神経に食い込む刃にさしもの"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"も身もだえて絶叫する。

 

 そこへニースがウラエヌスからグレネードを射出して追撃すると、爆発でとうとう両翼が力を失った。

 

 尻尾からは鱗が剥がれ落ち、胴体は度重なる剣戟で至る所を出血している。

 

『……認めよう、貴様らもまた神に届き得る強者だと!』

 

 刹那、大気温が更に降下を始める。放たれる冷気は範囲を増す。凍った空気の粒がポツポツと降り注ぎ、鎧に当たると液化して滴っていく。

 

 肺すら凍り付く極低温を纏い、冷気が棘のように皮膚を突き刺し始めた。

 

「ニース、気をしっかり!」

「ああ、来るぞッ!」

 

『フィンブル・メイルシュトローム!!』

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の体内を駆け巡る血液によって瞬間冷却された多量の固体空気が、マナに操られた液体空気の濁流に包まれて周囲に降り注ぐ。だが終わりではない、更に喉を振るわせて極寒のブレスを噴き出し、我々を氷の彫像にするべく畳みかける。

 

『凍えよ! 散り逝け! 我が元で命を終え!』

「「うぉぉおおおああああああ!!」」

 

 私とニースは互いに身を寄せ合い、得物に灯る【ファイアウェポン】の炎を盾に来るべき破滅のブリザードを押し返す。極低温の大潮流が降り止んだ直後に互いの手を押し合って、"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"へ二又で突貫。

 

 大技を放ち隙の生じた体へ、炎の刃をめり込ませた。

 

『まだだ! 終わらぬ! 終わってなるものかァッ!』

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"はもはやフィンブル・メイルシュトロームを放つ事すらままならない。最後に残った己の吐息(ブレス)に全てをかけ、遮二無二に氷華を咲かせる。

 

 "システム的"には頭以外のHPが0になっているものの、死んでいるわけではない。

 

 数千の時を生きたドラグエディアの超生命体は心臓を鳴らして生きている。

 

 鱗が剥がれ落ち、血を流し、死の淵にあったとしても真に脅威が去ることは無い。数十トンを超える生き物の運動はただの移動だけで害をまき散らす。

 

 爪先だけで数百キロを越える"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の前腕が私の眼前に迫る。だが、それは"戦闘"に該当する行為ではなかった。

 

 身体が最適な行動を選ぶ。

 

 弱弱しい前腕の鉤爪を戦斧で弾き、跳び上がって鱗を掴み、腕力だけで背中に飛び移る。巨竜は私を振り落とそうと直立し、へし折れかけた翼で一瞬跳び上がるが、肉を掴むこの腕一本すら引き剥がせない。

 

「私の、いえ、私たちの勝ちです!」

『このような場所で! この私がぁぁああああァッ!!』

「いけ――――!」

 

 私は手を離して自由落下。"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"が滑空しようとして広げた両翼はとうとうへし折れてあらぬ方向へ曲がり、巨体を地に叩きつけた。

 

 僅か数メートル上空。空中で回転したユウラン()が落下の勢いそのままにダイナペレクスを振り下ろすと、轟炎が氷を溶かし、マナを通した漆黒の刃が竜鱗を圧し砕く。

 

『負ける、ハズが――――』

 

 凄まじい衝撃によって"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の首は弾け飛び、戦斧が頸椎までの肉を深々と切り裂いた。

 

 雪より冷たい血飛沫を浴びながら残心。半ばまで切断された頸部は頭を支えきれず自重でへし折れ、その遠大な生命は遂に終わりを迎えた。

 

 燃えていた屋敷は一部だけが焼け残り、美しかった庭園は瓦礫と泥に塗れ、かつての姿はもう見る影もない。

 

 激闘の後には二人の吐息と巨竜から消えゆく冷気の音だけが響く。

 

「か、勝った……」

 

 ニースが呆然と呟く。

 

「っしゃ!」

 

 生きる冬は去ったが、鎧の上にはまだ霜が残り、凍って張り付いた血や泥に塗れていた。

 

「ふぅ……ユウラン、こいつは……」

 

《"六色同盟"とか言ってやがったなぁ》

「ようやく剥ぎ取れますね」

 

「ん?」

「えっ」

 

《金の話をしてる場合か!》

「重要でしょうが!」

 

「……冥都のど真ん中だという事を忘れてないか?」

「大丈夫ですよ。神一歩手前(レベル20)のグレータードラゴン倒した奴に誰が喧嘩売るんです?」

 

 その言葉の通り、私が"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の死体から鱗や牙をもぎ取っている間、冥族はこちらを見かけても全く近寄ってこなかった。

 

「うひょぉお! 見て下さいよ、25000Rで売れそうな鱗が3つも! 綺麗な鱗(7500R)も取れましたし、(1200R)も9本まるまま! 玉っぽい奴(15000R)もありますよ」

「……あぁ、そうだな」

 

「どう分配します?」

「……はは、君に任せるよ」ニースは力なく言った。

「では牙と竜玉は錬金術の素材として貰います。この永久氷鱗は2つどうぞ、1つは私。残った綺麗なのはどうぞ」

 

 分配を済ませると、辺りはもうすっかり夕方だ。

 

「それじゃあ、どうしましょうか」

「……この冥都を解放するのも、二人ならできそうだな」

 

「いや、無理ですよ?」

「……?」

 

「食料供給がカスなんですから、いま冥族を倒しても餓死者続出です。

 河川港を使えるわけでもないですし…………あぁ、そうなると最後の勢力も残した方が良いですね、無秩序状態が一番危うい。

 

 解放の見込みがあるなら、しばらく奴隷のままでいてもらいましょう」

「…………そうか。確かに、食料の備えは無い」

 

 ニースはふらふらと立ち上がる。

 

 今日は市内を駆けずり回って敵を100も200も切った最後にグレータードラゴンと死闘を繰り広げたのだ。さしもの"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"も疲労困憊している。

 

 戦うにしても遠慮なく殴れるまとまった勢力は消し飛んだし、だらだらこの都市に居る必要はない。

 

「では、もうひと頑張りして貰いますよ、帰りましょう」

「帰る? いや、少し休んだ方が良いと思うが……」

 

「あいつらは"六色同盟"なんですよ。少なくとも、同格程度の奴が5体いるわけで、まとめて掛かって来られたら死にます。奴らの情報を誰かが伝えなければ、周辺のヒト族都市はあっという間に壊滅でしょうね」

「…………そうか、分かった。今は、私も頭が回らない。戦友(とも)の判断を信じよう」

 

 私たちは"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"の死体を焼き尽くしてアンデッド化と蘇生対策を施し、空を飛んでテンシライへまっすぐ帰った。

 

 追撃が無かったのは非常に幸運だった。

 

 帰るまでに同格の敵から追撃を受ければ、集中力を使い果たしたニースは介護する間もなく死んでしまうだろうし、私にもグレータードラゴン級の相手をしながら味方をかばう余力は無い。

 

 姿を見せてあっさり死んだ混沌竜のパラディンが如何なる暗躍をしたのかは知らないが、ヒトに気付かれず"三獄頭"を始末した行動の早さは脅威の一言に尽きる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 私が倒した"炎魔眼"ケルケスキャトルでさえ、"六色同盟"に叩き出された可能性が考えられる。

 

 "氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"を倒したことで6が5になったとはいえ、神一歩手前の連中があと5体もいるのだ。率直に言ってシムロンどころか"バレミア都市連合"の危機なのだ。

 

 母の病気が治っても、奴らが攻め込んできたら何もかもおしまいだ。

 

 つまり、敵は皆殺しだ。

 

 私は決意を新たに、テンシライでニースを休ませてから、母の居る家へ飛翔する。

 

 

 かつてない脅威が、闇の中から迫っていた。

 

 




ユウラン「目標達成したのに変なの出てきたじゃないですかヤダー!」


"氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)"のデータは活動報告

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。