私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第三章「六大竜戦役 ~ グレイトドラゴン・シックス・ウォー ~ 」
第一話「戦いの運命」


 

 

 私の冒険が終わる夜の9時、喜びの窓の外には闇が広がっていた。

 

 

 

 母を治す魔法を身に着けるべく、レベルアップのための経験点を稼ぎに冥族領域を訪れた私ことユウラン・アルシップスは、運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士こと耽美なお顔のニース・ヘルメイラ嬢とともに、冥族の都市アルカンハイトへ殴り込みをかけた。

 

 そこで私たちは、"六色同盟"なる組織を率いる6体の幹部?のうちの1体、グレーターブルードラゴンの"氷獄蒼竜"ゼースィルカイダス・ダンリスルスと、混沌竜のパラディンであるヴァルムリルカルドスを打ち倒し、母を治すための魔法を手に入れた。(順不同)

 

 

 

 【フライ】で空を飛んで帰宅すれば、時刻は夜の9時。

 

 シムロンの実家へ帰ってから、竜や冥族の血がこびり付いた装備を洗って、乾燥させ、身を清め、完全武装をし直した。

 

 別館にある母リーネの部屋へ足を運んでいると、上階から降りてきた父クラークが私を呼び止めた。父は少し恰幅のある人であったが、ここ最近の騒動のせいか痩せているように見えた。裕福な商人らしく身なりは整っているものの、疲労が見てとれた。

 

「ユウラン、無事だったか……!」

「父さん、母さんの様子は?」

「……寝ているはずだ」

 

 抱擁してくる父を引き剥がして歩く。

 

 彼も私が目標を達成したことを察しているのか、これから何をするのか尋ねはしなかった。

 

「……失礼します」

 

 声量を抑えて病室の扉を開ける。

 

 無限【ライト】松明で部屋を照らすと、痩せた母の顔が亡霊のように浮かび上がる。ぐっすりと眠っているようで、私たちが入ってきたことに気付いていない。

 

「今からやることを説明します。開祖の陣営の神、ンアから授かった魔法を使って、母さんの病巣だけを分離します。

ですが、病巣とはいえ、体の一部であることには変わりありませんので、身体が傷つく可能性があります」

「あ、ああ」

 

 ハッキリとは理解できていないのか、あるいは私が突飛な事を言っているのか、父は曖昧に返事をした。

 

「血を流す可能性がある、とだけ覚えておいてください。

それから、家族同士であれば、この魔法で肉体を譲り渡すことができます。母さんが失うであろう血と肉を、私たちで補おうと思いますが……」

「リーネの為だ、私の身体で良ければ幾らでも使ってくれ」

 

 父の同意を得たので、術の準備を整える。取り出した病巣を捨てる木のバケツを用意し、母の服を少し捲って腹に手を置く。血を失うとHPを失う恐れがあるので、父に魔法を掛けて耐久力を向上させた。

 

 私の右手を母の腹に置き、左手で父の手を繋ぐ。これで準備は整った。

 

「始めますよ……【コントロールボディ】」

 

 40点のMPを支払って【コントロールボディ】を発動すると、私を中心に青白い光が放たれる。

 

 光は母の腹から患部へ、あるいは私の手から血管を伝って父の手へと流れていくと、肉体の権限を私に掌握させた。

 

「う、くっ……」

 

 父が息を詰まらせる。呼吸はできるようだが、肉体を操作される感覚に慄いているのだろう。

 

 【コントロールボディ】は肉体を操作する魔法であるが、これは神の御業による精緻で大胆な粘土細工の手法だ。術者が望めば体はその通りになる。

 

 私は母の体内にある病巣だけを知覚した。それは臓器にまとわりつき、その一部となり、身体を蝕んでいた。

 

 【コントロールボディ】の効果で母の身体を侵食する細胞を一つ摘まみとり、私の身体に薄く纏わりついている脂肪を代わりに渡す。私の脂肪は魔法の効果で母の健全な細胞へと変換され、問題なく定着する。私から渡せる肉体が無くなれば、父のを使う。

 

 これを繰り返す。

 

 5分もすれば、リーネを蝕んでいた赤黒い病巣が小さな瘤となっており、母の腹にボールが置かれているかのような状態となった。15分経てば病巣は大人の拳ほどの大きさになり、魔法の効果が終わる頃には更に一回り大きくなっていた。

 

 そして、病巣を皮膚から完全に切り離して魔法を終わらせれば、父が青ざめた顔で深く息を吐いた。

 

「これで、母さんは完治しました」

 

 母の身体は、病巣が無くなったとしても健康体とは言い難かったことから、臓器の補修や筋肉の追加のために、血や脂肪や毛髪を使った。魔法で問題なく変換できるとは言え、貧血気味になるのも当然だろう。

 

 完璧美少女の私にはムダ毛や余計な脂肪が無いため、髪が若干短くなったものの見た目は大差ないし、能力値にも変化はない。

 

「母さんの身体を補うのに、父さんの身体の一部を貰いました。今日はよく寝て、明日以降は肉を多く食べて下さいね」

「ああ……ありがとう、ユウラン。本当に、何と言ったらいいか……」

 

「そういうのは明日にしましょう。話すことがありますから」

 

 私は父を寝室に押し込んでから、アルシップス家の次女――妹のフェリエルの部屋に行く。

 

 フェリエルは生まれつき目が見えないため、【コントロールボディ】で治すつもりだ。

 

 本当は彼女が目覚めている時に、ゆっくりと説明した後で治療してやりたかったのだが、そうしなかったのには理由がある。

 

 何故なら、"六色同盟"の存在が私から時間を奪ったからだ。単独で都市を壊滅しうるグレータードラゴン、その敵対的な群れが、シムロンから空を飛んで2,3時間の距離に潜んでいるからだ。

 

 この悪夢的な事実は、家族を国外に逃がすのに十分な理由じゃないだろうか。国外へ逃がすなら、時期は早ければ早い方がい。

 

 "六色同盟"の侵略はいつ始まってもおかしくない。

 

 1対1ならまだ何とか勝ち目があるものの、複数を相手にしては絶対に勝てないし、家族も守れない。

 

 可及的速やかに遠方へ逃れる必要がある。

 

(……私が、守りますから)

 

 フェリエルの掛布団を整えてから、朝一で彼女に対応するため、ベッド横の床に寝袋を敷く。

 

 まだ忙しくなりそうなので、ちんちんは引っ越しが終わってからだ。慣れないモノをぶら下げるには、今の情勢は不穏すぎる。

 

 というか、ちんちんのための血肉が足りないので太らないといけないんだが……?

 

***

 

「フェリエル、目が覚めた?」

「え、あ……お姉さま? あの、一体……?」

 

 ベッドから身を起こしたフェリエルは、煩わしそうに顔を覆った。カーテンの開いた窓からは日光が差し込んでいるため、それが眩しいのだろう。

 

 出来たばかりの目に、光と言う刺激は――例え弱くとも――強烈だ。

 

 陽光に金の髪が光り、白い肌の下の血管が透けて見える。生まれついての盲目に運動不足が重なって、酷く儚い印象を受ける。

 

「眩しかった? 目が見えるようになってるから……ほら、カーテン閉じたよ。開けられる?」

 

 恐る恐るといった風に瞼を半開きにするフェリエル。彼女は手を見て不思議そうに動かし、ベッドを、部屋を見て、最後に私を見つめた。垂れ目の赤い瞳が初めて私を捉える。

 

「お姉さまが治してくれたの?」

「そうですよ。さ、顔を洗いましょうか。それからご飯にしましょう」

 

 光のある世界に慣れない彼女の手を引き、あれは何でこれはあれでと、見た目と言葉を一致させながら朝の支度を済ませる。

 

 館の食堂に行くと、パンとスープ、サラダといった朝食にフードカバーが掛けられていた。父は湯気の立ったコーヒーを口にしており、末の妹はまだ来ていない。

 

「お父様、食べないんですか?」

「んん……いや、今日は皆で食べよう。ユウラン、カトリーナの様子を見に行って貰えるか?」

「はいはい」

 

 とうとうフル装備であることには突っ込まれなくなった。

 

 母の体調はまだ完全には戻っていないので、この食堂に5人家族全員が揃うことは無いだろうが、快方の兆しは徐々に見えてくるだろう。

 

 カトリーナを起こして食堂に行くと、彼女も流石に姉の異変に気付いた。

 

「おねーちゃん、見えるようになったの?」

「うん、そうだよ。お姉さまが治してくれたの」

「お姉ちゃんが!? いーなーいーなー! わたしも何か欲しいー!」

 

 父が甘やかしすぎるなよという顔で見てくるが、カトリーナがキラキラした目でねだってくる。母と同じ碧い目をしているせいだろう、私が末妹の我が儘に弱いのは。

 

「えぇー……何かありましたっけ?」

 

 私から渡せるものといえば、大抵は冒険に使う消耗品か金になる。お洒落なものは一切ないので……しょうがない。

 

「ではこれを。知性の指輪で――」

「わぁあああ! 指輪だ! もらっていいの!?」

 

 考えてみれば、カトリーナはまだ5歳だ。冒険者が使う消耗品など知っている筈もない。

 

「指輪か? あまり高いものは持たせないようにな」

「そこまで高くはありませんよ」

「そうか……なら、いいだろう」

「やったーーー!!」

 

 父の許しを得たので手渡すと、カトリーナは飛び上がって喜んだ。

 

「そういえば、父さん。母さんの病気も治ったことですし、旅行にでも行きませんか」

「なに? 旅行か……考えておこう」

 

「旅行いきたーい!」

「わたしも行ってみたいです!」

「うむ、あぁ……」

 

 幼い娘二人にねだられては、さしもの父にも響いたようだ。父は仕事で母は病、近場であっても、幼い二人と出かける余裕などなかったろう。

 

 さて、退路をほどほどに断ったので、本題をぶち込む。

 

「明日にでも行きたいんですけどねぇ」

「……ユウラン、フットワークが軽いのは冒険者として長所だろうが、私にも都合がある」

 

 父が私をたしなめるが、そもそもからして視座が違う。

 

「最近、大きな仕事をしまして。悪いドラゴンを退治したんです」

 

「……?」

「おねえちゃん、それほんと!?」

「ええ、証拠もありますよ」

 

 食事の場では少々無作法だが、私は証拠(・・)を取り出す。

 

 どこからか出てきたのは一本の竜の牙。牙全体のほんの先端部分ではあるが、私の拳よりも太く、細剣より鋭い。もちろん、汚れは落としてある。

 

「これ、竜の牙なんですよ。この家くらいの大きさの竜でして、徒党を組んで悪さをしていたので倒したわけです」

「すっごぉおーい!」

 

「……家?」

「ええ。まだ竜は沢山(・・)いるので、稼ぎ時ですが……折角ですし『旅行』に行きたいですね」

 

 フェリエルはこの会話に不穏なものを感じ取ってしまったのか、私の方を困ったように見ていた。

 

 ……敏い子だ。この場でこういう会話をしない方が良かったかな。

 

 一方の父は、きちんと理解してくれたようだ。

 

「…………食卓で話を決めてしまうのもあれだ。リーネと一緒に後で話そう」

「そうですね、母さんの体力の事もありますし」

 

 家族4人を問答無用で引きずり出すことは簡単だが、『逃亡』は平和に暮らすための手段であって目的ではない。いざとなれば眠らせてたったか逃げ出すが、目には見えない猶予がある限り、普通の手段を選ぶ。

 

 家族がすぐ側に居なければ、グレータードラゴンを一体一体暗殺する事はできる。できるが、そうするなら、時間的な猶予がどうしても必要だ。

 

 4人を遠くへ避難させてから、六色同盟を始末する。あるいは、5人で彼奴等の手の及ばない遠くへ逃げる。

 

 実行するとしたら、このどちらかだ。

 

 だが、そう。中々どうして、世界というものは自分の思い通りにはいかないものだ。

 

***

 

「ユウラン……それはダメよ」

「え?」

 

 耳を疑った。

 

 まさか、母が、リーネが首を縦に振らないことがあろうとは。

 

 ベッドから上半身を起こした彼女は、椅子に座る父ではなく、その横の私を真っすぐ見た。

 

「シムロンにはね、お父さんの家族もお母さんの家族もいるの。

 それに、ユウランの故郷だってここなのよ。

 仕事も、故郷も、捨てては行けないわ。

 このまま行けば後悔だけが残ってしまう」

 

 母はまるで私を諭すように言う。

 

 信じられるか?

 

 母さんがこんな全く合理的じゃない考え方をする人だったなんて。

 

「仕事なら私がどうにかします。それに故郷だなんて……死んだら元も子もないんですよ!?」

「知らない土地で、ユウランだけを頼りに生きられないわ」

 

「それをフェリエルとカトリーナにも言うつもりですか!? 私たちで努力するんですよ」

「努力で覆せないこともあるのよ。逃げた先で、将来あの子たちは辛い思いをするわ」

 

「そうさせないために、逃げるんです!」

「誰もユウランほど強くなれないの。取り戻せないものを失って傷ついた人を、神殿で沢山見てきたわ。

 手を尽くさないうちに、手放してはいけないものがあるのよ。

 だけど、あなたには力がある」

 

「ここに居たら! 竜からは守れないんですよっ!!」

 

「……落ち着きなさい、ユウラン」

「黙っ――――……ふぅ、いえ、失礼しました」

 

 父が間に入ってくれたので、一旦は落ち着けた。

 

 私がまかり間違って感情のままに殴り飛ばせば、いや拳が触れたら、人間一人くらい簡単に殺せるのだ。ゆめゆめ注意しなければならない。

 

「ですが、母さん。仮に私がシムロンに居て、実際問題どうするつもりですか? 

 1頭ならともかく、それ以上の数のグレータードラゴンはどうあがいても止められません。

 それがあと5頭もいます」

 

「……分からないわ。何かを言ってあげられたら良かったけれど、お母さんは賢くないし、ユウランみたいな力もないから」

「…………」

 

「でもね、あなただけが戦う必要はないのよ。導神ウォーゼン様は、竜や戦神ラギダと戦った時、決して一人じゃなかったわ。

 だから……ヒトとして言うわ。あなたを助けてくれる誰かと一緒に、その力を力のないヒトのために使ってあげて。

 ここで逃げてしまっては、シムロンの人々を見捨てたことになってしまうわ。

 助けてもらった私が、娘のあなたに言う事ではないかもしれないけど……ユウランならきっと、皆を助けられるから」

 

 母さんが遠く感じる。

 

 そう、私はリーネを説得して、首都の方へ逃げ、私の稼ぎでしばらく養って、父が新しい仕事を見つけ、妹たちに何か将来の役に立つようなことをしてあげて、グレータードラゴンどもは稼いだ時間で一体ずつ各個撃破する。

 

 そうして私の家族の形が守られる筈だった。

 

「だから、戦って」

 

 視界が、見ている景色が、遠くに遠ざかって引き伸ばされていく。距離が変わっていないのに、母の顔が小さく見える。

 

 窓から差し込む光がやけに眩しい。

 

 私は今、誰かに殴られたのか?

 

 いや、そうではない。

 

 私が目を逸らしていた、『力』というものが生み出す「出来るかもしれない」という善なる幻想に殴られたのだ。

 

 いつのまにか椅子は倒れ、一歩二歩と後ずさっていた。

 

 まさか、私が動揺しているとでも?

 

 冥族の屍を千と築き上げてきた私が、見ず知らずの人間が――そう、シムロン周辺地域を考えれば――10万人15万人と死ぬ程度で、本来の目的を見失うとでも……?

 

 私はPL(プレイヤー)の自分とPC(プレイヤーキャラクター)の自分を持つ。だから、目的だけをみて、母の心も無視して、完全な選択ができる。

 

「わ、私に、また命を背負えっていうんですか……!」

「いいえ。私も背負うわ。小さい力でも、できることがある」

 

「母さんの病気とはわけが違うんですよ!?

 治る見込みが十分ある、十二分にあった事と!

 グレータードラゴンを5体もぶっ殺して街を守ることが同じなわけないでしょうッ!?」

「そうね、違うわ。だから、ユウランと私たちでやるのよ」

 

「そうじゃないんですよ!

 単に私が成長すればいいだけの話と、敵がすぐに攻めてくるって話は!

 勝ち目がないんです、現実的な勝算がっ!!

 

 私は冒険なんかしたくないんです!

 

「……」

「な、なに……?」

 

 母は変わらず微笑み、父はたじろいだ。

 

 私もまた、自分の口から出た言葉を疑った。

 

 そうだ、私は、勝算が見込めない危険な事に進んで挑んだりはしないし、知らない他人の命を何十万と背負って予想のつかない戦いに身を投じたくはない。

 

 格好悪くたって、無責任でお気楽に面倒ごとを投げ捨てて生きることが悪いとは思わない。

 

 だが、母リーネの視線には耐えられない。

 

 私は彼女の病気を治して、褒めてもらって、そして何がしたかった?

 

 ……少なくとも馬鹿にされたくはなかったし、家族には誇りに思って欲しかった。

 

 この感情を親の呪縛と呼ぶか自己満足と呼ぶかは人次第だろうが、私は少なくとも私を誇りに思って欲しい。

 

 

 

 ――やめだ、格好悪いキャラクターはやめだ。

 

 反対を押し切ってまで逃げるのは(PL)のやりたいロール(PC)じゃない。

 

 (PC)のなりたい人間じゃない。

 

 私は私を縛る合理性の殻を破って、今こそ人間性を選び取ろう。

 

 ……行きたくないけど、行こう。冒険に行こう。

 

「……ユウラン、シムロンが陥落するとしても、逃げた先で無事に暮らせるとは限らないぞ。誰がどこから来たのかはすぐに分かってしまうものだし、そうなるとだな……」

「ああ、大丈夫です、父さん。自省しました」

「え?」

 

「私だけが満足する道を選ぶのは、止めます。ですが、本当に困難なことも確かです。

 いざって時の逃げる準備だけはしてください」

「ユウラン……」

 

 私が宣言すると、母はほろほろと泣き出してしまった。

 

「……ごめんなさい、一番危ない事をするのは、ユウランなのに」

「まぁ、尻をひっぱたかれたのは間違いないんですけど、そこは信用してくださいよ。やるだけやってみますから」

 

 ははは、と笑ってみせるが内心すっげー笑えない。

 

 啖呵を切ったそばからもう止めたくなってきた。

 

 でも、格好悪い姿は見せたくない。

 

 気を遣うのもほどほどに、私は部屋を出た。

 

 これ以上両親がいる部屋に居たら、泣きついてしまいそうだから。

 

 ああ、それと、この街で戦うなら、行先は一つだ。

 

***

 

「"氷獄蒼竜"がやられたか……」

「フン、所詮ヤツなど大したことはない」

 

 古びた闘技場に集う5柱のグレータードラゴンは、その報告に各々反応を見せた。

 

「"炎天紅竜"、お前と奴とでは相性程度の強弱しかあるまい」

「ぬぅ、聞き捨てならんぞ!」

「風のの言う通りよ。あのゼースィルカイダス・ダンリスルスは攻防一体の使い手、容易く撃破されるとは思えぬ」

 

 鮮やかな翠の竜が紅の竜に反論し、焦茶色の竜が同調した。

 

「そも、貴様が連れ発ったのだ。事の次第を話すべきではないか? ヴァルムリルカルドスよ」

 

 山吹色の竜が、竜人に水を向けた。

 

 5柱の竜が囲む闘技場の中心では、死んだはずのパラディン――ヴァルムリルカルドスが不敵な笑みを浮かべていた。竜の(かんばせ)を冥府の黒に染めたその男は、グレータードラゴンに囲まれてもなお不遜な態度を崩さなかった。

 

「"氷獄蒼竜"、奴は例の人竜(ドラグニカ)によって打ち倒された。ヒトの英雄と組んでいたが、今はコソコソと行方を晦ませている」

 

「ならば、走狗を従え狩り立てるのみよ」

「我ら黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)が集えば白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)どもとて恐るるに足らんわ」

 

(しか)り。我らに伍するは白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)のみ。気に喰わぬが、再度の集結は()を見つけた時よ」

 

 漆黒の竜が4柱の竜に釘を刺した。

 

 一回り大きなかの竜の言い分にやや緊張が走るも、それを打ち破ったのは、ちっぽけな竜人だった。

 

「では各々方(おのおのがた)、往きましょう。計画通りの、退屈な蹂躙へ」

 

 夜天に翻る5対の翼は、明確な意図をもって方々に散っていく。残された混沌竜の僕もまた、己の影に溶けるように消えた。

 

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