私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第六話「戦いの前に」

 

 ケイルレンズで撮影をしながら、炎天紅竜(ラヴァルヴォール)の死体から諸々を剥ぎ取っていると、空から同じような大きさのドラゴンがやってきた。

 

 羽音がした時点で【マナ・アブソーブ】を発動して魔法無限化の用意を整え、待ち構える。

 

 メインストリートに降下してきたのは、六色同盟のグレータードラゴンよりはやや小さめのドラゴンだった。体色は黄色のようにも見えたが、残火に照らされているので、まじまじと見ればややオレンジというか、鼈甲飴の黄色に近い。

 

 件のドラゴンは降下地点付近にある死体を気にしながら、少し尻尾を巻いて着陸した。

 

「お前が"盃"か」

 

 やって来たのはアンバー(琥珀)ドラゴンだ。始祖陣営で、なおかつこの個体はグレータードラゴン。

 

 とはいえ、データを見れば普通(・・)のグレータードラゴンなので、正味を言えば1人で勝てる相手だ。レベルで言えば18。無限化魔法もしっかり掛けてあるし、達成値厳選もした――お陰でファンブル分の経験点が500も手に入った――ので、こいつの【パーフェクト・キャンセレーション】にはある程度対抗できるだろう。

 

 味方陣営っぽいので、どうか杞憂であってほしいが。

 

「人を(さかずき)呼ばわりとは失礼な。どこの誰で、何の目的で来たんです?」

「私は竜誓国の方から来たアンバードラゴン、名はヴァーレーンとでも呼んでくれ。黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)どもの企みを打ち砕くために遣わされた」

 

 おお。

 

 竜誓国って何処だ。

 

 残念なことに世界地図とは無縁の生活をしてきたので、他国のことは全く知らない。

 

 ……あ、セージ判定が振られたな。成功したな。

 

 竜誓国は結構北の方にある竜騎士がいる国だそうだ。残念なことに、ルールブックには載っていない。

 

「なるほど、騎士の方はいないんです?」

「生憎と背に乗せるに足るヒト族がいないものでな。……ふむ、孵化はさせていないようだな」

 

 竜、卵、孵化……ああ、1,2か月前に始祖竜のパラディンからもらったデカイ卵のことだろう。

 

「パラディンから貰った卵ですかね? ライダーとして技術を研鑽する暇が無いので、まだですね」

 

 あの卵が重要アイテムだったなら、さっさと孵した方がよかったか。

 

 しかし、経験点を割り当てる余裕も卵の面倒を見る時間も無いので、どっちみち孵ってはいないだろう。考えても詮無きことだ。

 

「それならそれでよい。して……この者は?」彼?は死体を指す。

「ストラトン山?の炎天紅竜(ラヴァルヴォール)ですって」

「…………ヒト族によく打ち倒せたものだ。1000年前に彼処を占拠して以来、竜人冥問わず戯れに焼き殺す奴だった」

「それで、企みを打ち砕くって話なら、できればエルダードラゴンを派遣してほしいんですけど」

「なに?」

 

 私の陳情に訝しむような声で答えた。

 

 まぁ、この竜が疑問に思うのも無理はない。

 

 そもそも、アンバードラゴンは始祖竜に創造された白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)の一種で、雷を操るドラゴンだ。

 

 黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)で言うところのイエロードラゴンである。

 

 白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)は、ゴールド、シルバー、エメラルド、カッパー、アンバー、プラチナドラゴンがそれぞれ炎/水氷/風/土/雷/純エネルギーを操る能力を持っており、それぞれの属性を司る黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)のレッド、ブルー、グリーン、ブラウン、イエロー、ブラックドラゴンと対を成している。

 

 なので、イエロードラゴン対策としてアンバードラゴンを遣わすのは適切な人事なのだが、ぶっちゃけ、イエロードラゴンはリンチで事足りそうな相手だ。

 

 なので、普通のグレーターアンバードラゴンだと寂世黒白竜の相手は難しい可能性がある、エルダーとは言わないが、純エネルギーかアンデッドの対策に、プラチナかゴールドのグレータードラゴンに来てほしかった。

 

「この黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)どもが徒党を組んだのであろう?」

「はい。で、ブラックドラゴンはエルダー以上らしいです」

「なんと……いや、しかし問題はない」

「まだいくらか援軍が?」

「うむ……」

 

 白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)がここに来ること自体が珍しいのだが、さらに援軍のあてがあるのも珍しい。

 

 好き放題奪って殺してをやる黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)に対して、白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)は契約や秩序を重んじ、ヒト族の危機に対して積極的に介入はしない。

 

 ヒト族はヒト族、竜は竜、別々にやっていきましょうね、が始祖陣営の竜のスタンスだ。

 

 よっぽどの世界の危機なんかじゃなければ。

 

炎天紅竜(ラヴァルヴォール)と同格の3体は倒しているので、残りは雷騰黄竜(ライラトルニトル)寂世黒白竜(オルフィーニル)だけです」

「……同格をもう3体? 貴殿一人でか」

「いや、もう一人います」

 

 案内しますよ、で合流したらニースが死ぬほど驚いていた。

 

《おぉ……ビビらせんなよ》

「こっちのドラゴンに言ってください」

 

 驚かせたのは――私は全く悪くない――申し訳ないが、運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士の合流方法の方がもっと驚くべきものだ。

 

 彼らは、鎧をスケートボードかってくらい地面すれすれに横倒しにして飛んできた。私はもうデカイゴキブリかと思って内心バクバクだった。

 

 中のニースが疲労で朦朧としており、ウラエヌス側で鎧を動かしたらそうなるのかもしれないが、もうちょっと見た目に気を遣ってもらって……。

 

「名前は……」

「ヴァーレーンだ。……知性ある鎧か」

《そうだぜ、中身はニースだ》

「あ、あぁ……」

 

 ニースがこちらを見上げてボーッとしているので、それ以外で話を進める。結論を言ってしまえば、シムロンへ戻ることになった。

 

 ただ、ヴァーレーンはやることができたとかで、別方向に行ってしまった。シムロンに来られても困るし、後で来てくれるなら別にいいが。

 

 閑話休題。

 

 ニースに気を遣いながら飛ぶこと──ウラエヌスが一応勝手に飛んでくれている──40分、シムロンへ着いたのは夜の1時半頃であった。

 

 その間、ニースは完全に緊張の糸が切れたようで、気絶するように眠っていた。

 

 明かりと人通りが少ない道を歩き、シムロン市内へ繋がる門の前に立つ。

 

 シムロンは、幅4km近い河口の中にドカンと鎮座する縦横4kmはある巨大な()の上にある市である。

 

 橋とは言うが、入り口は後から建てられたもので、市の性質上、陸路で入るための入り口は9つしかない。

 

 橋の上に登るための十数メートルもある巨大な階段と馬車用の坂道が9つあって、そこを上り切った先にある門をくぐればシムロン市内だ。

 

 昼の間であれば、どの門も通行はほぼ自由。夜は一部の門に限られるが、出入りは自由だ。夜でも出入りする商人や冒険者はいるにはいる。

 

 今更ながら、シムロン市内は飛行が禁止されているので、私たちは正々堂々と門から入って爆走。ニースを鎧ごと米俵のように担ぎながら、市役所へ駆け込んだ。

 

 緊急事態故か、真夜中であるにもかかわらず行政機関には魔法機器の明かりが灯っており、私たちがやって来ると職員が慌てて対応してくれた。

 

 5分もしないうちに呼ばれると、私たちは市長の執務室へ通された。今日――いや、昨日の昼前に来たばかりだったが、なんだか少し懐かしい。

 

 ロームレッダ市長は束ねられた艶やかな黒髪を揺らしながら、抱き着かんばかりの勢いで肩をグッと掴んできた。紫の瞳は感激に打ち震えているようでもあり、喜色満面であった。

 

 それと同時に、赤竜討伐依頼分の1000点と能力値成長を得た。やったぜ。

 

 奇跡の生還だというのに、ヴァレンタインの方はあまり表情に変化がない。黙々と紅茶を淹れており、なんかいい香りが部屋に広がった。

 

「よく無事に帰ってきてくれた! それで、今の状況は……」

「あとはポート・リートのイエロードラゴンと、ブラックドラゴンだけです」

 

 残り2頭というのは純粋に嬉しい知らせであったが、シムロンに近い方がエルダー級以上かもしれないというのは悪い知らせだ。

 

 町も4つほど滅んでいる。

 

 机に広げられた地図を指差して、私は持ってる情報を話し尽くした。

 

 白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)が援軍に来てくれるかもしれない、という点については「そうなのかい?」と軽く流しており、あまり期待していないことがよく分かった。

 

「あと、死体の録画はしているので、実在する証拠は…………ってこれ、もう今そっちが持ってる情報だけで十分でしたかね」

「いや、助かるとも。頭の固い議員を説得するのに役立つさ」

 

 度肝を抜いてやろう、と彼女は笑う。

 

「明日の6時に軍関係者を集めた対策会議があるんだ、君たちにも是非出席して貰いたい」

「そのくらいはお安いご用ですよ」

 

 流石の私もこれを依頼にはしない。

 

 地域の平和が本当に懸かっているので。

 

《分かった。じゃ、こっちはそろそろ休ませて貰うぜ》

「あぁ、ゆっくり休んでくれ。奴らがいつやってくるか、まだ分からないからね」

 

 ウラエヌスが部屋を出ると、市長はポツリと呟いた。

 

「彼、紅茶は飲まないのかい?」

「中身は寝てますよ、喋ったのは鎧です」

 

 驚く市長を尻目に、差し出された熱々の一杯を飲み干して私も部屋を出た。

 

***

 

 なるほど、市長は人気だ。

 

 会議室に集まったのはシムロンの海軍と陸軍の司令官、商人組合の会長や貿易省長官、副市長や多数の議員に官僚たちだった。

 

 少し大きめの四角い部屋に28人ほど詰めており、部屋の中央には長方形の長ーい机が鎮座している。

 

 私は端っこの席で気配を殺して座っている。お陰で誰とも目が合わない。

 

 廊下では彼らの護衛であったりなんだりが居心地悪そうにしていたので、部屋の中に冒険者は私しかいない(ニースは分類上傭兵とか英雄だ)。

 

 会議が始まり、市長がこの度のRTA作戦の結果を伝えると、いかにも悪さをやってそうな太っちょ政治家が大袈裟に拍手をしたり、海軍司令のおっさんがお世辞を言ったりしている。それをありがとう、だなんて軽くいなすのだから、ロームレッダも手慣れたものだ。

 

 この危機において迷いなくリーダーシップを発揮する市長と、そこに集まる官僚や議員からの視線は多くがプラスの感情に由来していた。

 

 ただ、陸軍の仕事は冒険者二人で事足りるようですねぇ、なんて嫌味が漏れ聞こえるし、一枚岩ではなさそうだ。

 

 私が大人しくお人形さんのように座っていると、とうとう具体的な現状の話に移っていく。

 

 イエロードラゴンの艦隊はポート・リート近海を完全に制圧し、近寄る船は全て沈められている。陸地からも船団が確認されており、ポート・リート襲撃までは秒読みと推察されていた。

 

 ブラックドラゴンの艦隊は今朝、私の高空偵察で確認されており、シムロンに至る行程の2/3程度を通り過ぎている。別の魔法使いのファミリアが同じように判定しているので、私の目に狂いはなかったようだ。

 

 乗っ取られた船は時速10km近い速度で移動できる船なので、到達するまでの300キロ近い道のりをおよそ30時間掛けて航行する。

 

 船に外洋航行能力は無いので、到達まで約10時間、予定時刻は16時頃といったところだ。

 

 心なしか空気が湿っぽくなってきたところで、ロームレッダは明るい声で他己紹介を始める。

 

「さて、未曽有の危機が迫る状況ではあるが、諸君らに頼れる仲間を紹介しよう。まずはこちら、言わずと知れた運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士だ、一昨日から昨日の間にグレータードラゴンを4頭討伐している」

 

 ニースは兜を纏ったまま、少し頭を下げた。完全武装でこの場に立ち会うことを許されているのは、知名度の賜物だ。

 

 おぉ、とか感嘆の声は小さく漏れたが、衝撃はあまり無いようだ。多分、この場にいる全員が鎧姿だけでも知っていたのだろう。

 

「もう一人、頼もしい仲間を紹介しよう。前へどうぞ、レディ」

 

 キザったらしい口調で市長が促し私が席を立つと、隣の官僚が滅茶苦茶驚いて椅子から落ちかけた。逆鱗のメンポは外しているので、冥族だと思われているわけではない。ちょっと失礼と通り抜け、壇上に上がる。

 

「子供だ……」「一体どこから」

 

 私が背中に何を背負っているのか気付くと、訝しむ声が驚きに変わった。

 

 大して驚いていない人もいるが、私の知名度を考えれば、お偉方の中に何人か私を知っている人がいてもおかしくはない。

 

 逆に副市長――シキブのお爺さん――は色々な意味で驚いているようだった。

 

「彼女はユウラン、シムロンが誇る英傑の一人だ。我々の足元を騒がせていた炎魔眼を討ち取り、つい先日の悪魔騒動の解決にも多大な貢献をしてくれている。運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士と共にグレータードラゴンを倒したのも彼女だ」

 

 おぉ、と感嘆の声が……聞こえない。

 

 何で?

 

 何で?

 

「市長、お言葉ですがただの子供にしか見えませんな。皆さんも戸惑っておられる」

 

 静かに声を上げたのは陸軍の司令官だった。

 

「冒険者を見た目で判断してはいけないが、言うことはもっともだ。何かアピールできないかな?」

「え?」

 

 これって一発芸的な……?

 

 まぁ、できないことはない。

 

 魔法でパッとストーンサーバントを作成し、ダイナペレクスを構える。

 

「おい──」

 

 市長の近くに居たヴァレンタインが何かを言う前に、全力の魔力撃をぶち込んでストーンサーバントを一撃粉砕。瓦礫が少し席の方に飛んでしまったが、まぁまぁまぁ。

 

 これで多少は舐めた口を利かれなくなる。

 

「本物のグレータードラゴンじゃなくて恐縮ですが、この程度はお茶の子さいさいです」

「素晴らしい! かの第十一死線(イレヴン・フロントライン)の英雄、"黒旋風"が握っていたダイナペレクスをこうも容易く使いこなすとは! ユウラン嬢、お手を煩わせてしまったがありがとう」

 

 促されて席に戻ると、名誉点が300点ほど増えていた。炎魔眼の首で換算すると、1.5体分だ。

 

 コネクションが増えるというか、有力者に顔を覚えられると一気に値が跳ねる。

 

 ついでに、グレータードラゴンどもから剥ぎ取った竜片を朝のうちにお役人に渡していたので、それで146点。合計の名誉点は1400点ちょいだ。

 

 私もとうとう、国家レベルの有名人になってしまった。(ちなみに運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士は名誉点5000点オーバーの生ける伝説だった、周辺国家でも名前が通じる)

 

 まぁ、会議があると分かっていたので予想はしていたが、有名になるならなるで、名誉点は多めに欲しい。ブラックドラゴンを倒した後の身の振り方を考えているので、その時の為に貯めておきたいのだ。

 

 身の振り方で言えば市長にすり寄るのが一番簡単な手段だろうが、この超大規模都市のトップとか普通に怖いです。

 

 その後、会議は私の意見を求めることもなく──流石の私も隙間時間でイエロードラゴンを倒しに行こうとは言わなかった──つつがなく終了した。私がケイルレンズで撮影した死体の剥ぎ取りシーンは結構反応があったものの、役に立ったかどうかは正直分からない。

 

 ともかく、会議で決定した大まかな方針は、大砲と艦船、飛行船、あとは遠距離攻撃ができる冒険者なんかを並べてブラックドラゴンを待ち伏せし、ぶっ倒した後にイエロードラゴンを殺りにいこう、というものだ。

 

 非常に簡単で分かりやすい。

 

 冒険者やら兵士はこれから港方面に集められるらしいので、お偉方が退出すると、官僚たちが慌てて駆け出していった。方々の冒険者の店に依頼を出したり、物資の準備をするのだろう。

 

 彼らに続いて会議室を出て、大きく伸びをする。

 

 時刻は現在朝の8時頃。さて、呼び出されるまでの暇な時間をどう潰そうかと悩んでいると、

 

「ユウラン、少し歩かないか」

 

 とニースに誘われた。

 

 はたと私は消耗品の在庫が減ったことを思い出して、お買い物へ行くことに。

 

「昨日は寝れました?」

「あぁ、疲労も少しは回復したよ」

「昼前くらいまではゆっくりできそうですし、消耗品だけ買うので付き合ってくれません?」

「もちろんだ。私も少し足さなくてはいけない」

 

 それから錬金術協会でジェムを大人買い♡

 

 先制のジェムを2つで4万R、毎ラウンド20点回復するためのジェムが4万R、細かいのを買い足して6千R。

 

 うーん命の値段にしては安い。もう4万Rあれば良かったが、剥ぎ取り品の清算が無いのでこれ以上は足せない。

 

 それから冒険者向けの店に行って、魔晶石を少しと、ブレスに対する生命抵抗力を高める最高グレードの消耗品を購入。

 

 しめて9万数千(リーン)も消し飛んだ。残りは1000ちょっとしかない。

 

 次の戦いに備えるため、もう少し欲しいものがあるので、あとちょっと資金を足したい。

 

「ニース、私はちょっと冒険者の宿に戻りますけど、どうします?」

「折角だ、私も寄ろう」

 

 うーん……付いてきてほしくない。

 

 シムロンとかいう人混みが凄い街を快適に走り抜けられる私と、そういう存在じゃないのでそれができないニースとでは、色々と速さが足りない。

 

 私が荷物を抱えて思いっきり走ってもヒトにぶつかることはないが、ニースが同じことをやるとヒトがボウリングのピンになる。

 

 このクソ人混みのせいでもう一時間も無駄に過ごしてしまったし、無理に一緒に過ごすもんじゃない。それが良く分かった。

 

 馬車でもあれば、()専用道をパカラパカラと往けるのだが、それだって私の走りよりかは遅い。

 

 ヒト族さんさぁ……遅いよ!歩くの!緊急時だよ!知らんだろうけど!走れよ!ばか!

 

「あー……、やっぱなしで。人混みが邪魔で時間が押してるので、後で合流しましょう」

「時間が……? そんなにか?」

「すみませんね、私のせっかちで。敵が普通に飛んで来たらそろそろ来そうなんですよ」

《……あんだって?》

「そういう訳なので、また後で!」

「あ……」

 

 心の底から効率厨になってしまった私は、もはやシムロンの中で全力疾走をしないなんてことができなくなってしまっていた。

 

 海戦が予想されるので、今からゴーレムを作って、海での避難用の足兼足場として役に立ってもらおうと考えている。

 

 1体あたり5500Rも掛ければ、2部位でHPが70と80ある軽石のイルカゴーレムが作れるのだ。

 

 だからお金が必要なんですね。

 

 ダッシュで5分、拠点にしている冒険者の宿"稲妻の鉄槌亭"に到着した。3日前に出て行ったばかりだというのに、1年も帰ってきていないような懐かしさを感じる自分がいる。

 

「戻りましたよっと」

「おう、戻ったか」

 

 扉をくぐれば、カウンターに立つ店主の男、ボーマンがさして気にした様子もなく答えた。

 

 ボーマンは正真正銘のヒトで、顎髭のある体格のいい30代くらいの男だ。私が初めて"稲妻の鉄槌亭"に顔を出した時はうるさい口を挟まないような奴だったのだが、今では美味しい料理を人質にしてくる奴だ。

 

「ちょいとグレータードラゴンを4頭ほど狩りまして、シムロンにブラックドラゴンが迫ってきているんですが、知ってます?」

「は? いや、知ってるが、お前が……?」

 

「海戦になると不味いのでゴーレムを作りたいんですけど、お金が無いんですよね。竜の牙買ってくれません?」

「お、おう、買い取りか?」

 

 混乱するボーマンに情報爆弾をぶつけた私は、13本の竜の牙を適正価格で買い取ってもらった。これで15000Rほど手に入ったので、ゴーレムを買いに行ける。

 

「いや、悪いですね。戻って来て早々に買い取ってもらって」

「だよなぁ。ま、お前のお陰で多少は儲かってるし、ウチの宣伝に使わせてもらうぜ。モノを吊り下げて竜殺しが所属する一流の店だってな」

「甘いですねぇ、私がいる店は超一流になるんですよ」

「「わはははは!」」

 

 会話もそこそこに店を出ようと思ったら――――賽が振られる。

 

「…………ボーマン、私の部屋掃除してます?」

「お高いホテルじゃねぇんだぞ」

 

 私が踵を返して2階に駆け上がると、光沢のある金の鱗を纏う竜人が部屋から飛び出してきた。始祖竜のパラディン、アルセリウスフィトラーダ君だ。

 

「……」

 

 彼は無言で私の部屋を指差し、鈍器を構えた。

 

 自分の部屋を蹴破ると、既に手遅れ(・・・・・)だった。

 

 パキャリ、と卵の殻を割る音がした。事実、それは卵を割る音だった。

 

 中には、殺したはずの混沌竜のパラディン、ヴァルムリルカルドスが巨大な卵を叩き割っていた。かなり強い力が加わったのか、高さ1メートル程あった卵は半分程度になるまで潰れている。

 

「遅かったではないか」

「な――始祖様から賜った卵がっ!」

「……ん?」

 

 私を挟んで邂逅したのは、神話で対立する竜のパラディンたち。

 

 一方は不敵に佇み、もう一方は失態に愕然としている。

 

 黒き鱗のパラディンは「座るかね?」と足ふきマットに目線をやった。

 

「レディの寝室に土足で上がり込もうたぁ(とは)いい度胸ですね、《烙印》持ちがどうやって都市に入った」

「我は影、闇より出でし無限無形の空洞。生命の理なぞ当て嵌まるものか」

 

 ……うーん、怪しい。

 

 こいつこの前戦った時は《烙印》が4つもあったし、その時であれば、竜剣結界が働いてる都市内部に侵入することはまず無理だ。

 

 ……まぁ、竜剣結界を破る手段なんていくらでもあるので、正直この時点で工作されていたとしても驚きはしない。

 

 それに、私は《烙印》持ちのドラグニカではあるが、《烙印》自体は"1つ"と少ないので、竜剣結界の効果なんぞは微塵も感じられない。なので、言葉の真贋を完全に見抜くことはできない。

 

 カラコロと賽が振られ、魔物知識判定で能力を見抜けたが、《烙印》は4つ。

 

 奴の言葉を信じるなら、本体の《烙印》の数が表示されてるとか?

 

 まぁ考えても分からんので、ぶっ殺そう。

 

「そんじゃま、死んでもらいましょうか」

「この豚小屋のような部屋で得物を振れるのか?」

 

 誰が豚小屋住まいじゃ!

 

 ベッドも机椅子もあるし荷物を置くスペースもあるし8畳くらいあるわ!

 

 あと得物は普通に振れます。データ人間舐めんなコラ。

 

 いざ――――と構えたのも束の間、賽が振られて気付いた。

 

 ヴァルムリルカルドスの足元で割られた卵には、あるべきものがない。

 

 それは中身だ。

 

 潰れた巨大な卵から白身は出ていないし、分化してもいないのか、竜の雛の血すら出てこない。卵を殻ごと半分潰したらそれ相応に中身が出る、というのは常識的に考えて当たり前だ。

 

 ここで賽が振られたという事は、それが重要であるという事だ。奴を倒す前に。

 

「どうした? 前と違って今は口だけのようだな」

「口しか出せないお前とは違うんでね」

「炎に身体を冷やせとは言うまい」

 

 妙に小洒落た言い回しをしやがって……勝ったと思うなよ。

 

 数秒時間は稼いだが、相変わらず卵は沈黙している。

 

 このままやっていいのか、それとも何かアクションをした方がいいのか。

 

「な、何だ……」

 

 アルセリウスフィトラーダ君が私の背後でポツリと呟いた。

 

 ヴァルムリルカルドスに変化はない、とすると……卵か。

 

 もう一度観察すれば、罅の隙間から青緑の何かが這い出てこようとしていた。

 

 ……もしかして、お世話してないからカビた?

 

 いやいや、だから何だというのだ。

 

 そう思ったのも束の間、その青緑のカビ(・・)は一気に外へ飛び出すとヴァルムリルカルドスに纏わりついた。

 

「!?」

「なッ! まさか――――」

 

 咆哮のような竜の絶叫が轟く。

 

 我々が呆気に取られている間、ヴァルムリルカルドスは鼓膜を破る様な大音量で苦悶の叫びをあげていた。

 

 だが、黒鱗の竜人は微動だにせず口すら開いていない。腹話術(・・・)の人形だけが取り残されている、そんな印象だ。

 

 カビ――いや、青緑のオーラがヴァルムリルカルドスに溶け込むように消えていくと、徐々に徐々に咆哮が収まっていく。

 

 階下からは何人かが慌てて駆けあがってくる音も聞こえてきた。

 

「これは一体、何が出て来たんだ……」

 

 アルセリウス君が呆然と呟けば、ヴァルムリルカルドスが口惜しそうに言う。

 

『……無い知恵を絞ったようだな、此度の化かし合いは勝ちを譲ってやろう』

「さっきのカビみたいなのって何です?」

『この女が死ななくて残念だったなぁ、始祖竜のパラディンよ』

「え? ……するわけがないだろう! 始祖様が!」

 

 これはまた分かりやすい離間の策だ。

 

 私に孵化させたかったのは間違いないと思うが、危害……を加える目的は無かったんじゃないかと思う。勘だけど。

 

「それで、さっきのカビみたいなのって何です?」

「さぁ……? 某にはさっぱり」

『足りない頭で考えてみるといい』

 

 ヴァルムリルカルドスは言うだけ言って、肉体をパラパラと黒い粒子に変えて消え去ってしまった。

 

 あ、経験点150点入った。ラッキー。

 

 黒い何かが散っていく様子だけを見かけた店主たちは、私に何事かを聞いて来たが、まぁ全部ぶちまける訳にもいかず、大きいゴキブリが入り込んでいたと誤魔化した。

 

 ボーマンには、イレギュラーなので気にしなくていいとは言っておいたので、まぁ、パラノイアに陥って宿を要塞化するようなことはないだろう。

 

 それはそれとして、私はゴーレムのパーミスドルフィン(カスタム仕様)を手に入れた!

 

 これで海に落ちても安心だ、私は金属鎧だから沈むんですよね。おお怖い怖い。

 

 私は防御力を重視して金属鎧を着ているのだが、いくら防御力が高いとはいえ、そろそろ物理攻撃が痛くなってきている。

 

 ソーサラーとコンジャラーのレベルがどちらも13だったなら、無限魔法【ディフェンス・マスターⅡ】で全ての防具を使用できるように<<特技>>を習得して防具更新も考えた。

 

 だが、推定・エルダー級以上のドラゴンが初手【パーフェクト・キャンセレーション】を通してくる可能性を考えると、やはり躊躇われる。

 

 前回の炎天紅竜(ラヴァルヴォール)戦で強い防具を装備していたら、<<特技>>が剥げて冒険者から死体を使った防具置き場にジョブチェンジすることになっていただろうし、敵の【パーフェクト・キャンセレーション】に張り合えるくらい強力な魔法が掛けられるまで、防具更新はお預けだ。

 

 代わりといっては何だが、先ほど獲得した150点でちょうど3000点分の技能成長が行える。

 

 技能を成長させるとして、次の寂世黒白竜(オルフィーニル)対策に成り得るのは、アンデッドや純エネルギーへの対抗策だと推測している。

 

 純エネルギー対策をするなら竜血法師(ドラゴンレゾナンス)技能を成長させて、【竜闘気:スケイル・メイル】で純エネルギー属性へのダメージ軽減能力を獲得できる。習得後は指定した属性を変更できないので、できれば取りたくない。

 

 アンデッド、というかアンデッドになったドラゴンを対策するなら、毒・病気属性への耐性だろう。ドラゴンゾンビは毒や病気のブレスを噴いてくる。対策するなら、練気験者(エンハンサー)技能レベルを8に上げて、毒・病気への抵抗力を高める練技を取得することだろう。こっちは抵抗を確実にする方法だ。

 

 また、同様の抵抗力強化は【竜闘気:超常の息吹】や【竜闘気:超常の意志】を取得することで行えるものの、練気験者(エンハンサー)技能の方はより毒・病気に特化できる。

 

 炎天紅竜(ラヴァルヴォール)戦では成長が裏目に出たので、戦闘の直前に成長しようとは思うが、どれだけ効果があることやら。

 

「相手が弱いといいんですけどねぇ……」

 

 それから自宅に顔を出すと、昨日の言いつけ通りガァマが待機していたので、父とホムンクルス組にはいつでも逃げられるように準備しておくよう警告する。逃げるならリスティル市を通って首都か他国に行くのがいいとも言っておく。

 

 使い魔を待機させておき、いつでも連絡できるようにした後、私は港の方へ。

 

 時刻は10時半ごろ。

 

 ブラックドラゴン単体で飛んで来るなら、そろそろ到着してもおかしくはない時間だ。

 

 沿岸部では戦いの準備が進んでおり、十数門の大砲が並んでいる。民間人の周辺への立ち入りは禁止され、住民には未だグレータードラゴン襲来の報告が広まっていないようだ。

 

 ここに来る途中、耳の速い商人が馬車一杯に荷物を積んで逃げようとしているのを何組か見かけたし、船乗り場で揉めている裕福そうな人も見かけた。

 

 湾内には軍艦が6隻留まり、冒険者や兵士は弓や銃を持ち、バリスタや魔法機動兵器が準備されている。

 

 宙には対空用魔法機器――レベル11のウィングガダムが14体も並べられている。あれ一体で魔法ダメージを約20*3ほどは与えられるし、全弾当たると考えれば840ダメージも入り、グレータードラゴンだろうが何だろうがワンパンできる。

 

 ただし、ブラックドラゴンがウィングガダムの銃撃にあたってしまうようなノロマであり、先制攻撃の機会も奪われるアホで、炎天紅竜(ラヴァルヴォール)のような無法な範囲攻撃を持ってさえいなければ、の話だ。

 

 こんな有象無象でどこまで戦えるのか。

 

 水平線の向こうからは、不吉な風が漂っているような気がした。

 




ゆうらん(こういう軍ってPCの活躍の為に蹴散らされますよね)
ろーむれっだ(魔法機器をこれだけ並べたら勝てるだろう)



ユウラン・アルシップス 冒険者レベル13 経験点254500+3120

 HP122+19 MP181

 ファイター技能レベル13 ソーサラー技能レベル12 コンジャラー技能レベル9

 フェアリーテイマー技能レベル6 プリースト技能レベル13 マギテック技能レベル1

 スカウト技能レベル9 レンジャー技能レベル9 セージ技能レベル5

 エンハンサー技能レベル7 アルケミスト技能レベル7 ドラゴンレゾナンス技能レベル7

 器用度33+6 敏捷度32+6 筋力35+8 生命力45+6 知力51+6 精神力50+6

 レベル取得:<<魔法拡大/数>> <<魔法拡大/すべて>> <<マルチアクション>> <<頑健>> <<足さばき>> <<魔力撃>> <<クリティカルキャスト>>

 魔法取得:<<武器習熟A/各種>> <<防具習熟A/各種>> <<回避行動Ⅰ>> <<ディフェンススタンス>> <<ターゲティング>> <<両手利き>> <<ブロッキング>> <<魔法収束>> <<鷹の目>> <<魔法制御>> <<MP軽減/各種>> <<武器習熟S/各種>> <<武器の達人>> <<命中強化Ⅱ>>

 脱法取得:<<必殺攻撃Ⅱ>> <<牽制攻撃Ⅱ>> <<全力攻撃Ⅱ>> <<薙ぎ払いⅡ>>

ネーミング選手センス権

  • 氷獄蒼竜ゼースィルカイダス・ダンリスルス
  • 万緑翠竜ワークンフジャルガ・グリューセン
  • 陸崩茶竜ディゼルガノルズガグラバドン
  • 炎天紅竜ラヴァルヴォール・ブレイカノンド
  • 雷騰黄竜ライラトルニトルザヴォルゲオルガ
  • 寂世黒白竜オルフィーニル・キャンペイン
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