私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第七話「死せる黒竜艦隊」

 

 太陽が天頂に昇った頃、シムロンでは防衛部隊の準備が整いつつあった。

 

 シムロン陸軍の遠距離攻撃可能な部隊──およそ250名と、同様の冒険者100名近くが沿岸や都市の南端で忙しなく動き回っている。

 

 彼らが位置するのはシムロン南端の東側。ブラックドラゴンたちがやって来るであろう南東側に近い港の辺りだ。

 

 また、大砲を積んだ飛行船が3隻も頭上を飛んでおり、海空合わせて9隻もの軍艦が南の海を睨み付けていた。

 

 そんな物々しさに反比例して、近くの兵士たちには楽観的な空気が漂っていた。

 

 軍艦9隻、今も続々と海を睨みつけにやってくる数十門の大砲、高レベルの対空魔法機器、これだけ集めて倒せない相手がいるだろうか?

 

 はい、まあ、少なくとも私は倒せない。

 

 なので、私が1人で倒せないグレータードラゴンよりも一回りは強いドラゴン相手に、これらが通用するとは思えない。

 

 私は頭の中で、グレータードラゴンたちの回避力と砲撃の命中力を比較していたが、奇跡が起きなければ当たらないような確率に嫌気がして計算をやめた。

 

 私以外は物理法則に従って動いていることを加味しても、ダメージになるかどうかは怪しい。

 

 そんなことを悩んでいる私は、ニースと最前線でボーッとしている。

 

 シムロンは巨大な四角い構造物の上に出来ているので、本来であれば、その南端は当然垂直だ。海から見れば、海抜10数メートル、水深10数メートルの金属壁が聳え立っている筈だった。昔の人は、この土台が波で削られると考えて、なだらか(・・・・)になるよう可能な限り埋め立てたらしい。

 

 埋め立てられた部分は土が剥き出しであり、かなり急こう配だ。無理すれば登れなくもないが日常生活で何かをするのは難しいだろう。落ちれば這い上がることは難しい。

 

 とはいえ、我々が立っている都市部分――石造りの地面との境には、胸壁がある凸凹の分厚い壁が見渡す限りずっと続いている。落ちようと思わない限りは落ちない。

 

 海を望んで左(東)を見れば、すぐそこの眼下に港が見える。砲台が並び、商船が西の方へ避難している。

 

 右(西)を見れば、シムロンのちょうど中央あたりは広めに埋め立てられており、地元の漁師が使えるように整備されている。その奥の西岸の港では、ブラックドラゴンの艦隊から少しでも遠ざかろうとしている船でひしめきあっていた。

 

 シムロンとポート・リートの間は冥族領域であり、寄港できる港が無い。そのため、泊めるにしても、一時的に西へ移動するにしても、ある一定のリスクは伴う。

 

 まぁ、ブラックドラゴン艦隊、とは言うが、所詮は奪った船――私掠船ですらない商船――で結成された即席艦隊。船はたったの3隻だし、軍艦やドラゴンと比べれば脅威度は著しく低い。本体はブラックドラゴンなので、大きな被害に遭うことは無い気もする。

 

 胸壁の凹から顔を出して水平線を眺めていると、近くに人がやってきた。1、2……3人だ。

 

「市長が最前線で指揮するって……大丈夫なんですか」

「地味に酷いことを言うね、君は」

 

 隣で私を見下ろすのは、ロームレッダ市長その人だった。後ろでまとめられた黒い髪が潮風にたなびいており、この立ち姿がそのまま絵になるような美女である。

 

 私が必死になって顔を出している壁の凸の上から、悠々と顔を出せるくらいには背が高い。ヴァレンタインとニースが2m近くあるので、おおよそ180cm弱といった所か。

 

 彼女が最前線にいる理由はもちろん、ここに市長の部隊が配置されているからに他ならない。私とニースがいる理由も同じだ。

 

 流石、即断即決しやすいように、私を脳みその近くに配置しているんだなぁ。という感想とは別に、最前線に来て大丈夫なのかとか、そういう疑問が浮かんでしまう。

 

「皆が命懸けで戦っている時に、後ろでふんぞり返ってああしろこうしろと言うつもりはないよ」

「そういう意味ではないんですが……」

 

 市長もヴァレンタインもコマンダー技能持ちなので、彼らが指揮を執るというのは効率的なのだろうが、万が一死なれたらヤバい。

 

「ははは! そうならないためにも、君たちには頑張ってもらわないとね」

 

 ロームレッダ市長は私たち3人をわざとらしく激励した。

 

 こういう市長の暴挙にヴァレンタインは慣れっこと言うべきなのか、心底認めているのだろう。"おともだち"が出てきた悪魔騒動の時もそうだったが、全面的に賛成している。

 

「あなた、止めないんです?」

「市長の道を阻むことはしないさ」彼は爽やかに言う。

 

 市長隷下の部隊はもう準備が整っているようで、壁の傍で銃や槍、盾を置きながら思い思いに過ごしている。

 

 戦力は壁沿いと港に配置されているので、この場にいるのは、遠距離攻撃部隊とそれを護衛する部隊を合わせた100名程だ。

 

 そこに、私とニースとヴァレンタインの少数精鋭の暗殺ユニットが混ざっている。

 

 この場に聖女とかいう人がいれば多少はマシだったのだろうが、昨日の今日でお偉い人が来れるかどうか。

 

 通話のピアスの再使用時間は過ぎていないので、ニースに聞いても行方は分からない。

 

《あいつは今回の事態を重く見てるだろうが、敵艦隊の到着までに来るのは難しいだろうぜ》

 

 飛行船で首都からシムロンまで来るとして、時速は30から40km。

 

 2者間は徒歩で10日程度掛かる行程なので、高低差を無視して直線距離を往けることを加味して、距離は約400キロ。

 

 私のようなフッ(フットワーク)軽人間なら大体10時間で移動できるが、聖女は首都バレミアの"盟主"。地位相応に腰は重たいだろう。

 

「偉い人ってのは大変ですねぇ」

「ああ、世話をするのも大変だ」

「口だけで止めやしない癖に」

 

 もう2時間ほど経つと、妖精魔法の契約が終わった。この技能、魔法を使うためには妖精と契約しなければならないのだ。

 

 大昔に「ルールブック」の適用範囲を変えたことで、契約には自分のレベル×2時間を要する代わりに、自分のレベルよりも高い妖精魔法を行使できるようになっている。今の私だと、属性を変えるような契約の更新には12時間必要であり、この時間の捻出は非常に難しい。

 

 だが、暇な移動時間に頭の中のルールブックを読み返したところ、「契約中は集中する必要があるため他のことができない」、というルールが何故か(私の解釈によって)消えてしまったので、昨日の夜中に決めた契約が今になって更新された。

 

 改訂前にはしっかり記載されていたが、改訂後に記載されていた「変更されてない点」には書かれてなかったので仕方ないね。

 

 そんなわけで、今の私は妖精魔法を水・氷のレベル2、風のレベル4、光のレベル9、闇のレベル6で行使できる。

 

 だからなんだ、という話であるが、召喚できる妖精の種類が増えただけだ。それがまた有用なので、時間を無限に拡大して召喚&永続強化を施しておく。

 

「……アルシップス、何をやっているんだ」

「見ての通りですよ」

 

 建物の陰で竜化しながらコソコソ怪しげに魔法を行使していると、ヴァレンタインが通りがかって言う。

 

「エコー……山びこの妖精を何故?」

「私の行動を繰り返してくれるからですね」「ねー」

 

 私の隣には、小さな女の子の姿をした妖精が立っている。緑の髪の風の妖精で、葉っぱのような服を着ている。

 

 ヒトとよく似た姿の妖精だが、ヴァレンタインのような妖精魔法の使い手にはすぐにバレる。ずっと召喚しっぱなしにする予定なので、隠そうと思っているわけじゃないが。

 

「あ、そうそう……忘れてたんですけど、魔法で強化していいですかね?」

「……それは、ああ。戦闘中には好きなだけやるといい」

「いえ、今から効果時間の長い魔法を掛けよう、ってことです」

 

 妖精がいる時は妖精魔法を使えないので、召喚したエコーを帰しながら尋ねる。

 

 ヴァレンタインは「何の魔法を?」とだけ聞いた。

 

「まずは【ブレスⅡ】」

「……その魔法は戦いの時間まで保たないはずだ」

「よく知ってますね。ですが、魔法の効果時間は延ばせるんですよ?」

「限度がある。……一体何を考えている?」

そういうこと(・・・・・・)ができるんですよ」

 

 私は努めて小声で言った。いかにも秘密を話しますよという風に。

 

「一日は持ちますよ」

「……君は、普通の家庭の出身だと思っていたが。魔法文明の王侯貴族の血でも引いているのか?」

「まさか。突然変異ですよ。ドラグニカみたいなもんです」

 

 私がヴァレンタインに無限化魔法を掛けようとしている理由は単純明快だ。

 

 彼はめちゃくちゃ柔らかく、私の予想だとすぐにやられるからだ。

 

 ニースほど鎧が固いわけではなく、私と同じ鎧で、HPは私より少し低い。炎天紅竜(ラヴァルヴォール)とやり合ったら確実に死ぬラインである。それより強い寂世黒白竜(オルフィーニル)であれば言うまでもないだろう。

 

 最低限のラインには立ってもらわなければ、初ターンで出オチという結果になりかねない。

 

 そういう訳で、ただでさえ強い人が足りないのに、攻撃性能の高いヴァレンタインを強化しないなんてあり得ない。

 

「それが強さの秘密というわけか……妖精も一日間使役できると」

「まぁそうですね。じゃ、今のままだと普通に死にますし、掛けますよ」

「……実際に戦ったアルシップスの言うことだ、分かった、よろしく頼む」

 

 達成値厳選はあまりせず、強化をパパッと済ませる。

 

 これは別に、彼が最悪死んでもいいとかではなく、理由がある。彼は市長の護衛──ほぼ副官とか秘書だよこいつは──として忙しそうに駆け回ってるから、時間を掛けられないのだ。

 

 まぁ、最低限は厳選してるので、あまり問題はない。150点。

 

「これで終わりです。掛かりの良い魔法を選んだので、相手がよっぽど悪くなければ解除はされませんが、運が悪いと駄目な程度です。あまり過信はしないでください」

「いや、助かるとも。あるのと無いのとでは大違いだ。市長には……」

「あんまりペラペラ話すもんじゃないですよ、これは。一緒に戦うあなたとニースだけに言っていることです。口を滑らせないように」

 

 釘を刺せばヴァレンタインは苦笑し、分かった分かったと言って立ち去った。

 

 私はもう吹けば飛ぶような雑魚ではなくなったが、知ってる人は少ない方がいい。アホな事を考える奴はどこにでもいる。

 

 ヴァレンタインから市長への口止めに関してはあまりアテにしていないが、許容範囲内ではある。市長に対してはある程度の信頼があるし、滅多なことがない限りは軽挙に出ないと考えられる。そうなった時は破滅だろうが……滅びるのはどちらだろうね。

 

 物騒なことを考えながら、エコーを連れてニースが居る天幕まで戻れば、「すぐに市長に知らせます!」と慌てて飛び出してきた軍人とすれ違った。

 

 何か火急の用だろうか。

 

 しかし、敵の姿はまだ海には見えていないし、そもそも予定にはまだ時間がある。定期的に上空から偵察をしているので、ドラゴンが急激に速度を上げたとしても見落とすことはない。

 

 天幕の中にはニースだけが居て、小さな椅子に武将のようにどっかりと腰かけていた。

 

「何かあったんです?」

《今に分かるぜ》

「バレミアからの援軍が来たようだ」ニースは簡潔に答えた。

「援軍……何人くらいですか?」

「7人だ」

 

 Q.たった7人で軍なのか?

 

 A.まぁ、ヒトによる。

 

 おやつを食べて暇を潰していると、外が騒がしくなってきた。

 

 複数の足音が近づいて来れば、市長にヴァレンタイン、それと7人の冒険者風の一団が天幕に入って来る。他にも役所の職員なんかがいたものの、中には入らず外で待機していた。

 

 その7人のうち、先頭の一人が一番目立っていた。金髪のエルフの女性だ。頭にヴェールをかけた神官風の格好をしているが、首から下は戦士のソレだ。重厚な金属鎧と分厚い盾を身に着け、腰にはスタッフとバスタードソードを佩き、さながら重装歩兵である。

 

 レベルは――――15。

 

 ヒト族としては普通に頂点に至った存在で、超英雄とでも呼ぶべき存在だ。

 

 具体的に言えば、プリースト15、占星術師(アストロガー)15、セージ13、フェアリーテイマー12、指揮官(コマンダー)11、ファイター9、騎兵(ライダー)8レベル等だ。

 

 ビルドは…………占星術師(アストロガー)を見なかったことにすれば、無難に強い。あってもなくても同じような技能がいくつか混ざっているし、できれば嗜みとして《ファストアクション》は欲しいが、期待されている役割は十分に果たせるタイプである。

 

 共闘するには申し分ない。このエルフこそ、ニースの言っていたバレミアの"盟主"──聖女バレミアだろう。

 

 黄金を編んだような輝く髪に、物憂げで知的な深い蒼の瞳。武装に不釣り合いなほど美しい美貌は、なるほど聖女と呼ばれるのも頷ける。

 

 市長は失礼のない所作で彼女たちに座るよう勧めた。

 

「こんなところですが、ゆっくりして下さい」

「いいえ、戦時ですから。共に戦うヒト族として過度なお気遣いは不要です」

 

 2人が簡素な椅子に腰掛けると、それ以外の者が静かに着席した。ニースもいつ立ち上がっていたのか、同じようにしていた。

 

 偉い人が入ってきたら立つ文化なんだな、やっちまったな、と思いちょっと気まずい。おやつ食べながらボーっと座って観察してたし、なんなら足も組んでた。

 

 聖女バレミアは一瞬だけ私を見たが、そのまま和やかに市長と話し始めた。

 

「まずは、わざわざ首都から"トリプルバレル"を連れて参陣していただきありがとうございます」

 

「いいえ、私の仲間――運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士からの火急の要請でしたから。それに、四都市同盟の盟主としても、あなた方をお守りするのは当然のことです」

「頼もしい限りです。シムロンの誇る英傑たちが、舞台をここまで整えてくれましたから、残る敵は力を合わせて打ち倒してしまいましょう」

 

 ヴァレンタインが神妙な顔で台の上に地図を広げると、2人はそのまま現在の状況について話し始める。

 

 その間、私は"トリプルバレル"と呼ばれた6人の冒険者たちの能力を見抜く。

 

 全員レベルは12。タイタスの男ファイター、犬人の女グラップラー、ヒトの男プリースト、シャヴァルの女マギシューター、エルフの男ソーサラー、タツビトリの男フェアリーテイマーだ。

 

 これがまーパーティとして良くできてる。プリーストは聖女に倣って鎧でカッチカチだし、シューターも回避が上手い。前衛後衛が2人ずつとスイッチ可能な中衛が2人。尖った個性を上手くまとめており、総合力が高い。

 

 私が戦って勝てるかどうかで言うと、十中八九勝ててしまうのだが。

 

 だからといって、彼らが弱いわけでも何でもない。普通のグレータードラゴンなら倒せる実力はあるはずだ。

 

 しかし、しかしだ。"六色同盟"のグレータードラゴンどもは範囲攻撃も初見殺しも持ち合わせているし、範囲攻撃連打でパーティが壊滅する程度では役者不足になってしまう。彼らにはそれほどの耐久は無い。

 

 "六色同盟"戦には全てが求められる。具体的に言うなら、HPが120以上はあって、防護点(物理防御)が15以上はないと生き残るのはかなり難しいだろう。

 

 また、生命力と精神力のどちらかが欠ければ死に直結するので、必然的に、前衛並のタフネスや自己回復能力、継戦能力が求められるし、敵の特殊能力に対抗するために魔法が要求されることもある。

 

 戦いに安定感を求めるなら、パーティ全員が物理も魔法もこなせる万能型で、なおかつ15レベルもあればいいだろう。というかその位じゃないと安定しない。

 

 我々が相手をしているのはそういう並外れた敵だ。

 

 気が狂った性能の鎧を持っていたり、3つの特技を同時に使えるような才能があったり、私のように魔法の効果時間を実質無限にできるような能力がなければ、それ未満の者に立ち向かう資格は与えられない。

 

 彼らの全員がレベル12だというのは、本来は驚愕に値することだ。

 

 この前ぶっ殺した"機械仕掛けの白百合"(レベル11)なんかもそうだが、その辺りのレベル帯になると、小国では最高戦力として扱われることも珍しくない。

 

 国家として、"四都市同盟"としては、彼らのような存在は非常に貴重でありがたいのだが、この場では足手まといに片足突っ込んでいる。

 

 "トリプルバレル"の彼らは――カラコロカラコロ――首都の方では有名な冒険者パーティのようだ。

 

 聖女直属の3つの冒険者パーティの1つであり、彼らの総称を"トリプルバレル"と呼ぶ。選りすぐりの強者だけに入ることが許され、常に6人1組で行動する聖女の"銃口"だ。犯罪組織の殲滅、冥族軍司令官の暗殺、邪教徒に対する防疫、首都を脅かす外敵の排除など、必要な暴力をすぐにお届けするための精鋭である。

 

 1人か2人をピンポイントで引き抜けば戦力にはできるだろうが、素の抵抗力が低いから多分死ぬ。

 

 その分、聖女は本当に強い。HPは158、防護点は脅威の27点。経験点は35万点、能力値の成長回数は300回。魔力の基準値は普通のエルダードラゴンより一回り大きい。"青の落日"の英雄の名に相応しい性能であり、支援に特化しきれていないのが惜しいものの、素晴らしく頼りになる。

 

「なるほど、今の状況は大体分かりました。ところで、そちらのドラグニカの女性が?」

「ええ、グレータードラゴンを倒した冒険者です」

「初めまして、ユウラン・アルシップスです」関心がこっちに向いたので自己紹介を挟む。

「ふーん……」

 

 聖女は私の全身をくまなく見つめた――ような気がした。視線が交差したのは一瞬の出来事であったが、力量を完全に見抜かれたような気がしてならない。というか知力もセージ技能も高いので絶対見抜かれてる。

 

 そのまま彼女は柔和な笑みを浮かべ、立ち上がって手を差し伸べて来たので応じる。

 

「初めまして、グリセルダ・ピーツェラル・バレミアよ。貴女のように勇敢な冒険者が居てくれて助かります、頑張りましょうね」

「はい。ニースからは15階梯の神聖魔法が行使できると聞いています。対ブラックドラゴン戦では頼りにさせていただきますね」

「ところで、私に渾名をつけるとしたら何にする?」

「…………え?」

 

 渾名? この人いま"あだな"って言った?

 

 "トリプルバレル"の方を見ると「また始まったよ」と小さく囁き合う声が聞き取れた。

 

 ニースも兜の上から頬を掻いているので、多分この人の性格だろう。多少の失言は問題ないか。

 

「そうですね…………」

 

 ピーナッツ、は駄目だろうな。グリセルダの方を弄るしかない。となると……。

 

「ゼルダ姫とか」

 

 バン!

 

「ウラエヌス! 違うの!?」

《違ぇよ、セールクスだっての》

 

 意味深なやり取りの後、聖女グリセルダが叩いた台の脚に罅が入って割れた。

 

 彼と彼女以外にはさっぱりなやり取りで、気まずい沈黙が訪れる。

 

「失礼いたしました、想定外に取り乱してしまって」

「あ、あぁ……」

「申し訳ない! 大将は少々変な方なのだ!」

 

 絶句するロームレッダと我々に、"トリプルバレル"のタイタスの男が無神経そうに言い放った。

 

 そんな取り成しもあって、場は和やかに流れ、一旦は解散という事になった。

 

 ロームレッダは「他の部隊と連絡してくるよ」と、ヴァレンタインを伴って去っていった。

 

 聖女たち7名はあくまで独立した部隊ということになっており、何かをしてほしいというような要請を市長は特にせず、示唆に留めた。首都の最高指導者を一都市の部隊の指揮下に収める訳にはいかないとか、すり合わせる時間が皆無だったとか、そういうことだろう。知らんけど。

 

 なので、現場レベルで話をつけるしかない。窓口役のウラエヌスもいることだし、どうにか納得させないと。

 

 他の6人はいらないし、聖女だけが仲間に加わってくれたらいい、ということをオブラートに包んで伝えなければ。

 

 当初の想定通り、私、ニース、ヴァレンタイン、聖女の4人で寂世黒白竜(オルフィーニル)を倒すのが最も被害が少ない。

 

 いや、本当に援護は必要ないのだ。

 

 魔法機器の銃を使う射手――通称マギシューが、ほぼ最大射程となる50メートルほど離れた場所からチマチ射撃するとか、そういう援護すら要らない。

 

 塵も積もれば山となるが、塵は所詮塵だ。寂世黒白竜(オルフィーニル)が射程の広い範囲攻撃能力を有しているだけで簡単に消し飛ぶだろう。

 

「さて、気を利かせてくれたみたいだし、話を詰めちゃいましょうか。2人で4頭も倒してもらったみたいだし、残りは私たちで始末しようと思うのだけれど、実際に戦った貴女たちの意見を聞かせてほしいわ」

 

 打って変わって聖女グリセルダは砕けた口調で話し始め、私に水を向けた。

 

 "トリプルバレル"の面々はリラックスした様子で耳を傾ける。

 

「忌憚のない意見を言わせていただきますが、後衛の回復にリソースを取られるので、私とニースとヴァレンタインの3人にグリセルダさんを加えて戦った方がいいですよ」

「なるほどねぇ……みんなはどう思う?」

 

 真っ先に口を開いたのはシャヴァルの女性だった。

 

「確かに実力はあるみたいね、でも2人で倒せたんでしょ? 7人で──不安なら9人でも10人でもいいんじゃない?」

「賛成だな!!」「……うん」

 

 タイタスの男が声を張り上げ、犬人の女性は静かに首肯した。

 

 2人とも、自分の前衛としての能力に疑いがない。

 

 タイタスは知力(魔法的なアレコレなので実際の賢さとは無関係)や器用度が低い代わりに、筋力や耐久力が高い種族だ。背丈は男女ともに250センチを超えるのが平均的で、生まれつき外皮が硬く前衛に向いている。

 

 犬人は筋力、耐久力、精神力に優れる。牙での追加攻撃ができ、拳闘士(グラップラー)にちょっと向いている。種族としては真面目であり、己が認めた相手へ従順になる傾向がある。門番や警備兵、衛兵などに採用されやすく、神官戦士としてもよく見かける。

 

 確かに、12レベルまで鍛え上げた前衛向けの種族は優秀だ。

 

 自信があるのは分かるが……分かるが、寂世黒白竜(オルフィーニル)は絶対にそんな甘い奴ではないだろう。

 

 激烈な攻撃性能で私を2回も殺し掛けた炎天紅竜(ラヴァルヴォール)という怪物を越えた怪物を、伝え聞く限りでは、他の3体の――氷と風と土の――グレータードラゴンと同じ程度であると見做せる力を持つドラゴンだ。

 

 全く論理的ではないが、彼らが生き残るというヴィジョンが不思議と思い浮かばない。

 

「……そうですね、奴らの厄介なところは、普通の冒険者パーティが初見で遭遇したなら数人は容易く殺されてしまうところにあります。

 出会った全員がそういった特殊な能力を持っていましたし、攻撃力として寄与しない存在が居ると回復にリソースを取られてしまいます」

 

「攻撃力として寄与しないっていうのはどういうことダネ?」

 

 妖精使いのタツビトリがエコーを興味深そうに眺めながら言う。

 

寂世黒白竜(オルフィーニル)に攻撃を当てられない、もしくは反撃を喰らった後の回復のせいで攻撃の機会を逸する、ということです」

「つまり、私が連れてきた"トリプルバレル"は足手まといって言いたいわけね?」

 

「ええ、私のことは知らないでしょうが、何度も瀕死に追い込んでくるような奴らが相手です。

 しかも、ブラックドラゴンはそいつらを上回り、エルダー級はあると見なされるような奴です。彼らは足切りラインに引っ掛かっていると考えています」

 

 ちょーっと視線が怖いので、グリセルダの目を見ながら断言する。

 

「今代はどう思う?」

「…………ウラエヌスの守りがあっても尚、死に瀕するほどに戦いは苛烈だった。彼らの実力は知っているが、生存を望むのはかなり厳しい」

「ふぅん、あんたほどの戦士がそう言うなら……」

 

 ニースの意見で彼らは納得したようだった。

 

 恐らく彼らが旧知の仲であるのと、知名度や実力が要因だろう。

 

 私ってぽっと出の冒険者ですからね。

 

「それなら仕方ないわね。じゃあ、あとは親睦を深めて戦いに備えましょ」

 

 時折外の様子を見ながら、軽い雑談をして時を待つ。

 

 あっという間に時刻は16時を回り、兵たちの間には緊張感が流れていた。

 

 東の方は茜さし、我々は徐々に徐々に夜に覆われようとしていた。

 当然、夜は冥族やアンデッドの時間。多くのヒト族は暗視がなければ夜を見通せないし、戦闘になれば不利を強いられる。

 

 私たちは全員海と空を望み、いつ敵が来てもいいように待ち構えていた。

 

 30分前に上空から偵察したソーサラーの報告では、あと10キロほとの地点に来ていることは確認できていた。

 

 ただし、奴らに動きがないということも。

 

「……もう一度偵察しましょうか」

「頼めるかしら」

 

 私が言うと、聖女はエルフのソーサラーにも同行を頼んだ。

 

 私は彼の猫のファミリアを抱えて空へ飛び、高度2000メートル程の高さから地表を見渡した。

 

 都市の上を見回る飛行船を眼下に、海に浮かぶ船を探す。

 

「……あれかぁ」

 

 私は通話のピアスを起動して、地上のニースに連絡を取った。

 

「こちらユウラン、敵の船を発見しました」

『……ああ、どのあたりだ?』

「位置は変わってません。その代わりに船が増えてます」

『今何隻です?』聖女が電話口に出る。

「集まっているのは5隻。遠くから3隻ほど来てるので8です」

『ブラックドラゴンの姿は見える?』

「居ませんね……陸地とか船の上にはいません。あと、船が全部ゴーストシップになってます」

 

 ゴーストシップはいわゆる幽霊船で、分類はアンデッドだ。レベルは12の7部位、840点と経験点が美味しそうだが、迂闊に手は出せない。

 

 大砲の射程は100メートル、奴らが港湾に襲い掛かる時はかなり間近に見えることだろう。

 

 ……いや、普通の船もあったはずなのに、なんでアンデッドになってるんだ?

 

 集まっていることは百歩譲っていいとして。

 

『それなら──』

 

 甲板の乗組員はアンデッドなのか、冥族はどの程度いるのか、武装はどんなものか。次々繰り出される聖女の質問に答えながら、敵の陣容を観察していると、すぐに通話時間が終わった。

 

 時間が過ぎてからは、ずっと上空で待機だ。

 

 敵の艦隊には1隻また1隻とゴーストシップが加わっていき、それらは水平線の向こうからやって来ているようだった。

 

 陽が沈みかけ、敵艦隊が当初の4倍――12隻まで膨れ上がった頃、私の腕の中にいたファミリアが降下の合図を出した。

 

 地上には"トリプルバレル"とニースが既に待っており、私が着陸するや否やグリセルダが海を指さした。

 

「シムロンの面子を考慮していましたが、事ここに至っては、先制攻撃で敵艦隊に打撃を与えなければなりません。敵戦力の増大は必至であり、先が見えない以上、取り返しがつかなくなる前に叩きます」

 

 それは許可を取るというよりは、地上で既に話し合って決めたことの通達だった。

 

 まぁ、私も否は無い。

 

 敵は叩けるうちに叩く、当然のことだ。経験点も美味しいし。

 

「それで、どうやって船まで? 【テレポート】はできそうにありませんが」13レベルのソーサラーが居ないのである。

「妖精魔法の【エアリアルウィング】で敵船に近づき、【ファイアポート】で一気に乗り込みます。一撃を叩き込んだら離脱し、状況をみて続けるか撤退します」

 

 【テレポート】が使えない時の手段としては上々だ。

 

 風の魔法で高速移動し、【ファイアポート】による短距離テレポートの有効射程まで近づいて、奇襲を掛ける。

 

 いい作戦だ。

 

 船の1、2隻は簡単に沈められるだろうし、全滅は無理でも痛手を与えることが出来る。

 

「では────っ!?」

 

 号令を出そうとした瞬間、彼女は額を押さえてうずくまった。

 

「グリセルダ様!」"トリプルバレル"の面々が駆け寄る。

「だ、い丈夫よ、視えただけ」

「何かを予知されたのですね……?」

 

 予知――つまりは、聖女の持つ占星術師(アストロガー)の能力が発現したということだ。

 

 占星術師(アストロガー)はHPとかMPを支払って、占いで判定にバフをしたり、未来を"予知"して改変する技能である。具体的に言えば、サイコロの出目に固定値を+1とか+2したり、賽の目の操作や買い物ができる。

 

 占星術師(アストロガー)向けのビルドと信仰をすれば、極まった支援型として大暴れできるのだが、聖女はよりにもよってデータ的には全然強くないンア信仰だからまぁ……はい。

 

 とはいえ、占星術師(アストロガー)の"データ"としてデザインされた性能は、厳密には私にしか適用されていない。

 

 "予知"というあまりにもデータ化することが難しい部分を落とし込んだのが、私の言う"性能"であるので、聖女の本懐はデータに無い部分の真価にこそあるだろう。

 

 一言で言うとフレーバー部分。

 

「この作戦は……中止するわ」

「そんな!」「一体何を視られたので……?」

 

 プリーストの男が戸惑いながら尋ねると、グリセルダは震えながら言葉を絞り出した。

 

「敵が強すぎた……! まともに戦えば、勝ちの目1つ見出だせない」

 

 ……おぉ。

 

 マジ?

 

 いい作戦だと思ったが、負けるのか。

 

 この場にいるのは、"トリプルバレル"と聖女の7人、ニースと私の合計9人だ。小さい国なら一晩で破滅させられるような過剰戦力と言ってもいい。

 

 ヴァレンタインが居ない点は作戦を片手落ちにしたが、一撃離脱のハラスメント攻撃に使う戦力としては十分すぎる。

 

 それが失敗した?

 

 つまり、ワンターンキルされたとか、死人が出たとか、そういうことか。

 

 確実に言えることは、あの艦隊にはブラックドラゴンが居る。

 

《有り得ねぇ、俺たちが負ける訳が……》

「もうちょっと詳しい説明をしてもらえません?」

 

 動揺する"トリプルバレル"と沈黙を保つニースに代わって、私から切り出す。

 

「そう、そうね……幻視は断片的だったけれど、巨大な黒い影が悍ましいオーラを放ちながら、瞬く間に私たちを倒したわ」

「……具体的にはどうやって?」

 

「たしか、ええ…………澱んだ空気が身体を蝕み、黒いブレスが破壊を撒き散らしたわ。その時点でもう何人もやられて、魔法で治療をしようとしたけれど、すぐに2本の尾と嵐が、私たちをバラバラにしたの」

 

 なんか……行動余ってない??? 尻尾も2本あるとか言ってるし。

 

 澱んだ空気が多分常時発動効果。ブレスが頭、2本の尾、嵐……は多分胴体。胴体は2回行動できるはずなので、翼2つと胴体1回分の行動を余らせて私たちを全滅させた計算になる。

 

 単純に考えても、あの炎天紅竜(ラヴァルヴォール)よりも攻撃性能が苛烈ということになる。

 

 あらららら、死んだわ。

 

 ヒト族の限界を超越した冒険者パーティが唐突にやってこないと、まともに殴り勝てない類の相手か。

 

 白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)の援軍があれば、多少は光明が見えてくるかもしれないが、無いものねだりをしてもしょうがない。

 

「それで、エルダーですか? エンシェントですか?」

「……恐らく、エルダー。禍々しい気配で、姿ははっきりとしませんでしたが、大きさからしてエルダーでした」

「なるほど。アンデッド疑惑があったんですけど、生きてました?」

「少なくとも、アンデッドに類する存在ですね」

 

 つまり、"六色同盟"の特殊具合が、そのままエルダードラゴンアンデッドに反映されると考えた方がいいわけだ。

 

「じゃ、消耗品だけでも揃えません? 魔法ダメージを抑える抗魔石とか、抵抗力を増す護符とかあるじゃないですか。金貨を積み上げれば多少は生き残れますよ」

「……やらないよりはマシ、よね」

 

 聖女がどうにも覇気に欠けるものの、私たちは敵艦隊が動き出すまでの時間を買い物に費やした。港に近い市民には家の中に留まるようにお触れが出ているので、内陸の方で店じまいを始めていた店に押しかけた。

 

 代金は聖女持ちなので、遠慮なく選ばせてもらう。

 

 アンチマジックポーション1つ、生命/精神抵抗力に+3の補正を乗せる生命の護符と魔祓の護符を3枚ずつと、魔法ダメージを5点軽減する抗魔石を10個。しめて58000Rをポンと奢ってくれた。

 

 しかも、これを人数分払ってくれるのだから、太っ腹という他ない。

 

 まぁ多分これだけ金を積んでも、運よく20秒生きられたらいいね、というのが関の山だろう。いくら何でも相手が悪い。

 

 それからは兵たちの所へ戻り、時々偵察をしながら時間を潰す。

 

 "トリプルバレル"も聖女も、明らかに緊張した面持ちで待機しており、煙草をふかしたり武具を磨いたりして、各々の時間を過ごしていた。

 

***

 

 太陽は完全に沈んだ。

 

 夜の8時になる頃には、敵の艦隊は18隻もの大艦隊に膨れ上がっていた。

 

 これは当初の6倍──こちらの軍艦の2倍に相当する。

 

 シムロン軍上層部にはまだ楽観視する声があったものの、トップは正しく現状を認識していた。

 

「分かった。ユウラン嬢の頼みとあらば、右腕のヴァレンタインを貸し出そうじゃないか」

「市長……」

「これも私たちの未来のため、生きて帰ってくるんだ」

「……任された。君に勝利を」

 

 歯の浮くようなセリフをロームレッダに言って、ヴァレンタインは我々と共に待つ事になった。

 

「市長と付き合ってるんです?」

「子供らしい感想だな」

「はぁっ!? こど、子供って!」

「ふっ」

 

 彼は頭を乱暴にバシバシと叩き、鼻で笑って聖女に挨拶しに行った。

 

 誰が童貞らしい感想だよもう許せねぇぞオイ!!!

 

 "六色同盟"なんかが来なければ、でっぱいのおっかい女の子と卒業する予定だったのに!

 

 聖女もニースもそういう意味では全然眼福じゃないし、ロームレッダ市長とか"トリプルバレル"の女性陣は普通の乳だ。

 

 私は頭くらいおっきな爆乳に顔をうずめたい。

 

 ――小さくていいだろ!!

 

 えぇいうるさい! 前々世?の声!

 

 創世力って何だよ馬鹿野郎! 松田の馬鹿野郎!

 

 乳も揉めずに性癖の違う"内なる声"と一緒に死にたくないやい!

 

「ユウラン、いざとなれば逃げてくれ。撤退の時間くらいは稼いでみせる」

 

 真面目な考え事をしていた私の肩をニースが叩く。

 

 小さく囁かれた言葉には、力強い覚悟が感じられた。

 

 ただ、奴らが狙っているのは私もとい創世力だ。字面からして物騒なパワーを目当てにしているので、我々が死んだら碌なことにならないだろう。

 

「いえ、この場での優先度は私が最も低いです。何かあれば家族をお願いします」

「っ……ユウラン」

《ああ、俺の方から手を回しておく》

「ウラエヌスっ!」

 

 本気で怒っているニースには悪いが、この辺りの背景事情を話すのは憚られる。言えないものは言えないのだ。

 

 ……しかし、ただのインテリジェンスアーマーに過ぎないウラエヌスに、回せる手があるのだろうか。

 

 聖女との繋がりが深いみたいだし、第3の"青の落日"の英雄が出てきても……いや、そりゃないか。引っ張り出してきそうだし。

 

 微妙な空気のまま偵察に出ると、敵は移動を再開しており、再びシムロンに迫りつつあった。

 

 到着予定は夜の9時頃。

 

 港や南端部砲台にはいくつもの篝火が焚かれ、兵士や冒険者たちに温かい夜食が配られていたのだが、その報告が伝わると再び慌ただしくなった。

 

 投光器のような魔法機器が海を照らし、松明や魔法機器の明かりが更に増える。

 

 長期戦を見据えて寝ていた者は起こされ、大砲や堡塁の確認が慌ただしく行われる。

 

 誰もが緊張していた。

 

 いよいよやって来るという黒竜のアンデッド艦隊に、誰もが恐怖を抱いていた。

 

「見えたぞ!」

 

 とうとう、夜目の利く誰かが叫んだ。

 

 目を凝らせば、ほぼ真南の水平線の向こうに、襤褸を纏ったゴーストシップが貌を覗かせつつあった。運悪く見てしまった者は、そのおどろおどろしい雰囲気に、顔を真っ青にしていた。

 

 数分もすれば、黒々と朽ち果て、腐り、冥府の川から現れたような艦隊の全貌が見えた。

 

 海軍の陣形なんぞには全く明るくないが、あれは2列の単縦陣、という奴だろうか。知らんけど。

 

 奥の方の艦は船同士が遮蔽になって見えないが、視えた(・・・)

 

 私は聖女たち"トリプルバレル"と距離が離れていることを確認してから、付き従っている妖精に命令した。

 

「エコー、繰り返しなさい」

「はいっ!」

 

 エコーはこの時の為に召喚した妖精だ。この妖精は、音を伴う魔法などを術者と同じように(・・・・・・・・)繰り返す。

 

 ニースとヴァレンタインがこちらの様子を窺っているが、出し惜しみはナシだ。

 

 本当なら艦隊がもっと近距離に来た時にコソコソ使う予定だったのだが、寂世黒白竜(オルフィーニル)には勝てないのだから仕方ない。本当に仕方ない。

 

 多少のリスクを呑み込んででも、今勝たなければ未来は無い。

 

 ――まともに戦って勝てないなら、誰がまともに戦ってやるものか。

 

 

 

「【距離80倍拡大】【数174倍拡大】――【キュア・エクストリーム】」「【キュア・エクストリーム】!」

 

 

 

 囁くように詠唱すると、全く同じ神聖魔法をエコーが繰り返した。

 

 私たち(・・)は合計で250000近いMPを踏み倒し――はるか遠くのゴーストシップと甲板のアンデッドに回復効果による攻撃をぶち込んだ。

 

 アンデッドにとって神聖魔法の回復はダメージとなるので、私が持つ遠距離攻撃手段としてはこれが最も威力が高い。

 

 無限化魔法で威力を増やすことはできないが、距離は時間と試行回数をもたらしてくれる。どれだけ寂世黒白竜(オルフィーニル)が強かろうとも、3~4kmの超アウトレンジから一方的に魔法をぶち込まれたら十数発は喰らわざるを得まい。

 

 姿はまだ見えないが、魔法の抵抗を抜けば平均37*2ダメージを叩き込める。抵抗されるとダメージが0になるので、それなら魔法を【サンダーボルト】に切り替えて打つが、それでも19*2ダメージは入る。

 

 100秒もあれば、少なくとも400そこらのHPを消し飛ばすことはできる。

 

 勝ち目の無い戦いだってんなら、こっちは反則を持ち込んでやろうじゃないか。

 

 




ゆうらん(爆乳に顔うずめてぇ)
にーす(悩んでいるみたいだ……)

ネーミング選手センス権

  • 氷獄蒼竜ゼースィルカイダス・ダンリスルス
  • 万緑翠竜ワークンフジャルガ・グリューセン
  • 陸崩茶竜ディゼルガノルズガグラバドン
  • 炎天紅竜ラヴァルヴォール・ブレイカノンド
  • 雷騰黄竜ライラトルニトルザヴォルゲオルガ
  • 寂世黒白竜オルフィーニル・キャンペイン
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