私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第八話「プルートゥス・フルムーン」

 

 水平線の上、ほとんど点にしか見えないゴーストシップとその甲板のアンデッドに【キュア・エクストリーム】の魔法が放たれた。

 

 低級のアンデッドはその一発とエコーの"復唱"によって完全に動かぬ屍と化し、ゴーストシップは耐久力の半分以上を一気に削られた。

 

 《烙印》がもたらす死のエネルギーを大きく失った船体はあちこちが弾け、朽ち果てた木材がばらばらと海に落ちていく。パーツをなんとか留めて再生する船もあったが、そういった再生能力は無制限の魔法に対しては誤差でしかない。

 

「何をやっているんだ……ユウラン?」

 

 ニースとヴァレンタインがためらいがちにこちらの様子を伺っている。

 

 傍から見れば、気が狂って魔法を無駄打ちしているように見えるのだろう。仲間の気が狂ったら私もそうするだろうが、まさかイカレた射程の魔法を使っているとは思うまい。

 

 まぁ、もうそんなのはどうだっていい。

 

 ここで、敵を倒さなければならない。

 

 私が2度目の【キュア・エクストリーム】を放ち、エコーが繰り返すと、ほとんどのゴーストシップが傾き始めた。

 

 甲板の上には新たなアンデッドが続々と現れ、私の視界(・・)に収まっていく。

 

 3回目、過剰なダメージを受けた船体が破砕し、外に出てきたアンデッドは聖なる力を浴びて塵となる。21270点。

 

 うん、高レベル多部位はうま(あじ)

 

 いやこんなもん18隻も連れてくんな、国が滅ぶわ。アンデッドも120体近く積んでたし……いや、18隻にしては少ないな?

 

「まさか!」

 

 行動の意図に思い当たったのか、ニースは望遠鏡を取り出して覗き込んだ。

 

 流石に、この闇夜の中、水平線近くに浮かんでいるゴマ粒のような船を見ることは無理だと思うが……勘がいいね。

 

「アルシップス……お前は、なんという……」

 

 あ違うこれ色んな意味で信用されてるわ。

 

 敵艦隊がゴーストシップだということは既に分かっているので、回復用の神聖魔法を唱えた時点で、そういう発想にならざるを得ないのか。

 

「どうも。……お出ましですよ」

 

 私は諸々を察した2人に首魁の到来を告げた。

 

 砕け散り沈んでいく船の残骸の1つから、大きな大きな翼が広がった。

 

 どこに収まっていたのかと思うほどの巨体が軽々と舞い上がり、その全貌を――賽が振られ――見せた。

 

 ああ、視えた。

 

 あぁぁぁー……

 

 …………はい。

 

 脳内で動揺するのはこれくらいにして、これほぼ勝てねぇな。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)は27レベルで、尾が2つある6部位の敵だ。

 

 格はエルダー。種族はアンデッド……ではなく、"リザレクター"という謎の種族。対アンデッドの効果は適用されるようだが、アンデッドとは別枠扱い。

 

 つまるところ、奴の分類はエルダーブラックドラゴンリザレクターになる。

 

 データ的な話をすれば、各部位のHPは652~780。純エネルギー、呪い、毒、病気、精神効果属性を無効化し、神聖魔法による回復と炎属性の攻撃で5点の追加ダメージが入る。

 

 全ての部位が2回行動可能(部位胴体は3回行動可能)で、魔法ダメージを常に20点カットし、毎ラウンド(およそ10秒ごと)にHPを50点、MPを20点回復する。

 

 魔法に対する抵抗力――精神抵抗力は40あり、私の魔力では逆立ちしても突破することができない。

 

 はい、そうです。

 

 超ロングレンジ攻撃は魔法ダメージのカット効果とリジェネ効果で無意味になるワケですね。

 

 運よく1~4点くらいのダメージを与えると、敵は50点回復するという……。

 

 Fuck!!!!!!!

 

 それに、寂世黒白竜(オルフィーニル)の半径10メートル程度まで接近すると、範囲攻撃だけで致死量のダメージが飛んで来る。接近戦で挑むのは自殺行為だ。

 

 全ての攻撃に抵抗できた(ダメージ半減)としても、軽減の難しい毒属性や病気属性の魔法ダメージの範囲攻撃を平均で79点、単体攻撃を加えれば追加で平均59×2点が飛んで来る。

 

 物理ダメージの範囲攻撃は、《烙印》があれば平均で72×4点で済むが、無ければ87×4点だ。単体攻撃は平均36点が3回飛んで来る。しかも、ニース以外は避けられない程度には命中しやすい。

 

 防護点27の聖女がその範囲内に居たとすれば、少なくとも『範囲攻撃』だけで平均319点のHPが消し飛ぶ。これは実に聖女約2人分のHPで、近寄れば誰であろうとも即死できる。

 

 まぁ、レベルが27と、小神並の相手だ。【コール・ゴッド】のように、レベル15以下は問答無用で即死させられます、をされないだけマシか。

 

 ふざけんな死ね!

 

 氏ねじゃなくて死ね!

 

 バランスどうなっとるんじゃ。

 

 無限の憤怒を込めて睨みつけても何ら意味はない。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)は遠くの海で滞空し、動かないままだ。輪郭がゆらゆらと揺らめき、黒いオーラを放っている。本体が実際にどのような表情をしているのかは、まだ見ることができない。

 

 ああしてあそこに浮かんでいるだけで、奴の周囲100メートルには冥界の瘴気が満ち、常人の生存を許さない死の世界になっている。奴は毒と病を振りまく死の化身であり、都市の上を飛ぶだけで生者の世界を冥府に変えてしまう復活した者(リザレクター)だ。

 

 動くつもりはないようだが、代わりにもう1つの影が海面から飛び出してきた。

 

 姿は竜。だが、目は落ち窪み、翼の皮膜は無く、骨と僅かばかりの肉だけで動いている。鱗は罅割れ、かつての美しい姿は、冥府の亡者の如きみすぼらしさだ。

 

 ――氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)

 

 私が冥都で打ち倒し、火を放って葬ったはずのグレータードラゴンは悍ましい存在に変わっていた。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)の特殊能力には、死体を生前と同じようなアンデッドとして蘇らせる(・・・・)能力がある。ついでにアンデッドを問答無用で操る能力も。

 

 なので、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)はその力によってアンデッドになり、従順な下僕として働かされているのだろう。

 

 厄介なことに、空気さえも凍らせる氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)の権能は生前と同じく健在で、跳び上がった時の水飛沫がそのままの形で凍り付いていた。

 

 彼は猛然とこちらの方へ飛行し始め、明らかにシムロンを目指している。

 

 それには、まだ誰も気づいていない。

 

 4ラウンド目。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)を倒すには、アレしかない。

 

 そのためにはまず、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)を倒して経験点を稼ぐ必要がある。

 

 レベルだ。レベルを上げなければ、勝負の土俵に立つことも叶わない。

 

 もう一度奴を倒し、経験点を積み上げて竜の侵攻に終止符を打つ。

 

 で、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)の精神抵抗力を私の魔力で突破することは厳しいので、魔法を切り替える。

 

 無数の【サンダーボルト】が遠くの海に降り注ぐと、船の残骸に火が付き、海に投げ出されたアンデッドの打ち漏らしや氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)の肉体を打ち据えた。それと同時に、エコーの"復唱"によって同じ数だけの雷が落ちた。

 

 局所的に落ちる雷は壮観の一言だ。

 

 視力の良い者は、炎上する船と雷の光で何が起きているかに気付けるだろう。

 

「――あれか、奴は……!」

「まずいぞ運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士、聖女が気付いた」

「私が気を逸らす、接近しているのは既に倒したドラゴンがアンデッドになったものだ。冷気に気を付けろ」

 

 望遠鏡をしまったニースが聖女に駆け寄って、こちらへの注意を逸らしてくれている。

 

 雷は【サンダーボルト】の魔法なので、術者がどっかにいるという話になる前に、接近するドラゴンの方へ注意を逸らそうという話だ。

 

 ヴァレンタインはというと、同じく妖精のエコーを召喚して、私の魔法を"復唱"させた。万雷が三度降り注ぐ。

 

「どのエコーも魔法は4回しか"復唱"できないが、どうする」"復唱"はMPを消費するので、実質的に回数制限がある。

「魔香水あったら使ってもらってもいいですかね?」

「……あぁ、私が何かを唱えるよりそっちの方が効率的だな」

 

 彼はMP回復用のポーション――魔香水を持ち、MPを消費した私のエコーに振り掛けた。

 

 ダメージから考えて、あと6ラウンドもあれば氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)は倒せるだろう。

 

 …………。

 

 そういえば【テレポート】あったくない?

 

 グレーター以上のドラゴンはソーサラーの魔法を第15階梯まで習得しているので、必然、第13階梯の【テレポート】も使える。

 

 マジ? これ忘れるか普通!? あっちも忘れてくれないとロングレンジ攻撃成立しないじゃん馬鹿!

 

「ヴァレンタイン、あいつら【テレポート】で乗り込んできますよ」

「…………何?」

「都合のいい展開しか考えてなかった、そうだ、あるんですよ……」

 

 こうすれば勝てる、という事は、そうしなければ勝てない、という話でもある。

 

 あまりにも絶望的な盤面過ぎて、視野狭窄に陥っていたのだろう。

 

「グレータードラゴンは魔法の知識に富むとは言うが、【テレポート】は架空の魔法ではなかったということか?」

「はい?」

「……齟齬があるぞ、何を前提に考えている?」

「は? 【テレポート】は無い? 世間一般に?」

「そうだな。ソーサラーやコンジャラーがそんな魔法が使えるなどという話は、一度も聞いたことがない」

 

 …………?

 

 あっ、【テレポート】ってもしかして遺失魔法扱い?

 

 紳士協定入りして世界から消えたとかそういう?

 

 あーあーはいはいはい。

 

 万緑翠竜(ワークンフジャルガ)とか【テレポート】使わずにえっちらおっちら逃げたせいで撃ち落とされたもんねぇ。

 

 【バインド・オペレーション】とか【ライトニング・バインド】みたいな、紳士協定入り不可避の魔法がのさばってたから、まさか【テレポート】がそうだとは思いもしなかった。

 

 ちなみに、「紳士協定入り」とか「遺失魔法扱い」とかは、「ドラゴンソードTRPG」を遊ぶ時に、バランス調整やシナリオの都合によって、特定の魔法なんかを封印する、という意味だ。

 

 この魔法を使うとつまらんとか話が壊れるなんて場合に、GMとPLの合意――暗黙の場合もある――の下で適用されたりする。

 

 もちろん、私は【テレポート】を封印しようなどと考えた覚えはない。今まさに考えた所ではあるが、状況的には、今よりももっと前に紳士協定入りしたように思える。

 

 じゃあ、一体誰がこんなことをやったのか。

 

 考えても仕方ない。切り替えよう。

 

 5ラウンド目。

 

 私1人とエコー2体で【サンダーボルト】を唱えれば、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)には1ラウンドあたり40点近いダメージが入る(再生されるHP分を除く)。

 

 なので、このラウンドを含めれば10ラウンド目には倒せるだろう。

 

「あと100秒後には撃ち落とせるでしょう」

「これだけ一方的に魔法を撃ち込めばな」

 

 雷が降り注ぐたびに、その光を目撃した兵士たちに動揺が走っている。

 

 駆け付けた市長がヴァレンタインとの意味深なハンドサインの後、聖女の下で真剣な話し合いが行われる。

 

 6、7ラウンドと時間が過ぎると、"トリプルバレル"の妖精使い(フェアリーテイマー)がやってきた。

 

 茶色い毛並みの彼は、「聖女に感謝するんダネ」と言いながらエコーを召喚して私の魔法を"復唱"させた。

 

 確か、名前はホーナだったか。カモノハ……タツビトリなので、目線が私よりもやや下だ。

 

「良くお分かりに」

「アレが魔法で誰なら唱えられるか、考えれば分かるんダネ」

「……流石聖女といった所か」

「そう、独断を許す寛大さ、盟主に相応しいんダネ」

 

 という訳でダメージは加速した。魔香水振り掛け係が3体のエコーに甲斐甲斐しくMPを補給した甲斐もあって、9ラウンド目に氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)は墜ちた。

 

 彼の死骸は自分で凍らせた海の上に投げ出され、もう再生することもない。1000点。

 

 残るは動かない寂世黒白竜(オルフィーニル)だけ。

 

「さて、聖女に話を付けてきますか」

「我輩が伝えてもいいが、なんダネ?」

「あいつを倒す方法ですよ」

「……あるのか、アルシップス」

「そりゃまぁ」

 

 私は会話をする一方で、頭の中のキャラクターシートを開き、レベルを上げた。

 

 これで、プリーストレベルは15。私も聖女と並んで、神聖魔法第15階梯を行使できる神官になった。

 

 ゴーストシップが山ほどアンデッドを積んでいたのが幸運だった。

 

 《特技》には《魔力撃強化》を選択。これは、《魔力撃》を行う際の命中力に(知力/6)の値を追加できる能力だ。2回魔法を唱えられる《ダブルキャスト》も欲しかったが、寂世黒白竜(オルフィーニル)相手に僅かでもダメージを与えることを考えれば、《魔力撃強化》になる。

 

「【コール・ゴッド】ですよ。私と聖女で2度打ちできますし、痛打は与えられるでしょう」

「勝てるとは言わなんダネ」

 

 神聖魔法第15階梯の【コール・ゴッド】。読んで字のごとく神を呼ぶ魔法だ。

 

 ンアは小神(マイナーゴッド)に分類されるので、比較的簡単に呼べるし、呼びさえすれば簡単な奇跡程度であれば叶えてくれる。おまけに15レベル以下の敵は判定不要で倒してくれる。

 

 ただ、神を呼ぶ代償として、HPがゼロになり、1週間ほどMPの最大値が減る。呼ぶのが古い神になるほど代償は大きくなり、死んだり魂を捧げたりする羽目になるのだが、ンアはその点お得だった。

 

 【コール・ゴッド】の発動には準備と合わせて1分を要するが、寂世黒白竜(オルフィーニル)にかなりのダメージを与えてくれるだろう。それが2度重なればなおさらだ。

 

 グリセルダの方に向かって歩き出すと、ヴァレンタインが静かに「2体目だ」と言う。

 

 ……2体目?

 

 夜の闇に目を凝らせば、寂世黒白竜(オルフィーニル)と共に、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)とは異なるアンデッドドラゴンが飛行していた。

 

「あれは万緑翠竜(ワークンフジャルガ)……風を司る後衛殺しのグレーターグリーンドラゴンですね」

「……奴の残弾はいくつあるんだ」

「"六色同盟"なら、多分これで最後ですよ。陸崩茶竜(ディゼルガノルズ)の死体はセールクス市内にありますし、炎天紅竜(ラヴァルヴォール)は仲が悪いらしいです」

「見るだに強力なドラゴンがあれで最後ならいいが……」

 

 ゆっくり移動しながらエコー3体――2人のエコーは再召喚を繰り返している――の"復唱"で【サンダーボルト】を叩き込むと、4ラウンド目――つまり13ラウンド目に万緑翠竜(ワークンフジャルガ)は死んだ。1000点。

 

 その数十メートル先には氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)の死体が転がっている。散々利用された挙句、最後はアンデッドとして倒されて、2体とも氷の上に放っておかれるのだから多少は憐憫の念がある。

 

「グリセルダさん」

 

 少し離れた所から呼びかけると、市長と聖女は会話を止めてこちらに向き直った。

 

「ああ、ユウランさん……と、エコー?」

「お気になさらず。早速ですが、あのエルダードラゴン――寂世黒白竜(オルフィーニル)を倒す方法についてです。私たちが10秒差で【コール・ゴッド】を唱えて、勝てばよし。倒し切れなきゃ、消耗したところに特攻。これしかありません」

 

 【コール・ゴッド】で召喚されたンアが、一度に400点以上のダメージを与えれば勝てる。

 

「…………【コール・ゴッド】ねぇ」

「やったことはおありで?」

 

 【コール・ゴッド】は何かと便利に使える魔法だ。"青の落日"の英雄だというなら、結構な頻度で使う機会はあっただろう。

 

「それは神を呼びつける(・・・・・)魔法よ、ンア様に捧げる代償が大神と比べて軽いとはいえ、おいそれと使っていいものではないわ」

「打つ手がない以上、冥界の瘴気を持ち込んでくる怪物相手にはそれしかありません。魔法にも耐性がありますし再生能力は非常に強力です。殺すなら神を呼ぶしかないです」

「冥界の瘴気……?」

 

 グリセルダは訝しむように私を見た。

 

 遠目で見てそこまで分かるというのはおかしな話だろうが、能力名にそう書いてあるんだから仕方ない。分かるものは分かるのである。

 

「見ればわかる……のは私だけでしょうが、ええ、奴の周辺に漂うのは冥界の瘴気です。普通に戦えばシムロンはアンデッドの故郷になりますね」

「……分かったわ。あいつのHPは分かる?」

「HPですか。……HP? なんの用語ですか?」

 

 とんでもない爆弾発言が聖女から飛び出してきたところで、寂世黒白竜(オルフィーニル)万緑翠竜(ワークンフジャルガ)蘇生(・・)した。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)の能力には、「MPを50消費して、生前と同じ能力を有したまま死者をアンデッドにすることができる。」というものがある。なので、ああ、こうやってアンデッドを作ったんだなぁ、ということは理解できていたのだが。

 

 …………倒した後のアンデッドを死体として再利用するのってアリなんだ。

 

「詳しくは省くけど、ポーラ(・・・)は生まれつきヒトや冥族を数字で表すことができて、ンア様の【コール・ゴッド】はHPに275ダメージを与える……らしいわ」

「えー……っと、なぜ今その話を?」

「個人的な印象だけど、あなたはポーラによく似ているわ。考え方、視点、特異な能力、恐ろしいくらいの観察眼……だから、そうかと思っただけ」

 

 今日だけでもうポロポロ色んな人に情報が漏れていくんですけど……もう腹括るしかないですね。

 

 秘密が多少漏れるのは承知の上で、守り切る。

 

 秘密を話した全員が沈黙したとして、見える形で魔法を行使した以上は、人々の間に何かしらの噂が流れることが既に確定していると言っても過言ではない。

 

 私の『ルールブック』と『解釈』の力は、今のところ周囲の人間を邪悪な陰謀に巻き込んでしまう力である。私個人の力を狙って人が襲ってくることは想像に難くない。

 

 それに、秘密を守ったまま寂世黒白竜(オルフィーニル)を倒せたとして、そんな力の持ち主を意のままに操りたいと思うものは少なくないだろう。家族を守るには今以上に暴力が必要だ。

 

 つまり、私の急所(・・)を刺してきた相手は確実に滅ぼされる、という絶対の信頼を寄せられるような――どんな愚図相手だろうと相互確証破壊を成り立たせるような力が要る。英雄の威を借りてでも、そのように思わせる必要がある。

 

 敵は殺す。冥族は殺す。アンデッドも殺す。危険生物も殺す。脅してくるならヒト族も殺す。国が相手なら首を刈って殺す。家族のために殺す。私の為に敵は殺す。皆殺す。

 

 私は手段を選べないほど弱い。

 

 だから、まずはこの場の者には打ち明ける。

 

「……えぇ、視えますよ。奴の名は寂世黒白竜(オルフィーニル)、HPは頭が724、胴体780、翼652、尻尾728です」

 

 肯定すると、市長やヴァレンタイン、ニースからは少なからず困惑が見てとれた。

 

 しかし、あらかじめ知っていたのか、"トリプルバレル"は別の方で驚いているように見える。ヒトの生き死にを数字で把握できる存在が、まさか実在していたのかという風な感じだ。

 

「……ンア様のお力で、奴は」

「頭を潰せば倒せますが、貴女の言う事が正しいとして、奴は10秒ごとに50点の回復をするので、724、449、499、224、274、次の【コール・ゴッド】を打つ時は、524、249、299、24で、【コール・ゴッド】を2人で2回ずつ唱えても倒せません。

 奴が接近してくるのであれば、肉薄攻撃で勝ちの目を見出せます。逆に、反撃を許せば"予知"通り私たちは10秒で死に絶えます。

 こちらとあちらの距離は、まぁ3500メートル位で、寂世黒白竜(オルフィーニル)だけなら120秒後にここに到着します。猶予が無いので始めますね」

 

 私が【コール・ゴッド】の行使を始めると、聖女は何かの道具を取り出して準備を済ませ、タイミングをずらして続いた。彼女は何か言いたげであった――そういえば【コール・ゴッド】には儀式が必要らしいがルールブックには特に指定されていない――が、文句を言うつもりはないようだ。

 

 【コール・ゴッド】の発動には50秒(5ラウンド)の準備時間が必要だ。

 

 私たちの会話を傍で聞いていた者たちは、敬意の欠片も無いような魔法の行使に面食らっていたものの、戦いの準備を始める。

 

 私の視線の先では、寂世黒白竜(オルフィーニル)が飛行速度を落とし、氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)を再びアンデッドとして蘇生していた。

 

 ……まぁ、助かる。使えないゴミを蘇生してくれたおかげで1ラウンドの猶予ができた。

 

 真っ黒な海を観察しながら儀式――特に何もやってないけど――を進める。ニースは黒剣を抜き、不測の事態に備えていた。

 

 3体のドラゴンは移動速度を氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)に合わせ、着実に近付いて来ている。

 

 随分と余裕な態度だ。

 

 このペースだと、ここに到達するまで約23ラウンドを要することになる。時間が単純に倍に伸びているので、【コール・ゴッド】の3セット目が放てる程度の時間的猶予ができそうだ。

 

 それにしたって、【ヘイスト】の魔法すら唱えないとは、本当に何を企んでいるんだ?

 

 勝てるのか?

 

 それとも、寂世黒白竜(オルフィーニル)は小神の【コール・ゴッド】さえもどうにかできてしまうのか?

 

 不安だ、正直言って恐ろしい。

 

 【ブレイブハート】のお陰でそういった状態が表出することは無いが、私はPL(プレイヤー)の性質を併せ持つ存在。PL()そうせよ(・・・・)と思えば、キャラクター()はそうするのだ。プレイヤーの正気が持ちますように。

 

 ……心臓の鼓動が高鳴っている気がする。汗も出ないのに血の巡りが早くなって、呼吸が浅くなっているような気分だ。

 

 1、2、3ラウンドが過ぎる。

 

 ドラゴンは近づく。

 

「……か、なわな……い、…………ンアの、ち、から……で、は」

 

 聖女がなんか言ってる。

 

 私は儀式に集中して手が離せない状態なので、無視せざるを得なかった。

 

 しかし、彼女は引き続き【コール・ゴッド】を続けているようで、作業を中断してはいなかった。

 

 ニースや"トリプルバレル"の人たちが不安そうに見ているのを感じる。

 

 どうしてそんなこと言ったんだ!!

 

 4、5、6ラウンド目。

 

「【コール・ゴッド】」

 

 MPが最大値ごと50点消費され、HPがゼロになる。

 

 瞬間、私は神との繋がり(・・・)のようなものから、その人が地上に降臨(・・)したことを理解した。

 

 恐らく、このドラグエディアに生きる全てのンア信者が感じ取ったことだろう。

 

 私の横には、いつの間にかみすぼらしいローブを被った誰かが立っていた。

 

 その人は自身の身長ほどの杖を片手に、ただそこに居た。

 

 その人は裸足で、足首は細く女性のようだった。一方で、シルエットは背を曲げた老人のようだが、背丈は子供とも大人とも断言できない。杖を掴む手はマメやタコができており、角ばって男の手のようにも見える。種族はハッキリと分からないものの、概ねヒトであった。

 

 ンアは老若男女どのようにも見え、不自然なほどに力を感じなかったが、それこそがンアである証明であった。

 

 彼の神が海の方へ手をかざすと、寂世黒白竜(オルフィーニル)たちの直上に光り輝く16本の大槍が現れた。

 

 遠くの海上で輝くだけだが、その神の威光ははっきりと感じ取れる。

 

 しかし、それを差し向けられた寂世黒白竜(オルフィーニル)は嗤った。

 

「ク ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ!! 木っ端の神の力が通じるものか!」

 

 大気中のマナを伝って嘲笑う声が轟いた。威厳のある低い声だ。それでいておどろおどろしく、耳障りな響きがある。指揮官(コマンダー)技能と同じ原理でシムロン中に伝達された声は若干の恐慌をもたらしたものの、前線に限って言えば、ヴァレンタインの戦鼓(せんこ)がすぐに正気を取り戻させ、秩序を回復した。

 

 ンアが放った光の大槍は確かにグレータードラゴンを撃墜した――2000点――が、あの恐るべきエルダードラゴンには通用しなかった。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)は黒々とした混沌のブレスを噴き、冥界の嵐を巻き起こして自身に降り注ぐ攻撃を掻き消した。

 

 単純に考えて、寂世黒白竜(オルフィーニル)はンアという小神の力を完全に上回り、攻撃が効かないという事だ。

 

「効いていませんね」

「……ユウラン」

 

 反撃するのに気を割くと全力で飛行できなくなるようだが、そもそもHPが1とて減っていない状況は想定していない。

 

 【コール・ゴッド】は無意味だったのか?

 

 代償によって倒れそうになるのをこらえて、こちらに手を伸ばすニースを止める。

 

「……我らに、あの竜と戦うための力を! 【コール・ゴッド】!」

 

 先ほどまで私の隣に居たンアは、いつの間にか聖女の背後に立っていた。

 

 しかし、何故かは分からないが、私に呼ばれた時よりも生き生きとしているように見えた。

 

 男として捉えるならやや小さい手をこちらに向けると、ンアは私たちに何かを注ぎ込んだ。

 

「これは……!」

「!!」

 

 ニースが驚き、ヴァレンタインも驚愕の表情でこちらを見る。

 

 ンアが私たち――4人だけ、メンバーは言うまでもない――に与えたのは、非常に強力な魔法への耐性だ。

 

 「●ンアの魔法耐性

   1時間、魔法ダメージ20点軽減する。」

 

「その手があったか!」

 

 敵のバカ火力ですぐに殺され、高い精神抵抗力のせいでデバフが入らないというなら、こちらを強化すればいいのだ。

 

 ンア様鬼つええ! このまま逆らう奴ら全員ブッ殺そうぜ!

 

 私はポーションを飲み干してHPを回復し、簡単に方針を決めてから、すぐさま次の【コール・ゴッド】の準備に入った。

 

「私が体力、あなたで防御力を盛りますよ!」

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)のバ火力さえどうにか凌げれば、殴り勝つ目は十分にある。幸い、物理的な防御性能は普通のエルダードラゴン程度(・・)でしかない。

 

 データがあるなら敵は殺せる。バフがあるならもっと殺せる。

 

「選ばれたのは我々のようだな」

「ああ、死力を尽くそう。ギルン! 悪いが回復してくれないか」

 

 ニースが"トリプルバレル"の神官を呼んで、聖女と私を回復してくれる。

 

 その間に寂世黒白竜(オルフィーニル)は――もう一度氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)万緑翠竜(ワークンフジャルガ)を復活させた。

 

 彼我の距離は約2550メートル。氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)に移動速度を合わせるなら、1ラウンドごとに150メートル接近してくるので、猶予はあと18ラウンド。

 

 …………氷獄蒼竜(ゼースィルカイダス)たちを再利用されるのはキツイな。3対4は勝てないので、どこかで露払いの【コール・ゴッド】を挟むか、魔法で撃ち落とさなければ。

 

 【コール・ゴッド】の準備を続けていると、3体の竜は斜めに――つまり空に向かって高度を上げ始めた。飛行船が飛ぶ高度をすぐに通り越し、上へ上へと昇っていく。

 

 そうなれば当然、横方向への移動量は少なくなる。

 

 ……どういうこと?

 

「伝令! でんれーい!」

「どうした!」

 

 市長が声を張り上げると、息を切らした兵士が報告し始めた。

 

「市の上空に新たなドラゴンを5体確認! 既にこの陣地に向かって南下しています!」

「なんだって!?」

 

《ニース、ヴァーレーンが白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)の援軍を連れてきたのかもしれねぇ》

「分かった、話を付けてこよう。市長殿!」

 

 【コール・ゴッド】に集中して話せない私の代わりに、ニースが小走りで駆けていく。

 

 なるほど?

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)は先に白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)の援軍を打ち破ろうとしていたのか。

 

 だから、わざと待っていた……?

 

 いや、寂世黒白竜(オルフィーニル)が最短時間で攻め込んでいたら、彼らがかち合うことは無かった筈だし、そうなればドラゴン同士で無駄に戦う必要がない。

 

 どっちも潰したいのかもしれないが、優先順位が狂ってないか?

 

 そうこうしている間に、2セット目の【コール・ゴッド】が発動する。

 

「【コール・ゴッド】」

「暴威に耐え抜く力を! 【コール・ゴッド】!」

 

 「●ンアの拡張生命

   1日間、125点の追加HPを与える。

   また、効果時間終了後の7日間、HPの最大値が100点減少する。」

 

 「●ンアの秘匿外殻

   1時間、防護点を15点追加する。」

 

 派手な演出とかオーラとか、そういったものは一切なしに強力な能力が付与される。流石は隠されし者の神、必要以上に目立たない。

 

 3セット目の【コール・ゴッド】は打ちたいが、MPの上限が削られて35になってしまうので、ろくな魔法が打てないMPになってしまう。

 

 逆に、聖女の方が3回目を使うと、MP上限は72になる。戦闘には若干の不安が残るものの、メインヒーラーは私になるのでその点は問題ない。聖女だけに打たせるのが最適だろう。

 

「新手のドラゴンの様子を見てきます、追加の【コール・ゴッド】は毒・病気への抵抗力強化にして下さい」

「ったくポー……あなたは! 少しはンア様に敬意ってものを持ちなさい」

「肩を並べろって言ってるのはその人ですよ、じゃ」

 

 【フライ】で飛ぶと、簡単に状況がつかめた。シムロン上空を通って5体のドラゴンが、海を渡って3体のドラゴンが飛んできている。

 

 激突する場所はまさにココである。

 

「この前会ったグレーターアンバードラゴン(ヴァーレーン)、グレーターゴールド、シルバー、カッパードラゴン、エルダープラチナドラゴン。戦力としてはまずまず、グレーター同士の4対2ならまぁ大丈夫でしょうが、エルダー同士は無理でしょうね」

 

 グレーター以上が5体とは豪勢な援軍だ。

 

 ただ、肝心要のエルダープラチナドラゴンが寂世黒白竜(オルフィーニル)に勝てるスペックじゃない。HPは半分程度だし火力も足りていない。

 

 無駄死にになるだろう。

 

 とりあえず、上空に浮かぶ魔法機器を市長に――彼女は魔法機術(マギテック)に精通している――避難させた。

 

 魔法機器の攻撃は、寂世黒白竜(オルフィーニル)の魔法耐性のせいで全然効き目がないし、まず当たらない。金ドブになる前に避難できてよかったと、市長は悲しそうにひとりごちた。

 

 ちなみに、飛行船の方は完全に無視されている。というか、高度が違うので戦闘になってない。

 

 ……多分寂世黒白竜(オルフィーニル)が側を通るだけで乗組員が死ぬんじゃないかな。

 

 公開してる最中に次の【コール・ゴッド】が発動し、耐性が付与される。

 

 「●ンアの抗病毒膜

   1時間、毒・病気属性に対する生命・精神抵抗力判定に+8の修正を与える。」

 

 よし、これなら十分に対抗できる。

 

 援軍の白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)と協力して戦えればいいが、私がこの場を離れると、寂世黒白竜(オルフィーニル)が速度を上げて地面に飛んできた場合に、3人で戦うことになるので危険だ。

 

 抱えていた市長を下ろすと、兵士や冒険者に指示を出していたヴァレンタインが寄って来る。

 

「市長、防衛隊に5体のドラゴンが味方であることは伝え終わりました。そろそろ避難を」

「神の支援が無い我々は……本当に足手まといだ。頼んだ、ヴァレンタイン」

 

 私たち4人は寂世黒白竜(オルフィーニル)を誘引して叩く必要がある。この場に存在するそれ以外のヒトは邪魔でしかないので、襲来するまでの数分のうちに退避する必要があった。

 

「生きて帰ってくれ、ユウラン君。運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士の君も、シムロンに必要な人材だ、今度ゆっくり話をさせてくれ。グリセルダさん、300年前と同じく勝利を」

 

 市長は私たち1人1人に握手をして、兵を素早くまとめあげて退いた。兵士も冒険者もよく訓練されており、市長のカリスマが隅々まで行き届いているようだ。

 

 簡易陣地には私たち4人だけが残された。

 

「それで、あの寂世黒白竜(オルフィーニル)とかいうドラゴンは、私たちの所に来るのかしら」

 

 グリセルダが投げた質問に、誰も答えなかった。

 

 ……これ、私の"創世力"が狙われているって前提なのでぇ……はい。

 

「ドラゴンたちにとって、私は"盃"と呼ばれる重要な……多分人柱的なアレらしいので、なんか狙われてるみたいです」

「な……!」

「……人柱?」

「アルシップス、何故それを言わなかった」

 

 非難轟々である。

 

「言ったら人質を取って、私を縛って都市の外に放り投げるでしょう? そうすればドラゴンは私を攫って解決……なんてことになります」

 

 ヴァレンタインは表情を変えずに私を見下ろし、「そうかもな」と笑う。すぐにニースが肘でド突いた。

 

市長以外(・・・・)の議員どもはそうするだろう。……しかし、グレータードラゴンを倒す猛獣相手に、誰が人質を取ろうと思うんだ? 味方だぞ?」

「ヒト族が味方を裏切らなかったことがありますか?」

「耳が痛いな」

「私のことは信用してくれても良かっただろう……?」

 

 ニースが漏らした言葉を全員が聞き流し、グリセルダは確信を持ったように告げた。

 

「ポーラが持っていた力を、黒の系譜の竜(トワイライト・ドラゴン)――いいえ、混沌竜が狙っているという事ね」

「……まぁ、そういうことになりますね」

「その割にはドラゴンたちの高度が高いと思うのだけど……」

 

 2つの陣営の竜たちはぐんぐんと高度を上げ、100、200、300と遠ざかっていく。

 

 ……マジで無視されてる?

 

「これどうしましょ」

戦鼓(せんこ)で呼び掛けるか?」

「応じるとは思えませんが……」

 

「ヒト族よ! 旧き盟約に従い、混沌竜のしもべを討ち滅ぼそう!」

「目障りな白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)どもめ! ここが貴様たちの墓場となろう!」

 

 私たちの困惑をよそに、エルダードラゴンたちはやや大仰な言葉を交わす。

 

 そして眼下の存在には目もくれず、ぐんぐんと距離を詰めていく。

 

「まずいですよ――ヴァレンタイン、とにかくお願いします」

「……やれやれ、避難させたのが無駄にならないといいが」

 

 彼が天まで届く声で必死に呼び掛けるものの、白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)たちが応じることはなかった。こちらを一瞥して完全に無視だ。

 

「仕方ありません、こっちで勝手に援護します。エコーを召喚しましょう」

 

 疑問符を浮かべる聖女を置いて、無限拡大【サンダーボルト】×3を1ラウンドごとにぶち込む。

 

 幸いにも、両者が激突する前にグレータードラゴンの方は撃墜できたので、5対1の形に持ち込むことはできた。2000点。

 

 エルダープラチナドラゴンは一瞬だけ下を窺ったものの、好機とばかりに速度を上げた。

 

 ……しかし、寂世黒白竜(オルフィーニル)は何故あんな無意味な復活を繰り返していたのだろうか。

 

 再利用され尽くした2つの死体は海に沈んだが、黒竜はもう一度復活させようとはしなかった。本当に、全く意図が掴めない。

 

「あの雷はあなただったのね……」

「? ええ、まぁ。白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)たちがやられた後が戦いなので、そこは覚悟してください」

「…………数を見れば有利なように見えるけれど」

「攻撃性能もタフネスも違いますよ。確実に、エルダープラチナドラゴンよりも強いです」

 

 黒竜の姿は、彼我の距離が300メートル程度にまで近づくとはっきり見えてきた。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)が放つ瘴気が飛行機雲のように尾を引き、彼の身体から置いていかれていたのだ。

 

 まず目に入るのは漆黒の鱗。それと特異な2本の尾だろう。黒と白金、2つの相反する色の尾が伸びている。穢れた全身からは腸のようなものが垂れ下がり、鱗の間に詰まった不浄の物体から粘性のある液体が滴っていた。

 

 白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)たちはエルダープラチナドラゴンを先頭に(やじり)型で編隊を組み、上を取って突撃を始める。位置エネルギーを利用した突進(チャージ)だ。数値的にどんな意味があるのかは知らないが、私みたいなデータ人間以外には有効だと思う。

 

 互いのブレスが炸裂し、交叉した一瞬、左翼側の2頭のグレータードラゴンを黒竜が叩き落とした。

 

 すれ違いざまの一瞬にエルダープラチナドラゴンを避け、翼で翼を切り裂き、スクリューのように振り回した尾で骨をへし折った。

 

 海の方へ墜落する2頭を見送り、4頭は再び距離を取って上昇。散開しつつ寂世黒白竜(オルフィーニル)の尾を追うドッグファイトに発展した。

 

 ブレスでチマチマ1部位ずつ落とすのが魂胆だろう、と思った矢先、エルダープラチナドラゴンからブレス――――ではなくビームが放たれた。

 

 後ろを取らせた寂世黒白竜(オルフィーニル)が予兆を察知して回避するものの、翼に掠る。一瞬で赤熱し溶解した肉片がバラバラと落下し、すぐに見えなくなった。

 

「すっご、ビーム使えるんだ」

「ユウランの前評判が初めて外れたな」

「ええ、あんな能力は見抜けませんでした」

 

 本当に、どこからあんなモンをぶっ放してるんだ。

 

 しかし、HPが100は削られている。これはもしかしたら、もしかするかもしれない。

 

 ……と思ったのも束の間、チマチマした物理攻撃のせいであっという間にHPは満タンになるし、何なら同じようなビームを寂世黒白竜(オルフィーニル)が放つ。

 

 ビームが飛び交い、衝突が繰り返されると、グレータードラゴンたちは翼をやられてふらふらと海の方へ落ちていく。

 

 唯一残ったプラチナドラゴンは、時折ビームを交えつつ果敢に戦うが、元々のスペック差のせいかあっという間に片翼を折られてしまう。

 

 何とか白金の片翼で滑空し水上着陸を試みているようだったが、必死のその首筋に寂世黒白竜(オルフィーニル)の鋭い歯が食い込んだ。

 

 プラチナドラゴンは苦痛に身を捩って逃れようとするも、冥界の瘴気に侵されて徐々に力を失っていく。白金の鱗が血に汚れ、徐々に力が失われていく。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)は牙を喰い込ませたまま頭を振って追撃すると、高度を落として――――こちらの方へやって来た。

 

 竜は家屋を圧し潰して着陸。潰れる家屋の粉塵が我々を通り過ぎると、ぐったりと項垂れるプラチナドラゴンを眼前に放った。

 

 都度150秒の蹂躙であった。

 

「待たせたようだな」

「た、た……そうせ――――」プラチナドラゴンは断片的な言葉を投げ掛けた。意味は分からない。

「まずはコイツから貰おう」

 

 息を呑む我々の前で、黒竜は一方的に呟く。

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)の全身から赤紫のオーラが立ち昇ると、エルダープラチナドラゴンからは青緑のオーラが漏れ出て来る。

 

 これは、ヴァルムリルカルドスを攻撃した、あのカビのような青緑だ。

 

「な、んだ……?」

「ハッハッハッハ!! 持っていたか! 創造(・・)の創世力を!」

 

 青緑のオーラ――――創造(・・)の創世力とやらは、プラチナドラゴンの身体から吸い上げられるように寂世黒白竜(オルフィーニル)のオーラと混ざり合い、青い輝きを放ち始める。

 

 これが奴の目的だったのか……!

 

 戦力の排除ではなく、白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)から創世力を奪うのが第1の狙いだと見て間違いない。

 

 気付けたところで既に遅い。

 

 最適は、創世力同士?を混ぜ合わせる前に踏み込むことだったか、しかし、ヴァルムリルカルドスはアレに侵されて死んだ。

 

 誰かが前もって言ってくれたら、とは思わないではない。5頭も白の系譜の竜(アネウマルコス・ドラゴン)がいるっていうのに、肝心なことは打ち明けないんだから堪ったもんじゃない。

 

「では、貴様のもだ」

 

 寂世黒白竜(オルフィーニル)の眼がはっきりと私を捉えた。

 

 ……だろうねぇ。

 

「させるかァ!」

「創世力よ!!」

「ッ【レストレーション】!」

 

 ニースとヴァレンタインは何とか寂世黒白竜(オルフィーニル)を斬り付けたが、グリセルダと共に不可視の力で崖下に吹き飛ばされた。

 

 だが、グリセルダはその一瞬の間にエルダープラチナドラゴンへ最上級の回復魔法を掛け、死の淵から救出してみせた。

 

「グァァアアアア!」

「死ねやぁぁああああッ!!」

 

 身体をバネのように跳ね上げたプラチナドラゴンが寂世黒白竜(オルフィーニル)に組み付いたと同時、私も駆け寄って恐竜黒戦斧(ダイナペレクス)を振り上げた。

 

 しかし、プラチナドラゴンにはそれが予想外だったようで、声を張り上げて制止する。

 

「――何故来た!? 逃げよ!」

「近寄らなきゃ殺れないでしょうが!!」

 

 魔力を込めた刃で胴体から尾までを薙ぎ払うが、まだまだダメージは足りない。

 

 やはり、4人で地道にダメージを重ねるしかない。

 

「馬鹿め! 扱えぬから"盃"なのだ!」

「くっ……!」

 

 プラチナドラゴンが寂世黒白竜(オルフィーニル)を引きずり倒そうとするが、それをいなして3本指の前腕を掲げると、私の身体から青く輝くオーラが出てくる。

 

 それが間欠泉のように噴き上がると、特に抵抗もなく寂世黒白竜(オルフィーニル)方へ吸い込まれていき、私の創世力とやらを吸い尽くした。

 

「想像以上の創世力だ! お前ほどの"盃"は万年と見たことがない!」

 

 高笑いする黒竜の身体を引き裂こうと、白金竜が爪と牙を突き立てるものの、千切れた肉はすぐに盛り上がって再生する。

 

 私は数十トンの肉塊が暴れる場所に飛び込んで、傷を【レストレーション】の魔法で全回復させつつ斧を振る。

 

「ま、間に合わんッ! 蒼き"調和"の力が──!」

「それがあると何!?」

何でも(・・・)できてしまう!」

「邪魔だッ! 創世力の絞りカスが!」

 

 悲鳴のように叫んだプラチナドラゴンを勢いよく跳ね除けると、寂世黒白竜(オルフィーニル)の纏う青い創世力が雷を迸らせる。

 

「【サプリメント(・・・・・・)】!」

「は……?」

 

 サプリメント。

 

 栄養を補給する錠剤。もしくは、TRPGの内容を拡張するために、追加ルールや追加要素を詰め込んだ冊子。

 

 そんな言葉が何故?

 

 スパークする青白い光が一段と輝きを増すと、それは私たちの視界を塞ぐほどの眩い光を放った。

 

 閃光が完全に視界を白に染める直前、私は寂世黒白竜(オルフィーニル)の手元に、一冊の巨大な本を見た。

 

 ――――。

 

 …………あ、終わり?

 

 光ったのは一瞬だけだった。

 

 何かダメージが発生するわけでもなく、寂世黒白竜(オルフィーニル)に第二形態が生えるでもなく、特に変化は無い。

 

「無事かっ!」

 

 崖下に放りだされた3人が胸壁を乗り越えて姿を現す。

 

 海の方へ着水したグレータードラゴンたちも、さっきの私の【レストレーション】で息を吹き返してこちらに向かってきている。

 

「うわぁーお……」

 

 振り返れば、血色の満月があった。

 

 当然、今日はあんな満月が出ている日ではない。

 

 この世界に生まれたばかり(・・・・・・・)の紅い月は、遥か太古の昔から空に棲んでいたかのように、当たり前のものとして居座っている。

 

 明らかな異常だというのに、プラチナドラゴンは気づきもしない。

 

 すると、頭の中で

 

 「ドラゴンソード」TRPG 

 

 サプリメント「プルートゥス・フルムーン」

 

 ★新技能「カオスワンダー」登場! 失われた魔法と高レベルの魔物データを収録。冥界の月のカオスに備えよ!

 

 と宣伝文句が浮かんでくる。

 

 ついでに、ルールブックの『世界観』に新しい月が追加されていた(・・・・・・・)。元々そういう設定であったと言わんばかりに。

 

「これが『冥界の月(プルートゥス・フルムーン)』か……ククク、良いものだ」

「何を、何をした!」

「フ! 創世力を失った貴様らには分かるまい」

 

 ……なるほど。"調和"の創世力を使うと、世界観を書き換えられる。

 

 世界の法則を塗り替えると、私の頭の中のルールブックに設定が追加される。

 

 あと、新しいサプリメントを生やすこともできる。だってこのサプリメント、32ページしか中身ないんだもん。絶対コイツが今追加した奴だって。

 

 で、創世力を持たない者は、この現実改変・過去改変を認識できない。

 

 つまり、理屈で言えば、私の中にはまだ"調和"の創世力とやらが残っているわけか。

 

 ……ん? さっき創世力なら何でもできるって言ったよね?

 

「プラチナドラゴン! あのビームをもう1度!」

「何!? ――後で話を聞かせて貰うぞ! 調和の創世力よ!」

「気でも狂ったかァ!」

 

 3人がこちらに駆けて来る。

 

 プラチナドラゴンは私に残った蒼い創世力を汲み上げ、寂世黒白竜(オルフィーニル)の顔面にビームを叩き込んだ。そのエネルギーの奔流は顔だけにとどまらず、溶岩のように弾けて全身に拡散し、容赦なく肉体を焼き焦がした。

 

「ガァァアアアアッ!? まだ在ったというのか!!」

「強化パッチをどうも!! お礼にぶっ殺してやるよおらぁぁあああああ!」

 

 

 

ネーミング選手センス権

  • 氷獄蒼竜ゼースィルカイダス・ダンリスルス
  • 万緑翠竜ワークンフジャルガ・グリューセン
  • 陸崩茶竜ディゼルガノルズガグラバドン
  • 炎天紅竜ラヴァルヴォール・ブレイカノンド
  • 雷騰黄竜ライラトルニトルザヴォルゲオルガ
  • 寂世黒白竜オルフィーニル・キャンペイン
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