私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない 作:傘花ぐちちく
遺跡の調査。
現代の冒険者にとっては
とはいえ、遺跡を見つけたからと言って、不思議いっぱい夢いっぱいロマン満天財宝ザクザクのウハウハ状態になるわけではない。
得るものに応じた危険がある――少なくとも「ドラゴンソード」を遊ぶ人間にとっては。
「……」
それはゲームバランスがデザインされたTRPGでの話だ。
いざ本物の遺跡に行こうと言われると、後ろ髪を引かれるものがある。
現実である以上、苦難を乗り越えた先に宝が待っているとは限らないし、遺跡に仕掛けられた罠が冒険者の強さに合わせてあるわけもない。
尤も、そういった話はTRPGでも枚挙に暇がない。
例えば、15フィート棒で前の床を突かなかったから落とし穴に落ちるとか、下を警戒したせいで上からスライムが降ってくるとか、遭遇した魔物を舐めて掛かったら武器が錆びたとか。
先人が積み上げてきた無数の屍――もとい「お前それで楽しめるわけねぇだろぉ!?」という数多の怨嗟が呼び起こされるのだ。
(あいたた……記憶の中の、しかも実体験ですら無い話で頭が痛くなってきますよ……)
TRPGで卓を囲っている時は「警戒します」と一言いえば、大抵の場合はサイコロでの判定なり何なりでGMが事を上手く進めてくれるものだ。もちろん、卓によっては詳しく言ったほうがいい場合もあるし、判定をGMが促す場合もある。
だがここはリアルである。
(……まぁ、やろうと思ったら私の「技能」が勝手にやってくれるんですけどね)
逆に言えば、やろうと思わない限り「技能」は機能しない。
とはいえ、就寝中の夜襲を警戒するようなことはできる。受動的な判定は自動だ。
しかし、建物に入った時、罠が無いと頭から信じ込んでしまえば――末路は語るに及ばず。
ユウランの特殊能力は、生来の警戒心が無いと扱いが難しい。
「はい、それじゃあレミちゃん。何か質問はあるカナ?」
「えーっと……」
赤髪のドラグニカがぼさっと突っ立っているのを他所に、エルフの二人は仕事前の確認をする。
たった今説明を受けていた金髪エルフ少女レミと、ユウランが把握している情報は以下の通りだ。
『遺跡は数日前に発見された』
『魔法機器文明期の遺跡である』
『徒歩で4日掛かる場所』
『目的は遺跡を調査すること』
以上4点である。
行くのに必要な時間と場所が分かっているので、問題なし――それでは問題おおアリである。
「よしっ、大丈夫です!」
元気よくレミが返事をすると、ミーリーンは笑顔のまま首だけをユウランに向けた。
(うーん……まぁ、そういう事ですよね。私がどれだけ出来るか、値踏みされていると)
ユウランは控えめに手を上げた。
「はい、ユウランさんドウゾ」
「何点か質問させていただくのですが」
レミの鋭い視線が刺さる。何よ早く行きましょうよ、と言わんばかりの目つきだ。
「誰からの依頼で、報酬は?」
「はぁ? そんなの自警団からに決まってるじゃない。終われば報酬も貰えるわよ」
「はいちょっと黙ってて下さいね」
「な――」
「はいダメです今はミーリーンさんが喋る番」
レミが反発しようとする前に、ユウランが魔術師特有の早口でまくし立てた。
二人の視線がふと交差する。
ユウランのドラグニカ特有の黄色い眼差しに、彼女は狩りで出会った恐ろしい魔物の面影を感じ――あるいは竜に似たその瞳に本能的な恐怖を覚え――あるいは単なる力量差による威圧で、怯んだ。
「依頼はオーンザイン・リスティル様からデス。報酬は2500R、それとは別に、ユウランさんに減税証を、レミちゃんには正式な自警団員としての扱いを」
「っ――嘘ぉ!?」
「……」
オーンザイン・リスティル。このエルフの都市国家リスティルの頂点に立つ男だ。
思わず飛び出た名前に素っ頓狂な声を上げたレミは、ユウランに睨まれてすごすごと引き下がった。
対するユウランは、減税措置――都市国家における市民権の一種――と聞いて、拳を握る力を強めた。
「では次に。『調査』とおっしゃいましたが、具体的には何を調べてくればいいのですか?」
「まず、冥族が野営地を形成していないかどうか、場合によっては敵情を探って戻ってきて下サイ」
「排除可能、もしくは冥族が居ない場合はどうしましょう?」
「遺跡内部に侵入して下サイ。倒した冥族に応じて報酬を追加しまス。中に入ったら、何の遺跡ナノかを調べテ下さい」
「分かりました」
ふぅと息を吐いたのも束の間、ユウランは頭の中で次なる質問を用意する。
(リアル冒険者の心得。依頼人は絶対に疑え、報酬を確認しろ、色々な日時を把握しろ、目的を把握しろ、曖昧な言葉で濁した場合――その依頼は止めたほうがいい)
TRPGだとこの辺りの問題は解決している場合が多い――疑い合っても面白くならない場合がほとんどだから――のだが、現実になると騙して利益を得られる場合があるので注意しないといけない。
勿論、心得が絶対ではないし、臨機応変に――場合によっては自分で調べて――対応すべきだ。疑いすぎても心証を悪くするので、程々が一番だが。
しかし今回の依頼は「レミを矯正してくれ」だ。多少回りくどいと思われても、慎重な姿勢を見せる方が大事だと判断した。
「次に、誰がいつ遺跡を発見したのか教えて下さい」
「8日前、辺りを巡回していた兵士が冥族を退治していたトコロ、大きな物音を聞き取り、洞窟の中で遺跡を発見しました」
「なるほど。では、私達に依頼した理由を聞かせて下さい。兵士や自警団に任せればよいのでは?」
「彼らは戦いを専門としていマスが、冒険者のような遺跡探索のノウハウを持ち合わせていませんので」
「ありがとうございました、私からは以上です。レミさんからはどうですか?」
レミは言葉をつまらせて、小さく「ないです」と答えた。
「それでは、最後に一点。遺跡で見つけたものは、どの程度、自分のものにしていいのでしょうか」
「そうですネ、個人で持てる範囲であればドウゾ。貴重なものなら買い取ります」
(となると、本格的な調査は後でするんですかね。まぁ、「持てる範囲」と言ってくれてありがとうございます)
内心高笑いしつつ、ユウランは質問を打ち切った。
*
矯正、または更生。
人に対してそういった事を行うには、心理学的な分析や適切な教育方法を学んでおく必要があり、素人が手を出すには難しい分野だ。
曲がったところを叩き直してやろうと意気込んでも、大抵は失敗する。それどころか、加減を間違えて滅多打ちにし、悪化する場合もある。
ユウランは素人な上教師の経験もない。前々世を含めても、人を教育する機会は少なかったし、いわゆる体育会系でもなかった。
とはいえ、舐められ放題骨までしゃぶしゃぶ90分1
依頼を受けた以上はやらねばならないし、上手くやらねば信頼を得られない。
そういう点から、ユウランは適度な上下関係を作ることに決めていた。なにせ、教えるという行為は上から下にが基本だから。
(…………さっきの質問タイムでマウントを取りましたが、上手い具合に「対等」だと思われればいいんですけど。……冒険者軽視の姿勢を叩き直すなら、冒険者が一番、なんですかねぇ? 普通に自警団内で教育してほしいんですけど)
冒険者――というより、外部の協力者を軽く見ることは、リスティル市の生命線を断つにも等しい行為だ。
まず大前提として、都市国家には「大きな組織」からの庇護がない。これが一国家の一都市なら、冥族の大襲撃や経済活動において、軍の派遣や補助が得られたりする。
リスティルの周辺は、完全ではないにしろバレミア都市連合の勢力圏内であり、それ以外の部分は冥族が闊歩する大地だ。
その点だけを見れば、生かすも殺すもバレミア連合次第なのだが、リスティルはバレミア連合の
リスティルは、その危険が少ない通商ルートを握っているため、孤立していても独立を保てるのだ。
しかし、路を通るのは商人、護衛するのは冒険者や兵士。
内部の人間だけではどうしても限界がある以上、土台を支えるのに外部の人間は必要だ。
(まぁ、言って聴くタイプなら依頼は来ませんよね。行動で示すしかありません、遺跡に着くまでには、上下を示しましょうか)
ユウランが見上げると、レミが気まずそうに顔をそらした。
(……顔も合わせられないままだと、支障が出ますね。主にコミュ方面で)
遺跡探索が危険なのは言うまでもないが、そこに行くまでの道にだって危険は潜むのである。
連携がとれないなら、一人の方がマシという場合もある。
「レミさん、何か準備し忘れたものはないですか?」
「別に……無いわよ。矢もあるし」
そう言って背の矢筒をアピールする。
しかし、他の荷物といえば、小さな布袋――例えるなら体操着袋よりやや大きめ――を持っているだけだ。現代人の旅行だってもう少しマシなものを持ってくるだろうに。
「いえ、聞きたいのは寝袋はあるか、ということだけです。何か、
「……寝袋?」
「まさか、マントだけを敷いて? やる気を強調したいのはいいですが、睡眠が十分でないとパフォーマンスに支障が……」
「違うわよ!」
レミは言葉を遮り、不可解だという表情でユウランを見る。
「野宿するの!?」
「……あぁ、そこからですか」
『市民のほとんどは壁の外に出ず生涯を終える』
ドラゴンソードのみならず、ファンタジー系世界やユウランがいた地球世界でも言われていた言葉だ。
社会がある程度成熟しなければ、大抵の市民はその都市あるいは村で生活を完結してしまう。まして、街の外に魔物や冥族がいる世界では、外に出るという行為そのものが大きな危険や恐怖を伴う。
だからこそ、遺跡の発掘や冥族退治を行う冒険者という職業が成り立ち、一部の若者は得物一つで「外」へ出掛ける冒険者に憧れを抱く。
レミは見習いの自警団員らしく、そこまで外に恐怖を抱いている訳ではないが、若者らしく過度な憧れを抱いているわけでもない。
ただ、彼女は日が暮れるまでに行って帰れる距離しか離れたことがないので、野宿という異次元の発想に肝を冷やしたのだ。
「いちいち村まで寄って寝泊まりしていたら、倍以上の日が掛かりますよ?」
「……そう? 一日あれば着くでしょ」
「寄り道するんですよ、街道から外れないといけないので。第一、武装したよそ者を泊めてくれるかも分かりません。依頼で来たわけでも無いのに」
「それじゃあ馬とか……」
「借りる伝手があるのですか? 探しても
レミは首を振って沈黙し、ユウランの後に付いていく。
ドラグニカの幼女はさらに付け加えて「ロバでも馬でも、遺物をたくさん持ち帰っていいなら借りられないか聞いたんですけどね」などと言うものだから、レミには彼女の背中が遠く思えてきた。
それは、単純に視野の広さが違うことと、ミーリーンから話を聞いた際に学ぶべき所があると認めていたからだった。
レミは27年ほど生きた若いエルフである。
両親ともにリスティル出身の都会っ子であり、病気がちな妹合わせてと四人で暮らしている。彼女自身は15歳で自警団の
普段は都市周辺の森を監視する仕事に就いており、鹿などの動物を狩ったりして生計の足しにしている。
エルフの中では成長が早い方で、団内でも期待の新星として扱われていた。それでも、エルフにしては年若く、正規の団員ではないため給与が安い。
レミは正規の団員としては認められず、悶々とする日々を過ごしていた。
そんな折に舞い込んだ昇格のチャンスだ。
自分の個人的な悪感情でチャンスを逃すのはあまりにも惜しい。冒険者に成りすます密猟者は多いにしても、ミーリーンの紹介である以上無下にはできないし、彼女自身「大人」になるべきだとも思っている。
ただし、そんな疑念は何一つ間違っていない。ユウランはリスティル市に来て、回りくどい手段でユニコーンの角を密猟しようとしている。もっとも、心を読む能力なんてものが存在しない以上、彼女がまんまと
(やるしかない。格上げされるってんだから)
レミははやる気持ちを抑えつつ、野宿に必要な道具をユウランに選んでもらう。最低限の解説はあったが、当の本人は遺跡のことで頭が一杯で、半分は聞き流していた。
そんなこんなで、二人は北の門を出て、北東に歩を進める。
「ね、ねぇ、ちょっと! 歩くの速くない!?」
「チンタラしてたら置いていきますよ」
遺跡に入るまでの計四日の行程。話相手が不信感を抱いている
夜風に冷やされるテント、交代での見張り、足りない
お陰で、三日目の夜には遺跡の前に到着したが、エルフの少女には功を焦って突入する余裕もなかった。
それもそうだろう、リスティル市の正規兵だってこんな行軍はしない。
ユウランとて、彼女の消耗に気付いていなかった訳ではない。ただ、動物で言うところの「格付け」と、勝手に突入するというNPCあるある(滅多にない)の防止を同時に済ませたかっただけだ。
それだって人としてどうかしている。万が一なにかに襲われでもしたら、どうなっていたか分からない。
しかし、道中、冥族との遭遇は無く、野生動物や野生の暴れティラノサウルス、魔法生物なんかに襲われることはなかった。
ユウランに言わせてみればエンカウントの無いクソマズ道中だが、レミの体力を考えれば、とてもではないが戦闘をしている余裕はない。
「遺跡に入るのは、明日の朝にしましょうか」
「えぇ…………そう、しましょう……」
二人は遺跡の入り口からそこそこに離れた場所でテントを張ろうと歩き出した。
「……遺跡の中でいいんじゃない?」
「地形的に遠慮したかったんですよ」
一言で遺跡とは言うが、日本の教科書に載っているような古墳がドーンと平原に置かれている訳ではない。古墳だって掘り起こされたものだし、大抵の遺跡は発掘されるものだ。
今回、二人が探索する遺跡もその例に漏れない。
地面が隆起したり土砂が堆積して埋もれてしまった建築物が、長い年月を経て誰かに掘り起こされたり、地殻変動で再び地上に出てきたものだ。
そんな事を二人が知る由もないが、大部分が土に埋もれている事だけは見てとれた。
把握している限り、侵入可能なのは遺跡の入口部分だけで、その入口は洞窟の中にある。
浅い洞窟だが、危険な動物が棲家にしている可能性もある上に、遺跡に住みついた冥族が夜に狩りへ出かける際に通り掛かる可能性もある。
ユウランは寝ていようが(判定の範囲内なら)気付けるものの、レミはそうではない。
疲労も考慮すると余計な危険は避けるに限る。
「そういう訳なので、入りません。クリアリングも済んでない場所で寝泊まりするのは止めましょう」
「うん……」
「ああ、どうぞ。先に眠って下さい。音の出るトラップを設置してくるので」
燃えやすそうな枝を集めながら丘陵を歩き、二人は木が数本密集している場所をキャンプ地に決めた。
着くやいないや寝始めたレミをよそに、ユウランは大きなリュックサックをガサゴソと漁り、木製の道具と鉄杭を取り出す。
鳴子だ。
紐で繋がれたそれらは、周囲の木と地面に打った鉄杭の間を結び、簡易的な警報装置として機能する。
商人との旅ではこういったものを使う必要がなかったが、今回の二人旅にあたっては油断できないということで、あらかじめユウランが買っておいたものだ。
とはいえ嵩張る。鳴子そのもの、鳴子を繋ぐ紐、紐を繋ぐ鉄杭。一つ一つが小さくとも、数を揃えて、罠の範囲を広くしようとすれば、当然荷物は多くなる。
(ドラゴンソードは緩いTRPGでしたからね、荷物とか重量の管理が不要でした。……「それ」が現実に反映されると、こうも便利になるとは……)
ユウランの背嚢は
一つは、誰の目から見ても大きな深緑色のリュックサックで、ユウランが背負うと一層大きく見える。物を吊り下げる輪っかや小さなポケットがいくつも付いており、物が色々と入っている。それと、背負う本人よりも大きい。
二つ目は、レミが持っているような小さな布袋だ。少し厚手で、中には何も入っていないが、理論上
ドラゴンソードはアイテムの所持上限や重量がデータとして無いので、ルールブックに記載されているアイテムに限れば、ユウランはいくらでも持つことができる。
重量は袋に何を入れても易々と持ち上げられるほどで、見た目は何を入れても大して変わらない。
「物理法則? 何それ美味しいの?」状態である。
この無限持ち歩き能力最大のポイントは、背嚢や袋が無い時は亜空間に物を収納できる点だ。視覚的には(武器や防具を除けば)何も持ち歩いていない状態になるので、物を盗む時にはとてつもなく有用な能力である。
ただし、四点ほど大きな欠点がある。
窃盗を現行犯で抑えられると言い訳の余地がない点、手荷物が無いと旅で怪しまれる点、ルールブックに記載がないアイテムは収納できない点、背嚢を放棄しないと使えない点だ。
もちろん、ユウランは密猟以外で能力を悪用しようとは考えていない(その事の是非は棚上げする)し、基本的には背嚢を使用している。
(むしろ、この能力がなかったら密猟なんて計画しません。便利ですし、母の病気がなかったら、父の商売を手伝ってたかもしれませんね……悪用すると決めた以上は、墓まで持っていきますが)
墓まで持っていく秘密はいくらでもある。
仮に唯一無二の親友ができたり、仲睦まじい恋人ができたとしても、ボロは出せないし断片的に秘密を教えてもいけない。
何が起ころうと「普通のヒト族」になることは無いし、秘密が広がって大事な人に累が及ぶかもしれない。
「はぁぁ…………レミさんは気楽でいいですね」
寝袋に包まれている彼女は呑気に寝息を立てている。よほど疲れていたのだろう、起きる気配がない。
ユウランは小さな焚き火に小枝を放りながら、闇夜の番を一人で務めた。
星も月も曇り空に隠れた真っ暗闇で、焚き火は寂しそうにパチッと弾けた。
***
翌日、朝6時。
ぴったり6時間の睡眠から目覚めたユウランは水袋の水で顔を軽く洗い、保存食を噛み千切りながら寝袋を片付ける。
「ねぇ、周りのトラップは片付けていいの?」
「
「……命の危険、ある?」
「
「どっちよ!」
朝の支度を済ませたユウランは手頃な岩の上に座り込み、レミを手招きした。
「今日の予定を話します。座ってください」
「予定? 遺跡に行くんじゃないの」
朝露に濡れるのを嫌がった彼女は、立ったままユウランを見下ろした。目の下には小さなクマがあって、疲れたような顔をしている。
「疲労を鑑みて、2時間程度の探索をした後は、引き返して外で休憩と仮眠をとります。行きが早く一日分ゆっくり探索できるので、危険がないように安全を確かめながら行きます」
ユウランは遺跡の危険を丹念に説明し始めた。
それは、単にレミを牽制するというよりも、自分自身に言い聞かせて危険の再確認をするためだった。
彼女と「勝手に行動しない」という約束を取り付けた後、二人は遺跡に向かった。
小さな洞窟の奥から顔を覗かせるのは、土や岩の壁にとても似つかわしくないメタリックな扉だった。
その扉は建物の内側に向かって大きくひしゃげており、中には拳大の石がゴロゴロと転がっていた。
ユウランは松明に火を点けて中に放り込むとしばし待ち、もう一本をかざしながら足を踏み入れる。
「……石を除けた跡がありますね、恐らく中に冥族が居ます」
「何の冥族?」
「さぁ、そこまでは」
「それならヒト族かも知れないじゃない」
「こういう時、自分たちより先に居るのは
「だったら魔物かも」
「魔物は餌もない魔法機器文明の遺跡には来ませんよ、掃除もしません」
ほぇ〜とレミの気の抜けた声。彼女も一歩また一歩と足を踏み入れると、緊張を取り戻した。
真っ暗闇の中、松明とそれを照り返すオレンジ色だけがちっぽけな範囲を晴らす。
砂埃でやや煙たかったのか、レミは口元を抑えて眉をひそめた。
「電源を探しましょうか」
「デン? ……照明のスイッチのこと?」
「そうですね、まだ施設が生きてるといいのですが」
魔法機器文明期は約300年前だが、ヒト族が繁栄を極めた時代でもある。
保存状態にもよるが、魔法機器の耐用年数は総じて長く、施設の機器が使用できる可能性はある。
「で……スイッチは入り口辺りにあるのが相場だと思うのですが」
賽が振られる。
彼女の頭の中で二つの賽がコロコロと鳴った。それは本当に振られているのか、はたまた幻聴か。
真偽が定かでなくとも結果は出る。
「ここですかね」
ユウランがおもむろに壁を押すと、カチッと音がして一部が扉のように開かれた。
壁に空いた四角のスペースには、彼女が言うところのスイッチ、あるいはブレーカーに相当する機械が収められていた。
「なにそれ?」
「恐らくですが、照明の元ですよ」
内部のスイッチを「off」から「on」にすると、何か大きな機械が駆動する音が響き、天井がぶぉんと鳴って明かりがついた。
汚れた白い壁と埃の積もった床が照らし出され、ユウランは廃病院に入ったような感覚に陥った。
「……何でも知ってるのね」
「そうでもないですよ。私が知っているのは、ごく限られた範囲の知識ですから」
明かりがついたことで幾分歩きやすくなったが、これは中に居るであろう冥族に侵入者の存在を知らせることでもあった。
「これで、暗視の利かない私が松明を保つ必要も無くなりました」
ユウランがカイトシールドとメイスを装備し、松明の火を消した。
彼女は自分の足跡を踏むようにとか、"止まれ"と"来い"のハンドサインを教えたりして、遺跡の奥へ歩みを進めた。
探索の途中、ユウランはふと足を止めて止まるように指示した。
レミが立ち止まったのを見てから、彼女は壁の一部分を指で押す。すると、そこを含めた長方形の一部がくぼみ、代わりに取っ手が現れた。ドアだ。
そのまま罠が無いかを確認して、ユウランは慎重に扉を開けた。
安全を確認してからレミを呼び、二人で足を踏み入れる。
「どうやら、誰かが籠城していたらしいです」
中ではミイラ化した遺体が机に突っ伏していた。他にも本棚やよく分からない試薬、大きな機械がある。
二人は死体が動かないか確認した後――ユウランが首を潰して引かれた――部屋の物色を開始した。
レミはミイラを気味悪がっていたので、ユウランが机の引き出しを探すことに。
「使えそうなものは……ありませんね。薬品にもカビが生えています」
「こっちも――げほっごほっ!」
本を一冊取り出したレミが勢いよくむせた。手にしたものの劣化が激しく、開いた途端に塵になったのだ。
「大丈夫で……………………」
手にしたフラスコを置いて声をかけたはいいが、ある光景に目が吸い寄せられて止まる。
最下段の引き出しを探すのも止めて、ユウランの視線が――ふとももに。
(ほどよい肉付き、僅かな絶対領域、私でなければ見逃して――って違う!!)
前々世が男であった性か、それとも生まれ持った彼女の気質か、欲情にも似た感情が沸き起こる。
ソレに気付いたユウラン。ピンクに染まった思考は頭を振って追い払い、その場で腿上げ運動をして邪念を誤魔化した。
(ああああああああ!! 私は……何てことを、しかもミイラの側で…………メンタルにキますね……)
「な、何やってんの……?」
「何でもありません。しゃがんだせいで脚をつっただけです」
キリッとした顔でその場を乗り切ると、それ以降は探索に集中した。
成果はミイラのポケットに入っていた100
その後は部屋を転々と探していき、2点のMPとして使える魔晶石が2つ、追加で270Rを手に入れた。
予想外の現金収入に目を丸くしていたレミは、
これは天秤と流転の神リーンとその信者たちの努力の賜物である。
「収入はありましたが、生きて帰らなければ無駄になります」
「わ、分かってるわよ」
未だ冥族との遭遇は無いが、これは敵の総数が減っていないということでもある。
気を引き締めつつ探索を続けていた彼女らであったが、施設の奥まった所で立ち止まる。
「しっ、静かに……何か聞こえます」
耳を澄ませば、微かにだが怒声と破壊音が聞こえてくる。
ユウランは"来い"とサインを出して、廊下を進む。
その最奥にある扉――若干だが開いている――から離れた所で立ち止まり、"止まれ"の後に中を覗く。
すぐに戻ってくると、声を潜めてレミに言った。
「いいですか、この中で戦闘が起こっています。冥族の
レミの耳にも、機械の駆動音や銃声、冥族のけたたましい声がはっきりと聞こえていた。彼女は神妙な顔でうなずくと矢筒に手を伸ばし、顔色を窺う。
「魔法で強化を掛け、戦闘が終わったタイミングで飛び込みます。恐らく魔法機械が残りますが、その時は戦闘に参加せず、敵の30m以内には入らないように」
10秒、20秒と時間が経ち、音が少なくなるにつれ、ユウランは脳味噌の回転を加速させて勝利への道筋を探る。
(敵の攻撃がフルヒットすれば期待値で即死、ただし当たる確率はだいたい18、40、10%で十秒あたりのダメージ期待値は10……普通の運だと4ターンで死ぬけど弾のリロードも入れて……)
先手を取られたり、20秒で敵を倒せなければ撤退する。
全ては命あっての物種、身命を賭してでも倒すべき敵ですらないのに死闘を繰り広げる必要はない。
自身に【スペルエンハンス】や【プロテクション】の魔法を掛けた後、室内最後の
ユウランは扉を蹴りとばして視界を確保し、中を覗いたレミは後方に移動する。
途端に、傷ついた警備用の魔法機械ソルトと無傷の戦闘用魔法機械ガダムが、竜化したユウランを侵入者として捉えた。
どちらも二足歩行の機械であるが、大きな違いは武装だ。ソルトは両腕が小径の銃であるが、ガダムは頭部が大きな砲塔であり、胴部には銃を備えている。
先手を取ったのは――ユウランだ。
敵まで10mの距離で立ち止まると、胸が膨れ上がるほど大きく息を吸い込み、二体の敵に炎のブレスを浴びせかける。
それと同時に、ライトニングの魔法を無言で発動。灼熱を突き抜けた雷がソルトの機能を停止させ、ガダムを巻き込んで轟いた。
(チッ、ガダムの方には抵抗されましたか……)
魔法に抵抗されるとダメージは半減してしまうが、弱点の雷なら
だが、戦闘用の魔法機械を二撃で破壊できるほどユウランは強くないし、破壊されるほどガダムも弱くない
距離を縮めながら大きな砲塔がガチャリと次弾を込める一方、胴から突き出た銃口からは魔法の弾丸が発射された。
【プロテクション】による魔法の膜が僅かに衝撃を吸収したものの、身を捩った彼女の肩に弾丸が吸い込まれる。
皮膚が裂け、肉が少々弾けるものの、ユウランは痛痒に顔を歪ませることもせず、更なる攻撃に移る。
先んじて【ライトニング】を放つと、脚を含めた胴部の損傷が激しくなる。すかさずそこに目をつけガダムに駆け寄ると、関節部へとメイスを振り抜く。
ガダムの姿勢は崩れ、銃身が外れた部品の重みで歪んだものの、巨大な砲は健在だ。それは真下のユウランに狙いをつけるが、いとも簡単にかわされる。
冥族が寄ってたかって破壊しようとしていた戦闘用機械はもう壊れかけ。
もはや趨勢は決まった。
後の展開は語るまでもなく、ユウランの勝利だ。
「ふぅ……」
ユウランは慎重に辺りを見回してから、靴裏に付着した血肉やコゲを機体に擦りつける。それからキレイな部分に腰掛けて、薬草を使おうとしたところ。
「私がやるわ」
駆け寄ってきたレミが薬草をパッと奪い取り、慣れた手付きで手当てを始めた。
ユウランはややあっけにとられたが、はたと思い返す。
(そういえば、彼女のレンジャー技能は3……持たない私よりか回復量は多いですね)
慮外であった。端から戦力――もとい使える頭数として数えられていなかったので、意外な所で驚かされた。
森の中で活動する者たちの
「ドラゴンソード」のデータ的な話をすれば、レンジャー技能の分だけ薬草等の回復量が増える。ユウランも忘れていたわけではないが、経験点と強さの兼ね合いから技能取得を先送りにしていた。
「ありがとうございます、素直に助かりました」
「いいの!」
ピシャリと言い放つと、伏し目がちになり。
「今の私に出来ること、これくらいしかないから」
とだけ言って、黙々と手を動かす。
「何を言っているんですか、レミさん。あなたに出来ることは他にもあります」
「え?」
手が止まり、戸惑いと期待の視線を向ける。
初めて見た凄まじい灼熱と雷、魔法と肉体――それらを併せ持つ冒険者。
身震いがするほどの戦いを終えてもケロリとした顔をするドラグニカの女に、レミの目は灼かれた。
ある種の英雄を見る目に早変わりした彼女は、続く言葉を待った。
「これが終わったら探索と剥ぎ取りですよ」
レミは包帯をきつく縛った。
「あ痛ッ!?」
タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?
-
ちんちんはやめろ
-
主人公の属性押し出せ
-
そのままでいろ
-
なろうみたく長くしろ
-
副題付けろ
-
もっと中二病にするとかさぁ