私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第四話「竜剣結界陥落」

 

 ファミリアとの契約に時間を使ったので、遅くの起床になった。

 

 現代の軍隊であれば多少の遅刻も許されないが、この都市のこの時のユウランに限って言えば許された。

 

 この都市の本来の戦力ではまともに冥族を相手にできないというのが一点、魔法使いが高コスト人材であるのが二点、"魔法"というものへの神秘的な畏れと力への敬意――ユウランの実力に対する優遇が三点、以上の理由によってマナ(MP)が回復する時間は確実に確保された。

 

 さらに言えば、冥族の軍勢が都市から離れた場所で留まっているというのも大きいだろう。進軍してくれば嫌でも叩き起こされる。

 

 冷めた朝食を腹に流し込んでから、昨夜戦闘が起きた方へ向かう。

 

 来たばかりでろくに土地勘がないので、そういう話も含めて会話できそうな相手を探すのだ。ゲーム的に言えば聞き込み判定の時間である。

 

 昨夜着地した門では破損した扉の修復や矢弾・熱湯の補充、少し後方では負傷者の手当てが行われていた。

 

 忙しく行き交う人々の群れをかき分けて暇そうな人間を――賽が振られる――見つけた。

 

 前腕に包帯を巻いている兵士だ。傍らに弓と矢筒を立てかけて地べたに座っている。

 

 シューター技能3にファイター技能1、平兵士としては上出来だ。

 

(……いや、上出来ではないです。どちらかが5レベルくらいは欲しいです。冥族は質も数も大体上回っていますからね……)

 

「ちょっと、話を聞かせて貰いたいのですが」

「んお? あぁ、アンタ昨日降ってきた……話せる事ならなんでも聞いてくれよ」

 

 この兵士は昨日の戦闘で、ユウランが門の上に切り込んだおかげで助かったそうだ。

 

「ではお言葉に甘えて。私は少々強行軍で来たもので、地形や状況を全く知らないのです」

「ボーヘンに来たばっかなのか。ま、ここの守りは堅いって話さ」

 

 ここの都市はボーヘンという名前らしい。

 

「守りが堅い?」

 

 だが、冒険者と兵士を合わせてもせいぜい100人に届かない規模の都市の守りの、一体どこが堅いというのか。

 

 だいたい、運命と鋼鉄の戦士がいなければどうなっていたことか。

 

 その辺りの兵士の軟弱さは分かっているのか、半笑いで彼は言う。

 

「おう、台地?の上にあってな……あー、要は高いところにあって、周囲が崖だから攻められる場所が2か所しかないんだわ」

「……なるほど、援軍の出発がやけに早いわけです」

「そりゃ、援軍は早い方がいいだろ」

 

 兵士もあまり理解していないようだったが、ユウランは自説を語って聞かせる気はないので、適当に会話を切り上げる。聞きたい情報は聞ける範囲である程度聞き出せた。

 

 門の壁上から冥族の陣容を拝ませてもらうと、外を目指す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 小都市ボーヘンの北門を出れば、なだらかに続く下り坂が北へと延びていた。坂の左右は崖になっており、軍が無秩序に横へ広がれば端にいる者は転落死を免れない。ヒト族と比べていくらか頑健な冥族であっても、最強兵器地面様には敵うまい。

 

 冥族たちはそんな坂道が終わった先で構えていた。陣地や陣形と呼べるようなものは簡素で、多くの冥族は地べたに座り込んでいる。近くの田畑から奪ってきたであろう野菜や植物の食べカスが散乱し、適当な村を襲って連れ出したのであろうヒト族が戯れに食され奴隷として働かされていた。

 

 だらけきっているように見えるし実際そうなのだが、もしもこれを侮って外に打って出ると、腹を空かせた冥族たちが血走る目で生来の凶暴性を発露し、黒い波濤となって襲い来るのである。

 

 とはいえ、都市に赴くはずの人々が街道から確認できても、無節操に襲うほど統制が利いていないわけでない。

 

 数は150といったところ。昨夜門前で死んだ冥族は60か70ほどであったので戦力としては大分漸減したはずだが、数は約2倍差だし質の面も種族からしてこちらを上回っている。

 

 これでは援軍が来なければ話にならない……と言いたいのだが、運命と鋼鉄の戦士とかいう超スゴイ級の前衛がいるので、壊れかけた門の代わりに突っ立たせておけば有象無象は溶けて消えるだろう。

 

 彼女はレベルにして14か15――国を救うような英雄級――はあるとユウランは予測しているが、それでも数の暴力は危険だ。

 

 "データ的"な処理を行うユウランが"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"と同水準の前衛であれば、格下の雑魚1000体に群がられてもかすり傷一つ負うことは無い。

 

 だが、実際に"リアルな"ヒトだと、(スウォーム)になった敵を相手に回避行動を取るのは極めて困難だ。満員電車で接触せず過ごすようなものだと考えてよい。

 

 (スウォーム)が実際に出てくると確定ダメージとか平気で出してくるので会いたくない。蟲とかだし。ユウランがそんなことを考えていると、背後から声がかかった。

 

『ポーラ、調子はどうだ?』

 

 ユウランは辺りをチラリと見るが誰もいない。

 

「それは、もしかして私に言ってます?」

『…………』

 

 背後に立つ運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士に向き直る。

 

『……すまない、何でもないんだ』

「はぁ」

 

 高レベル冒険者など大なり小なりおかしい奴らばかりだが、知らない物か人の名前で話しかけられても普通に困るだけだ。

 

「ここに来た用はそれだけですか?」

 

 多分死んだ知り合いかなんかだろうとアタリを付けて、話題をそらす。

 

『明日の昼前には、リスティルから援軍が来る。何事もなければそのまま倒して終わりだが、奴らに逆転の手はあると思うか?』

 

 フクロウに似た鎧の奴は、兜でやや反響してくぐもった中性的な声でユウランに尋ねる。

 

 シルエットも声色も鋼鉄で覆い隠したその人から、表情を伺い知ることはできない。

 

「そういえば、朝から水を飲んでいないんですよ。井戸と鍋が使える場所って知ってます?」

『……この都市では魔法機器で地下から汲み上げている。そこの施設に行くか、外から来た水売り……はいないだろうな。兵士にでも聞くといい』

「ふーん……。その魔法機器が都市外のどこかの洞窟と繋がっていれば、私は穴を掘ってでも潜り込みますよ」

『そうか、地下…………ああ、しかし……………………』

 

 それから少しぶつぶつと話し始める。

 

(……頭の中にもう一人誰かいらっしゃる?)

 

 この場における最高戦力がキチガイというのはシャレになっていない。顔が美少女なら(おっ、何か事情があるんだな)となり好感度も上がるが、威圧的な鎧姿に2m近い背丈だ。きっと男だろう。ユウランはそう結論付けた。

 

『一つ、頼みたいことがある。指揮所で話そう』

 

***

 

 "運命と鋼鉄の戦士"が兵士長や市長など軍関係者を集めて話したことが、ユウランに依頼となって飛んできた。

 

 地下水を汲み上げる魔法機器"マギポンプ"の施設は魔法機器文明期の――つまり300年以上前の――無事だった遺物であり、この街では水の確保のためにそれをいまだに使い続けているという。なるべく手入れはしているそうだが、施設の"無事ではなかった部分"は崩落の危険もあり手が出せていない。

 

 そこで、地下水道を探索して異常がないか調査してほしい。

 

 というのが依頼だ。

 

 "戦争依頼"は片付いていないが、そもそも我々は兵士ではない――つまり戦争で戦う事とは依頼内容が違う――ので、改めて依頼という形で命令が下された。

 

 ユウランのほかにも呼ばれた冒険者は2パーティ7人、つまり4-3-1人の3手に分かれて捜索を行う。レベルとしては平均5レベル――ユウランよりやや下程度だ。

 

 報酬は一人2500R、これは前払いで、冥族軍が目前に迫っている中で脱走できるほどの力量は無いと判断されたのだろう。期限はなるべく早く、そして日常作業に使う写しの地図を受け取る。

 

 ユウランが指揮所から出るとすぐにフクロウの鎧の奴が呼び止める。

 

『待て。一人で行くつもりか?』

「ええ、力量差がありますし何なら一人の方が隠密行動には向いてますから」

 

 とは言っても金属鎧(隠密にペナルティ)なので、革鎧(ペナルティ無し)を借りて魔法の道具を探すつもりであった。魔法の道具とはもちろん、リスティル市では持ち込みが禁止されているサイレントシューズだ。

 

 透明マントはサイレントシューズより効果が高いものの、その分値段も高く今は手が出せない。

 

『しかし危険だ、敵の部隊が入り込んでいたら』

「……はぁ、危険なんて承知なんですよ。親じゃあるまいし、そこまで心配だというなら10000Rくらいはポンと出してから――」

『――承知した、支払おう』

「いってほ…………え?」

 

 残念だが10000Rは決して安い金ではない。高レベル冒険者の金銭感覚が破綻するのはお約束だが、出会って数日と経たない相手に渡す額ではない。

 

 ユウランは不気味さこそ感じたが、透明マントの資金があれば早く密猟ができることは間違いはないし、今回の依頼でも安全マージンが稼げる。

 

 貰う姿勢はみせつつも、決して警戒は解かなかった(実力差的に抵抗が無意味そうだとは言ってはいけない)。

 

「頂けるのなら――条件なしに――であれば喜んで」

『……ああ、別に対価を要求したりはしない』

「はは……ありがとうございます」

 

 ユウランの口から乾いた笑いが漏れる。なんなんだこいつは。ロリコンキメ過ぎた変態か、それとも亡き人の面影を私に見ているのか。

 

 得体のしれない恐怖を感じつつも、ずっしりと重い袋を手渡された彼女は、金というものが持つ素敵な魔力ににんまりと笑みを浮かべて足早に商店の方へ向かった。

 

*

 

『……ウラエヌス、本当にアレがポーラ・シムロンの"転生体"なのか?』

《おう、雰囲気は奴だ》

『どこにでもいるような冒険者にしか見えないが』

《へっ、どっちも真面目ぶってるスケベな奴だよ。あの背丈だと脚がよく見えるからな!》

『…………』

《外れにしても、だ。有望だぜ、端金でも渡してやりゃあ生存確率もあがるってもんよ》

『……冥族殺すべし、それならいい』

 

*

 

 冒険者向けの商品を扱う店を兵士に尋ねて探すこと2時間、幸運にも目的の品をなんとか見つけ出すことができた。

 

 サイレントシューズと透明マント、しめて13000Rのお買い上げだ。

 

 たかがマントと靴に13000Rは高すぎると思うかもしれないが、"ルール"で言えば単純に6レベル分のブーストになる――つまり現在6レベルのユウランが12レベルの隠密能力を獲得するのだ。

 

 さいころで言うと一個分、2d6(さいころを2個振る)システムでは基準値が1違うだけで大きく差があるので非常に強力だ。例えば、2d6の出目が7の時、2d6(同格)では41%の確率で値が8以上になり、2d6+1では58%、2d6+6では100%――賽を振る事すら許されない――の確率で勝てる。なんなら、2d6+6側の出目が悪くとも負ける確率は3.8%程度しかない

 

 固定値は金で買える。偉大な言葉だ。

 

 思わぬお小遣いに浮かれるユウランだったが、店探しで遅れた分を取り戻すべく地下水道に潜る。

 

 マギポンプの施設はメタリックな外観で、中に入って職員から案内された地下水道への入り口は、真っ黒な穴から真下に延々と続く金属梯子だった。

 

「光源は……あ、あるんすね。落下防止用の囲いも途中でなくなってるんで、気ぃつけてください」

 

 職員の説明を受けて、【ライト】の魔法を指輪にかけて光源とし、黙々と降りていく。たいまつやランタンはいざという時に完全に隠せないし、着火に時間が掛かるのでNGだ。

 

 15mほど下ると底についた。

 

 ユウランは虚空(・・)からサイレントシューズと透明マントを取り出して装備。背嚢は置いてきた。韋駄天ブーツと暖かなマントを禁制品に取り換えて収納する。ちなみに、透明マントの効果は一日一回なので、まだ発動させない。

 

 それから地図を取り出して竜化して、事前に3パーティで大まかに決めた範囲を捜索していく。

 

 "無事だった施設"というだけあって、元々生きていたであろう照明などは機能していなかった。

 

(ふん、期待してませんよだ)

 

 この場所は地下水道、というよりは大きな地下施設の一部という方がしっくりくる。水は影も形もなく、壁を走る配管やドアノブの少し錆びた分厚い扉などが無機質に続いており、まるで迷路のようになっている。

 

 地図と市長らの証言によれば、階段で下に行けばマギポンプを整備するための区画に行きつくが、その区画は入り口に鍵が掛かっており、未探索区画は無いという。

 

 なので、ユウランたちはそれ以外の、地図上で途切れている脇道であったりそもそも書かれていない領域を探索する必要がある。敵が侵入してくるであろう場所は、そういう所しか残っていない。

 

(これ、一日で終わる量ですかね……?)

 

 そんなことを思っている間にも時間は過ぎる。【ライト】の効果時間が1回あたり3時間なので、彼女はせかせかと探索し始めた。

 

 手近な扉を開けて中を探り、壁や工事の音がしないかに注意して広い施設を歩き回る。

 

 途中、フラフラと彷徨っているスケルトン(Lv.1)3体を無傷で撃破した。大昔に迷い込んだヒト族がアンデッド化したものだろう。

 

 そんな調子だったので、低レベルの敵しかいないと思っていたら、スライム(Lv.4)2体に遭遇。スライムは高HPでメイスなど打撃に耐性があり、酸の身体があるせいで適切に処置をしないと武器や防具が無くなる厄介な敵だ。冒険者の天敵のような存在だが、弱点が炎かつ移動速度がカスなのでブレスの引き打ちで処理した。

 

 他にもガスト(Lv.2)という霧状の魔物が5体現れたものの、これも炎のブレスでまとめて焼き払う。低レベル体のエネミーが多いため被弾はなく、サクサクと探索が進む。

 

 探索で見つかる物品こそ無いが、エネミーの戦利品で510Rの儲けが見込める。

 

 消耗が少ないのも良い。

 

 炎のブレスは回数こそ無制限だが、制御するための特技がなく、味方を巻き込むので、何かと使われることが少ない。だが今は違う。味方がいないので基本的に撃ち放題だし、リソースの消費が無いので雑魚相手の長期戦に強い。

 

 それから1回目の【ライト】の効果時間が切れるまで探索していたが、大きな音を立てたこと(ファンブル)以外は特筆すべき点はない。

 

 もう一度【ライト】を点灯して残りの範囲を探索するが、冥族が侵入可能な穴や侵入した痕跡は無かったし、めぼしい落とし物すらなかった。魔法機器文明期の遺跡であったが、役に立つ部品や貴重な物品が残されていない枯れた遺跡だ。

 

 2回目の【ライト】の効果時間が1/3になったところで担当した部分の地図が埋まり、地上に戻ったころに効果は切れた。

 

 日はとっくに沈んでいた。

 

 時刻は18時頃。

 

 この依頼の集合場所は会議をした指揮所だ。

 

 闇夜は冥族の時間。とっくに油断ならない時だというのに、忙しい時間を割いて朝に見た顔の関係者が数人集まる。

 

 しかし、朝は居たはずの3人パーティの冒険者たちが帰ってこない上に、"運命と鋼鉄の戦士"が欠席している。

 

 後者の人物はともかく、前者は鉱山のカナリアのように危機を訴えているようにみえてならなかった。

 

 5分10分と待てども待てども来ない待ち人に痺れを切らした有力者たちは、第二のカナリアとしてユウランを選んだ。

 

 数のある冒険者パーティは冥族との戦いで役立てるが、背丈も小さくソロの彼女はパッと見で強さがわかりづらいし、仮に死んだとしてもたかが一人だ。

 

 え? 死んだら?

 

 ハッハッハ馬鹿言っちゃいけないよボーイ。

 

 強力な冥族は《烙印》が多いから、大きな都市には必ず備えてある"竜剣結界"を越えることはできない。よしんば越えられたとしてもまともに動けないし、侵入しても動けるような奴は(比較的)大したことのない冥族だ。大丈夫、生きて帰れるさ。

 

 ……というような内容を述べた、お偉いさんがユウランに。

 

 あまりにも防御力の高い地形をしているが故に、挑んでくる冥族が数十年のうちでいなかったのだろうか。やけに楽観的だ。

 

 Q. 籠城してる都市の中に冥族が出て来るとかヤバすぎません? もうちょっと策とか……ないですか?

 

 A. ……。

 

 ユウランの脳内ではそんな感じのお偉いさんシミュレータが動いた。

 

 しかし、残ったパーティに押し付けるのもまた難しい。もしも侵入した敵がいたとして、数が5体10体と多いなら、もう一つのパーティは"戦闘"を選択肢に含めるかもしれない。必ず情報を持ち帰るという点においては、ユウランの主観においては、彼女の方がまだ確実性がある。

 

 ユウランは余計なこと言われる前にさっさと承諾した。

 

「わかりました。行きましょう」

 

 面倒ごとを押し付けられてしまうのが、正規の軍人ではない冒険者の辛いところだ。おまけに、これは指揮所で受けた依頼の延長線上にあるので、追加の経験点が稼げない。別々にしてくれれば経験点2000と二回の能力値成長が稼げたのだが。

 

 危険なら逃げ出した方がいい?

 

 いや、冥族が包囲している街だ。仮にとんずらしても逃げ道は無いと言っていいし、追撃を受ける可能性だってある。それに、逃走した後でヒト族側が勝つと敵前逃亡の罪で計画がおじゃんだ、リスティルから救援に来て逃走しておいて、ユニコーンとかが棲む森に入れてくださいは無理がある。

 

(私が選んだ道だ。リスクは承知済みだし、危険のない冒険なんて無い)

 

 生還している別のパーティが書いた地図を受け取り、再び暗い地下施設へ赴く。

 

 竜化し、【ライト】の魔法を指輪に唱えて、梯子を下りていく。

 

 失踪した冒険者たちが進んだであろう道を進んでいくと、倒された魔物の残骸であったり、捨てられたチリ紙が転がっていた。

 

 慎重に探索を続けて1時間半は経過しただろうか、施設内で反響した何かの音が聞こえてくる。

 

 ユウランはとっさに光っている指輪を布でくるみ、隠密に努めた。

 

 慎重に聞き耳を立てると、それは複数人の足音だ。探索中のパーティであれば3人いるはずだ。

 

(これは3人……いえ、5人は居ますね。数が合わない)

 

 つまるところ、これはクロだ。

 

 ところで、ドラゴンソードにはヒト族に化けられる冥族というものが存在している。

 

 その冥族――レッサーバルトルスはレベル4であり、ソーサラーの魔法を第3階梯まで使用でき、序盤の中ボスやシティシナリオなどによく使われている。心臓を喰らうことで、そのヒト族に化けられるようになるのだ。もっとも、1日あたり12時間しか姿を真似することができず、記憶を引き継ぐわけでもない。

 

 まずレッサーバルトルスだろうな、とユウランは思う。

 

 冥族との戦争でそいつらが侵入してくるのは常套手段であり、警戒すべき手段の一つだ。

 

 3体は冒険者に化けているだろうし、残った2体も別の人族に化けているに違いない、と思う。

 

 だが、万が一、万が一本物のヒト族だった場合は、先制攻撃をすると大問題である。

 

(……いえ、99.9%あり得ませんね。魔物知識判定で冒険者と能力が同じかどうかは見抜けますし、眠らせてから判断すればいいですね)

 

 残念だが、ユウランに暗視能力が無い以上、待ち構えるにしても先制攻撃をするにしても、光源が必要だ。

 

 しかし、今回は必要ない。必要なくなった。

 

 何故か?

 

 それはレッサーバルトルスがヒト族に化けていたからである。奴らはヒト族の一部が暗視能力を持たないことを(当たり前だが)知っているし、目的から考えて街中で事を起こすまではバレないように努める。

 

 ユウランは壁伝いにゆっくりと歩みを進め、来た道を引き返す。彼女が来た方向は、出口に行くなら必ず通る必要があるため、待っていれば絶対に奴らが来ると読んだ。

 

 そして、来た。オレンジ色の光が、廊下の端の曲がり角の向こうから迫ってきている。

 

 ユウランは彼らが姿を現す直前に【マナ・アブソーブ】を発動し、MPを踏み倒す準備をした。

 

 そしてレッサーバルトルスは数秒後に姿を見せる。5体とも人族の姿をして、松明を持っている。

 

(距離100倍、数5倍拡大【スリープ】)

 

 人化をしたら抵抗力が下がるせいか、それとも運が良かったのか、全員がバタバタと倒れた。

 

 後続がいれば慌ててやってくるはずなので待つが、来ない。

 

 それから、力量を見抜いて本物の冥族だと判断したのち、止めを刺した。絶命すると5体の人型は姿を変えて、緑色の鱗じみた皮膚をもつ巨体の冥族へと戻った。奪い取って身に着けたであろう装備は留め具が外れ、布地が破ける。

 

 倒した証拠が欲しかったので、ユウランは尖った犬歯をへし折って"ばっちい物"袋に詰める。

 

(さて、死んだ冒険者には申し訳ありませんが、少し漁らせてもらいましょうか)

 

 装備を検めると、1010Rのお金が手に入った。武器防具に関しては売り捌く時間は無いし、今は邪魔なので放置。魔道具や便利なアイテムは無かった。

 

 ユウランが見抜いていた限りでは、倒された3人はエンハンサー技能もなく、ファイターやスカウトのみを修めていた。

 

 そりゃ冒険者死ぬわ、というのがユウランの正直な感想だ。レベルが近いのに数でも負けている純戦士・スカウトが、魔法も使えるレッサーバルトルス5体を相手に勝てるわけがない。

 

 しかして彼らは、自らが書き記した地図を破棄したのか、レッサーバルトルスたちはそれを持ってはいなかった。

 

 地図が冥族の手に渡っていれば、レッサーバルトルスたちはとっくのとうに街の中に潜み、ユウランの探索はまるまる無駄になっていた。

 

 そう考えると、死んだ冒険者たちにも意地はあったのだろう。

 

 それとも、地元のヒト族で、郷土心が強かったのだろうか。その気高い精神は、確かに、更なる死者の増加を防いだ。

 

 しかし、彼らはPC(プレイヤーキャラクター)――英雄の卵ではない。そんな者たちが、ユウランのようにポンポンと技能を習得できるわけもなく、残酷な話だが、彼らは死ぬべくして死んだといえよう。

 

 ユウランは静かに黙祷し、レッサーバルトルスの死体を辻褄合わせのために痛めつけてから、探索を続ける。

 

 もう1時間ほど彷徨っていると、冒険者たちの死体を見つけた。胸の部分にぽっかりと穴が開いており、心臓が無くなっている。

 

 化けるのに必要なものはレッサーバルトルスに持ち去られていたが、血まみれになっている紙や袋はそのままであった。1300R分の宝石やお金が手に入った。

 

(……レッサーバルトルスを倒して、死体も確認しました。遺髪と討伐部位も一応ありますし、帰りますか)

 

 目的が果たされた以上は長居するつもりはない。

 

 駆け足で来た道を引き返すユウランだったが、地上に出ると何か騒がしい。

 

「どうしたんですか」

「あ、あなたは下に降りた冒険者の……」

 

 慌てた様子の職員に聞くと、トラブルがあったようだ。

 

「た、大変なんだ……援軍が襲われて来れないって!」

 

 それだけ聞いてユウランは指揮所へ、門前へ急いだ。

 

 冥族に包囲された街という高ストレス状況にあって、こうした情報が飛び交うのは非常に良くない。本当だろうが嘘っぱちだろうが。

 

 一か八かで逃げ出そうとする者が現れれば、士気は下がるし団結は乱される。

 

 加えて、敵の将は冥族らしからぬ策を弄するタイプのようだ。援軍の阻止については真贋図りかねるが、レッサーバルトルスによる内部の撹乱に合わせたタイミングと言える。

 

 ヤバイことが起こりそう、は大抵そうなのだ。ユウランはもう一波乱起こることを確信した。

 

 街の中を走り抜け、騒ぎが大きい城門へ向かうと、既に戦闘は始まっていた。

 

 門の上には昨夜も見かけた飛ぶ冥族が弓兵の護衛と切り結び、何より門扉が破壊され、冥族が雪崩込んでいる。

 

 門の外では運命と鋼鉄の戦士が手練れと思しき冥族たちを相手取っているが、撃破は時間の問題だ。

 

 いや、時間を取られることは危うい。

 

 人冥の戦争である以上、烙印を拒む竜剣結界は狙われ――

 

「あ」

 

 気づいた。

 

 ヒト族最高峰の戦士が撃破に時間を要する相手など、そうそういるものではない。そういう冥族は烙印も濃く、市壁に近寄ることも困難である場合が多い。

 

 つまり、ボーへンの竜剣結界は既に破壊されているのだ。実現可能な手段はいくつかあるが、それは最早問題ではない。

 

 冥族は大都市リスティルへの足掛かりを獲得し、ヒト族は緩衝地帯を一つ失おうとしている。

 

 否、彼の戦士がいる限り、ボーへンが陥落することなどなく、この場における敗北はまずもって考えられない。しかし、竜剣結界を壊された以上、人冥の生存戦略的には敗北したのである。

 

 気付いたところで、歴史の大波には逆らえない。

 

 彼女はまず、襲い来る冥族を倒さねばならない!

 

『貴様、中々の戦士と見た!』

「……チッ」

 

 迫るのは3メートルはある異形の大男――オーガ(レベル7)だ。暗緑色の体表に筋骨隆々の体躯、ユウラン(レベル6)はあくまで魔法使いがメインであり、普通であれば逆立ちしたって敵わない。

 

「危ない! 子供が!」

 

 オーガの目の前に立つ赤い髪の少女が、よもや冒険者とは思いもしなかったのか、兵士の野太い悲鳴が木霊し、冥族たちは予想される流血に士気をあげる。

 

『ドラグニカの戦士か!』

「共通語で喋れよ」

 

 少女は竜へと姿を変える。歯は獣のように鋭く分厚く野生を宿らせ、手足と首、頬を赤鱗が覆う。額からは黒く大きな二本の角が天を刺し、体躯は変わらずとも一廉の強者であることを雄弁に語る。

 

(竜化――よし、先手を取った。ブレスに【スリープ】――止めが刺せないので別の魔法に――【ブラスト】、バークメイルで防護上げて、練技で回避と防御バフ――)

 

 一瞬の早業だ。マナを使った特殊な呼吸法によって脚力の増強と皮膚の硬化を行い、植物元素を詰めた"ジェム"を小物入れから取り出して樹皮の守りを自身に付与した。

 

 オーガが距離を詰め切る前に強烈な炎を吹き出し、肉を炙る。それでもなお果敢に突進してくる敵にマナの塊を激突させ、相手の強烈な剣戟を軽々とかわしていく。

 

 その攻撃がユウランの命に届くことは無く、疲れさせることはおろか手古摺らせることもない。HPという概念があるなら、それはミリとも削れていない。

 

『フハハハ! つまらん戦と思うておったが、中々に楽しめる!』

「死にかけがほざくな」

 

 するりするりと、一流の戦士であるオーガの攻撃を避けつつ、二度目の炎の吐息(ブレス)を見舞う。

 

 皮膚の焼き焦げる臭いが辺りに充満し、脂がパチパチと音を立てて弾ける。

 

『ぐっ……お、ォオオオオオオオオ!!』

「【エネルギー・ボルト】」

 

 抵抗むなしくマナの矢がオーガを貫き、その巨体は崩れ落ちた。

 

 ――おおおおおおおお!

 

 周囲の兵士から歓声が上がる。難敵の撃破は味方を勢いづかせ、敵の威勢を挫いた。

 

 冥族はまだ残っているが、オーガと比べるとどれも一回り二回りは格が落ちる。冒険者や兵士たちと協力して残敵を掃討すると、しばらくしないうちに鬨の声が響いた。

 

 勝利の美酒に酔いしれる兵士たちをよそに、この地には暗い影が迫っていた。

 

***

 

リザルト

経験点:1000(防衛戦)+1000(指揮所)+650(魔物)

報奨金:3720R(戦利品)+2500R(水道調査)+3500(防衛戦:リスティル帰還後)+10000R(運鋼おこづかい)

能力値成長:2回(精神力、知力)

 

 経験点が入ったら即成長、これは生きていく上で欠かせない要素となった。

 

 実力に応じた依頼が入ってくる(見た目で侮られることもある)という事は、弱いままだと死ぬ。

 

 ユウランはコンジャラー技能をレベル7に伸ばし、最大レベルが奇数になった際に入手できる<<特技>>を習得した。

 

 この<<特技>>、お察しの通り習得できる数に限りがあるため、慎重に選ばなくてはならない。なんといったって、最大レベルは15なのだから。

 

 このまま完全にソロでやっていくなら、HPを伸ばして生存能力を増やす<<頑健>>。ソロプレイのままゴーレムを使って肉壁を増やすなら、後衛に徹して誤射を防ぐ<<ターゲティング>>。死にやすさは上がるが、魔法使いとしての技量を上げるのは<<魔法制御>>。防具の使い方が上手くなるが、金属鎧と非金属鎧で分かれているので欲しい防具が入手できなくても泣かないこと、<<防具習熟>>。同じく<<武器習熟>>。

 

 兎角、性格が出るだろう、ソロでの<<特技>>の選び方には。目的地に徒歩で行くのか、馬車で行くのか、誰かと話しながら行くのか、空を飛びながら行くのか、猛スピードで錐揉み回転しながら行くのか。

 

(……<<頑健>>ですね。ゴーレムなんかは移動速度の関係もあるし使い捨てでもいいですが、HPは後天的に上げにくい。……100年経ったら依頼をこなしまくって誤差になるでしょうが、私の目的はあくまでも母さんを救う事で、今死ぬわけにはいかない。それに、置物があると邪魔です。他の<<特技>>は裏技的な取得を考えてありますし)

 

 ユウランは堅実さを好んだ。明らかな間違いではない、手堅い選択だ。

 

 さて、彼女は現在リスティル市に帰還して、報酬を受け取りホクホク顔ではあるが、都市の面々はそうではない。

 

 ユウランが"運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"とともにボーヘンへ向かうのとは別に、援軍が同都市へ向かっていたことは覚えているだろうか。

 

 リスティル市からの援軍はボーヘンに向かう道中、マシナルエイプの部隊による奇襲を受けて半壊。300人ほどの兵士のうち、1割が死亡、3~4割は重軽傷という有様だ。

 

 足元から湧いたマシナルエイプの勢力に、リスティル市は明らかに動揺していた。

 

 ボーヘンの冥族軍もマシナルエイプの奇襲部隊も、撃退できたからよかったものの、どちらも敗北していれば、リスティルの勢力圏は10年もしないうちに冥族が跳梁跋扈する地獄と化していただろう。

 

 だが、そうはならなかった。

 

「ユウランさんって、強さの割にはあんまり名前を聞かないねぇ」

 

 リスティル市でも評判の冒険者の宿「若葉の羽毛亭」を切り盛りする店主・ミーリーンは、ユウランが夕食をパクパク食べる様子を横目に言う。

 

「そりゃあ……」

 

 そうですよ、という言葉を飲み込んだ。

 

「私は"竜片"をあんまり納めていないから名誉点が低いんです」なんて言葉を続けたとして、(何言ってんだこいつ……)という冷たい視線を浴びるだけだ。

 

 読者諸兄姉に補足すると、冥族の侵入を拒む竜剣結界の燃料になるものが"竜の片鱗"、通称竜片である。敵NPCの強化にも用いられているので、普通の"シナリオ"ならポンポンと集まるものだ。

 

 そういえばボーヘンで戦ったオーガは竜片持ちじゃなかったなぁ、と思い出しつつ、ユウランは二の句を継ぐ。

 

「大した依頼はこなしていませんから」

「……そう?」

「ええ、簡単な街道の掃除に、子守をしながら遺跡へピクニック。ボーヘンでは勝てる相手をちょいと倒しただけ……ほら、どこにでもいるような冒険者でしょう?」

「うん……うん? 今代ちゃんにお話し聞いておけばよかったワ……」

 

 "運命(さだめ)鋼鉄(はがね)の戦士"は一足先にリスティルに戻り、さっさと別の土地に行ってしまったとミーリーンから聞かされたばかりだ。

 

(そりゃ、あんなのが飛び回って冥族と戦うんですから、冥族との最前線とはほど遠いボーヘンみたいな小都市が奇襲を受けても防衛できる訳で……ん?)

 

 ふと、ユウランの脳内で何かが引っ掛かった。

 

 彼女はボーヘンからリスティル市までの道中、ボロボロになった援軍と合流して3日かけて歩いて帰ってきた。あまりにも暇だったので、暇つぶしにやる事リストを脳内に保存していたのを忘れていた。

 

(そうだ、お母さんに手紙を出さないと)

 

「美味しかったですよ。では、部屋に戻ります」

 

 シチューの残りをかきこんで、宿の一室に戻る。

 

 シムロンからリスティル市にまで1週間、依頼をこなして1週間、お守をして1週間、戦争にいって5日。

 

 母と約束した一か月が過ぎようとしていた。

 

「えー……二重にして、養成学校の寮長宛てに出しますか。内容は……戦争のことは書かないでおこう」

 

 生き馬の目を抜く敵ばかりの厳しい世界に飛び込んだ、たった10歳の子供が持つ家族との繋がりだ。この時ばかりは、彼女も子供のように幼い顔つきに戻っていた。

 

 




なんだこのお小遣いおじさん!?

(女の子やぞ)

タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?

  • ちんちんはやめろ
  • 主人公の属性押し出せ
  • そのままでいろ
  • なろうみたく長くしろ
  • 副題付けろ
  • もっと中二病にするとかさぁ
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