私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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第六話「家へ、そして戦いへ」

 

 森の幻獣たちは怒っているらしかった。

 

 仲間を殺して角を持ち去り、埋葬することなく立ち去った奴が相手となれば、それはそうだろう。

 

 気持ちはわかる。

 

 だが、私にも譲れないものがあるし、たった一人のために屍の山を築く覚悟がある。

 

 この世界で弱さは罪だ。弱い奴は災害や冥族の軍勢にあっけなく蹴散らされる。私がブレスで雑魚を蹴散らすように、今の私でさえ強者に蹴散らされる雑魚の1人でしかないのだ。

 

 力が欲しい。母の病を癒せる力を。家族を守れる暴力を。世界さえ変えてしまえるような力を。

 

 そこに至るまで、私はあらん限りの力を振り絞って生き残ろう。

 

「……別に、森を荒らそうって訳じゃあないんです。見逃してください。もう用は無いですから」

 

 私が逆の事を言われたらブチ切れてぶっ殺してやるとなるところだが、相手の方はそうでもないらしい。

 

 目の前に現れた一体の巨大なタヌキ(6レベル)は、表面上は穏やかだ。

 

『君は彼を殺してしまった。だが大きな摂理の一つだ』

「はぁ」

『仲間は納得できない。恩をくれたら許そう』

「依頼……ということですか」

 

 少し拍子抜けだ。

 

 このタヌキの背後の陰に潜んでいる幻獣たちからはある種の殺意めいたものを感じているというのに、平和的に解決できるとは。

 

 ……いや、まだ平和的に解決できるとは、言っていない。騙して悪いが――という具合に裏切ってくる可能性がある。

 

『陽が一番高い方角に、《烙印》が沢山ある乱暴者がいる』

「そいつらを倒せと」

『うむ』

「いいでしょう。ただし、そこまで案内を頼みますよ」

 

 緑のタヌキに先導されて森を進む。昼にユニコーンを狩ってから、2時間ほど経った頃――進路上に植物の魔物を見つけた。

 

「……あれを避けるのは」

『できない。ヒトには狭い道ならある』

「倒すしかないようですね……」

 

 敵は棘の実を飛ばす植物(7レベル)鋭い葉の刃を持つ植物(8レベル)が2体だ。

 

 幸いにも、先に気付けたため少し準備の時間に余裕がある。私はゴーレムを2体(・・)取り出した。敵はいつだって数が多いだろうと考え、備えたものだ。新しく作ったストーン・サーバントは、その拳を無限に燃える魔法の炎で武装していた。

 

 10mほどの距離まで近づくと、植物の方も気付き、新鮮な獲物に体を躍らせた。

 

 戦いになると、ユウランはいつものように奇妙な感覚を得る。自分自身の視点と、戦場を見渡すような俯瞰の視点、その両方が同時に両立する。思うに、これはPC(プレイヤーキャラクター)であるユウランのものと、PL(プレイヤー)である『私』のものだ。

 

「さぁ、やりますか――あ」

 

 ファンブルだ。

 

 意味もなく巨乳について考えてしまい、先手を取られる。

 

 フワフワと浮遊しながら距離を詰めてきた刃の植物が片方のストーン・サーバントに群がり、刃の連撃を浴びせる――が、物理防御は非常に硬い。ユウランの事前の魔法で7割増しの硬さだ。ほとんど効いていない。

 

 今度は棘の実の植物がその実を投げ飛ばしてくると、刃の植物と私にぶつかった。それは竜化した頭に――防具もないような――思い切り打ち付けた。しかし、それは金属にぶつかったような音を立ててあらぬ方向へ弾かれた。

 

(……たったの1ダメですか)

 

 私には1ダメでも、駆け出しの冒険者が無防備な所に喰らえばほとんど死ぬような威力である。

 

 防護点の概念がある限り、たとえどこにどんな物理攻撃を喰らおうとも関係はない。子供が眼球にナイフを刺してきても、ビクともしないだろう。

 

 それから、生ものと魔法生物の区別がつかないのか、植物の攻撃はゴーレムに集中した。なお、(ユウラン)の方が硬いため、被害額で考えるとあまりよろしくはない。

 

 とはいえそんな具合なので、最終的には大きな損害もなく始末できた。案内のお陰で時間的に余裕はできているため、戦利品をはぎ取る。

 

 安価で作れる植物の素材が手に入ったので、アルケミーキットで植物元素を抽出してジェムにしておく。1時間ほど経過して戦後の処理が終わると、そろそろ夕方になったきた。

 

 野営することを緑のタヌキに伝えて、準備をする。

 

 ゴーレムたちの回復を済ませ、【ファイア・ウェポン】の炎を焚火代わりにして眠る。

 

 就寝中、緑のタヌキが攻撃してくることは無かった。

 

*

 

 翌日、陽が出る前の暗い森を進み、朝日が昇るころに見つけた。冥族を。

 

 4体いる内の3体はシャットマンの強力そうな戦士で、残りの1体は冥族の中でも貴族(・・)と呼ばれる奴だ。

 

 それの種族名をゼルド・ノーブルと呼ぶ。

 

 私たちドラグニカと同じく竜化が可能な冥族だが、ドラグニカの不完全なそれと違い、ゼルド・ノーブルたちの竜化は本当に竜に成る。その強さに相応しい傲慢さで以て他の冥族を支配し、彼らはその傲慢さに相応しい名で己を彩った。

 

 故に、ゼルド・ノーブルたちはその力量によってそれぞれ違う()を纏う。

 

 私の視線の先にいるのは赤のゼルド・ノーブル(レベル6~7)――レッド・ナイトと人は呼ぶ。彼らは自らの名を冠する色を衣として身に纏い、自身よりも上位の色を身に纏うことは決して――他のゼルド・ノーブルたちから――許されない。

 

 そのレッド・ナイトは線の細い美麗な男の姿をしており、自身を赤色で着飾っている。そして何より、彼ら自身が持つ竜の翼と大きな角は真っ赤に染められており、この森の中で力強く異彩を放っていた。

 

(……取り巻きもそうですが、ゼルド・ノーブルも面倒ですね)

『では、見届けよう。君の禊だ』

「巻き込まれたくなきゃ、下がっていなさい」

 

 私はゴーレムを取り出して戦いの準備を整え、飛び出した!

 

「覚悟!」

『何奴!?』

 

 彼我の距離は10mと15m。4体の敵はちょうど四角形の頂点に立つように並んでいた。ゼルド・ノーブルはこちらから見て奥側に立っているため、攻撃をすぐに集中させるのは難しいが、取り巻きを先に始末しなければ危うい。

 

 しかし、こちらからの射線は通っている。

 

「ハァッ!」

 

 ブレスで射線上のシャットマン2体を焼き、ゼルド・ノーブルと取り巻き一体に【スリープ・クラウド】を食らわせる。

 

「あ、寝た」

 

 <<ファストアクション>>の2回行動でもう一度炎のブレスを同じ敵に吐きかけて、【ライトニング】でまとめて始末した。

 

 そしてゴーレム2体が眠っているシャットマンを殴り倒す。

 

 ……勝ちだ。

 

 【スリープ・クラウド】の効果時間は短いので、残りの時間はデバフに努める。止めを刺す時間は無い。

 

 【フォビドゥン・マジック】で3ラウンドの間、弱い操霊魔法を封じ、【スタンクラウド】で特技を封じる。そしてゴーレムを少し下がらせて、ブレスを見舞う。

 

『ぐぁっ!? 何だ!?』

 

 目覚めたばかりのゼルド・ノーブルの男にゴーレムが殴り掛かる。焼けた大地に横たわり、頬を乾いた土で汚した貴種は、燃えるゴーレムに叩かれながら何とか立ち上がった。

 

 前世はバスケットボールかな? 来世はナメクジだな。

 

『きっ、貴様ァ!! ヒトトカゲ風情がよくもこの私をコケにしてくれたな!!』

 

 威勢良く吠えるが、【スタンクラウド】で痺れた体では竜化することもできず、立ち上がったばかりの拙い動きで、奇声を上げながらゴーレムに斬りかかる事しかできない。

 

 ドラゴンソードでよく見られたゼルド・ノーブルのリンチの光景である。確かに、ゼルド・ノーブルは強いが、それはあくまで特殊能力の竜化を使うことが前提だ。それが封じられるとただの強めのエネミーでしかない。

 

 駆け出し冒険者をぼこぼこにすることもあれば、手慣れた駆け出し冒険者にぼこぼこにされることもある。よく調整された、と言い換えてよい。

 

「哀れな」

『貴様ァ――! おごぅ!?』

 

 ストーン・サーバントにリンチされ、よくある光景のように死んだ。

 

 命の儚さに感動を覚えるが、勝ちは勝ちだ。

 

 後ろを振り返ると、緑のタヌキが3体立っていた。

 

 すわ戦闘かと身構えたものの、そうではなかった。

 

『君は森を荒らす冥族を倒した。さぁ、早く出るといい』

「終わったらさっさと出ていけってことですね。私もこんな所に長居するつもりは毛頭ありませんよ」

 

 ちょっと歩いただけでレベル8に遭遇する森に長居できるか!というのが正直な感想だ。

 

 ただ、依頼達成の経験点があるので、そこはヨシとする。

 

 タヌキと別れてからは特に何かと遭遇することもなく、無事に森の外に出た。

 

 ここから南西に向かえばシムロン市に辿り着くだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

※現在地は赤点

 

 ただし、南西ルートは都市から遠く、郊外田舎を通り越して無人地帯であるため、冥族にも危険な動物にもガンガン遭遇することが予測される。直線距離にして75km程度の道程だ。

 

 西南西ルートは街道に合流できるため、安全に帰れるものの、既に手配されていた場合は追手による追撃が予想される。距離は90km程度だ。

 

(……南西ルートですかね。私の足跡が辿られにくいルートです)

 

 再度透明マントで姿を隠し、森と十分に距離を取ってから透明化を解除する。

 

 ゴーレムを取り出したりはせず、伸び伸びと成長する草本が生い茂る平野部を駆け抜ける。バシバシと顔に当たる葉っぱが鬱陶しいものの、ダメージは無いので平気だ。

 

 シムロンまでは単純計算で4時間弱掛かる予定だが、そもそも悪路であるため40分ほど走ってると――落ちる。

 

「おわっ!?」

 

 5mほど落下しただろうか。金属が叩きつけられる大きな音が響く。

 

 受け身に成功してダメージは無いが、ただ走っているだけでトラブルに遭うとは先が思いやられる。

 

 ちなみに、落下ダメージは物理ダメージとして扱われるため防護点で軽減でき、今回は受け身ができなくてもダメージは無かった。現実の物理法則を考えてはいけない。

 

 まぁ、道は人が通らなければできないのだ。人の居ない地域は凸凹した土の起伏やかつて川があった名残がそこらじゅうにあり、地殻変動によって地形が大きく変わっている。子供が遊んだ後の砂場のように。

 

 なので、基本的に人の手が入っていない場所はまともに走れたもんじゃない。

 

「……洞窟?」

 

 空を見上げると、空が狭くなっていた。壺状の穴に落ちたらしく、壁を登って地上に出ることは難しい――いや全然難しくない。魔法で壁を登って出られる。

 

(いや、しかし、ここから別のところに脱出できれば痕跡は消せるでしょうね)

 

 松明に火を付けて、幻獣からのクエストで獲得した経験点でエンハンサー技能を伸ばし、レンジャー技能を生やした。痕跡を完全に消し去るチャンスかもしれないので、洞窟を探す。

 

 巨大なタランチュラやコウモリを駆除しつつ、伏流水を越えたり更に深く潜ったりすると、扉があった。扉の材質的に、魔法機器文明期の遺跡だろう。

 

 何かの部屋が地殻変動によって埋められたのか、地下にあった施設が無事なまま残っているのか。そのあたりの事情は分からないが、未発見と思われる遺跡に拳を握る。

 

(追加収入ですかね。変な魔法機器が無いといいのですが……)

 

 少し歪んだ扉を腕力でこじ開けると、4つの砲を備えた多脚の戦闘型魔法機器――オクトガダムが2体も待ち構えていた。

 

 そっと扉を閉じる。

 

(あっぶな! 突っ込んだら秒で死んでましたね)

 

 7レベルの4部位のため、1体当たり280点の経験点だ。欲しい。行きがけの駄賃に欲しい。部品も美味しいし、扉を一枚隔てているため仕切り直しも容易い。

 

(……よし、やりますか)

 

 オクトガダムは属性攻撃に対してバリアを張るため、ゴーレムの【ファイア・ウェポン】は解除する。指輪を付け替えて先制合戦に備え、突入する。

 

【――ガガ、侵入者発見、排除シマス】

「とっくに朽ちてるんですよ、こんな所!」

 

 開幕、炎のブレスで片方を焼き、【スパーク】で2体に雷攻撃。主砲を2つ破壊したため、更なるブレスでもう片方を焼き、再度【スパーク】。炎と雷を切り替えて強力な主砲を撃破した。残りの砲塔も体力は軒並みカスだ。

 

 ゴーレムを突っ込ませるも撃破には至らず、オクトガダムが2体とも砲口をユウランに向けた。時期的に故障してもおかしくない魔法機器のくせに、判断はやたら適格だ。

 

「私ですかっ!」

【脅威、大。脅威、大】

 

 初弾を避け、次弾は不発、3弾目を喰らったが、セービングマントの効果によってダメージは軽減された。

 

 雷の防護膜を張るオクトガダムにブレスで止めを刺し、残る一体をゴーレムに始末させる。

 

 楽勝だが、楽勝でなければあっという間に死だ。

 

 剥ぎ取りと回復に2時間ほどを掛けてから、軽く部屋を見て回る。

 

「他の区画は、この扉(・・・)の先以外は無いようですね。目ぼしい物品も無いと……」

 

 オクトガダムたちが居た部屋には、彼らの残骸と壊れた天井と思しき破片、石や何かが転がっているだけだが、入り口とはまた別の扉があった。

 

 中は広い部屋に繋がっており、壊れた大型の魔法機器が鎮座していた。他には、液体の入った大型のシリンダーが数十本も並んでいる。まるで何かの研究室のようだ。

 

 この部屋は奥の方へ微妙に傾いており、風を感じる。

 

 よくよく観察すれば、シリンダーにはカビだらけのものや、人骨が沈んでいるものもある。

 

「……なるほど、ホムンクルスのジェネレーターですか」

 

 ホムンクルスはその昔、魔法機器文明期に産み出された人工種族である。

 

 彼らは奉仕種族であるため、生きている強いホムンクルスがいればいろいろと便利ではあるだろう。

 

 ジェネレーターを見て回った結果、人の形を完全に保っているホムンクルスが3体居た。いずれもシリンダーに入っているが、取り出し方が分からないため、集中して――賽が振られる。

 

「ふーむ、電源が死んでいるようですね」

 

 周囲を探すと、魔力で動く発電機と思しきものが見つかった。今は動いていないものの、MPを使うだけで動かせそうだ。

 

 30点分のMPを注ぎ込むと魔法機器が駆動し始め、ボタンを押すと全てのシリンダーの液体が一斉に排出され――配管が千切れているのか最悪の匂いが漂い――前面が開いた。

 

 カビのにおいと何かが嫌に発酵したような悪臭で部屋が満たされる。

 

 どうやら、ホムンクルスが入っているシリンダーだけでなく、その他の全ても開いたようだ。オエッ。

 

「……ここは?」

「松明? えーなんで?」

「……」

 

 シリンダーから出てきて、寝ぼけ眼を擦る彼らに構う時間は無い。

 

 起きて早々申し訳ないが敵だ。

 

 近くのシリンダーからあふれ出したポイズンモールド(8レベル)が、好き勝手に胞子をまき散らす。こいつは近寄らなければ攻撃を受けないため、いい経験点だ。

 

「動かない方がいいですよ、胞子を吸い込みますから」

「「「!」」」

 

 ホムンクルスたちに警告をしてから、カビを炎のブレスで焼き払う。非常に体力の多い敵なので、毒胞子の届く外から何度も何度もブレスを吹き付けて倒す。

 

「ふぅ……さて、自己紹介といきましょうか。私はユウラン、良ければ連れていきたいのですが」

「ベータだよ。連れてってことは、主になりたいってこと~?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 私より数センチだけ背の高い女型のホムンクルスが首を傾げた。焼き払っている間に着替えを済ませたのか、水色の髪を前と後ろの4か所でまとめている。灰色のマフラーと黒いパーカーを着ており、2丁の拳銃を持っていた。脇にはマギスフィアが浮かんでおり、マギシューターだと分かる。あとかわいい。

 

「私はガァマです。残念ですが、我々の主は別におりますので」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 次に、眼鏡を掛けた大柄な男型ホムンクルスが否定した。魔法使い用の短いスタッフを所持しており、彼だけはソフトレザーを身に着けていた。

 

「そういうこった、諦めな。……俺はアルファスだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 最後に、黄色い長髪をぼさぼさと伸ばした男がたしなめてきた。手袋とブーツに鉄か何かが仕込まれており、少し盛り上がっている。防具の類は無く、黒いインナーだけを着ている。

 

 三人とも最低限の装備は身に着けている。恐らく、どこかに用意されていたのだろう。

 

「そうでしたか。それで、主は誰なんです?」

 

 ホムンクルスは奉仕種族だ。魔法機器文明期に生み出された種族であり、当時の扱いは道具並みといえば想像がつくだろう。そういう目的で産み出された種族の為、「主に仕える」というのが第一の目的となっている者がほとんどだ。

 

「そりゃあの人だよ、何だ知らねぇのか? ……誰だ?」

「ところで、戦況はどのようになっているのですか? 我々が……何故ここに?」

「う~、みんな記憶喪失ってやつかな?」

 

「まぁ、こんな電源の切れたジェネレーターで寝ていたら、記憶喪失にもなるでしょう」

 

 死なずに済んでいることの方が驚きだ。10年20年ではきかない年数が経っていることは想像に難くない。

 

「それで、これからどうするんですか? "青の落日"から300年は経っていますが」

「「「"青の落日"……?」」」

「おぉう……」

 

 詳しく話を聞くと、主人が"魔法機器文明終わっちゃった"と話していた事を記憶しているようだ。随分とおかしなことを言う人だ。

 

 もう少し話をまとめると、彼らは"青の落日"が起こる前の魔法機器文明期を生きていたホムンクルスのようだ。非常に興味深い存在だが、別に私は学者でも何でもないので、役に立てばいいな程度の情報だ。

 

「いいですか、落ち着いて聞いてください。残念ですが文明が木端微塵になって、300年経ってます」

「……そうか、だが、我々の主人はエルフの大英雄だ。……らしいな」

 

 魔術師の男が言う。記憶が混濁しているのか、付け足しが多い。

 

「らしいね~。都市からみんなを脱出させた人なんだけど、知ってる~?」

 

 ベータちゃんはあざとく言った。かわいいね。

 

「いいえ。そういった話は聞いたことがありませんね」

「じゃ、近くの都市まで案内してくれねえか? 名前覚えてねぇけど」

 

 ホムンクルス3人は私をじっと見てくる。どうにも昔のホムンクルスらしくない感情豊かな3人組だが、そういう話ならこき使ってやろう。

 

「いいでしょう。私も帰るところです。ただし、3か月間私の従者をしてくれるなら、です」

「私たち無一文だもんね~」

「……持ち物が色々と無くなっていなければな」

 

 眼鏡をクイっと上げたガァマが残念そうにシリンダーの下部を見た。

 

 私は見向きもしなかったが、どのシリンダー下部にも引き出しのようなものが付いており、埃塗れで開けっ放しになっている。彼らの引き出し以外、中身は空だ。

 

 そこにアイテムやら何やらが入っていたようだが、空の理由は想像がつく。

 

 若干傾いているこの部屋の、その傾斜の先の壁にはぽっかりと穴が開いている。投げ込んだ松明が見えなくなる辺り、深い谷に繋がっているのだろう。

 

 あくまで予想だが、地形の変動か何かで全部穴に落っこちた、ということか。

 

「残念ですが、回収は無理そうですね」

「だろうな」やれやれとアルファスが手のひらを見せる。

 

 3人はこそこそと話し合い――探るような視線を受け賽が振られる――結論を決めたようだ。

 

「3か月間。3か月間だけあなたを仮の主としよう」

「では、あなたたちの依頼を受けましょう。無事に都市まで送り届けますとも」

「ていうか、仮の主さん。ここどこよ?」

「ここは地下ですよ。見ての通りぶっ壊れたジェネレーター付きです」

「地下ぁ!?」

 

 外へ案内する道すがら、壊れたオクトガダム2体と私に侍るストーン・サーバント2体を見て、彼らは驚いた様子を見せた。

 

(いや、本当に昔のホムンクルスらしくないですね。前の主人は一体何をやっていたのやら……)

 

 光が差し込む場所まで案内すると、3人は天井の高さにぽかんと口を開けていた。

 

 私が何かを言う前に、魔術師のガァマが【ウォール・ウォーキング】の魔法を掛けてくれたため、壁を歩いて脱出する。

 

「おぉ、一面草原……」

「街はどこにあるの~?」

「目的地は70km先です」

「「「…………」」」

「無人地帯を突っ切る予定なので、悪しからず」

「……こりゃとんでもない奴を仮の主にしちまったな」

 

 ため息を聞き流しつつ、隊列を組んで移動する。ユウラン()を先頭に、後方5mでゴーレム同士を7m離して配置、その後方5mに3人が並んでいる。1-2-3の形だ。

 

 あんまりにも遅いペースに、いっそもう背負って移動しようかと後ろを振り返ると、緑髪のガァマが進行方向を指さしていた。ピョンと跳びあがって確認すると、前方では魔法機器(・・・・)が4体も疾走していた。

 

 ……こちらの方向に。

 

アレ(マナジャマー)ドドッペリ(レベル6)なら倒せるでしょう。ほぼ近接が主体なので、マナを無駄に使いたくないなら離れておくように! 真ん中のアレはマナの使用量を増やします!」

「俺たちは戦闘用のホムンクルスだ! やってやるさこの程度!」

「私は【ファイアボール】を打つに留めます」

「え~、弾少ないのにぃ」

 

 私はピョンピョン跳びながら敵の陣容を眺める。敵は密集しておらず、前衛1後衛3で5m間隔に並んでいる。7m間隔などでない辺りは何某かの優しさを感じるが、炎のブレスは短辺3m射程15mの範囲を焼くため、密集されないとそれだけで1ターンあたりのダメージが下がる。

 

 戦闘を回避するだけなら間に合うが、疲れ知らずの魔法機器相手に逃げ出しても、後ろの彼らが追い付かれる。近くの都市――シムロンでいいが、そこまで送れば、依頼達成で経験点も貰える。逃げる必要は無い。

 

 野原を爆走する魔法機器がこちらに接近し、距離が縮まって――

 

「先手を取る、ファイボ行け!」

「!」

「前衛行くぞ!」

 

 ユウラン()の号令で真横に居るガァマが【ファイアボール】を打ち出し、弾かれたように全員が動き出す。

 

 彼の【ファイアボール】が先頭のドドッペリ――剣とハンマーを持つ二輪駆動の魔法機器――を掠めるようなコースで飛んでいき、マナジャマーを巻き込むような絶妙な位置で炸裂する。

 

(お、やりますね)

 

 こちらも負けじと10m手前まで移動、炎のブレスでドドッペリとマナジャマーを2回焼き、【ファイアボール】と【スパーク】を纏めて当て、前衛のドドッペリを撃破した。途中、グラップラーのアルファスが錬金術での攻撃バフを掛けてくれた。

 

(戦い慣れてますね、戦闘用というのも伊達ではないと。まぁ、彼らレベル6~7ですしね)

 

 ゴーレム2体と他のホムンクルス2体は接近するだけ接近して、攻撃するには至らなかった。専門用語で言うと移動力が足りない、だ。

 

 そのタイミングで、マナジャマーはその能力を発揮、MP使用量と同じダメージを与える領域を展開する。抵抗すれば自分自身にその効果は及ばないが……。

 

「3人ともダメです!」

(チッ、抵抗消滅なのにミスるとは……やはりホムンクルスは精神抵抗に弱いですね)

 

 2体目のドドッペリが突出しているユウラン()に肉薄し、その手に握るハンマーと赤熱した剣を振り回す。地面の凸凹に躓いてハンマーには掠ったが、他は全て避けきる。

 

「肉薄してくれてありがとうございます――ハッゴホッゴホ!」

 

 ブレスで咳き込んで(ファンブル)しまい、火がちょびっと出るだけで終わる。腹いせに【ドレイン・タッチ】で体力を回復した頃には、ゴーレムと二人のホムンクルスが追い付いてきた。

 

「まずは車輪を!」

 

 ゴーレムの打撃とベータの銃撃によって2体目のドドッペリの車輪が壊れて回避能力が落ち、3体目のドドッペリにはアルファスが痛手を与えた。敵の反撃はアルファスが攻撃を掠っただけで、被害はほぼ無い。敵の攻撃能力はほぼ喪失したと見ていいだろう。

 

 それから、それなりに消耗しつつ殴り倒した。負ける要素が無い。

 

 ホムンクルスたちは武器防具と装備、消耗品が十分ではなかったためにかなり消耗しているが、ユウラン()はMP以外ピンピンしている。

 

 剥ぎ取りを技能持ちのガァマと一緒に済ませ、1時間ほど時間を食う。太陽は真上に到着しており、心なしかみな疲れた顔だ。

 

「そういえば、食料と水……持ってませんよね?」

「……そうですね、ジェネレーターから出たばかりで補給が必要です」

「じゃどうぞ、保存食ですけど」

「どっから取り出したんだよ……」

 

 どこからともなく出現した保存食を受け取り、ブレスレットから出した水で喉を潤しつつ食事をとる。

 

 水は足りないので、妖精を呼んで【ヒールウォーター】で全員の喉を潤す。

 

「……なんだか懐かしいね~」

「記憶喪失なのに、ですか」

「戦ってクタクタになった後……こんな感じだった気がするよ~」

「そうですか。じゃ、休憩は終わりです。ゴーレムに乗ってください。ベータさんは私が運びます」

「「「……?」」」

「走ります」

「そういう事じゃねえって!」

 

 アルファスの突っ込みだけが空しく原っぱに響いた。

 

 剥ぎ取った戦利品はいつの間にか消えているわ、背負って走り出すと言うわ、強敵相手の戦闘でみじんも疲れていないわで、彼らの言いたいことはユウラン()も理解しているが、共感を示して説得するつもりは微塵もないので無視する。

 

 呆れて物も言えなくなった3人を背負い、2時間ほど丘陵地帯を疾走する。

 

 丘陵を抜けると、河川が合流する地帯に辿り着いたようで、ちょっとした湿地帯になっていた。

 

 同じようにゴーレムで駆け抜けられるかは分からないため、一旦は地面がしっかりした場所で野宿をすることにした。MPは生命線であるため、無茶はできないのだ。

 

「明日はこのまま湿地帯を抜けましょう」

「正気ですかっ!? 迂回するべきです」

 

「そうですか、行きたきゃどうぞ。私は1人でも突っ切れますし」

「……ま、このチビスケは止められそうにねぇ。腹括れよガァマ」

「いやしか――」

「誰がチビですか! あなたたちが大きいだけです!」

 

「……私とアルファスは180ですね、ベータは?」

「145!」

「そういう風に作られただけでしょうに、全く」

 

 ユウラン・アルシップスの身長は138cmである。キャラクターシートを思い浮かべるとしっかり書いてあるが、数値を弄ることはできない。経験点の項目を∞にできないのと同じだ。

 

 他愛ない話をしながら野営の準備を進めて、日が沈む直前には眠りについた。

 

 西進すれば街道に着くだろうが、それは北シムロンとシムロンを繋ぐルートで、可能な限り避けるべきだ。

 

 たとえ、追手という見えない幻影と戦っているとしても、手を抜けば納得ができない。

 

「ストーン・サーバントに乗って移動しましょうか」

「あぁ……乗る? 乗るのか……」

 

 水深は0~100cmくらいだろう、速度は遅いが着実に湿地帯を縦断し始める。妖精魔法が4,5レベルあれば、もっとちゃんとした移動方法が使えたのだが、レベルが足りない。

 

 道中、カモノハシの冥族プラティマン(4レベル)の集団にも遭遇したが、先制2連ブレスであっさりと踵を返した。どいつも微妙に体力を残していたので経験点的には美味しくなかった。

 

 水深のもっと深い領域を迂回しつつ、6時間ほど移動すると村があったので迂回することに。

 

「なんでだ!?」

「密命を帯びているので、顔を晒すわけにはいかないんです」

「な、なに……?」

 

 ガァマは魔術師らしく理屈っぽいのか、それらしい言葉で納得してくれた。あるいは、疑いが深まったとも言うべきか。嘘は言っていない、(秘)密(の使)命なので。

 

「俺はどっちでもいいぜ。街には着けそうだしな」

「ん~、補給ができるなら嬉しいよね~」

 

 拳闘士のアルファスはあまり考えないタイプのようだ。弾丸に限りのあるベータは補給を重視しているが、期待はしていないといったところか。

 

「第一、あなたがフードでも仮面でもすればいいだけでしょう」納得していないという顔でガァマが指摘する。

「……ま、それはそうですね」

 

 皆、疲れた顔をしている。

 

 ユニコーンを密猟したから身体的特徴を道中で漏らしたくない、などとは言えず、遠くに見える村へ立ち寄ることに。ホムンクルスに逃げられても困るし、後ろめたい部分を突かれても困る。

 

 拡大した【ディスガイズ】の魔法で、ゴーレムと自分自身の姿を全く別の人間のものに変える。私は前にパーティを組んだ同級生の姿に、ゴーレムは前々世で見た映画に出てくる暗殺者の俳優の姿に。

 

「私のことはデイジー、ゴーレムのことはジョンと呼ぶように」

「は~い」

 

 その村は湿地帯の端の、冠水していない小高い場所にあった。近づくにつれ、小舟や桟橋をハッキリと視界に捉えられる。少なくとも、夕方前の今は漁を終えているようだ。

 

 漁業を中心に生計を立てているようで、村の中は魚の匂いで満たされていた。リザードマンの多い村で、我々は少々浮いていた。

 

 沼地の広がる方面からやって来たせいか、村人が奇異の目線を浴びせてくる。とはいえ、嫌な雰囲気は感じない。

 

 辺境の村らしく村民は屈強で、4,5レベルを3人は見かけた。

 

 その中の一人を捕まえて宿か店の場所を聞くと、店なら小さい所があるという。他にも何かを言いたそうだったが、無視してそこへ。

 

 村の真ん中に立つ家にドカドカと6人で入ると、眠りこけていた店主は驚いたようにこちらを見てくる。

 

「お前さんたち……村長の家はこっちじゃないぞよ」

「(ぞよ?)いえ、物資の補給に来たのですが」

「そうか! てことは退治してくれるんぞな」

「すまないが、主人。我々を誰かと間違えていないか?」

 

 ガァマが横から口を出す。

 

「間違え……? まさか、こんな場所になんの用もなく来たぞな? こっちは20日も待っているのに!?」

 

 悲鳴じみた声が飛び出してきたので、いよいよもって面倒ごとの予感がした。

 

(依頼を出してるのに誰も来ないとか、そんな感じでしょう)

 

 ホムンクルスの三人が話を聞き出しているのを横目に、考えを巡らす。

 

 一刻も早く帰りたいのは山々だが、ユニコーンの角が効かなかった場合はさっさと経験点を稼ぎに行かなくてはならない。

 

 その時に使えそうな手足があるだけで、楽はできるだろう。なにせ、一人を理由に依頼を断られているくらいだ。

 

 母の様態は、まだ悪化することはないだろう。心苦しいが、1,2日の滞在は許容できる。

 

「魔晶石とか防具とか、弾は無いって~」

「どうすんだ、デイジー?」

「……ん? ああ、取りあえず村長の話でも聞きますか」

 

 リザードマンの村長から聞いた話を要約すると、沼地に大きな化物が出て、漁師が怪我をしている。退治は難しいし漁穫量も下がるし、村も危ないので何とかしてほしい。とのこと。

 

 化物は蛇のように長くて大きく、筒のような体をしていたそうだ。

 

(ふむ……話を聞く限りではスワンプウォームですね。レベルは5、ここの人間なら十分退治できそうですが、はてさて……)

 

「それで、報酬はいくらですか?」

「……ここにくる冒険者に渡す予定だったお金があります。全部で8000Rに……」

「足りませんね」

 

 バッサリと斬る。

 

 身じろぎの音が聞こえた。背後から三人の視線を感じる。

 

「……別に、リーンに限れとは言いません。貴重な物や珍しい物でも構いません」

「おお! ありがたい……とはいえ、そんなものが……」

「アナタ、アレはどう?」

「ああ、アレか。確かに珍しいが……」

 

 奥さんが口を出すと、村長は倉庫を探しに行った。リザードマンは雌雄の区別が付かないので、声や服装で見分けているのだが、リザードマン側はよく見分けがつくなぁ。

 

 この近辺に咲くという華からとったお茶を――うん、毒ではない――飲みながら待つ。

 

 お、これはMPが3点回復しますね。流通するなら絶対売れますよ。

 

 飲めないゴーレムの分もいただいていると、ベータに脇腹をつつかれる。

 

「どうして8000Rで受けてあげなかったの~? 大金じゃ~ん」

「我々レベルの人間を6人雇うなら相場は30000Rです。それでもなお、足りない分を物品で換算すると言っているんですよ」

 

 4人なら20000Rで、どう足掻いても足りない。

 

「それじゃあ足りてるじゃん」ふわふわした声でベータは言う。

「ええ、一人なら。配分しないとでしょう」

「そうなの~?」

「あなたたちの前の主人だって、報酬は受け取っていたと思いますけどね」

「そうかもね」

 

 村長が戻ってくると、腕一杯に翡翠のような物を抱えていた。

 

「これは一体……?」

「たまに村の者が沼で拾うんです。貴重な物かもしれないから預かってくれと」

「それで持ってきたと」

「はい、冒険者の方なら何か分かるかと思いまして」

 

 私はその緑の石を手にとって眺めてみる。

 

 これは……何かの鱗のようだ。材質は石より硬く、暗緑色。

 

「ウロコみたいでしょう? みんな捨てようとは思わないんです」

 

 それは濁ったガラスのようにあいまいに光を通す。窓から差し込む夕日に照らしてみると、少しだけオレンジ色に染まった。

 

 賽が振られ――いや、これを私は知っている――緑竜石だ。一人用の公式シナリオブック【竜が眠る街】で出されたオリジナルの強化アイテム。

 

(これはこれはこれは……まさか、こんなところでお目にかかれるとは)

 

 難易度や理不尽度が総じて高くなる一人用シナリオにおいて、その難しさを打破しに来たと言わんばかりに導入されたぶっ壊れの限定新技能、"竜血操師(ドラゴンレゾナンス)"を獲得するためのシナリオアイテム――緑竜石だ。制作側も理解していたのかしていないのか、一人で遊ぶときに使いましょうとアナウンスしている。バランス調整をすればいいだけなのでは……と前前世の私も思った。

 

「なるほど、少し珍しい物ですね。全部でいくつありますか?」

「ここにある12個で全てです」

「売れば多少の値段にはなるでしょう。これと現金で引き受けます」

「おお!」

 

 わちゃわちゃと手を握ってくるリザードマン夫妻にひとしきり揉まれた後、早速現地へ……。

 

「待て待て待て、もう行くのか!?」

「今日消耗したのはマナだけですから。暗くなる前には戻りますよ、準備してください」

 

 意気揚々と出発したが、その日は空振りだった。

 

 ゴーレムに【ファイア・ウェポン】をかけ直して、翌日。

 

 化物が出たという辺りをうろついていると、沼の水を撒き散らして、大きな口を開けたミミズ状の巨大生物が地下から飛び出してきた。スワンプウォームだ。

 

 一体ではない、三体だ。

 

 大きさは3メートルほどで、完全にこちらをロックオンしているようだ。

 

 戦いについては語ることもない。所詮は格下、ブレスと【ファイアボール】で削り、ほんのちょっと小突いてやれば死んだ。

 

「それじゃあ剥ぎ取りま――」

 

 ゴゴコゴゴ……。

 

「おわっ!?」

「これは一体!?」

 

 ホムンクルスたちが騒ぎだす。

 

「うるさいですね……おおかた予想は付いてます。もう一回りでかいのが来ますよ!」

 

 ドバシャーンと巨大な水柱を上げて襲いかかってきたのは、全長20mはあるかという巨大な亜竜だった。蛇のように細くしなやかな体躯をしており、竜というよりは龍に近いだろう。

 

「あれはスワンプサーペントですね……珍しい」

「どうすんだよ、仮の主!」

「決まってます。倒すんですよ!」

「よーし、やるぞ~」

 

 サーペントは地上に飛び出た勢いのままスワンプウォームを咥えていたが、こちらに気づくや否や、ゲ、グゲ、ゲッと奇妙に呻いて、何かを吐き出した。

 

 スワンプサーペントが吐き出したものはウネウネと蠢いており、よく見るとミミズ状の――20m近いスワンプウォームよりは小さい、当たり前か――奇妙な生き物だった。口に鋭い牙を備え、粘液を分泌し、生理的な嫌悪感を催す見た目だ。大きさは1mほどで、例えるならヤツメウナギか。

 

 賽が振られ――「あれはマヌーヤ、デーモンの一種で魔法に弱いです!」

 

「よくやったガァマ!」

 

 思わず賞賛。だって、私は相手の弱点値を抜けるほどセージ技能高くないですから。以前はPLの私が知っているため敵の弱点をつくことができたものの、密猟前に行った「ルールブック」の更新によりまともにルール改訂がされたため、セージ技能を高めなければならなくなった。

 

 今は関係のない話だ。

 

 吐き出されたマヌーヤたち5体はこちらを知覚し、ハッキリとした敵意を示した。ただ、HPが1/3ほど削れている。

 

「小さいのは弱っています――私が片付ける!」

 

 マヌーヤは吐き出されたばかりで密集していたため、先制ブレスと2連【ファイアボール】のコンボで蹴散らし、ついでにその後ろに居るサーペントにも手傷を負わせる。炎と爆炎でマヌーヤは4体死亡し、スワンプサーペントも体力の4割を持っていかれた。

 

 機を逃さず、「【ファイアボール】【ソリッドバレット】突っ込め!」早口で捲し立てて3人にも指示を出すが、どうにも動きが鈍い。

 

 いや、鈍いのはスピードではない。ユウラン()が想定する"1ラウンド"で行える行動は多々あるが、それの通りに動けていないということだ。つまり、戦闘の単位が違う。

 

(私にはできても、他の人間はそうではない……それはそうですね。戦闘において、"1ラウンド"の中で攻守が入れ替わり立ち替わりするなんてあまり現実的ではありませんし)

 

 現地人と私の違いは意外なところで現れた。ターン制で動く私とそうでない人々。違うのは当たり前だ。

 

 それに加え、時折、自分を俯瞰で見るような視点に立ってしまうこともある。「ドラゴンソード」を遊ぶときにはキャラクターを俯瞰で見ているので、これはその影響だろう。

 

 とはいえ、ユウランにとってルールは絶対だ。敵が素早いならそれ相応に早くなるし、そうでないなら相手が子供だろうと1ターン待たなければならない。

 

 だが、忠実なしもべであるストーン・サーバントは指示された1ターンの行動を見事に実行し、瀕死のマヌーヤに止めを刺して、スワンプサーペントにも殴り掛かる。

 

 スワンプサーペントは8レベルと強く、村の人間なら十分に戦う準備をして挑まなければ、非常に厳しい結末になることだろう。

 

 サーペントは私に負けじと火炎の息を浴びせて、近づいてきたストーン・サーバントを締め上げる。村の人間ならこれで死んでいたことだろうが、火竜の血を引いているので炎はあまり効かない。

 

「ダメージレース的には……巻き込みますか」

 

 ユウランはブレスでゴーレムごとサーペントの全身を焼き、自分で傷つけたゴーレムを癒す。ゴーレムはブレスや物理攻撃に対しては比較的強くできているので、ブレスで壊れたりはしない。

 

 続くゴーレム2とアルファスの徒手空拳、ベータの銃撃によって胴体は力なく横たわり、頭部を含めた半身がバシャンと沼地に臥した。

 

 最後の抵抗と言わんばかりに火炎の息を吐くも、近づいたゴーレム1,2とアルファスには大して通用しなかった。

 

 南無。

 

「さ、剥ぎ取りますよ」

「あっちに飛んでいったスワンプウォームもか?」

「アルファス、相方を護衛していきなさい」

「へーい……」

 

 660点の経験点と3050R分の戦利品を――

 

「ん?」

 

 ドブを焼いたような悪臭を放つマヌーヤから綺麗な結晶を取り出したのもつかの間、そのヤツメウナギのような生き物の胴体には、妙な傷があった。

 

 ナイフでえぐり取られたように深い傷跡で、ひし形の隣り合う2辺を傘のように伸ばしている。細かい模様は焼け焦げたせいで見えないが、大まかな模様はどれも同じだった。

 

(これは一体……)

 

「……思っていたのですが、剥ぎ取った物は何処へ?」

「……」

 

 考え込んだ途端に、ガァマがいらない所に気が付く。

 

 無視!

 

 村に戻って、戦利品を見せて死体を確認させる。

 

 その間にMP茶をいただき、ほっと一息。

 

 情けは人の為ならずというが、緑竜石がこんな場所で手に入るとは思いもしなかった。

 

 竜血法師(ドラゴンレゾナンス)の技能を取得するにはそのレベル分だけ緑竜石が必要になるため、10個あれば4レベルまで取得できる。経験点のテーブルも軽く、1500点と緑竜石3つを支払えば、強めのバフとドラゴンブレスを簡単に吹くことが出来る。

 

 私には自前のブレスがあるので必要ないが、その分バフに枠を割けるので十分だ。

 

 報酬を受け取って、村から去る。

 

 半日以上も行程に遅れが出たものの、これから先は辛うじて道と呼べるものの上を歩ける。

 

「みんな喜んでたね~」

「おう、立ち寄ってよかったな!」

「ところで仮の主、あの緑の石はどれほどの価値が?」

「売っても100Rですね。なので、報酬は一人頭約3200Rです。アテが外れて残念でしたね」

「……あんた、それでいいのか?」

「は?」

「仮の主って~、意外と優しいんだ~」

「何ですかその反応は……」

 

 途中までは沼地の村から伸びる道を進んでいたが、シムロンと北シムロンを繋ぐ街道に合流する前に道から外れ、遠回りをしてようやく辿り着いた。

 

 巨大な港を備え、大河の真上(・・)に建築された大橋の上に築かれた交易都市・シムロンが。

 

「……ようやく見えてきましたよ。あそこがシムロンです」

「「「シムロン……?」」」

「仲いいですね」

 

 きれいにハモった3人は、総じて首をかしげている。

 

「ん~、なんか聞いたことあるような……ないような?」

「へぇ、まぁ、あなたたちが居た場所も近いですしね」

 

 実家までは、大河にまたがるシムロン市を東から西に抜けて、少し歩かなくてはならない。

 

 久しぶりの街の喧騒はワッと押し寄せるが、それが段々と遠くなっていく。

 

 西へ歩くたびに足取りが軽くなっていき、同行者がいるのも忘れて跳ねるように前へ進む。

 

 私の実家は、シムロンの外壁から歩いて30分ほどの郊外に位置する館だ。父クラークの経営する店の事務所に相当する所であり、住居としてのみならず、来客対応用や単価の高い物品の倉庫として使用されている。

 

 屋敷は4階建ての本館と中庭を一望できる別館で構成されており、本館では複数の使用人や父の部下が慌ただしく行き交うのが日常だ。

 

 特に、まだ5歳の妹にはもう家庭教師がついており、毎日勉強は嫌だと言ったり授業を抜け出したりして、かなり騒がしかった。

 

 妹がお転婆になったのは私のせいでもある。というのも、私はあまり手が掛からない子供で、8歳の妹――フェリエルは生まれつき目が見えないため大人しく、両親は子供らしい子供に世話を焼けなかったのだ。

 

 その反動で末妹カトリーナを甘やかした結果、かなりお転婆になってしまったのだ。かくいう私も少々甘やかすきらいがあるので、私が冒険者養成学校へ通っている間に自立してほしいと……うん。思っている。

 

 屋敷の屋根が見えてきたので、私は【ディスガイズ】を解除して正門に走る。

 

 門の出入りは退役軍人のトクとジュリーが管理している。気のいいおじさんで、冒険者になる時は2人に世話になったものだが、戦士としての腕前はもう追い抜いてしまった。

 

「トクさん、ジュリーさん。私です、入れてもらえますか」

「ん? おお、お嬢様じゃないですか! お久しぶりです」

 

 二人の視線がゴーレムに集まる。

 

「これは私のゴーレムなので心配しないで下さい」

「中々風格がありますなぁ……ええどうぞ、お入りください。ご両親も喜びますよ」

「そうそう、しばらくしたら後ろからホムンクルスが3人来ますので、入れてあげてください」

「はい。……え? ちょっとお嬢様ー!?」

 

 ゴーレムは邪魔なので待機させ、私は母が療養している別館の方へ足を進める。

 

 中庭からは微かに花の香りが漂っていた。かつては母が育てていたものだが、体調を崩してからは庭師がやっている。

 

 酷使してきたブーツを室内履きに履き替えて、心なしかどんよりとした雰囲気の廊下を進む。南向きの日当たりのよい場所に建てられているが、別館は嫌いだ。

 

 ここは静かで厳かささえ感じる場所だが、隠し切れない死が漂っている。ここは家のはずなのに病院のような場所になっている。

 

 死が、私から家のみならず家族も奪うというなら、待つことしかできない常人を辞めるしかない。

 

 コンコン、と病室の扉を叩く。

 

「どうぞ」

 

 ドアノブに手を掛けて、一呼吸置いてから開ける。

 

「お母さん、その、久しぶり」

「あら、ユウラン?」

 

 母、リーネは背もたれのあるベッドで本を読んでいたが、それを閉じ、微笑みかけてくれる。

 

「おかえりなさい、体は大丈夫?」

「……うん」

「せっかく帰ってきたんだから、鎧を脱いでくつろいだら?」

「えーと、まぁ、そうなんだけど……」

 

 リーネは私が家を出る前よりも少しやつれており、髪の艶も悪くなっている。

 

 窓から一望できる中庭では、真っ赤なサルビアやラベンダー、グラジオラスが色とりどりに咲いており、陽を浴びて青々しく輝いていた。涼しげな風が吹き込んでおり、療養にはいい環境だろう。

 

 私はこの部屋が暗く思えてならない。

 

「おいで」

 

 入り口に突っ立っていた私をリーネが手招く。

 

 私は腕を広げた彼女の前で、ベッドの前で立ち止まった。

 

「ほら、もっと近寄って」

 

 やせ細った腕で手を握られ、引きはがすこともできず母の胸に抱き寄せられた。

 

「いや、汚れてるから……」

「久しぶりに会うんですもの、お母さんに抱き締めさせて」

「……はい」

 

 懐かしい匂いがする。理由もなく安心する香りだ。

 

 これから何もしなければ、どうしようもなく死ぬという事実が信じられない。

 

「母さん」

「なぁに?」

「目を閉じて下さい」

 

 私を抱擁から解放した母は、楽しみだわと頬をほころばせる。

 

 私は虚空からユニコーンの角を取り出し、彼女の手の甲に当てて癒しの力を発揮した。

 

「あら、なぁに? もう見てもいい?」

「これは、これは……」

 

 悲しませるわけにはいかない。私は身に着けている水晶の首飾り――病気や毒に対しての抵抗力を強める――を外して、握らせた。

 

 それから竜化をして、時間を限りなく伸ばした魔法で生命抵抗力を高めた。

 

「もう大丈夫……これはお守りですよ」

「まぁ! 綺麗ね……」

 

 目に見える病ではないので、効果があるかどうかはまだ分からない。もう数日は滞在する必要があるだろう。

 

「それじゃあ、着替えて来ますね」

 

 私は汚れが付いてしまったシーツを替えのシーツと交換し、逃げるように病室を後にした。

 

***

 

 門の前で留め置かれていたホムンクルスたちを本館に招き、風呂に突っ込んで体を清めさせる。魔法機器文明期の湯沸かし器が付いているので、ウチでは風呂に入れるのだ。

 

「なんで目を瞑ってるの~?」

「それは、何も見ないようにするためですよ」

 

 ベータに使い方を教えて体を清める。ベータは背格好が近いので私の服を、アルファスとガァマには誰かのお古の服を貸す。

 

 着替えてから本館4階にある私の部屋でくつろいでいると、使用人の一人が訪ねてきた。我々を呼んだのは父だ。

 

 ちなみに、防具は血や泥の汚れが固まっていたので、外で洗って干してある。

 

 2階の父の仕事部屋に立ち入ると、険しい顔つきのヒトが机の書類を片付けて眼鏡を外した。彼の歳は37で、頭髪には白髪が混じり始めている。彼が切り盛りする商会は郊外に小さな屋敷が建つ程度には繁盛しており、彼――私の父はそれを一代で築いた敏腕商人でもある。

 

「連絡が遅くなってすみません、ただいま戻りました」

「……いや、お前の家だ。好きにしていい。……そちらの方は?」

「右からアルファス、ベータ、ガァマです。3人ともホムンクルスで、古いジェネレーターから発掘しました。3か月の奉仕と引き換えに道案内を務めましたので、しばらく滞在させても……?」

 

 すると父――クラークは怪訝な顔をした。

 

「……ホムンクルスか」

「一流冒険者くらいの実力はありますよ。存分にこき使っても――」

「養成学校はどうした?」

「……学べることは学び終えました。そう遠くないうちに卒業します」

「何を言っているんだ? 通い始めて半年も経っていないだろう」

「あー、仮の主のお父さん? ユウランは――」

「――部外者は黙っていてもらおうか!」

 

 クラークは声を張り上げて机を叩く。

 

 口を挟んだアルファスは気まずそうに頬をかいた。

 

「……これを」

 

 ユウランは2200Rが詰まった袋を取り出して、彼の机に置いた。

 

「何だこれは」

「シムロン冒険者養成学校の学費です。利子をつけてお返しします」

「――――」

 

 クラークは目を大きく開けて絶句した。喉や唇が震えており、言葉を紡ごうとするがそれは声にならない。

 

「申し訳ありませんが、私がアルシップス家を継ぐことはできません。母さんを治す方法を見つけます」

「……ユウラン、まさか!」

 

「養成学校に行きたい理由の方は、話していませんでしたね」

「当てがあるかも分からぬ旅に、娘を放り出す親がどこにいる!」

 

「当てはありますよ。……3人とも、すみませんが私の部屋で待っていてください」

「そりゃありがたい」

 

 ホムンクルスたちが出て行った後で、私はユニコーンの角を取り出した。

 

 父が息を呑む。

 

「……なんだそれは」

「大きな声は出さないで下さい。ユニコーンの角です」

「見ればわかる。私が聞きたいのは――」

「密猟しました」

「――――」

 

 クラークは深く息を吸って、祈るように組んだ拳へ額を押し当てた。

 

「効果があるかどうかは分かりません。一度試しましたが、劇的な効果は出ていないようです。あと7回使えますので、もう1週間ほど滞在して治療してみようと思います」

「そうか……………………すまない。私がもっと高位の神官を呼べていれば」

 

「父さんが気にすることじゃありません。高位神官を呼ぶのはかなり難しいと聞いています。それに、私にこれをする力があっただけの話です」

「…………ホムンクルスの人は、居てもいい。仕事をするなら給金も出そう」

 

「一応伝えておきます。ただ、しばらくは私が連れまわすと思いますが」

 

 話し合いが終わったので、ではと退出する。

 

 自室に戻ろうとすると、家族以外は基本的に立ち入らない4階が騒がしい。が、聞き覚えのある声だったため、理由はすぐに分かった。

 

「キャー! キャッキャ! もう一回!」

 

 末妹カトリーナがアルファスに持ち上げられて、下ろされて、持ち上げられて回って……と楽しんでいた。ベータとガァマは見学だ。

 

「カトリーナ」

「あ、お姉ちゃん!」

 

 飛行を楽しんだカトリーナは地面に着陸すると、私に駆け寄って見事なタックルを決めた。

 

「お久しぶりぶり!」

「な、なんて下品な言葉遣いを……お久しぶり、でしょ?」

 

「冒険者のお土産は!?」

「遊んでくれたこの人たち。挨拶はした?」

 

「……してない」

「それなら、ちゃんとお礼を言わないと。アルファスさん、妹に付き合っていただきありがとうございます」

「ありがとうございました!」

 

「おう、俺は子供の世話とか得意だし、いいってことよ」

 

「カトリーナ、お姉ちゃんはこの人たちとお話があるから、また後でね」

「えー!」

 

 どうにか妹をなだめて自室へ。

 

 戦利品の換金や養成学校への連絡、アイテムの補充について話した後、シムロンでの用事をこなす。

 

 見た目で舐められると困るので、ホムンクルスの三人には付いてきてもらう。魔法機器協会で聴音器を、ライダー協会でミニバイクを売却して、学生御用達の冒険者の宿「蟻の越冬亭」経由で竜片を納めて、戦利品の処理をお願いする。

 

「お前さん、見ないうちにどこ行ってたんだ……」

 

 挨拶もそこそこに、持ち出した戦利品の数に髭面のいかつい亭主はちょっと引いていた。

 

「ちょっとそこまで。量が多くて申し訳ないですが、頼んでも?」

「……ま、学生の世話すんのも仕事のうちだ。良かったじゃねえか、パーティが組めて」

「え? ……ええ」

 

 連れてきた3人のことを言っているのだろう。

 

「量が量だ。支払いは最低でも2日待ってくれ」

「分かりました。それと、何か手ごろな討伐依頼があれば多少低報酬でもお引き受けします。では、2日後はよろしくお願いします」

「あいよ」

 

 3人には適当にするように伝え、そのまま一人で学校に向かう。

 

 校舎で冷たい視線を浴びながら教職員用の部屋に赴き、近くの職員にしたためた退学届を渡す。

 

 準備のため女子寮の自室に向かい、殺風景な部屋を片付ける。

 

 筆記用具と着替えを亜空間にぶち込んで、さっさと出る。ここにいても面倒なのと顔を合わせることに……

 

「あ、アルシップスさんじゃない」

「……デイジーですか。私も暇じゃないんですけどね」

 

 長い茶髪をたなびかせた14歳ほどの女性が声を掛けてきた。彼女は父クラークの弟の妻のいとこの娘だ。親戚というかほぼ他人であるものの、血が繋がっていると縁ができるのである。

 

 彼女は細剣を腰に差している軽戦士である。軽戦士は回避力とクリティカルが特徴的であるが、高レベル帯では色々と辛いビルドだ。

 

「学校を1か月もお休みしたと思ったら、どこに行ってらしたの~?」

「さぁ」

「わたくしは仲間と共に4つも依頼をこなしましたのよ? どうです、羨ましいでしょう」

「はぁ」

「……なんです、その態度は。折角だから仲間に入れてあげようとしているのに」

「その程度で私の仲間に? おまけに上から目線、命を預けるには足りませんね」

 

 確かに、デイジーは才能ある方なのだろう。14歳の若さで2レベルの軽戦士(フェンサー)技能と1レベルの斥候(スカウト)技能を持っている。仲間がいれば簡単な冥族退治はこなせるだろう。

 

 だが、私が素っ裸で完全武装のデイジーと殺し合っても余裕で勝てる。魔法を縛っても勝てる。そのくらいには生物として格が違う。まさか、敵の攻撃に巻き込まれるだけで死ぬ奴を連れてはいけまい。

 

 おまけにコイツ性格悪ぃし。他人に言えたことではないが。

 

「な、なんですって!?」

「では」

「まっ、待ちなさいよ!」

 

 待たない。

 

*

 

 2日後、治療の経過を見つつ、戦利品の換金を済ませて3人に報酬金を分配した。

 

 私は普通よりも少し重たい魔法のヘビーメイスを購入してから、"蟻の越冬亭"に武具屋を紹介してもらい装備を私専用にカスタマイズしてもらう。

 

 その日の午後には依頼を受けることができたので、いつものごとくゴーレムに乗って移動した。今回の依頼は漁村に現れたジャイアントクラブ(4レベル)の群れを退治してほしいというものだ。

 

 数匹ならそこらの冒険者でも良かったが、依頼文に30匹などと書かれていたせいで忌避されていたものだ。報酬も全員で10000Rと、危険度の割には低い。

 

 2時間で村に着いたが、男手はほとんど怪我をしていた。

 

 話を聞くと、数匹は退治できていたが、網を切られるわ銛を壊されるわで廃村の危機だったらしい。ジャイアントクラブは夜にやって来て、その日に獲った魚を食い荒らして帰るそうだ。その時にちょっかいを出して、腕を切断された者もいるらしい。

 

 食事をすれば帰るとはいえ、漁獲量は男たちの怪我や道具の破損のせいで下がっており、食事の対象がヒト族に変わるのもそう遠くはない。

 

 我々は砂浜に上陸したジャイアントクラブを迎え撃ち、ブレスと【スパーク】で鴨撃ちに。HPが少ないので面白いように死んでいく。

 

「私たちの出番ないね~」

「あれだけ揺れたというのに……」

 

 思い出しで口元を抑えるガァマの背中をベータが優しくさする。

 

 あの、一応戦闘中なんですけど。

 

「ふぅ……これで終わりですね。ゴーレムを出すまでもありませんでした」

 

 4人で沢山のハサミと。質のいいミソを少しだけ回収できた。残りは漁村の人間を呼んで回収し、無事に依頼達成と相成った。

 

 翌朝にシムロンへ帰還。疲れ切ったホムンクルスを自宅に置いて、母にユニコーンの角を使い、再び"蟻の越冬亭"で依頼を受ける。

 

「ゴーレムを連れているので、今回くらいの依頼なら余裕でこなせますよ」

「お前、疲れないのか……? まぁいい、力量は分かった。そのゴーレムが使えるってんなら、簡単な依頼を回してやる」

「おや、この前は一人では受けさせないと言ってませんでした?」

「……ふん、お前のような学生がいるか」

 

 8回目の治癒が終わるまでに2回の依頼をこなし、2530点と11200Rを手に入れた。もちろん一人だ。

 

 そして。

 

 私の手の中でユニコーンの角が最後のMPを使いきり、ボロボロと砂のよう崩れだす。その塵を窓から放り捨てて、母の目隠しをとった。

 

「気分はどうですか?」

「うん、ユウランのお陰ですっかり元気よ」

 

 それが空元気のようなものであると、私は何となく気付いていた。

 

 この8日間、彼女の食は細いままで、家の周りを軽く散歩する時間でさえ、体が本調子に戻るような兆しは見えなかった。

 

 治っていない。角では治らない。

 

 その事実が重くのし掛かる。

 

 肩を落とす私を見かねたのか、母が頬に手を添える。

 

「ユウラン、いいのよ」

「…………よくないです」

「また冒険に出掛けるの?」

 

 ……出ていって良いのだろうか。

 

 この余命幾ばくもない、床に伏せる母を置いて。

 

 やせ細り、弱っていくこの優しい人を置いて、置き去りにして、不確実な方法を探す冒険に出ることが、正しいのだろうか。

 

「……」

「危ないことをしているんじゃないかって、心配で……」

「ごめんなさい」

 

 私は母の手を引き剥がし、両手で包む。

 

 私は決意している。とっくのとうに、頭の中で疑問が湧き出てこようとも。

 

 この身を苛む怒りにも苦しみにも悲しみにも屈するものか。

 

 母が死ぬまで、せめて安らかな一時を過ごさせる?

 

 冗談じゃない。

 

「次に会う時は、私が病気を治す時です」

「ユウラン!」

 

 サッと踵を返す。

 

 目頭が熱くなってくる。

 

 泣くんじゃない。涙が許されるような時ではない。

 

 そんな女々しい感傷に浸れるほど私は無力でもなければ、プライドを投げ捨てているわけでもない。

 

 私がこれから流すのは、ただ血液だけだ。冥族も動物も植物も幻獣も妖精も魔法生物も私の糧となるべき何もかもを殺し、傷つき流す血だけなのだ。

 

 悲痛な声を振り切って戸を閉めると、ギギギ……という音が聞こえる。

 

 不自然に鳴り止まないそれは歯を食い縛る音だ。

 

 頬を伝う鉄が鼻腔を逆撫で、握った拳に食い込む爪が赤いカーペットを濃く汚す。

 

 ユニコーンの角が使えないなら、次は神官だ。ンアの聖印を手に入れて病の原因を直接取り除く。それが駄目なら人類限界を超えた魔法で解決する。間に合わなければ、蘇生できる状態に。

 

 経験点が必要だ。私以外の汗と涙と血を求めて、往かねばならない。

 

 戦いへ。

 

タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?

  • ちんちんはやめろ
  • 主人公の属性押し出せ
  • そのままでいろ
  • なろうみたく長くしろ
  • 副題付けろ
  • もっと中二病にするとかさぁ
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