私のキャラクターシートにはおちんちんが足りない   作:傘花ぐちちく

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 ユウラン・アルシップス 冒険者レベル8 経験点58000+230

 ファイター技能レベル7 ソーサラー技能レベル6 コンジャラー技能レベル7

 フェアリーテイマー技能レベル1

 スカウト技能レベル8 レンジャー技能レベル3 セージ技能レベル1

 エンハンサー技能レベル3 アルケミスト技能レベル2 ドラゴンレゾナンス技能レベル2

 筋力26 生命力25 器用度17 敏捷度18 知力25 精神力25


第二章「殺戮治療」
第一話「門前の小僧は習わぬ神官技能を得る」


 

 ユニコーンの角が効かなかった以上、次なる策へ移らなくてはならない。早急に。

 

 次の策とは、神聖魔法の習得だ。

 

 障碍神ンアの第13階梯特殊神聖魔法【コントロールボディ】であれば、体型や肉体を自由に操作することが出来るため、病因を体外に出して切除することが可能だ。

 

 尤も、これをするのに必要な経験点は54500点と莫大なものであり、ユウラン()がこれまでに集めた経験点と大差無い点には注意したい。

 

 依頼に換算すると55回弱であり、敵を倒すことも加味して1250点で計算すると44回弱。

 

 1日1依頼だとしても1月半掛かる計算であり、魔法永続化やゴーレムを考えるとプラス数日は掛かる。

 

 ユウランは医者ではないので、あと何ヵ月ほどリーネ()が生きられるのかは推測できないが、可能な限り早く事を終わらせる必要がある事だけは理解している。長々とやって成果も無く帰り、今夜が峠ですなどと言われた日には立ち直れない。

 

 そうなってくると、時間短縮のために必要なのは効率的な依頼達成方法だ。

 

1、簡単な依頼を繰り返し受ける。

 

 新人が依頼を受けられなくなる迷惑行為だが、一番楽な方法だ。敵が弱ければ危険も小さく、連続で依頼をこなすことが出来る。

 

 デメリットとしては、簡単な依頼を沢山受ける行為がある種の迷惑行為と認定され、その冒険者の宿からつまみ出されることだろう。一か所からつまみ出されれば、他のところでも拒否される可能性は増えるし、巡り巡って依頼の総数が減る可能性がある。

 

2、移動時間の短縮。

 

 リスティルにおいても短い期間に複数の依頼をこなすことはあったが、その大半を占めているのが睡眠時間と移動時間だ。私の全速力である時速19km(魔法の道具ありで24.58km)を越える速さで移動できる乗り物があれば、効率的に依頼をこなせるようになる。

 

3、ヒト族が居ない所へ行く。

 

 人目があるから魔法なり何なりの反則行為が制限を受けるわけで、それがなければ無限拡大をした魔法で森を焼き払うだけで経験点が手に入る。デメリットとしては、怒り狂った強者に不意打ちで殺される確率が圧倒的に高いところか。

 

 無限魔法でなくとも、自分より強い相手にばったり出会って死ぬ確率は高い。特に、たった8レベルでしかない現状においては。

 

 ユウラン()としては、1と2の複合で稼いだ後、レベルを上げて、"簡単な依頼"の基準を引き上げ、準備が出来るなら3に挑むことだ。

 

 当たり前だが冒険者の数は強くなればなるほど少なくなる。一方で、厄介な仕事は減らないどころか、探せばいくらでもある。ヒト族の支配が及ばない領域は経験点の宝庫だ(そして危険がそこらじゅうを歩いている)。

 

 強くなればなるほど経験点の獲得効率は加速するが、神官(プリースト)技能は一部を除いて直接戦闘力に寄与しないため、最も効率の良いラインを考えなければならない。

 

(とはいえ、ンアの聖印が無い以上は、どうあがいても技能を取得できないんですけどね)

 

 母の病室からシムロンに直行した私は、ひとまず情報収集にあたることにした。ンアは小神(マイナー・ゴッド)であり、信仰されている地域がまちまちだ。

 

 「ドラゴンソード」では大陸や群島など様々な舞台設定が用意されていたが、シムロンやリスティルなどという都市を聞いたことが無いし、バレミア都市連合といった組織にも聞き覚えが無い。

 

 どこの大陸のどこだか分からない――海外の情報にアクセスするには種々のコストが足りない――ので、原作知識も無いしコツコツと探すしかない。

 

 まだ入ったことのない冒険者の宿"稲妻の鉄槌亭"で高めの食事を頼み、店主に聞いてみる。今まで探していなかったのは、まぁ一種の願掛けだ。

 

「ンアの神殿? ああ、西岸の地区にあったな。地図でも書いてやろうか」

「……え? ええ、助かりますけど、結構マイナーな神じゃありません……?」

「何言ってんだ。盟主"バレミア様"がそこの神官やってるじゃねぇか」

「な……」

 

 なんですってー!

 

 と叫びたい気持ちをグッとこらえて、礼を述べる。

 

 ついでに依頼を尋ねるが、ココの店主はあまり口を出さないヒトらしく、一人で近場で受けられる依頼を聞いても、特に何かを言われたりはしなかった。

 

 閑話休題。

 

 シムロン市の中核は巨大な河の上に架けられた巨大な"橋"の上に存在しており、橋周辺に築かれた港や宿場町を含めて"交易都市シムロン"を形成している。

 

 店主が述べた"西岸"というのは、シムロン大河の西岸に形成された街の事である。様々な危険のある川岸は貧困層が住まう地区――スラムとなっており、障碍の神ンアの神殿はそんな場所にあった。

 

 地図に書かれた場所へ向かうと、何やら笛の音や金属を叩く音が聞こえてくる。

 

「……なるほど、障碍の神にして、芸の神であり、病の神であり隠れる者の神である」

「そうです。誰かが表に引きずり出したせいで、近頃は音楽の神だとばかり思われている」

「っ!?」

 

 ユウランの独り言に反応したのは、先ほどまで路地にもたれて寝ていた浮浪者であった。

 

「おっと、私はここの神官、アクゴウです。どのような用件で?」

 

 まず、長いマズル(動物の口吻)縦に伸びる耳が目に入る。私に声を掛けてきた茶色の犬人(アヌビス)は、麻の服の下から汚れた聖印を取り出した。直立する犬のようなヒト族から男性の声がするのは、少々面食らう光景でもある。

 

 ケモ度で言えば2だろうか、骨格はやや犬であるが、ヒトと同じ格好をしている。ユウラン()が竜化すればケモ度1なので、ヒトよりは立っている犬に近い。ちなみに犬人(アヌビス)は犬への変身能力を持っている。

 

「ここの信者になりに来ました。聖印を売ってください」

「…………そういうことなら、こちらへ」

 

 ン"ン"とおじさんらしく喉の調子を整えたアクゴウは、笛の音が響く神殿へとユウランを誘った。神殿とはいっても、白い壁には蔦が這っているし所々塗装が剥げている。

 

 とんだ清貧具合だと思っていたユウランだったが、内部は打って変わって綺麗に清掃されており、礼拝堂に並んだ木の椅子には翁の面を被った信者が熱心に祈りを捧げていた。

 

「では一つ、神官らしく説法でも……」

「申し訳ありませんが、予定が詰まっておりまして。手早く終わらせていただけると助かります。あと、聖水を2本貰っても?」

「おお、よもや説法が妨げになるとは」

 

 アクゴウはややオーバーリアクション気味に嘆いてみせた。

 

「……」

「この世には我らが宿れる場所は多々あれど、生きるために、現実はあまりに辛く苦しいところであります。

遥か太古の魔法文明期には多くのヒト族が奴隷にされ、魔法王に支配されていました。

魔法機器文明期には機械に選ばれなかった者たちが蔑まれ、ヒト族文化の隅に追いやられました。

その頃から、彼の神は人を逃がし、場を与え、職を与え、迫害される者の道しるべとなっております。

行き場のない者の行き場がここです。

外れた者を迎え入れ、共に生きる。

あなたはこれより神の僕となるのではなく、肩を並べて生きる隠れた民となるのです。

【排せず受け入れよ。地に寝そべり並べ。一つの民故に】

神の言葉です。

まずは、我らがあなたを受け入れましょう。

ようこそ、神の隣へ」

 

「ええ、どうも」

 

 聖印と聖水2本で700Rを支払い、ンアの神殿を後にする。

 

 これからは仕事だ。

 

 先程の冒険者の宿で受けたのは、シムロン大橋の内部に湧いた魔物退治と、下水道の一部分の詰まり解消の2つだ。

 

 最長幅が4kmを越えるシムロン大河に架かる大橋は、大きいだけではなく単純な構造をしていない。あまりの巨大建築故に橋というよりもはや大地と化しており、分厚く、頑丈で、類を見ない。橋を支える足が川幅を圧迫する有り様であり、護岸工事がされていなければ雨が降る度に周辺地域が氾濫することだろう。

 

 当然ながら内部もそれ相応に広く、複雑で、全貌を誰も把握していない。

 

 そう、誰も把握していないのである!

 

 "青の落日"で社会基盤が滅茶苦茶になった結果、便利だから使ってるけど仕組みはあんまり分からない物が世に溢れることになった。

 

 なので、魔法機器文明期のビルのような建物が大橋の上に残っているし、何故橋の上に建物を建てたのかも全く分かっていない。

 

 それでも世界は回り、シムロンは約300年栄えている。

 

(シムロン大橋に魔物が湧くって……外と繋がってるんでしょうねぇ)

 

 私は、てっきりスライムのような魔物がどこかから侵入してきて、湧いたと言っているのだろうと考えていた。

 

 シムロン大橋浅層のヒトが管理できている領域に湧いた魔物は、"デーモン"であった。

 

 ユウラン()が入り口を管理している建物から内部に潜ると、内部は工場のように金属の足場で構成されており、壁も同様の素材でできていた。廊下は狭く、ストーンサーバントがギリギリ活動できる位だ。

 

 地図があったのでスムーズに進むことができたものの、無ければ永遠にさ迷う羽目になるかもしれない。

 

 目的地付近は代わり映えの無い景色であったが、血の痕がくっきりと残っている。

 

 デーモンがそこを守るように配置されており、犠牲者の肉体を弄んでいた。

 

(レベル8が1体、7の2部位が1体、6が2体、4が5体。一度に来れるのは2体ですかね。よし、先制した)

 

 ユウランは凄まじい速さで自己強化と敵の弱体を行いーー絶叫した。

 

「ォオアアアアアアアッ!!」

 

 竜血法師(ドラゴンレゾナンス)技能、ランク1竜回帰(レゾナンス)の【灼熱の咆哮Ⅰ】。紅蓮のオーラを立ち昇らせ、ヒトの血に眠る火竜の記憶を呼び覚ます。

 

 私はドラグニカではあるが、そもそもドラグニカという種族は、ヒト族に眠る竜の血が強く発現した種族である。竜血法師(ドラゴンレゾナンス)技能は、誰もが持つ竜の血を想起する技能。使い手がドラグニカであれば、相乗効果が生まれる。

 

(らしいです、はい)

 

 竜血法師(ドラゴンレゾナンス)技能では、技能レベルを1上昇させる度に6系統ある竜回帰(レゾナンス)または竜闘気解放(ドラゴン・シャウト)のうちの一つを習得することができる。いずれも行動回数の消費無しに発動することができ、多種多様な能力の向上が可能となる。

 

 たった今発動した【灼熱の咆哮Ⅰ】は、炎ダメージを3点か物理ダメージを2点上げるという無法極まりない技で、経験点500点でお手軽にダメージを増強できる。バフにしては性能がイカレている部類だ、二つのサイコロを振るシステムにおいては。

 

 今この瞬間に限れば、二連ブレスに3点ずつ乗って、対象が9体なので合計で54点のダメージ増である。

 

 竜回帰(レゾナンス)はターン1回の制限を持つものの、ターンが経過するたびに強力な竜回帰(レゾナンス)に(習得していれば)変更可能であり、バフが攻撃1回にしか加算されないといった制約がない。命中や回避を上げる竜回帰(レゾナンス)もあるが、私は回避できない類の技をメインの攻撃手段に据えているため、攻撃系の能力である火竜系の竜回帰(レゾナンス)を取得している。

 

 竜回帰(レゾナンス)は魔法にも載るので、初ターンに限ればブレスと【ファイアボール】で期待されるダメージの合計値は58点から70点に上昇している。こうなってくるとゴーレムに掃討させて終了だ。

 

「ボロい商売ですね」

 

 周辺を捜索すると、不幸な犠牲者の他には何も見つからなかった。デーモンの召喚者は健在と見える。

 

 まあ、言われたことはやったので、経験点1540点と8440Rの戦利品を得て次へ。

 

 今度は下水道の詰まり解消である。

 

 何でも食べるスライム系の魔法生物・ゼリーが下水道にばらまかれているのだが、こいつが変な生き物に殺されたり合体したり、地上から地下に降りてくる排水口で詰まると、汚物が貯まるのだ。

 

 今回は合体パターンだったらしく、巨体が水の出口を塞いでいる。汚水を吐き掛けられると色々困るので、無限拡大【スタンクラウド】で厄介な特殊行動を封じ、遠距離から魔法で倒した。

 

 経験点1080点と4500Rの報酬だ。

 

 依頼を終える頃には夕方前で、人混みが酷いので歩いて冒険者の宿"稲妻の鉄槌亭"まで戻る。下水道から帰ったため裏口から入り、シャワーを借りて匂いを落とす。

 

 依頼完了の報告をしてから、"蟻の越冬亭"に退学の報告をしていないことに気付き、ひとっ走りする。こういう義理は通しておくに限る。いざという時に泣きつける場所は、あるだけあった方がいい。

 

「どうも。私、実は退学して――」

「あ、やっと来やがったな」

「……はい?」

「養成学校の校長から呼び出しだ。ついでに、また副市長の娘さんから依頼だとよ」

「あー……どっちも見ましょうか」

 

 校長の方は退学について話し合おうという内容、シキブの方はお茶。

 

(他の依頼もこれくらい簡単だったら……どうにか捏造できないですかね。口約束して、内容は右手を上げるとか)

 

 結論からいえば出来ない。というか、これはユウランの愚痴にすぎない。

 

 既に妹と"冒険者ごっこ"という形で実験している。経験点はあくまで"シナリオ"の目的や任務を達成しないと貰えないので、"シナリオ"とみなされるラインがどこかに存在するのだろう。

 

(じゃあこのシキブってヒトの依頼は何なんだって話ですけど……何かの導入とか?)

 

 もう夕方なので、二人の所へ行くのは明日にし、"蟻の越冬亭"店主にはあまりこの店には顔を出さないことを伝える。

 

「……さっきのは聞き間違いじゃないって訳か」

「ま、そういうことです」

 

 さっさと別れ、帰る。

 

 人混みをルール的に掻き分けることが出来ないため、シムロン市内の移動だけで四苦八苦する有り様だ。

 

スカウト(斥候)レベル9は、やはり必須ですね……)

 

 スカウト技能レベル9で自動獲得できる<<影走り>>の特技があれば、移動を妨害されることがなくなる。

 

 1日2000点ペースなら経験点の収集は1月で終わるが、依頼を受け損ねれば元も子もない。移動時間を短縮する方法は、効率の良い依頼受注のために必須だった。

 

***

 

「いらっしゃーい。待ってたのよ?」

 

長い黒髪を編み込んだ赤い目の女の子――シキブが、分厚い鉄扉の隙間からユウランを迎え入れた。

 

 彼女の屋敷は元々私兵の姿が多く見られたが、前回訪れた時よりも5割増しで増えている。

 

「物々しいですね」

「んー、まぁね。詳しい事情は中で話すわ」

 

 お茶とは一体何だったのか。すっかり普通の依頼を受けるような空気だ。前に会った時とは違いマジックアイテムで身を固めているため、珍しい物を見るように質問される。

 

 屋敷の最奥、シキブの自室を名乗る軟禁部屋に案内され、彼女が淹れた紅茶を飲む。

 

「それで、今日は普通の話ですかね?」

「実は、折り入って頼みがあるのだけど」

 

「はぁ。料金分は聞きますよ」

「……最近、おじいさまが命を狙われているの」

 

「なるほど。副市長ともなれば政敵も多いですからね」

「んー……ちょっと毛色が違うのよね」

「そうですか」

 

 自分と関係の無い話は相づちで誤魔化すに限る。明らかに面倒ごとだ。

 

 800Rぽっちで命の危険がある仕事を私はやらない。ましてや暗殺されかかっている副市長の護衛などするはずがないし、そもそも私より強い護衛が付いている筈だ。

 

 政治は私の専門外だが、沈む船のような空気を感じる。

 

 首を突っ込めば、家族に累が及ぶかもしれない。

 

「おじいさまを狙っているのは冒険者なのよね」

「……はぁ?」

 

「5人組のホムンクルスだけの女パーティを知ってる? "機械仕掛けの白百合"って一党なんだけど」

「いえ、興味が無かったもので」

 

「シムロンじゃそれなりに有名なパーティよ。一年くらい前に男爵って冥族を倒したらしいし」

「ゼルド・ノーブルのブラウン・バロン(10レベル)ですか。実力はあるようですね」

 

「ええ、みたいね。8年前に姉を殺した奴らよ」

「……なるほど、ご愁傷様です」

 

 ヒヤリと背筋が寒くなる。

 

 こいつ、私を巻き込もうとしていないか?

 

「そういえば、腕を上げましたね。拳闘士としての基礎ができているように見えます」

「あ、分かる? 分かっちゃうか~、よく天才だって言われるのよね」

 

 私の基準で言えば、1か月に1000点だ。

 

 つまり、シキブはグラップラーのレベル1。

 

「まぁ…………そうですね」

「なによその間は」

「何でもありません。ところで、前回貰う約束だったものを頂きましょうか」

「あれね。はいはい」

 

 シキブの机の上には筋力増強の指輪が布に包まれて置いてあった。彼女から手渡されたそれは、私が今よりも未熟だった頃にとっては、価値のある品だった。

 

 今じゃたった500Rぽっちの代物だ。

 

「確かに受け取りました」

「それじゃ、顔見知りのよしみで雇われてくれない?」

 

「いくらで?」

「……ま、あなたじゃ無理よね」

 

「そういうことです。今は忙しいですから」

「忙しい?」

 

「ええ」

「困りごとなら力になれないかしら」

 

「…………そうですね、毎朝顔を見せに行くくらいなら」

「本当っ!?」

 

 悪いことを思いついた。

 

「毎朝、こうしてお茶をごちそうになるくらいの時間はあります。が、必ず冒険者の宿を通して依頼を出してください。これが条件です」

「なにそれ……凄い面倒ね。何の意味があるの?」

「…………」

 

 返す言葉に詰まる。困り顔で聞いてくるシキブには申し訳ないが、理由は明かせない。

 

「何でもいいじゃありませんか。今まで通り800Rで、私を雇えるんですから」

「何言ってんのよ、結構な新人冒険者のくせに」

「その新人冒険者に依頼をしたかったのでは?」

「むー」

 

 彼女は唇をとがらせてそっぽを向いた。"新人冒険者"という発言には若干の含みを感じたが、シキブは私がその域を脱していることに気付いているのだろう。

 

 紅茶で口を湿らせてから、気になっていたことを尋ねる。

 

「そもそも、支払い能力はあるのですか? 800Rは安い額ではありませんよ」

「ま、まだ大丈夫よ」

 

「あなたを護衛するにしろ何にしろ、そもそもあなたが依頼していることがおかしいですしね。なぜ"おじいさま"を頼らないので?」

「……」

 

「一々聞いてもしょうがないので、この話は終わりです」

「……最近、"機械仕掛けの白百合"の1人が屋敷の周囲をうろついているのよ」

「ほぉ」

 

 意を決したようにシキブは話す。

 

「あいつらは姉を殺した奴らだけど、犯人が誰かは世間にバレていないわ。私がそれを見たのも7歳の時だし、おじいさまは私が何を言っても取りあってくれなかった」

「しかし、屋敷の私兵は増えています。防御は問題ないのでは?」

 

「屋敷は絶対に安全ってわけじゃない……あいつらは私を殺しに来るわ。汚点を知っているかも知れない唯一の人間だもの。それに、私が狙われるってことは、おじいさまも狙われるってこと」

「色々と疑問はありますが……ご愁傷様です」

 

「助けて」

 

 お茶菓子に伸ばした手を両手で握られる。私の手を包み込んでいるにもかかわらず、非常に弱く小さな手だ。

 

「報酬は?」

「次はあなたよ」

「……シキブ、そんな小賢しい説得で首を縦に振るとでも?」

「っ……」

 

 手を振り払い席を立って凄むと、一瞬だけ怯んだが、すぐに気を持ち直す。

 

「遅かれ早かれよ。あいつらは執念深いし、一度私の依頼を受けた時点で、私が死んだら次の標的はあなたになる」

「確かに、私も自分の身は惜しいですし……」

 

 次の標的は私になる、とは、なんとも確証の無い曖昧な話だ。

 

「なら決まりね!」

「いいえ、私の力が必要なら、依頼を出すか、"おじいさま"とやらに話を通すかして下さい。あと補足しておきますと、一日4時間以上の拘束は受け付けておりません」

 

「……はい?」

「私は忙しいんです。条件を詰めるための交渉は受け付けておりますが、その窓口としてあなたは相応しくない。ちなみに、私の力量としてはダークオーガと一人でやり合える程度です」

 

「…………」

 

 恨めしい目で見られているが、祖父と隔意があるのは察せられるし、経験点は惜しいが面倒ごとには関わらないに限る。特に、まだレベル8(一流)でしかない貧弱な身なら尚更だ。

 

 シキブの姉を殺したという冒険者の一団"機械仕掛けの白百合"についてはひとまず放置だ。"稲妻の鉄槌亭"に宿泊する予定だが、防衛案については考えてある。

 

「話は終わりですか?」

「そうね……参考になったわ」

 

 肩を落とし、鋭い目つきをしたシキブとの会合は終わった。

 

 会話もなく見送られ、鉄扉が音を立てて閉じる。

 

 私は"稲妻の鉄槌亭"に向かって走り出した。

 

***

 

「おじいさま、入るわよ」

 

 返事も聞かず、シキブは祖父の執務室へ立ち入る。

 

 ユウランが彼女の屋敷を訪れた日の、夜の事であった。

 

 シキブは自室を抜け出し、顔なじみの見張りを何とか言いくるめて、どうにか祖父の下へたどり着いたのだ。それに、人が増えたおかげで警備は強化されていたものの、脱走癖があるとは露知らず間抜けにも見逃してしまった者もいる。

 

 当然、シキブの祖父――サダマタは、予期していない侵入者に目を丸くした。

 

「誰だっ! ……シキブか?」

「そうよじっちゃま」

「じ、じっちゃま……?」

 

 彼はあっけにとられ、ペン先のインクが徐々に書類へ染みていく。

 

 シキブは後ろ手に扉を閉め、大股で机の前に立つ。

 

「冒険者を雇わない? 護衛ができそうな奴」

「言葉遣いがはしたない(・・・・・)ぞ? 夜も遅い、部屋に戻りなさい」

「あんな部屋に一生閉じ込めておくつもり? あいつらは、私がいること(・・・・・・)なんてとっくに気付いているわよ」

「お前が関わる事ではないッ!」

 

 シキブの言葉を聞いた途端、困惑に垂れていた眉を吊り上げて声を張り上げた。机が大きな音を立て、書類が振り下ろした拳で歪む。

 

「もう関わっているのが分からない? 私兵があと何人残ってる? 妖精会から護衛が借りられる?」

「なっ!?」

 

「3か月くらい前から見かけないけど、妖精使いのミルキーさんはどこに行ったの?」

「……」

 

「信頼できる強い冒険者が必要でしょ? 敵は分かっても、尻尾を掴めていない状況だもの」

「……いつから気付いていた?」

 

「質問してるのは私なんだけど……ま、いいわ」

 

 祖父の前で初めて、シキブは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

 被っていた化けの皮を全て剥がし、過去の因縁と立ち向かう。

 

「どうやら、敵は同じみたいね。父さんと母さんを殺したのも"機械仕掛けの白百合"なんでしょ? いま確信したわ」

「……!?」

「姉さんを殺したのもあいつら。その話を聞いて、私の味方をしてもいいって奴が居るのよ、条件次第で」

 

 ニコニコとシキブは捲し立てる。

 

 サダマタは今まで孫に向けていたような甘い顔を脱ぎ去り、シキブを少しだけ認めた。

 

「孫がいつの間にか成長していたとはな…………話を聞こうか」

 

***

 

 シキブの家を出て冒険者の宿に駆け込み、次なる依頼を受領する。

 

 またまた下水道の魔物退治だ。

 

 都市の真下に魔物が多く居過ぎじゃないかと思われるかもしれないが、縦横4kmに広がる巨大橋上都市の地下は単純に考えてもその地上より広いに決まっているのだ。小さな隙間があって、埃が積もりカビが生え、地上からは肥が溜まり、自然環境が近く、川の水を一部利用している。

 

 湿気に富みカビやコケが生え、小さな生き物が棲み、中くらいの生き物が棲み、大きな生き物が棲み、時折地上から降りてきた人間に襲い掛かる。

 

 "稲妻の鉄槌亭"の店主は「最近の冒険者はこういうのやらねえんだよなぁ」とボヤいていた。どうにもそういう噂が広まっているらしく、田舎から出てきた冒険者志望でさえ忌避する有り様のようだ。

 

 なので、以前の予想に反して、新人冒険者に回すのが妥当な仕事にもありつける。

 

「で、下水道の"お掃除"に8000Rですか」

「……ヤバい所だ。正直アンタにも勧めたくないが、大の大人より恐れ知らずなんでな」

 

 話を聞くところ、西岸地区に近い下水道は特に人気が無く、需要に対して供給が圧倒的に足りていないそうで。

 

「有志がちょくちょくやってたらしいんだがな、ソコはあんまりにもヤバいから誰もやらなくなったらしい」

「で、ヤバいとは?」

「……ジャイアントコックローチ(ごきぶり)ジャイアントフライ(はえ)ジャイアントラット(ねずみ)の群生地でな、暗視持ちは特に行きたがらねえんだ」

「なるほど……」

 

 私はそれを受領し、母さんにあげたものと同じ、病気と毒への抵抗力を強化する水晶の首飾りを購入した。

 

 地図に従って、ジメジメとした、近づくだけでGをよく見かける地獄めいた下水道の入り口に辿り着いてしまった。

 

「ぅげ……」

 

 もはや管理されず清掃もされていない、えずくような悪臭を放つ階段を降りると、鉄格子の隙間から不快な動物が沢山こんにちはしている。

 

 空気を吸うのも嫌だ。堅く口を閉ざし、データ的に何の意味もない布で口や耳などの穴を覆った。もちろん、一旦外に引き返して、だ。

 

(……範囲魔法が壁に遮られるか否か、というのはルールブックに根拠が記載されていません。半面、射撃系の魔法は遮られる。つまり私の裁量次第。【スパーク】は範囲魔法なので遮られないものとして、【マナ・アブソーブ】――距離2倍範囲5倍拡大【スパーク】!【スパーク】!)

 

 残念だが、攻撃対象の拡大において、ルール的には6倍以上の拡大は意味が無い。うん百倍に拡大して下水道のアレを丸ごとお掃除はできない。対象が20体までと絞られているのだ。

 

(これで入り口は掃除できたでしょう。40体も対象にしたわけですし)

 

 30点ほど入った。何が死んだのかは考えたくもない。

 

 拳が燃え盛るゴーレムを2体取り出し、かんぬきが掛けられているだけの扉を開ける。

 

 ……残念だが、近くに40匹よりも沢山何かが居たのだろう。データが無いくせにいっちょ前に対象としてカウントされていた。

 

 一歩踏み出すとカサカサグシャと音が――

 

「ひっ!」

 

 視界に映る業火――思わずブレスを吐いてしまった。

 

 おぞましい足裏の感触と一瞬だけ見えた蠢く黒に怖気が走る。

 

 これを? 掃除?

 

 ……………………。

 

「……ん?」

 

 ドラグニカの火竜系と水・氷竜系の話をしよう。

 

 その2系統のブレスは特殊な効果範囲を持っており、技能による対象の制御が基本的にはできず、幅3m長さ15mの範囲の全てを攻撃対象とする。他系統のブレスは、貫通するが<<特技>>で対象を絞れるタイプと、玉を吐き出して円形に炸裂するタイプが存在する。

 

 炎のブレスはルール的には範囲攻撃に分類されるが、対象数は書かれていない。

 

 一方で、【スパーク】のように範囲攻撃の対象数が制限される場合は、効果が「半径**m/*体の場合~」と記載されている。

 

(つまり、ブレスは対象の数が無制限で、私はブレス吹いて歩いているだけでいいと? それだけで範囲内の不快な動物を全部焼却できると!?)

 

 そういうことである。

 

 その証拠に、咄嗟に吹いた炎が、通路の奥の方までGを焼き払っている。おぞましい音も気色の悪い蠢きも何もない。一体何匹の生物がいたのか――恐らくデータ的なレベルを持たないものが大半だった――130点も入った。

 

(……生理的嫌悪感が半端ないですけど、もしかしたら美味しいのでは?)

 

 読者諸兄姉にとってはあまりにも読むに堪えない経過を経て、ファンブルを除いて追加で1080点ほど手に入った。奥に進めばアンデッドと化したワニや犬も襲ってきたが、大して強くもなかった。

 

 この依頼はあまりにも終わりの見えない駆除作業だったが、範囲攻撃は強い。60分で360回吹けるので、単純計算で5400m分のアレらを駆除できる。とはいえ、移動も合わせて2,3時間も吹いていると大分片付いた。

 

 切り上げて冒険者の宿に戻ろうとすると――凄く視線を感じる。

 

 これは服を処分して鎧や装備を丸洗いした後で、店主に言われたことだが、涙が出るような悪臭を放っていたそうだ。

 

 経験点は2740点とかなり稼げたが、2度はやりたくない。

 

 1度目だからがむしゃらで突っ込めたものの、2度目は無理だ。本当に切羽詰まったらやるかもしれないが、それくらい精神的にきつかった。

 

 念のため、確認に行った人員が戻ってくると、依頼達成の8000Rが支払われる。

 

 ともかく、これでようやくスカウト技能がレベル9に達し、人ごみに囚われない走破能力を手に入れることができた。<<影走り>>の能力によって、私の移動は決して妨害されない。ついでに魔法で取得している<<特技>>の一部を置き換える。

 

 敏捷の能力値成長や魔法の腕輪と指輪、韋駄天ブーツのおかげで10秒当たりの移動距離は81m。時速に換算して29.16kmである。移動時間も徐々に短縮されてきている。

 

 MPはまだ残っているが、次の成長に備えての買い物だ。

 

 魔術師協会でゴーレム用の素材を大人買い。強化アイテムを含めて18800Rのお買い上げだ。消耗品を整えて戻り、明日受けられそうな依頼を探す。

 

 普通の下水道掃除、歩いて2日の西南の村で薬草採取と冥族退治、遺跡探索の護衛……は時間がかかるのでパス、あっ盗賊退治もある。

 

「お前さん、そんなに戦いてえなら、西方八魔将との小競り合いに傭兵でも行きゃいいじゃねえか。ゾルガ風魔旅団でもいいけどよ」

「ふーん、そんな冥族勢力がいるんですねぇ」

「なんでぇ、興味ねえのか?」

「こっちにも事情ってもんがあるんですよ。だいたい、どうせ遠いんでしょう?」

 

 違ぇねえとだけ言って店主は引っ込んでいった。深入りしてこないこの距離感は過ごしやすく、非常にありがたかった。

 

*

 

 店主が起きて働き始めると同時に下水道依頼を受領、ダッシュで目的地まで向かう。

 

(いやぁ~快適快適)

 

 シムロンは非常に人が多い。人ごみで上手く進めなかったせいで、短い距離でも数十分掛かることも珍しくなかった。

 

 だがそれもなくなった!

 

 街中で爆走して誰とも接触せずに目的地に直行できる。都市の端から端まで数分しか掛からない。これぞスカウトの妙技影走りである。

 

 下水道は1~3レベルの大したことのない魔物を始末して終わりだ。1240点と2500Rを貰って、薬草採取とついでの冥族退治の依頼を受領。

 

 ここまで3時間なので、今は朝の9時ごろだ。

 

 歩いて二日かかる距離を走って2時間弱で走破する。上りや下りといった普通の人間なら速度が遅くなるような要素を完全に無視しているため、傍から見たユウランはよく見かけるちょっとした変な生き物だ。

 

 昼前には村に着いたので、さっさと事情を伺う。

 

 は?

 

 私みたいなのとは失礼な、大丈夫です。

 

 道案内? いりません、足手まといです。

 

 冥族? それはシャットマン、雑魚です。

 

 あーはいはいはい。いつもの。冥族が住み着いて村が荒らされて治療しようにも素材がなくてね、はいはい。

 

 事情は百万回聞いたような話だったので、雑談もそこそこに出発。道中は薬草の生息地でいくらか草を摘み、冥族を見つけてはボコボコにした。10体ほどたむろしていたが、目的もなにもない野良冥族だった。

 

 図体はでかいくせにどこにでも湧く、ゴキブリのような奴らだ。

 

 1310点と戦利品含め8130R。魔法使いの冥族が居たので宝石が美味しいし、武装も少しまともだったので実入りがいい。

 

 コンジャラー技能を上げたので新しいゴーレムを作成するためすぐに帰還。21時30分頃になって冒険者の宿に到着し、精算を済ませた。

 

 ほとんどMPを消費していないのでゴーレム作成に取り掛かる。前日のうちに無限拡大用の【マナ・アブソーブ】を使っておいたので、取っている部屋の中なら無限に魔法がかけ放題だ。

 

 とはいえ、掛ける魔法が多いとMPがかさむ。二日に分けると後悔しそうなので、一日で無限バフ掛け作業を終わらせるべく、有料の外付けMP――魔晶石を砕いたため、一日でバフを掛け終えることができた。ちなみに、MP1あたり100(リーン)だ。

 

 高いね。いや安いよ。命の値段だもん。

 

 そのおかげで、明日からはより強くなったゴーレムを連れて歩けるので、パーティパワー(一人)が底上げされた。ストーンサーバントはお蔵入りだが、緊急時の盾くらいにはなるだろう。

 

 3日で9000点ほど稼げたのは運が良かった。その分は技能成長に注ぎ込んでしまったが、今のペースなら18日で目標を達成できる見込みだ。

 

 明日から、もっと早く経験点が取れるといいな――。

 

 そんなことを考えながら、私は眠りに就いた。

 




明日はもっと経験点が稼げるよね、ハム太郎?

タイトル、もっとキャッチ―な方が良い?

  • ちんちんはやめろ
  • 主人公の属性押し出せ
  • そのままでいろ
  • なろうみたく長くしろ
  • 副題付けろ
  • もっと中二病にするとかさぁ
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