放課後・風の住んでるマンションの前
「風の奴、最近部活にも顔出さないでいったい何をしてるのよ…」
アタシはわざわざ部活を休んで風の家の前で張り込みをしていた。
「まぁまぁ。仕方ないじゃあないか。命令なんだから」
アタシの隣に立っているスピカが言った。
「それに、お前は最近の風に何か思う所があったからこの任務を引き受けたんだろう?」
「うっ…、まぁそうなんだけど…」
コイツ当然のように私の考えを読むな。そんな事を考えながら視線を端末に落とした。
『件名:他の勇者の動向に注意
犬吠埼風を含めた勇者4名が、精神的に不安定な状態に陥っています。三好夏凛、あなたが他の勇者を監督し、導きなさい』
……だなんて、面倒な事がそのメールには書いてあった。
「……もう、バーテックスは倒したのに、何を不安になることがあるっていうの……」
「さあね。まぁ、君らみたいな年ごろの女の子は何かと情緒が不安定な所があるからねぇ。悩む事もあるんだろう」
「それぐらいのチャチな問題だったらいいんだけどね…」
そんな事を話しながら、上を見た。その刹那、何かが割れる音がした。
「あああああああああっ!!!!」
マンションから勇者になった風が飛び出してきた。さっきの音は建物のどこかが割れた音だったのだ。
「風!?待ちなさいっ!」
「追うぞっ!援護する!」
私は勇者になり、風を追った。
夕方・大橋前
「待てって、言ってるでしょうがあ!」
私はスピカの助けも使って、瀬戸大橋の前まで来てようやく風に追いつく事が出来た。
「っ!!!!」
「なっ!?」「危ない!」
風は思いっきりこっちに剣を振ってきた。殺意100%の奴をだ。が、それは何とか受け止められた。
「ちぃっ!」
「あんた、何するつもり!?何処へ行くのよ!」
ひとまず説得を試みる。風には剣を向けたくない。
「大赦を問い詰める。返答次第では大赦を…潰してやる」
「なっ!?」
コイツは、風は何を言っているんだ?何故そうする必要がある?
「邪魔…するなーーっ!!」
風は叫び、剣を上に向けた。だが、それは斬撃の為の振り上げでは無かった。掲げていたのだ。
「何をやって…っ!?」
風の体から、剣から、ガスともオーラともとれない異様な“ソレ”が溢れていた。
「がああああああああ!!!!」
風の獣を思わせる叫びを合図に、風の勇者装束が変化した。それは光沢があり、しなやかさは欠片も無い、鎧と呼ぶに相応しいモノに変形していた。
「うらあああああ!!!」
「な、何があったっていうの!?」
風の剣を刀で受け止める。が、この一撃だけで体力が大きく削られた。この甲冑の仕業だろうか。
「大赦は私達を騙してた…!満開の後遺症は…治らない…!!」
「な…、なに…を……」
風の言葉からは、嘘のそれは全くしなかった。心の底からの叫びだった。だが、信じたくは無かった。
「大赦が私達を騙してた!?何で急にそんな!適当なこと言うな!」
「適当じゃない!犠牲になった勇者がいたから!!」
「え……?」
聞いていない。それはつまり私達より先に勇者として戦っていた人が居るという事ではないか。
「勇者はアタシ達以前にもいた…。何度も満開して、ボロボロになった勇者が」
「そ、んな…人が…いるの…?」
「そして今度はアタシ達が犠牲にされた!身体機能の欠損は、神樹様への供物だった!」
「……っ!!」
供物だと?犠牲だと?それではまるで人柱ではないか。そんなものに私は進んでなろうとしていたのか?
「なんでこんな目に遭わなきゃいけない!」
「意識を戦いから逸らすな!」
風が思い出したかのように剣をこっちに振ってきた。
「…っく!」
勢いを殺しきれず、私は壁に叩きつけられた。…ウソ。壁にひびが入ってる。
「なんで樹が声を失わないといけない!?なんで夢を諦めないといけないっ!?」
ガシャリガシャリと足音を立てながら風がこっちに近づいてくる。立て直さなければ。
「世界を救った代償が…これかぁあああああああああああああ!!!!」
「やめろぉおおおお!!」「……ひっ!?」
あれ?これ、駄目な感じ?私死ぬ?私は目をつむってしまった。
ガキン!と音がした。まるで、金属同士がぶつかったような…
「……え?」
「ふふっ…!」
目を開けると、肩から左胸にかけて、剣が食い込んだスピカが私の前に立っていた。
「スピカ、アンタ…!」
「さあやれ!コイツを止めろ!」
「うおおおおおおおっ!!」
スピカの叫びに応えたのは、私ではなく友奈だった。
「ぐあっ!?」
友奈の拳が風のこめかみにダイレクトアタック。風は勢いのまま地面に倒れた。
「友奈!」
「大赦から…風先輩を止めろってメールが来て…」
「どきなさい!」
風はスピカに刺さった剣を支えに、起き上がりつつ叫んだ。
「嫌です!私、風先輩が人を傷つける姿なんて見たくありません!」
「大赦がアタシ達を騙したこと、分かってるでしょ!?」「ごはっ…」
風が剣を抜き取り、振るいつつ友奈に訊いた。それと同時に重い金属音が響いた。
「でも!もし後遺症の事を知らされてても結局、私達は戦ってた筈です!」
「知らされてたら…!アタシはみんなを、樹を…巻き込んだりしなかった!」
そして、また二つの得物がぶつかりあい、重い金属音が響いた。そして、ふと気づいた。彼女の満開ゲージがかなり溜まっている事に。
「!?やめなさい友奈!このままだと満開に…!!」
「っ!?」
風がその言葉に反応し、剣撃を放つ事を止めた。
「風先輩を止められるなら、これくらい!!だって私は……勇者だから!!」
「友…奈…っ……」
そう小さく呟いた後、風は膝をついた。
「うぅ…友奈……どうして…そこまでして……」
「悩んだら相談…でしょ、風先輩。みんなで、考えましょう、ね?」
「それでもアタシは…許せない…。どうしても大赦が……許せない!」
風は剣を支えに立ち上がり、もう一度大赦の方へ体を向けた。そこに緑の影が飛び込んできたかと思うと、風に抱きついた。
「いつ…き……」
樹だった。スケッチブックを持っているが、何が書いてあるかは角度の関係で見えなかった。そんな事を考えていると、樹はまた何か書いた。
「ごめん…ごめん…ごめん……みんな……ごめん……」
「(何かを書いた)」
でも…でも…!アタシが勇者部なんて作らなければ…!アタシはみんなを巻き込まなければ…!誰も体を壊すことなんてなかった…!」
「(また何かを書いた)」
「樹……」
「風先輩、私も同じ気持ちです。だから、勇者部を作らなければなんて言わないでください」
「うぅ……うぁああああああああ……!!」
風は泣き崩れ、それを隠すように樹は抱きついた。
「……………」
その中で、私はただ、己の無力さを悔いるしか出来なかった。風を止められなかった事。スピカに怪我を負わせてしまった事。友奈の満開ゲージを溜めさせてしまった事。どれもこれも全部私のせいだ。
「…え?」
友奈の腑抜けた声で、私は自分の世界からこっちに戻ってきた。
樹が倒れている。付近には赤い物が零れていた。
「くひひっ……あっははは……」
風が立ち上がりながら笑っている。
「あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!くはははははははははは!!!いひひひひひひいひいひひひふふふ!あへあへあへあへあへはへへはははっははははは!!!」
風が風らしからぬ様相で笑っている。
「ひひぃ…。あん?何見てんだよ」
風があからさまに不機嫌な様子で友奈を見た。
「ああそっか。俺の事がそんなに気になるか?」
樹を踏みつけ、カカトをぐりぐりと押し付けながら言った。
「俺ぁ……そうだな。『ヴェルズ・オキザリス』とでも名乗るべきかなぁ。お前らの敵で、ご主人様だ」
「ヴェルズ…だと?」
スピカが体をギシギシ言わせながら奴を見た。その様子は油がさされていないロボットのようだった。
「あーお前、セイクリッドだよな?うん。忘れる筈無いもんなぁ?あん時の恨みゃあ忘れてねぇぞ。よくもまぁぶっ殺してくれたよなぁ!?」
言葉を終えると同時に樹を強く蹴った。
「貴様!殺すっ!」
「しゃらくせぇ!」
スピカがレーザーを撃った。が、レーザーは容易に剣で弾かれ、建物にぶつかった。
「しゃあ!!」
「がっ……」
距離を詰めた、奴の持っている風の剣がスピカを貫いた。
「スピカ!」
「殺せ……、今の内に……!」
それだけ言ったかと思うと、振り払われて地面に倒れた。
「やってみろよ。今の内に」
「うああああああああ!!!!」
殺す。コイツは殺す。そんなものが私を埋め尽くした。きっとこれが俗に言う殺意なのだろう。
「生っちょろいぞ。アマ」
技もクソもない剣に私の刀が弾かれた。力任せの馬鹿に私の剣が弾かれた。
「うひゃはぁ!」
「ああっ!?」
強い。私は精霊バリアに守られつつも勢いにぶん殴られて地面に倒れた。逃げろと脳の何処かが叫んでいた。
「ああ……、あああ………!」
「寒ぃのか?震えてんぞ」
そんな事を私に言いつつも、奴の体はスピカに向かって動いていた。
「いっただっきまーす!」
「ごっ…」
奴の手がスピカに突き刺さった。その後彼女の体は粒子になり、奴に吸い込まれた。
「うへはぁ…んまい!」
奴は屈託の無い笑顔でそう言って、友奈に視線を向けた。
「そんじゃぁ、お前らも一応食っとくか」
食った…だと?スピカは、風は、奴に食われたとでもいうのか。
「わけぇ人間って結構旨いんだよなぁー…、女のヤツは特に」
「ひっ……」
友奈は勇者装束を脱いでいた。そんな友奈にも奴は無慈悲にも剣を引きずりながら歩いて距離を縮めていった。
「友奈!何やってるの!変身しなさい!」
私は叫んだが友奈は後ずさりするだけで、何も言わなかったし、何もしなかった。
「あーあ、全く。あの女の恨みつらみを利用して成長してやろうと思ったのによぉー?お前らのせいで改心しそうになっちまうんだから。こいつはたっぷりと礼をするべきだよなぁ!?」
「ひっ!」
奴はおもむろに剣を振り上げた。
「死ね」
「友奈ぁあああああああっ!!」
剣は友奈めがけて一直線に振り下ろされた。
「キシャアアアアアアアッッ!!!」
その声は、私のよく覚えている声だった。私を蹴飛ばした獣の声だった。
直後、ガキンと重い音がした。
「ちいっ!?」
「フグルルルルル………フグルルルルルァ………」
レオニスはその爪で剣を受け止め、跳ね返した。そして、レオニスを続いて二つの大きな影が飛び込んできた。
「待たせたなっ!ソノコ殿の命により馳せ参じた。『セイクリッド・エスカ』だ」
「同じく、『セイクリッド・レスカ』だ。ここは我々に任せてくれ」
彼らは奴に向かって飛びこみ、得物をぶつけた。
「何よ………これ………」
私は急展開についていけず、呆然と戦いを見るしか出来なかった。
「…そうだ!友奈!」
私は柵にしがみついてブルブルと震えている友奈の傍に行った。
「逃げるわよ!今は彼らに任せるのよ!」
そう言うと、友奈は虚ろな目で私の手を掴みゆっくりと私に抱きついた。
「樹も…おぶってあげるから!行くわよ!」
私は友奈と樹を背負い、ここから走り出した。こういう時カウストの存在が欲しくなる。俵みたいにしちゃってごめん。
「っ!」「!?」
角を曲がろうとして、また甲冑に出会った。さっきの甲冑よりは小さかったが、三人居た。
「カリン様ですね。話は聞いております。お逃げください」
が、彼らはそう言って向こうに行ってしまった。
「…急ぐわよ」
私はとにかく逃げ出した。
TIPS
『セイクリッド・エスカ』
王道を往く勇者系キャラ。頼りになる。その図体は見掛け倒しではない頼りになる奴。
実力もセイクリッドの中ではトップクラス。得物はその大きな手に生えた爪。