某刻・とても綺麗な所
「………………」
「落ち着いた?」
私はいつの間にか夏凛ちゃんにとても綺麗で設備も整っている場所に連れてこられていた。
「…ここ………どこ?」
「覚えてないの?大赦の拠点の一つよ」
そう言って夏凛ちゃんは端末を私に見せた。
「……友奈、落ち着いたらでいい。救急箱だとか、血液パックだとか、何でもいい。そういう医療用の道具を見つけて来て」
「………あ、そっか」
長考の後、夏凛ちゃんの言葉の意味を理解した。樹ちゃんは危ない状態だったのを忘れていた。
「今すぐ行けるよ。それぐらいなら」
「ありがと。二手に別れて探すわよ」
「…うん」
その言葉で私は夏凛ちゃんと別れ、探索に移った。今思えば、ここに人が一人も居ない時点で怪しむべきだった。
「………ここは…?」
まず私が目を付けたのが倉庫。ここ程設備が整っているならば、緊急の為の備えもあるだろうと思ったからだ。
………が、
「………分かんないや」
倉庫にあるものはよく分からない瓶詰めの液体や段ボール一杯に詰まった備品ばかりだった。
「こうなったら…」
私は病室を目指した。そこなら確実に何かそれらしきものがある筈だから。
「………無い」
一部屋目、無し。人すらいない。
「…ここも」
二部屋目、無し。ここもだ。
「ここも…!」
三部屋目も。無駄な時間はもう無いというのに。
「ここは…!?」
四部屋の扉に手を掛けようとして気付いた。ここには誰かいる。話し声が聞こえる。
「…失礼します!」
「友奈ちゃん!?」「あら」
中には東郷さんと乃木さんが居た。
「ど、どうしてここが!?」
「それはこっちの台詞だよ!…それよりも!」
「緊急事態…かな?」
「そう!樹ちゃんが怪我を…!」
乃木園子、中々に勘が鋭い。早く道具の在りかを教えて貰えそうだ。
「だったらこの子を連れていきなよー。きっと役に立つよー」
「うわっ」
そう言って彼女はカードを投げた。私はそれをなんとか受け止め、それを見る。
「『セイクリッド・シェアト』…?」
「そう。この子が役に立ってくれる。さあ行って!」
「…うん!」
その言葉が何を表しているかは分からなかったが、何処か信頼できるモノがあった。彼女は嘘をついていないと断言できるものがあった。
「ハァッ……ハァッ……」
私は迷子になりそうな程広いここを走り抜け、なんとか樹ちゃんの所まで戻ってこれた。
「友奈……?」
夏凛ちゃんはいつの間にかここに戻ってきていて、樹ちゃんの体に布を巻きつけていた。
「見つけてきたよ!助けになりそうなもの!」
「…は?」
夏凛ちゃんは怪訝そうな目で見てくるが、私だって自信が無いんだ。そんな目で見ないでくれ。
「お願いシェアトさん。樹ちゃんを助けて!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!ギャラクシー・エンジェル、シェアトちゃんでーす!」
「「…………」」
何だコイツは。他のセイクリッドに対して体格はずっと小さいし性格も歪んでいる。
「もー。そんな風に見ないでよ。助けて欲しいから呼んだんでしょ?」
「…う、うん!樹ちゃんを助けて!
「お任せあれ!アルティメット・セイクリッド・ヒィール!」
いつの間にか抱えていた水瓶の中身を樹ちゃんにぶちまけた。幾らかは鼻とか口とかに入っていた。
「(ガタガタ)」
「ねぇ樹震えてきちゃったんだけど大丈夫なの!?」
「大丈夫よ!いつだってマジカルガール・シェアトちゃんに失敗は無いのだ!」
「(ゴフォッ!ブハッ!)」
彼女の言葉が終わると同時に樹ちゃんがガバリと起き上がり、水を吐き出した。
「…………あ」
「…だいじょう…ぶ?」
「(パチクリ)……(コクリ)」
「よかったあああああ!!」「生きてるうううううう!!」
思わず私達は樹ちゃんに抱きついた。
「よかった……良かったよぉ…!」
「心配したんだからぁ…!」
「(モガモガ)」
「ちょっとお二人さん。苦しがってるわよ)」
「あっ!」「はっ!」
「「ごめんね!」」
シェアトの声でようやく離れた私達に樹ちゃんはいつものように微笑んでくれた。
「ありがとうございます。シェアトさん」
「敬語はいいわ。あだ名でもなんでも好きにして」
「わかった。シェアト」
「適応早いねぇ。で、これからどうするの?」
「そ、そうだ!東郷さん!」
「え!?東郷がここに居るの!?」「!?」
「ああ、来てたわね。ひとまず合流する事が重要かしらね」
「道順は覚えてるわよね?案内して」
「う、うん!こっち!」
そう言って私はみんなを率いて走り出した。
某刻・東郷さんが居た所
「……え?」
「……あ」
ひとまず東郷さんの居る所に着いた。着いたはいいけど…
「どうして居るんだよ。お前ら」
「こっちの台詞よ」
部屋には沢山甲冑が居た。東郷さんの見慣れた甲冑に加えて見慣れない甲冑が二人、レオニスがそこに居た。
「……とりあえず、状況確認が必要だねぇー」
乃木さんの声でひとまず場はまとまって、みんなはこれまでにあった事を話し始めた。
「私は…」
「密会って言ったらあれだが、みんなに秘密で会いに来てたんだよ」
最初に話したのは東郷さん一行だった。
「乃木さんの話を聴いてたら、友奈ちゃんが来て…」
「今に至るという訳だ」
「ほーん…」
四人の話を夏凛ちゃんは面白くなさそうに聴いていた。
「えーと…二人は…?」
「シェラタンだ」
「セイクリッド・グレディよ。よろしくね」
「…で、何でここに集まってんのよ。確かあの時風と戦いに行ったでしょ?」
「負けたんだ」
「……ふーむ…」
その言葉を聞いて乃木が相槌を打った。呑気だな、お前は。
「負けた!?風は!?」
「アイツはピンピンしてるよ。それに比べてこっちは確認出来るだけでも三人が…」
『兄弟もやられちゃったから五人』
樹ちゃんがスマホに文字を打ち込んで会話に割り込んだ。って…
「……そうか」
「誰か怪我したの!?だったら…」
「違うね。アイツらは化け物に食い殺されたんだ。奴を殺して奪い返すしか方法は無いね」
「殺す!?何を言って…」
「落ち着いて、友奈ちゃん」
東郷さんの言葉でなんとか私は平静を取り戻せた…と思う。
「取り敢えずみんなの経緯は分かったよー。次はどう行動するかを決めないとねー」
「当然、奴を殺す」
シェラタンが断言した。
『それ以外の方法は無いの?私もお姉ちゃんは殺したくない』
そのスマホに打ち込まれた文字を見て、シェラタンは天を仰いだ。
「……ごめんね。こればかりはどうしようも無いの。ヴェルズに取り込まれた人を正気に戻すには……殺すしかないの」
グレディが悔しそうに言った。その言葉の後、何処かから金属の軋む音が聞こえた。
「ところで…一つ訊いてもいいでしょうか?」
「何だ。言ってみろ」
東郷さんの言葉にシェラタンが高圧的に応えた。何だその態度は。喧嘩売ってるのか。
「先程出て来たヴェルズとは何なのですか?」
「ああー…、そういや俺達は話した事無かったからなぁ…」
「私達もね」
アンタレスとグレディが微妙に同調した。
「私はスピカから聞いたけど」
「アイツらしい」
「だな。自分語りが人一倍好きなアイツらしい」
「……まぁ、ひとまず話してくれるかな。敵の事を知るのは大切だよー」
「…そうね」
乃木さんの言葉でセイクリッド達は出来る限りの言葉でセイクリッドの事を教えてくれた。
話が壮大すぎて分かんない所もあったけど、大体分かった。
一。 ヴェルズは負の感情が生んだ化け物。
一。 ヴェルズは他者に寄生し、呑み込む事で己の力を大きく強める事が出来る。
一。 ヴェルズはウィルスのように様々な所を伝播し、力を増す事が出来る。
一。 ヴェルズ化を止めるには媒体を殺すしかない。
…って事ぐらい、かな。私に分かる事は。
「……説明のおまけの話が壮大すぎて分かんない…!」
私は頭を抱えて後ろに倒れた。
「ああうん。まぁ今そのおまけは関係無いから忘れてて」
「おいグレディ。お前はいつも通りだな」
「どういう意味よ」
「そのまんまだ」
グレディとカウストが喧嘩しそうになってるけどそれは置いといて…
「で、どうすんの?アイツが動き回ってるって事はまずいんじゃないの?」
「そうだな。何せ奴が持ってるのは洗脳から壊死までなんでもありのウィルスだからな」
「そうだねー…。今回は私も出ようかなー」
乃木さんが間延びした声でそう言った。戦力になるのか、その体で。
「大丈夫かって顔してるねー。大丈夫だよ、前にも言った通り私そこそこ強いからねー」
「…そ、そうなんですか…」
彼女のそこそこがよく分からないが、戦力が増えるのは嬉しい。
「…ってそうじゃなくて!作戦よ作戦!」
夏凛ちゃんが床をゲシゲシ蹴りながら言った。そこまで焦らなくてもいいじゃないか。
「宣戦布告よ」
東郷さんが真っ先に答えた。
「宣戦布告ぅ?どうやるのよ」
「旗を掲げて敵を待つ!以上!」
「何よその雑な作戦は!舐めてんのか!」
珍しく東郷さんと夏凛ちゃんの取っ組み合いが始まった。
「………だが、それが一番いいんじゃないか…?」
「確かに、連絡手段も無いからねぇ」
「じゃあアタシにお任せ!マジカルなエレクトリック・フラッグを作ってあげるよっ!」
シェアトが水瓶を掲げつつ可愛らしく回った。
「…みんなそれでいーい?」
乃木さんが皆に訊くと、意外にも反対意見は出ず、反対派は今も東郷さんとやり合っている夏凛ちゃんだけになった。
「ぐぎぎこの乳お化け…!…ん?何よ!」
「三好ちゃんもこの作戦でいいよねー?」
「何でよ!もっといい感じの…」
「いいよねー?」
「………はい」
彼女の言葉に押され夏凛ちゃんも賛成派に。これで満場一致。
「もうちょっと暗い方がいいよねー」
「今はまだ日が沈んだばかり。少し休憩の時間を取りましょう」
「え、何で?」
「夜襲よ。暗い方が相手の注意力が鈍るわ。それに…」
「俺達セイクリッドは何せ星の騎士団だからな。夜は何となく力が沸いてくるんだよ」
「…そ、そうなんだぁ……」
私はそれっぽく返してみんなと別れ、休息をとった。
でも、心構えが出来たかと言われると、それは嘘になる。
深夜・瀬戸大橋の上
私達は崩れかけの瀬戸大橋の上で戦いに意識を向けていた。
「…じゃっ!いっくよー!」
シェアトが水瓶を上に放り投げた。
「撃ち抜け!」
「りょーかいっ!」
その水瓶はシェラタンの光線銃が放った光弾に打ち砕かれ、夜空に大量の星を煌かせた。
「…これで…」
「…待つだけ…!」
その声を最後に周囲は風の吹く音で満たされた。
「…!敵影視認!6時の方向!」
東郷さんの声で周囲に緊張が走った。
「ひゃはあああああ!!」
「避けろっ!」
最初に目をつけられたのはレオニス。周囲はまだ星が残っていたから風先輩の姿もその目線の先もはっきりと見えた。
「キシャアアアア!!」
レオニスはカウストの声には応えず、爪を風先輩の剣にぶつけた。
「よおよお阿呆共!わざわざ狩りやすく集まってくれるなんてありがとなぁ!一人ずつ俺が殺してやる!」
「殺すのは俺だっ!この外道が!」
「獣に堕ちたテメエに言われたく…ないねっ!」
つばぜり合いもほんの数秒。風先輩に蹴られてレオニスはぶっ飛んでいった。
「射線上に敵影のみ!全軍、撃てぇーっ!!」
が、ここまでは作戦通り。レオニスのおかげで射撃チームが体勢を固められた。突っ込んでいったのは予想外だったけど。
「やーっ!」「オラオラぁ!」「ダバランの仇っ!」
「ぬぅおおおおお!?」
光弾が、矢が、矛が風先輩に向かって飛んで行った。そして風先輩にダメージを与えた。その内の幾らかは風先輩の体にモロに当たっていた。
「…やったわよね!?」
「いいやまだだ!セイクリッドは…ヴェルズはそう簡単には死なん!」
カウストの言葉通り、風先輩はふらつきながらもこっちを睨んでいた。
「…さっきのはちょっと痛かったなぁ…?」
「あれでちょっと!?どんな体してんのよ!」
「今度はこっちの番だぜっ!」
「いっ!?」
風先輩が最初に目をつけたのは射撃部隊の前衛をしていたシェラタン。
「させるかっての!」「ぬぅあっ!」
まぁ私達も何も考えてない訳じゃない。いつ誰が狙われてもいいように近衛を散りばめておいたのだ。そして今回は近かった夏凛ちゃんとアクベスが風先輩と衝突した。
「くははっ!鈍い鈍いっ!」
「ぐぅっ…重たい…!」
けど止まったのも一瞬だけ。刀と盾がギリギリと音を立てて沈められていく。よく見ると少しヒビが入っていた。
「樹ちゃんっ行くよ!」
「(コクリ)」
それだけ時間を稼いでくれたのなら十分だ。樹ちゃんが右手を掲げ、ワイヤーを風先輩に絡ませた。
「んだこれよぉ…!?」
「友奈っ!行けっ!」
「勇者ぁ…パーンチッ!」
「がはぁっ!?」
私の拳が風先輩の左頬に直撃。その勢いで風先輩は大橋の柵にぶつかった。
「…んだこれ………」
「敵影との距離1.マル!全軍撃てぇ!」
そんな状態の風先輩にも弾幕が容赦なく襲い掛かった。
「ナメてんじゃあねえぞこのタンカス共がっ!」
「黙ってろ、ベイビー」「キシャアアッ!」
キレた風先輩らしきソレは射撃部隊に向かって突っ込んでくるがアクベスとレオニスによって止められる。
「……そうか。これがテメェらの作戦か!」
「その通りだ!数の暴力を思い知るがいい!」
そう。この作戦は数の力が無ければ行う事が出来ない諸刃の剣。しかしその数が増えれば増える程、剣は伸び、折れてもまだ刃は残る屈強なものとなる、私達に出来る最高の作戦。
手順はこうだ。まず近距離部隊が敵を抑える。が、敵の力は強大。簡単に突破される。しかしそこを突いたのが私達の作戦。やられれば心置きなく弾幕を張れる。敵は当然遠距離部たちも狙ってくるが、そこも数の暴力だ。近距離部隊の残りがまた敵を抑える。それを延々と繰り返し敵を消耗させる。そして疲弊した敵に後ろで控えている乃木園子の攻撃でズドン。これで作戦は終了だ。
「うおおおおっ!」
「がはっ!」
「撃てェーっ!!」
そしてその作戦が見事に成功。敵の体力を大いに削っていた。
「…ああー……へへっ…」
壁に寄り掛かって何とか立ち上がった奴は遂に狂ったのか薄ら笑いを浮かべている。
「これなら私達でもっ!」
「行けるっ!」
正直ここまで敵の疲弊が早いとは思わなかった。ここまでペースが早いのなら私と夏凛ちゃんでとどめを刺せる。
「「せやああああっ!」」
「ぐぎゃあああッ!」
敵は人間には出せない声を出し、地面に倒れもんどりうった。
「……気を抜くな。奴はまだ生きてる」
後ろで光線銃を構えたシェラタンが言った。確かに目の前で風先輩は魚のように跳ねてる。
「……カウソ……ナイナエヲルザラナニキンホ……」
「え?」
自分の五感を疑った。何せ風先輩が意味の分からない言葉をボソボソと呟きながらゆっくりと動きを止め、首だけこちらを睨んでいたのだから。
「奴に何もさせるな!撃て!」
奴に向けて射撃部隊が光弾を撃ったが、何故かそれは精霊のバリアに防がれた。
「なっ!?」
「まさか…勇者の力も呑み込んでいるのかっ!?」
「ウトイメゴ……ハニツイコ、タッナニワセ」
「立ち上がるぞ!近衛部隊も陣形を組め!」
私達はいつかの本で読んだ肉壁戦法のように壁を作り射撃部隊の前に立った。
「ガモドズクシホ…ウラモデンシッ!」
「樹っ!」
奴がこっちに跳んできたが、樹ちゃんのワイヤーで足止めする事が出来…
「なっ!?」
「バーテックスでも千切るのに数秒かかるのにっ!」
なかった。そこに何も無いかのように奴がこっちに向かってきた。
「アクベスっ!さっきのもう一度やるわよ!」
「御意っ!」
アクベスと夏凛ちゃんが奴に向かっていき、得物を振るった。
「イロノ」
「がっ!?」「ごっ…」
が、その刃先が奴に傷を付ける前に奴は剣を振るい二人をぶっ飛ばした。夏凛ちゃんは精霊バリアのおかげで大丈夫そうだけどアクベスは体が欠けている。……これ以上犠牲を出す訳にはいかない。
「フルルァアアアア!!」
「勇者ぁあああ!!!」
「ニズレソオ…カルクテッカムニレワ」
「ギャアアアアッ!」「キィイイイック!」
ガキン! と音がして私の足とレオニスの爪が止められた。目の前で風先輩の精霊が攻撃を止めていた。
「ンラダク。ロセウ」
「ああっ!」「ギャンッ!」
私達は簡単に弾き飛ばされて二人と同じ感じになった。
「まずい!樹ちゃん引いてっ!」
「(ガタガタ)」
東郷さんが命令したけど樹ちゃんは腰が抜けたようで逃げることもままならないようだった。
「クッソ!止まりやがれ!」「せやーっ!」
「ンフ。カノルイテッモオトルケマ、ニグンガナウヨナウヨノコ」
射撃部隊が攻撃してくれてるけど奴が止まる様子は無い。
「止まれ!止まれって言ってんのよ!」
「くっ…!」
今になってなんとか立ち上がれたけどもう奴は樹ちゃんの目と鼻の先。間に合いそうにない。
「ハズマ…ダマサキ」
奴が剣を振り上げた。樹ちゃんの精霊が勇者を守ろうと前に出た。
「イシカザコ」
それに躊躇わずに奴は剣を振り下ろした。ガキンと音を立てて剣は弾かれた。しかしその勢いさえも利用して奴は剣を振り下ろし続けた。ガキン、ガキン、ガキンと音が耳をつんざく。
その間にも射撃部隊は奴に銃撃を行っているが精霊が全て防いだ。何人かは撃ちながらこちらに向かってきているがまだまだ遠い。
「ンフッ!」
気合と共に振り下ろされた剣が精霊バリアを砕いた。精霊がヘナヘナと地面に落ちた。
「ダメドト」
剣が振り下ろされた。もう樹ちゃんを守れる存在は居ない。
ガキン、と音がした。それは骨が砕ける音でも逸れた剣が地面を叩いた音でも無かった。
「……」
「…………大丈夫か?」
アクベスが立っていた。ハサミと盾をクロスさせた状態で彼女を庇っていた。
「…ガメノモカロオ」
奴の剣はハサミを手折り、盾を砕いて、アクベスの上半身を大きく切った所で止まっていた。
「………足掻け。それがお前の姉への礼儀だ」
彼はそれだけ言うと、光の粒子となり奴に吸い込まれていった。
「トア…ツタフ」
また奴は剣を振り上げた。今度こそ樹ちゃんが危ない。
「させるかああああっ!」「グラアアアアアアッ!」「テンメエエエエッ!」
私、レオニス、夏凛ちゃんの協力攻撃だ。これでこの攻撃は止められる。
「ゾイルヌ……グッ!?」
樹ちゃんのワイヤーが奴の右腕をがんじがらめにしていた。そのワイヤーを操る樹ちゃんの目は殺意に染まっていた。
「マサキ……」
ワイヤーはプツリプツリと千切れていたがそれを上回るスピードで別のワイヤーが腕に絡みついていった。どんどんワイヤーが腕に食い込んでいって腕を千切ろうとしていた。もう軽く骨折はしているかもしれない。しかしそれはそれだ。
「忘れてんじゃあないでしょうねっ!」
私達は各々の得物を振るった。奴の精霊に対して私達は三人。必ず誰かの攻撃は通る。そして通ったのは……
「アゥヌッ!」
「パァアアアアンチッ!!」
私の拳だった。