『セイクリッドの現世への適応率』
一応、端末だとか乗り物だとかには慣れた。
けど、やっぱりその他に関してはやっぱり疎い。流行とか。
放課後・勇者部部室
「「はぁ~ぁ……」」
犬吠崎姉妹が同時に溜息をついた。わーお姉妹らしさ全開。
「ゴクッ…。で?人が折角来てやってるのに、何でこの姉妹は溜息なんてついてる訳?」
私は咀嚼していた煮干しを飲みこみ、目の前に居る友奈&東郷コンビに二人について訊いた。
「風先輩は、学園祭の出し物が演劇に決まっから、その台本書くのに詰まってて…」
「樹ちゃんは、今度の音楽に試験が歌唱だから、それが不安で占いを繰り返しているみたい」
二人が息を揃えて答える。まるで夫婦ね…。
「なーんだ。姉妹揃って、そんな下らない事で悩んでんのね」
「うっさい。さっきから横でボリボリと煮干しなんか食べて。これから夏凛の事はニボッシーって呼ぶ!」
「ゆるキャラみたいなあだ名付けるな!」
何がニボッシーだ。馬鹿にしてんのか。
『ニボッシー…、いい名じゃないか。よくお前の事を表現している』
「馬鹿にしてんの!?」
スピカまで同調し始めた。何ソレ!?私が何時でも煮干し食ってるみたいじゃない!
「はぁ~~…、また……死神のカード。何度も何度もやってるのに、その度に…」
ついに樹が机に突っ伏した。…まさかこのカード、甲冑共じゃないでしょうね?
『まぁまぁ!元気出して!そーいうのは気の持ちようだよ!』
「…ありがと」
「そうよ。それに樹は音痴ってワケじゃないから、人前で歌うのに緊張するってだけでしょ?」
『ほほーう!それはイイ事を聞いた!ならば歌ってくれ!俺へのラブソングをっ!』
「うるさいわね、カードのまま破くわよ?」
姉妹&兄弟が喧しく話し合っている。本当に仲良いわね、アイツら。
「あはは……。でも、歌うのは良いと思う。【習うより慣れろ】…だよ!」
えっ?
放課後(ちょっと時間が経った)・カラオケ
「さっ、樹。ここなら誰も聞いてないから、思いっきり練習しなさい」
「え…、み、みんないるよぉ~…」
風は楽しそうに言ったけど、樹はすごく暗く返した。当たり前だ、人前で歌えないのだから。
しかも、どーしてこんな大所帯でボックスに居るのよ!
「樹ちゃん。良い音楽は全てアルファ波で説明がつくの。だからまず、歌声でアルファ波を出す特訓よ」
「そうなんですか!」
「んなワケないでしょ!」
東郷はマジメなのかふざけてるのか分からない時があるから怖い。
「……じゃぁ、樹!早速歌うわよっ!」
そう言って風は選曲のボタンを押した。えーっと…、早春賦?
「…………」
あーあ、膝ガチガチの腕プルプル。この時点でかなり不安。
・・・
「う~ん…。やっぱりちょっと硬いかな」
風が率直な感想を言った。いや、もう。硬い通り越してグニャングニャン。
「誰かに見られていると思ったら、それだけで…」
「重症ね」
「まぁまぁ、とにかく今日は練習練習!好きな歌をバンバン歌って、慣れるのが一番!」
「は、はい。みなさんを付き合わせてスミマセン。私…、できるだけ頑張ります」
「アルファ波よ。アルファ波」
「…アルファ波から離れなさいよ」
どうしてコイツはマジメ顔で言えるの…?
・・・・・・
その後も私達は歌いに歌った。
まぁ、歌ったのは五人だけなんだけどね。騎士共はほぼほぼ無言。
どうしてか訊いてみたら…「ここの流行歌にはまだ疎い」…だって。まぁ、それは仕方ない。
「…友奈!良かったわよ!」
「ありがとうございます!」
…次は、私の番ね。
「……!」
風が懐から端末を取り出した。……やけにじっと見るわね。
「……ごめん。アタシちょっとトイレ」
…これは、アレね。
・・・
”・トイレinカラオケ
私は歌を歌い終え、トイレにずっとこもっている風を見に行った。
……居た。さっきとは大違い。すっごい暗い顔してる。
「大赦から連絡?…私には何も言ってこないのに。まぁ、それでも内容は想像つくけどね」
「バーテックスは残り七体。出現周期が読めない以上、……最悪の事態を…想定しろってさ」
「……仲間の死を恐れてるあんたは、統率役には向いてない。私ならもっと上手くやれる」
「これはアタシの役目で、アタシの理由なのよ。後輩は黙って先輩の背中を見てなさい」
「………フン」
『『……………』』
チッ。面倒だ。硬いのはアンタの方じゃない。
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夜・犬吠崎家
「~~♪」
風呂場から、樹の歌声が聞こえる。…やっぱり上手いじゃない。
『やっぱり、一人で歌うと上手いじゃないか!』
「うぇっ!?聞いてたの!?ひどい…、ブクブクブク…」
ポルクスの野郎、普段は協力的とはいえ、私より先に妹の歌を聞かなかった?許さん。
…ひとまず、樹はしっかりと褒めてやろう。
「そーよ!樹はやれば出来る子なんだから!」
風呂の扉をオープン!わぁ、しっかり入浴中。
「お姉ちゃんまで…、ゴボゴボゴボ…」
樹、ちょっと潜って誤魔化してる。かわいい。
「そーだ。お前は自分が思っている以上にずっとすごい奴なんだ!自信を持て!」
「………。何アンタは樹の裸を見ようとしてんのよっ!」
「あべっ!?」
…持ってて良かった。百均フライパン。コイツはこれがボコボコになるまでシバかなければ。
「……明日のテスト、大丈夫かな~…」
翌日・お昼休み・勇者部部室
「こ、この怪しげな薬品は一体……」
東郷が目の前に並べられたこのサプリの山を見て呟いた。…いや、この量はおかしい。
「薬品じゃなくて、喉に良い食べ物とサプリよ。樹の歌のテスト、6時間目だって聞いたから」
「えっ、私のために…?」
「肺に良いマグネシウム、リンゴ酢。血行にビタミン。喉の筋肉はコエンザイムでオリーブオイ…」
「夏凛ちゃん、良いとこあるぅ!」
「最後まで言わせなさいよ!まぁいいわ。さぁ樹、これ全種類飲んでみて。グイッと」
は?この量を樹に?遂に狂ったか。
「え、全種類…?」
「それはいくらなんでも多過ぎじゃ…。全種類なんて、さすがの夏凛でも無理でしょ~?」
「いいわ、お手本を見せてあげる。全サプリをオリーブオイルとリンゴ酢で飲ぉおおーーむ!」
…わぁ、すっごい。全部飲んじゃった。しかも油イッキ飲み。
「…………」
『お、おい。夏凛。大丈夫か?』
「……そんなわけだから、樹…頑張るのよ。私はちょっと用事を思い出した……」
それだけ言って、夏凛は部室から出て行った。あんなのに付き合わされるスピカも大変ね。
「そりゃ、油イッキ飲みしたらそうなるわ。樹は真似するんじゃないわよ」
「うん…。でも、せっかくだから、いくつかは…。……コクッ。ん、ん…、あ~、あ~」
「どう?何か調子は変わった?」
「分かりません…」
「サプリメントで、そんなに劇的に変わったら世話ないって。それより、リラックスして」
「そうそう。はい、音楽の教科書。もうすぐ、お昼休みが終わるわ」
「頑張ってね、樹ちゃん。きっと、何とかなるよ!」
「ありがとうございます…」
そこで、私達は別れた。
…ニボッシー、どうせなら今度、スケベ癖が抜けるサプリとか持ってこないかしら?
夕方・犬吠崎家
結果からいうと、樹のテストは満足のいくものだったらしい。
その事は、風の噂からも、ポルクスの言葉からも、樹の表情からも明らかだった。
「…………」
「……!」
けど、家に帰って来るなり、樹は部屋に閉じこもり、ポルクスと何かを話し合っている。
喧嘩しているとか、そういう訳ではないようだが、少し不安だ。様子を見に行こう。
「樹、入るわよ」
「入るぞー!」
私は樹の部屋の扉を叩き、中に居るであろう樹に声を掛ける。っていうか、カストル。お前は樹を見たいだけだろうが。…それはさておき、私は部屋の扉を開けた。
「帰ってくるなり部屋に閉じこもって…。いったい、どうしちゃったの?」
「あ…」
樹は私が部屋に入ってくるのを見た後、複雑な表情で机に置いてあるノートパソコンを見た。
「ん…。あのね、お姉ちゃん……。………ありがとう」
「なに、急に…」
「この家のこととか…、勇者部のこととか…、お姉ちゃんにばっかり、大変なことさせて」
「そんなの…。アタシなりに理由があるからね」
「理由…って?」
「なんだっていいんだよ。どんな理由でも。それで頑張れるならさ」
「どんな…理由でも……」
「けど……ごめんね、樹」
「え、なんで…謝るの?」
「樹を…勇者なんて大変なことに巻き込んじゃったから」
「ちょっと前、子猫を引き取りに行った時の事、覚えてる?あの時、あのお家の子……」
「泣いてたよね…すごく。子猫をどこへもあげたくない。自分が面倒見るからって…」
「樹を勇者部に入れろって大赦に命令された時、アタシも……やめてって言えば良かった。あの家の子みたいに、泣いてでも…。そしたら…もしかしたら樹は勇者にならずに…」
「なに言ってるの、お姉ちゃん!お姉ちゃんは…間違ってないよ」
「でも…」
「それに私、嬉しいんだ。守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんと…みんなと一緒に戦えることが」
「あと、私ね…、やりたいことができたよ」
おぉうすごい方向転換。
「やりたいこと?将来の夢でもできたってこと?」
「実は彼女、か…」
「言っちゃ駄目ー!」
「ぐげばっ」
わー樹、いつの間にそんな物騒なパンチを覚えたのかしら?
「……まだ、秘密。恥ずかしいもん。でも…いつか、教えるね」
「おいおい三人共随分と仲が良いじゃあねぇかー!どうして俺とは仲良くしてくれないんだい?」
カストルが慣れ慣れしく肩を組みながら訊いてきた。分かり切ってるだろうが。
「うっさい。アンタは余罪が多すぎるのよ!」
「俺はそこまで悪い事してないよなぁ?な、二人共」
「二人のプライベートにズカズカ入り込む奴が何言ってやがる」
「……気持ち悪いです」
「ごぶぇっ!」
……樹にここまで言わせるなんて何しでかしたのよコイツ。にしてもポルクスも口悪いわね。
「へっへっへ~。そこまで言われるともっとやりたくなっちゃうなー…」
「来ないで兄さん。斬るよ?」
「やってやろうじゃねえかコラ。久しぶりに一稽古つけるか?」
あれ?これなんかマズイ流れ?
「行くよっ!」
「よっしゃあ!」
暴れようとすんな!こんな狭い部屋で!……と、言おうとしたが、その声は端末のアラームに掻き消された。
「「……樹海化警報…!」」
「おっ、ようやく例の樹海化か…。役に立ってやろうぜ、ポルクス」
「分かった。足引っ張らないでよ、兄さん」
すごい。すっごく頼もしい。
「さ、行くわよ。樹」
「うん。お姉ちゃん」
私達は、光に包まれた。
TIPS
『セイクリッドの得物』
原作通りです。知らない人は調べて♡(他人任せ)