『病院』
いろんな病気を治してくれる所。
この話で出てくる病院は基本的に大赦が管理しているので、出入りする人も大赦の人間。
故に甲冑共は普通に出ていても問題無い。
ちなみに、病気に「外傷」は含まれないらしい。
あ、知ってる?そうですか。
昼・病院
「お、友奈も診察終わったのね」
談話室で私は甲冑と一緒に部屋に入ってきた友奈を迎えた。
「はい、バッチリ血を抜かれちゃいました。風先輩、その目は?」
友奈はそう言って眼帯に隠された私の左目を見た。
「フフ、この目が気になるか?これは先の暗黒戦争で魔王と戦った際……」
「嘘こけ。戦ったのはバーテックスだろ?」
「カストルぅ、邪魔しないでよぉー。魔王との戦いで名誉の傷を負ったニヒルな勇者を最後まで演じさせなさい!」
「…何かあったんですか?」
「なんでもないって。ちょっと視力が落ちてるだけ」
「視力が…?もしかして、バーテックスからなにか悪い物でも……」
本当に友奈はマジメちゃんねぇ…。ま、そこが良い所なんだけどね。
「違う違う。体力の消耗からくるものだから、療養したら治るってさ」
「そうなんですか」
「なんたってアタシたち、一気に6体もバーテックス倒しちゃったからねー」
「あ、樹ちゃん。と、ポルクスさん!」
そんな事を話していると、樹&ポルクスコンビが部屋に入ってきていた。
「樹ぃー。注射されて泣かなかった?」
「……」
「樹ちゃん?」
「声が出ないの」
ワタワタしている友奈を見て、アタシは説明した。
「え…」
「…うん」
「アタシと同じ。勇者システムの長時間使用で疲労してるせいだろうって」
「そ、それも休めば良くなるんですよね?」
「それは大丈夫みたい。お医者様が言うには、すぐ治るらしいから」
「じゃあ、大丈夫だよ樹ちゃん!お医者さんが言ってるんだもん」
ポルクスの言葉を受け、友奈は明るく樹に言った。
「お待たせ。東郷を連れて来たわよ」
部屋に入ってきた夏凛が親指で入り口を指した。
「お待たせしました」「待たせたな」
わーお。東郷も歩く車椅子には勝てなかったか。遂に普通に乗り始めたわよ。
「私はまだ少し、精密検査が残っていますが、一応みんなの検査は終了のようです」
「ふぃー。ようやく帰れるのか」
東郷の報告で、アンタレスが嬉しそうな声を出した。
「東郷さん、精密検査って…?」
「心配しないで、友奈ちゃん。元々の脚の検査があるだけだから」
「そっか…」
二人共、こうやってると本当に夫婦みたいよねー。
「全員、とくに問題はない?」
「あ…、風先輩と樹ちゃんが…」
友奈が暗い顔で私達を見る。
「アタシは疲労で疲れが出てるだけだし、樹の声もそのうち出るようになるって」
(コクコク)
アタシは左目に付けた眼帯をトントンと叩きながら言った。
「そうか。なら良いんだが」
スピカが素っ気なく返した。ちょっと冷たいんじゃないのー?
「まぁそれはさておき…!勝ったんだから、お祝いしないとねぇ!」
そう言って、私はビニール袋の中のお菓子や缶ジュースをテーブルの上にぶちまけた。あっコーラが。
「なによ、この大量のお菓子は!……ま、たまにはいっか」
「おー!風先輩太っ腹!」
「こんなにいいんですか?」
「いいのよいいのよ!それではバーテックス殲滅の祝勝会よ!」
東郷の質問に答えた後、私はおもむろに缶ジュースを掴み、掲げた。
「お祝いですね!」
「はい!」
「ほら樹も!」
(セカセカ…)
「勇者部の大勝利を祝って、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
缶が空中でぶつかり、良い音を立てた。私はそれを耳で味わいながら、ジュースを流し込んだ。
「かーっ!美味い!」
「中身本当は四十代じゃねぇの?」
「うっさい!アタシはピチピチの中学三年生ー!」
そう言ってアタシはカストルをぶん殴った。あ、殴って思い出したけど…
「あ、そうだ。これ、新しい携帯。もう勇者アプリは使えないけど、必要でしょ?」
懐から人数分のスマホを取り出し、皆に渡す。
「そっか…。もう勇者になる必要ないから…。でも、牛鬼にちゃんとお別れしたかったな」
「……そ、そう暗い顔をするな。今は勝利の余韻に浸ろう」
「………ありがとう。カウストさん」
あー…気ぃ使わせちゃったなぁ…。そう思うと、自然と手がスナック菓子に伸びる。あ、これ止まんない。
「風先輩。そんなに取ったら友奈ちゃんの分が無くなっちゃいます」
そう言って東郷が私の腕を掴んだ。えっすっごい強い。痛い痛い。
「分かった分かったわよ!ペース下げるから離して!」
「はい!」
ああー…。疲れた。アンタ友奈に関わる事があったらすぐ力強くなるんだから。
「ここまで楽しそうに飲み食いしているのを見ていると、俺達が何も食べられないのが悔しく思えてくるな」
「…それは同意見」
あの兄弟、仲が良いのか悪いのか分かんないわね…。
昼とも夕方とも呼べない時間・病院
「さて。今日はひとまずお開きね!ゴミはこっちで処理しておくから」
「はーい!」「さようなら、風先輩」「またね、風!」
そんな会話をして、私達は別れた。
「…ふぅ。じゃ、アタシ達も帰りましょうか!」
(コクリ)
「…喋れないってのは、不便だな」
「そう気にしないで!ただの疲労だって、お医者さんも言ってたんだから!」
そんな会話をしながら、私達は廊下を歩いた。
「あ。もう出口が近いから、二人はカードに戻ってて」
「分かった」「はーい」
そう言って、二人はカードになり、私達のポケットに収まった。……私のカード、黒ずんでる?後で拭いとこ。
夕方・犬吠崎家リビング
「あぁー…。我が家がやっぱり良いわー。全員が退院したら、学園祭に向けてエンジンかけなきゃね」
そんな事を言いながら、私はゴミを流し台に置いた。
「あー。木の床だぁ。落ち着く」
「カストル。そこで寝るな」
そんな事を話していると、ふと、携帯が着信音と共に震えだした。……東郷?からかってやろ。
「私だ」
『風先輩ですか?』
私が男子力全開のイケボで電話に出ても、東郷はいつも通り話し始めた。
「って、スルーしないでよ。何?東郷」
『満開の後遺症について、話が…』
「え…?満開の後遺症って、いったい何の話……」
私の会話を盗み聞きしていたカストルがピクリと止まり、立ち上がった。
『実は、みんなを見て気付いたんですが、満開を起こした人は全員体の何処かが機能しなくなっているんです」
「え、でも友奈はそんなこと一言も…」
『いつもの痩せ我慢です。みんなに心配をかけたくないから…言い出せなかったんだと思います」
「ごめん…。こんな事になって」
『風先輩が悪いんじゃありません。でも…、大赦から何か聞いていませんか?』
「ううん…。アタシには何も…」
『そうですか。でも、きっと…すぐに治りますよ…ね』
「そう…だよ。病院の先生もそう言ってたことだし…。治るよ、すぐに…。治るに……決まってるじゃない」
『そうですよね。……変な事言ってすいません。私からはこれだけです」
「そっか。じゃ、切るわよ」
そう言って、アタシは電話を切った。
「……………………」
「…治る、か」
カストルが何かを呟いた気がしたが、無視した。話す気持ちには、なれなかった。
―――
夜、私は何故か目が覚めた。晩御飯はちゃんと食べたからお腹は空いてないし、トイレにもちゃんと行ったから、そういう感じのそれも無い。
「--っ……」
とりあえぞ私は伸びをして、何気なくリビングへ行った。
「……」
当然、リビングには誰も居なかったし、灯りも点いてなかった。
「こんな夜中に何してるんだい?」
「!!」
いきなり後ろから声を掛けられて、私は危うく叫びそうになった。まぁ、今は喉が疲れちゃってるから、叫べないんだけどね。振り向くと、ポルクスが居た。
「……。……」
しまった。喋れないって事はお話も出来ない。どうすれば……、あっそうだ。
「……」
私はスマホに文字を打ち込み、ポルクスに見せた。
「えーと、『何故か目が覚めちゃいました』?……そっか」
そう言うと、ポルクスさんは私を玄関まで押していった。
「……!?」
「こういう時にはね、散歩が一番だよ。夜の外ってすごく綺麗なんだ。月が綺麗な時にはもっと綺麗なんだ」
「……」
私は彼の提案を聞き、外へ出た。あれ?そういえば、お姉ちゃんの部屋、開いてたような…
深夜・何処かの道路
確かに、綺麗だ。月明かりが周りの景色を見慣れない物に変えてくれている。そんな中を歩くのは、少し楽しかった。
「……♪」
「どうだい。来て良かっただろう?」
私は彼の言葉に頷く事で返した。
「お気に召したようで良かった」
「「…………」」
私達はそのまま、少し歩いた。
ガシャン、と音がした。何かを倒してしまっただろうか?
「…?」
足元を見ても、辺りを見渡しても、それらしきものは無かった。
「…おい、気を付けろ」
私はポルクスの声で意識を私から周囲に向ける事が出来た。
ガシャリ、ガシャリ、と音がする。その音は近づくでも遠ざかるでもなく、同じ所から響いていた。
「…行くよ。君は逃げる用意をしておいて」
「!?」
私は彼の声のおかげで完璧にスイッチを入れる事が出来た。けど…
「何だい?」
『逃げない。何かあったら私も戦う』
「…そうか。タックルの構えぐらいはとっといてね」
それだけ言って、ポルクスは剣を抜き、音の方へ歩いて行った。私も行こう。
音の源は、ちょっとした路地裏にあった。近づくとその度に、ガシャリという音と、新しく聞こえるようになったニチャリという音が少しずつ大きくなっていった。
「……いた」
ポルクスが指差した先には、月の光を受けて黒光りする、甲冑が居た。
「…お前、何をしている」
その言葉で、甲冑は動きを止めた。それで、音も消えた。
甲冑が立ち上がり、振り向いた。
「俺だよ。俺」
……カストルさんだった。え、何で?
「何でって顔してんな?散歩だよ、散歩。眠れない夜には、こうやって少し体を動かす事が良いんだぜ」
そう言って、愉快に語るカストルさんとは打って変わって、ポルクスさんの肩は震えていた。
「ん?どうした、ポルクス」
「心配かけてんじゃねぇよ!」
それだけ叫んで、ポルクスさんは剣を横に向けて、カストルさんをぶん殴った。
「痛ってぇ!何すんだよ!」
「それはこっちの台詞だ!こんな夜中に一人で抜け出して!」
「あーはいはい悪かったよ!さ、帰ろうぜ?あのコワーい姉ちゃんがまだ寝てる内にな」
そう言って、カストルさんは歩いて行った。
「コイツ…いつかボコボコにしてやる…!」
「………」
怒ってるポルクスさんに続いて、私も歩いて行った。
ピチャリ。そんな音が聞こえた気がした。
TIPS
『■■■■・カストル』
彼女のおかげで彼が■■■■としてのカストルである事は有り得ない。
その筈だった。