『では、卵をボールに割り入れて、他の材料と一緒に混ぜてください』
そう言ってカナンガは卵、砂糖、牛乳、生クリーム、バニラエッセンスを渡した。
アキラはややぎこちない手つきで卵を割っていく。
『あ、カラザはちゃんと取ってくださいね』
「カラザ…ってなに?」
『これです』
そう言ってカナンガは卵の黄身についている白いヒモ状の塊をひょい、と菜箸でつまみあげた。
「ああ、それカラザって言うんだ…。食べられないの?」
『食べられないことはないし、栄養価も高いんですが…。今回の料理の場合、これが残ったままだと食感が悪くなってしまうんです』
「なんだかもったいないね」
『美味しくするための知恵ですよ』
カナンガは用意していた大量のサクランボのヘタを取っている。
「そういえば、なにを作るのか聞いてなかったね」
『クラフティ。フランスの郷土菓子です。色々なフルーツを使えるんですが、せっかくなので旬のサクランボを入れましょう』
カナンガはアキラが作った卵液に薄力粉をふって入れ、さらに混ぜたのちザルでこして耐熱皿に流し込み、その上からサクランボをちょんちょんと置いた。
「お菓子作りするとき、そうやって粉をふったり生地をこしたりする人が多いけど、どうして?」
『ダマを残さないようにするためですね。少しでも残っていると食感が台無しになるので…。先ほどのカラザと一緒です』
耐熱皿をオーブンに入れ、焼き時間を設定してスイッチを入れる。
あとは待つばかりだ。
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―――
――
焼きあがるまでのあいだ、2人はカナンガの淹れた紅茶を飲んで待つことにした。
『さっきのデュエルのことなんですが…』
「あ、うん…」
『いえ、さっきのデュエルに限らず、アキラさんはいつも罠や装備魔法を使ってボクたちを守ろうとしてくれていますよね』
「そりゃ、当然じゃないか。キミたちに痛い思いをしてほしくないもの」
『しかし、それではこのゲームで勝つことはできませんよ』
「でも…」
『ボクたちモンスターは、相手モンスターを倒すことも大切ですが、破壊されること、墓地に送られることだって重要なんです。さっきのカラザと同じです』
「カラザ…?」
アキラの脳裏に、先ほどの卵に付いていた白い塊のことが思い起こされる。
『カラザは卵の黄身が殻に触れないよう、内部で黄身を固定するスプリングの役割を果たしています。しかし、料理となれば真っ先に捨てられてしまうさだめ…』
『それでも…カラザが捨てられることにも、意味があるんです。口当たりの良い、滑らかな生地を作るために』
ちょうどその時、オーブンが音をたてて調理完了を告げた。
焼きたてのクラフティを切り分けながらカナンガが続ける。
『ボクたちのことを大切に想ってくれるのは嬉しいです。でも、ボクたちはアキラさんがデュエルに勝つ姿が見たいんです』
「……」
アキラはしばらく、自分の前に置かれたクラフティをじっと見つめていた。
『本当はこういうこと言うの、照れ臭いんですが…。アキラさんが数あるテーマの中からボクたちを選んでくれたとき、とっても嬉しかったです。ローズなんか大はしゃぎだったんですから』
「え…ローズが?」
『ええ。アキラさんのこと一番気にしているの、ローズなんですよ。…まあ、ああいう性格なので、伝わりづらいと思いますが…』
カナンガ苦笑を浮かべながら、カップに新しい紅茶を注ぐ。
アキラはフォークでクラフティを1きれ、ぱくりと頬張った。
「…おいしい。プリンみたいに素朴な生地だけど、サクランボの酸味が合ってて…」
『クラフティの生地は薄力粉を除けばプリンと全く同じですからね。サクランボは加熱すると酸味が強くなるものがあるので、そういうときは砂糖を少し多く入れるのがコツです』
「…カナンガ」
『はい』
「食べ終わったら、デッキ構築を手伝ってくれない?」
『…はい。任せてください』
「僕、勝ちたい。ううん、次は絶対に勝つ」
アキラの決意を聞いたカナンガは、目を細めながらクラフティのおかわりを皿に取り分けるのだった。