俺が降り立ったのは、どこかの建物の裏だ。さっきの女神の手紙の通りなら、メルロマルクの城下町のはず。…と、城の中にいた時と同じようにどこからともなく紙が出てきた
『ことの運びをスムーズにするために、貴方は前の波で活躍したという事になっています。暫くしたら国の兵士が貴方を呼びに来るはずです。それまでに、私が送った他のフォドラの者と合流してください』
勇者の仲間は募集じゃなくて国側の選別なのか。まあ、既に危機が来ているのが分かっているのに、勇者の仲間に戦闘経験がない者を選べないのもあるだろう
取り敢えず大きい通りに出る。ファーガスの王都、フェルディアとはやはり色々異なるが、街の活気は向こうに劣っていないのは感じられた
さて、確かフォドラからはあと2人来ているんだよな。果たして誰なんだろうか
やはり1番来て欲しいのは先生か。先生がいれば、どんな事でも乗り越えていけると思える。それからドゥドゥー、後はイングリットやアッシュ、アネットやメルセデスも頼りになる。フェリクス…は戦闘だと頼れるが普段は気難しいし、シルヴァンも女癖が不安だ
あるいは元々
だが、元黒鷲のカスパルと元金鹿のラファエルは猪突猛進な所がある。ドロテアはしっかりはしているが、何を考えているのかが俺にはちょっと分からないし、マリアンヌは消極的だ…最近は大分解消してきたが
セイロス教会や騎士団の可能性も勿論あるし、そもそも、俺の知り合いである保証はない。それでも、彼らなら共に戦えると思える
…まあ、ここで考えていても仕方がないか。まずはその誰かを探さなければならない
しかし、探そうにもあてがない。ただ、女神の言伝通りならこの国の兵士が俺を探しているはずだ。となると、1度城の方から離れるべきだろう。そうすれば兵士が来るまでの時間が延び、相対的に探す時間が増える
辺りを見回してどこへ向かうか考える。が、そもそも地理に疎いから、取り敢えずは散策するのが最適解か
と、その時だった
「ディミトリ…?」
後ろから聞き覚えのある、懐かしい声がした。振り返ると、俺の予想した通りの男がそこにいた
フォドラでは珍しい褐色の肌で、黒い髪をオールバックで固め、短い髭をたくわえた顔。黄土色を中心に黒や黄色の入った少しブカブカそうな服を着た男。左の手には銀の弓が握られている
クロード=フォン=リーガン…旧レスター諸侯同盟の盟主・リーガン公であり、戦争中、同盟が王国に属する事になった後に姿をくらました男だ
「おお!久しぶりだな、クロード」
想像とは少し外れたが、頼りになるのは間違いない。気さくに声を掛ける
「お、おう。そう…なのか?」
ん?なんか歯切れが悪いな。何かあったのだろうか
聞いてみようとしたが、そこに同じく聞いた記憶があるが、今度は有り得ない声が聞こえた
「あら、久しぶりねクロード。でも…なんでディミトリがいるの?」
少し灰色がかかった白い髪で、頭には動物の角のような装飾があり、真紅の装束を纏う女。左手には国のシンボルであった双頭の鷲が描かれた盾を持っている
エル…アドラステア帝国最期の皇帝、エーデルガルト=フォン=フレスベルグ。5年以上に及ぶ戦争を引き起こした張本人であり、アンヴァルの宮城で俺が討ったはずの…義姉だ。
「エーデルガルト…」
クロードは驚いたような声を出す。ただ、この場にいることに驚いているのとは、少し違うような感じがする
それにしても、エーデルガルトは俺をまるで死者のような扱いしたな。むしろ俺が殺したはずの彼女が何故ここにいるんだ
「何故俺がいるか、か。その言葉、そのまま返そう。何故ここにお前がいるんだ」
本当なら他の言葉で言いたかったが、クロードがいるとなるとちょっと言い難い。5年前とは状況が違うとはいえあいつの事だ、言葉責めをしてくるのは容易に想像出来る
「あー、よし。どっかで座って少し整理しよう」
俺とエーデルガルトの間に異様な雰囲気が流れ始めたからか、それとも自身も困惑しているからか、クロードは近くの…食堂か?そこに俺達を誘い込む。俺は勿論、エーデルガルトも特に異論はなく、そのままついて行った
「いらっしゃいませー」
店の従業員が笑顔で出迎える。店員は普通の反応だが、既にいた客は、俺達を見た途端ざわめき始めた
「ねぇねぇ、あれって…」
「間違いねぇ。前の波で活躍したって言う…」
ああ、俺は既に実績があるんだった。いや、おそらく2人も同じく波での功労者となっているはずだ。そんな者達が入ってくれば気になるのだろう
空いた席に案内されて、メニュー表を渡された。見た事ない文字…女神のおかげで何と書いてあるかは理解出来た。が、問題は金だ
と、懐を探ってみると、銀色の硬貨が入った袋が出てきた。枚数は少なくともすぐに数えられるような量ではない。よかった。食い逃げしないで済む
「んー、じゃあ日替わり定食ってのを3つ。それでいいか?」
「ああ」
「ええ」
「かしこまりました」
注文を聞いた店員は店の奥に向かっていった。それを見届けてから、他の客に聞こえないよう小さな声で話し始める
「さて…まず、お前らはなんでここにいるんだ?」
切り出したのはクロードだ。俺からも聞きたいが、取り敢えず素直に話すか
「俺は…女神を自称する女から、盾の勇者に力を貸してほしいと頼まれた」
「あら、ディミトリもなのね。私も自称女神から盾の勇者への助力を頼まれたわ。その女神が師を女性にしたような姿なのはあまり気分が良くなかったわね」
あの女神、俺以外にも先生に似た女性の姿で協力を要請していたのか
「俺も同じだな。違うフォドラから2人呼ばれているとも言われた」
「「ちょっと待て/待ちなさい!」」
違うフォドラだと?その話も気になるが、何故クロード…エーデルガルトの反応からおそらくクロードだけがこの事実を知っている。何故女神は…
いや、俺が女神とそう言った話をしたのは俺が転送される直前だ。もしかしたらあの時、途切れ途切れになってしまった話はその部分だったのかもしれない
…なるほど。つまり、そういう事か
今目の前にいるエーデルガルトは、俺や王国軍が戦争で討ったエーデルガルトではない。おそらく、帝国が勝利した世界の彼女だ。そしてクロードもまた、同盟がエーデルガルトを倒した世界のクロードなのだろう
この事は、エーデルガルトもすぐに理解したようだ
「…そういう事ね。つまり、ディミトリもクロードも、私が知る2人とは別なのね」
「そういう事だな。まあ、正直な所ディミトリは本当に別人じゃないのかと疑いたくなったがな」
「確かにそうね。私の知るディミトリは随分と私に対して殺意を持っていたけど、あなたはどちらかと言えば士官学校にいた頃のディミトリがそのまま成長したみたいだもの」
ぐ…痛いところをついてくる。確かに俺自身、グロンダーズの会戦まで自らとダスカーで死んだ者達の為に復讐を…エーデルガルトの首を取る事だけを考えていた。会戦の直後にロドリグが俺を庇って死に、その後先生に励まされて今の状態に至るが、確かにあの頃も、学友に元の俺に戻ったなんてよく言われた。やはり他の世界の俺も同じような感じなのか
「まあ…色々あってな」
今の俺にはこれくらいしか言えなかった。時間があればもう少しゆっくり話してもいいんだが
「お待たせしました。日替わり定食です」
と、ここで料理が届いた。肉を揚げた物に野菜を添えた定食だ
話を一度中断して食べ始める。味覚障害も最近は少しずつ良くなってきたからか、初めて食べる味に少しばかり興奮した
「失礼する!」
食べ終わって話の続きをしようと思った矢先、武装した2人の男が店内に入ってきた。彼らは迷うこと無く俺達の方に歩いてくる
「エーデルガルト=フレスベルグ、ディミトリ=ブレーダッド、クロード=リーガンだな?」
「ええ」
「「ああ」」
「前回の波における功績を認め、貴殿らをこの度召喚された勇者の仲間となる権利を与える!着いてこい!」
権利といいながら実質強制か…
「話はまた時間がある時に、だな」
「そうね。あなた達がどうやって帝国を打倒したのかも気になるわ。とにかく…ここにいる間は、私達は仲間よ」
「ああ。そうだな」
兵士達に従って俺達は代金を払ってから店を出た。いよいよ、この世界での俺達の戦いが始まろうとしていた
ストーリー内で分かる通り、3人はそれぞれ別の世界(フォドラ)出身です。それぞれ
エーデルガルト→紅花の章。フェルディアの戦いから7~9節程経っていて、既に闇に蠢く者達も掃討済
ディミトリ→蒼月の章。アンヴァルでの決戦から半年程経過し、既に王位についている
クロード→翠風の章。ネメシスの撃破から2~3節程度で、あと少ししたらパルミラに渡ろうかと考えていた頃(実際どれくらいで行ったのか分からないので詳しい人いたら教えてください)
と言う感じです。
また、ディミトリが自分の世界で先生にスカウトされた生徒について言及しましたが、各世界でのスカウト結果は下記の通りです
紅花→アッシュ、メルセデス、ローレンツ、レオニー(+デアドラの戦いでリシテア)
蒼月→カスパル、ドロテア、ラファエル、マリアンヌ
翠風→フェルディナント、リンハルト、フェリクス、アネット
基本的には2部の外伝の発生を重視、後は別ルートの動向や級長・ルート限定加入者との支援辺りを見て決めました
ディミトリの味覚障害が治り始めているのは個人的願望が混ざっています
エーデルガルトとクロードのステータスは次回以降に書きます。一応この時点でエーデルガルトはLv65、クロードはLv61です