冒険開始からかれこれ2週間が経った。俺の仲間でいてくれるエーデルガルト達のおかげもあって、なんとかLv10まで上がってきた。60台の3人は未だに同じLvらしいが、まあ俺でも倒せるやつばかり倒していたらそうそう上がらないよな
酒場で飯を食ってから裏路地を通って草原に出るために歩く。表通りだと目立ってしょうがないからな。本当なら別の場所を拠点にしたいが、全員異世界人だから良い場所が思い浮かばない…まあ、俺の悪名の影響もあるだろうし
「お困りのご様子ですな?」
「ん?」
シルクハットっぽい帽子にサングラスをかけ、燕尾服を着た肥満体の、奇妙な紳士と表現するのが適切なやつが声をかけてきた。なんだコイツ、無視するか
「アナタに、いいお話がありますよ」
「なんだ?仲間の斡旋なら間に合っているぞ?」
実際、エーデルガルト達がいれば暫くは大丈夫だと思う。まあ、これ以上仲間が増えそうにないのが癪だが
「仲間?いえいえ、私が提供するのはそんな不便な代物ではありませんよ」
「ほう…?」
「…提供?」
俺と隣にいたクロードが紳士の言葉に反応する。するとそいつはこっちに寄ってきた
「お気になります?」
「近寄るな。気持ち悪い」
「ふふふ、あなたは私の好きな目をしていますね。良いでしょう、お教えします」
変な紳士は手に持っていたステッキを振り回して、高らかにその答えを告げた
「奴隷ですよ」
「奴隷?」
「ええ、奴隷です」
「で、なんで俺が奴隷を欲していると?」
こいつには何か裏があるんじゃないか、という考えが脳裏に宿る
「奴隷には重度の呪いを施せるのですよ。主に逆らったら、それこそ命を代価にするような強力な呪いを。つまり、裏切らない人材になるのです」
なるほど。確かに3人が裏切らないという可能性は0ではない。まあかなり低いと信じたいが…それよりは、いつまでこの世界に留まれるのかが分からないという方が不安だ。そう言う意味でもこの世界に元からいたやつが味方でいるとある程度気も楽になるだろう
「どうです?」
「話を聞こうじゃないか。3人はどうする?」
なんとなくだが、ディミトリはこういうのは好まない気がする
「私は行くわ」
「俺も行こう」
「おっと、なら俺も行こうか」
…まさか全員ついてくるとは
「では皆様、こちらです」
紳士改め奴隷商に案内されて、俺達は移動を開始した
異様な歩幅のスキップで進む奴隷商の後を追うように、城下町の裏路地を歩く。なんというか、この国の闇も深いようだな
「こちらです。皆様」
「へいへい」
案内されたのはサーカスのテントのような小屋だ
「さて、ここで一応尋ねておくが、もしも騙したら…」
中に入ってから、奴隷商に威圧をかける
「巷で有名なバルーン解放でしょうね。そのドサクサに逃げるおつもりでしょう?」
バルーン解放。そんな名前が付いていたのか
まあ、舐められるわけにはいかないからな。揃いに揃って盾の勇者相手だからと調子に乗ってやがるし
「勇者を奴隷として欲しいと言うお客様はおりましたし、私も可能性の一つとして勇者様にお近付きしましたが、考えを改めましたよ。はい。あなたは良いお客になる資質をお持ちだ。良い意味でも悪い意味でも」
「は?どういう意味だ?」
「さて、どういう意味でしょう」
なんだコイツ…つかみどころがないな
ガチャンと音を立てて、テント内の厳重に区切られた一角を仕切る扉を開けられた
「うっ…」
漂う異臭やその雰囲気にエーデルガルトが思わず1歩下がった。あまり環境が良くないのはすぐに分かった。幾重にも檻が設置されていて、中には人型の影が蠢いている。
「早速ですが、こちらが当店でオススメの奴隷です」
紹介された檻に、俺とクロードが近付く。エーデルガルトとディミトリは少し離れた所から見ている
「グウウウウ…ガア!」
「おいおい、人間じゃないぞ?」
クロードが奴隷商に問いかけ、俺も無言で頷く。檻の中にいたのは、わかりやすく言えば狼男だ。そいつが唸り声をあげて暴れている
「獣人ですよ。一応、人の分類に入ります」
「獣人ね」
ファンタジーでは主に敵として出てくる種類の人種だよな
「俺は勇者で、こいつらもかなり遠くからの旅人なんだ。それでこの世界に疎いんでね。詳しく教えてくれないか」
他のクソ勇者どものように俺は世界に詳しく無い。確かに町を見ていると、時々犬の耳をした人種や猫の耳を生やした奴を見かけることがある。本当にファンタジーみたいな世界だなーとは思うが、思っていたよりは数が少ない
「メルロマルク王国は人間種至上主義ですからな。亜人や獣人には住みづらい場所でしてね」
「ふーん…」
「…チッ」
何故かディミトリが舌打ちしたが、気にしないでおこう
城下町では亜人・獣人を見かけるが確かに旅の行商か冒険者崩れ程度しか見かけない。つまり差別されていて、まともな職には就けないという事か。
「で、その亜人と獣人とは何なんだ?」
「亜人とは人間に似た外見であるが、人とは異なる部位を持つ人種の総称。獣人とは亜人の獣度合いが強いものの呼び名です。はい」
「なるほど、カテゴリーでは同じという訳か」
「ええ、そして亜人種は魔物に近いと思われている故にこの国では生活が困難、故に奴隷として扱われているのです」
要するに、人じゃなくて魔物であると言う認識が出来て都合が良いって事なのだろう
「そしてですね、奴隷には」
パチンと奴隷商が指を鳴らすと、奴隷商の腕に魔法陣が浮かび上がり、檻の中の狼男の胸に刻まれている魔法陣が光り輝いた
「ガアアア!キャインキャイン!」
狼男は胸を押さえて苦しみ、悶絶して転げまわる。もう一度奴隷商がパチンと鳴らすと、狼男の胸の魔法陣は輝きを弱めて消えた
「このように指示一つで罰を与えることが可能なのですよ」
「へぇ。中々便利な事で」
奴隷商の解説にクロードが感想を述べる
「俺達も使えるのか?」
「ええ、指を鳴らす以外にも条件を色々と設定できますよ。ステータス魔法に組み込むことも可能です」
「ほう…」
さっきのクロードの台詞ではないが、随分と便利な仕組みをしているな
「一応、奴隷に刻む文様にお客様の生体情報を覚えさせる儀式が必要でございますがね」
「奴隷の飼い主同士の命令の混濁が無いために、ってところか?」
「ええ。物分りが良くて何よりです」
奴隷商は不気味な笑みを浮かべる。やっぱり変なやつだ
「まあ良いだろう。コイツは幾らだ?」
「何分、戦闘において有能な分類ですからね…金貨15枚でどうでしょう」
金貨15…銀貨だと1500枚分か。3人の所持金がそれぞれ銀貨300枚弱のはずだから、2週間で稼いだ分を含めても足りないな
「相場が良く分からないが…相当オマケしているのだろうな?」
「勿論でございます」
「…買えないのを分かっていて、わざと1番高いのを紹介したな?」
「はい。アナタはいずれお得意様になるお方、目を養っていただかねばこちらも困ります。下手な奴隷商に粗悪品を売られかねません」
怪しいが、まあ確かに一理ある。奴隷商人のお得意さんになるのも癪だが、現状が変わらない限り仲間を奴隷で補わないとならなさそうだ
「参考までに…この奴隷のステータスはこちらでございます」
奴隷商が小さな水晶を俺に見せる。するとアイコンが光り、文字が浮かび上がった。
戦闘奴隷Lv75 種族 狼人
その下に取得技能やスキルが羅列されている
75…俺の約7倍で、1番高いエーデルガルトよりも10高い。強さは申し分ないだろうが…金銭の割に合うかと聞かれれば怪しいラインか。健康状態も良くなさそうだし、命令を聞いても何かしら支障が出てきそうだ。おそらく迷惑料を差し引いてこの値段だろう
「元々コロシアムで戦っていた戦闘奴隷なのでしたがね。足と腕を悪くしてしまいまして、処分されたところを拾い上げたのですよ」
ふむ…要するにLvに似合わない粗悪品って事か
「さて、一番の商品は見てもらいました。お客様はどのような奴隷がお好みで?」
「絶対条件は安い奴。それから、まだ壊れていないのが良いな」
「となると戦闘向きや肉体労働向きではなくなりますが? 噂では…」
「俺はやっていない!」
「ふふふ、私としてはどちらでも良いのです。他には何かありますかな?」
「変に家庭向きも困る。性奴隷なんて持っての他だ。あくまでも戦わせるんだからな」
「ふむ…噂とは異なる様子ですね勇者様」
「…俺はやってない」
チッ…どいつもこいつも、俺を性犯罪者にしたがる
「性別は?」
「出来れば男が良いが問わない」
「ふむ…些か愛玩用にも劣りますがよろしいので?」
「見た目を気にしてどうする。さっきも言ったが戦闘用だ」
「Lvも低いですよ?」
「戦力が欲しいなら育てる」
「…面白い返答ですな。そこの御三方以外の人を信じておりませんのに」
「人じゃないんだろ? 物を育てるなら盾と変わらない。裏切らないのなら育てるさ」
「これはしてやられました。はい」
ふと後ろを見ると、何とも微妙な顔でエーデルガルトとディミトリといつの間にか2人の横に移動していたクロードが…いや、クロードだけ何か考えるような表情でこっちを見てる
3人には悪いが、今の俺達が戦力を増やす為にはこうするしかないからな
「ではこちらです」
奴隷商に案内されて、俺達は再び歩き出した
数分歩くと、今までの成人前後のものから子供や老人の奴隷が増えてきている。どうやらこの辺りがやつの言う戦闘や肉体労働に向かない奴隷の区画のようだ
「ここが勇者様に提供できる最低ラインの奴隷です。はい」
そう言って奴隷商が指さした檻は3つ。1つ目は片腕が変な方向に曲がっているウサギ耳を生やした男。外見年齢は20歳前後か。2つ目はガリガリにやせ細り、怯えた目で震えながら咳をする、犬にしては丸みを帯びた耳を生やし、妙に太い尻尾を生やした10歳くらいの少女。3つ目は妙に殺気を放つ、目が逝っている…どこか人っぽいリザードマンだ
「左から遺伝病のラビット種、パニックと病を患ったラクーン種、雑種のリザードマンです」
リザードマンは雑種、混血か。通りで人っぽいわけだ
「全員、何かしらの問題があるんだな」
「勇者様のご指名のボーダーを満たせる範囲だと、ここが限界ですな。これより低くなると…」
クロードと応答する奴隷商がチラリと奥を見る。この奥は…やめておこう。死の匂いとでも言うのか、そういうのが濃い
と、その流れで周りを見回すと、いつの間にかエーデルガルトとディミトリがいなくなっていた
「クロード、2人は?」
「エーデルガルトは外で待ってるって青い顔で出ていったな。ディミトリはその付き添いだ」
まあ…仕方がないか。流石に皇族王族には馴染みがないのだろう。そもそもフォドラとやらで奴隷制度があるのか知らんが
ただ、戦力としてどいつがいいかを見るのも任せたかった。3人はそれぞれ軍の大将をしていたらしいから、人を見る目は優れているはずだ
「ちなみに値段とLvは?」
「値段は左から銀貨25枚、30枚、40枚、Lvは5、1、8となっております」
金額でみればラビット種、即戦力としてはリザードマンか
「クロード。お前ならどいつがいい?」
ディミトリ曰く、クロードは武芸は勿論、策略にも長けると言う。それだけ見る目があるなら、俺の独断よりもクロードに聞いた方が確実だろう
「んー、そうだな…」
そう言って前に出て、奴隷候補を凝視するラクーン種…タヌキとかアライグマの系列か?の少女はビクビクして、他の2人は無反応だ
「…こいつかな」
そう言って指さしたのは、ラクーン種の少女だ
「リザードマンとやらは今の状態からまともに戦わせられるようになるかが怪しい。ラビット種はそこら辺は大丈夫だろうが…片腕が使えないのが厄介だな。武器の選択肢が狭まるし、バランスをとるのにも苦労するはずだ」
つまりは消去法って事か…でも、見ていると何となく支配欲が湧く。あのクソ女を奴隷にしていると考えればいくらか気が紛れるだろうか
「…分かった。こいつにしよう」
「なんとも邪悪な笑みに私も大満足でございますよ」
いつの間にか表情の出ていたのか
奴隷商は少女を檻から出し、首輪を付けた
「ヒィ!?」
ラクーン種の少女の怯えた目を見て、何となく満足してきたな。クロードがやれやれと大袈裟な動きをしているが、知ったことでは無い
来た道を戻って、テント内の少し開けた場所で、インクの入った壺を持った奴隷商の部下らしき男がやってくる。さっき言ってた儀式とやらの為か
奴隷商はインクを少量、小皿に移してから俺に差し出してきた
「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です」
「はいよ」
魚の解体などで使っている作業用ナイフを自分の指に軽く突き立て、出てきた血をインクに垂らす。奴隷商はそのインクを筆で吸い取り、女の子が羽織っていた布を部下に引き剥がさせて、胸に刻まれている奴隷の文様に塗りたくる。
「キャ、キャアアアアアアアアア…!」
少女の悲鳴を他所に、奴隷文様が光り輝き、それと同時に俺のステータス魔法のアイコンが点灯した
奴隷を獲得しました。使役による条件設定を開示します。
その下に色々な条件がズラーッと並んでいる。罰則もある程度自分で決められるようだ。俺はざっと目を通し、寝込みに襲い掛かるや、主の命令を拒否するなどの違反をした場合、激痛で苦しむように設定する。
ついでに同行者設定もチェックする。名前が分からないからか奴隷Aと書かれている。
どうやら任意で条件を変更できるようだから、後で細かく指示するとしよう。
「これでこの奴隷は勇者様の物です。では料金を」
「ああ」
俺は奴隷商に銀貨31枚渡す。
「1枚、多いですよ?」
「この手続きに対する手数料だ。搾り取るつもりだったんだろう?」
「…よくお分かりで。まあ、良いでしょう。こちらも不良在庫の処分が出来ました故」
「ちなみに、あの手続きはどれくらいなんだ?」
「ふふ、込みでの料金ですよ」
「どうだかな」
やっぱり油断出来ないな。この商人
「では、またのご来店を楽しみにしております」
「ああ」
「今度は他の御三方にもご利用していただきたいものです」
「丁重にお断りさせてもらうよ」
俺とクロードは少女を連れてサーカステントを後にした
テントを出たところで、エーデルガルトとディミトリに合流した
「…その子が奴隷?」
「ああ。えっと…名前はなんだ?」
少女に問いかけるが
「…コホ…」
咳き込むだけで答えようとしない。だが、それは悪手だ。今のこいつは俺の奴隷。命令違反には激痛が伴う
「ぐ、ぐう……」
奴隷は胸を押さえて苦しむ
「ほら、名前を言え」
「ラ、ラフタリア……コホ、コホ!」
「そうか、ラフタリアか、行くぞ」
苦しみが収まり呼吸を整えた少女、ラフタリアの手を取って歩き始める。エーデルガルトやディミトリは複雑な顔をしながら、クロードは表情を変えずに俺の後を着いてきた
原作より尚文のLvは多少高いです(今後、ラフタリアやフィーロも含めてその傾向が暫く続くと思います)