アイドルヒーローズネメシス   作:闇の皺

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 バトル再開します。


第10話 ライブシアターの戦慄①

 スポットライトの明かりが、アイドルたちのシルエットを闇の中に際立たせた。

 

 ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 同時に歌と歓声がシアターを揺るがし、鼓動が、足音が、波となって一気に舞台へ押し寄せてくる。

 

「プロデューサーのみなさん、こんばんわー!」

 

 歌織の声が、客席の奥まで響き渡った。

 リズミカルに振られるサイリウムが、カーテンのように揺らめく。

 

 舞台袖ではストラテジーこと律子が、じっとその様子を眺めていた。

 

「うん、順調ね」

 

 アイドルたちの歌声は澄み渡り、日ごろの練習の成果を遺憾なく発揮している。

 この調子でいけば、歌織のティアラ章叙勲式典もさらに盛大になるだろう。

 

 しかし、それは唐突に起こった。

 

 バツン!

 

 突然照明が落ち、劇場内が闇に覆われる。

 

 ザワ―――。

 

 客席にどよめきが走った。

 歌織は素早くマイクを取り、落ち着いた口調で呼びかける。

 

「みなさん、急に暗くなっちゃってごめんなさい。すぐ点きますので少しの間だけお待ちください」

 

 不安そうにしているのは観客だけではない。 アイドルたちの中にも、心配そうな表情を浮かべている者がチラホラ見受けられる。

 

《歌織さん、MCでつないでください》

 

 インカムを通じて、律子が指示を送った。

 歌織は片目を閉じ、舞台袖にOKのサインを送り返す。

 

「えー、皆さん。それではここで、初参加のバックダンサーの子をご紹介しましょう」

 

 パッ。

 

 話し始めたところで、照明が一斉に明かりを取り戻した。

 スポットライトの温かさに、アイドルたちもホッと胸を撫で下ろす。

 

《歌織さん、そのまま紹介続けてください。終わったら次の曲いきます》

 

 舞台装置が動き始め、スタッフが慌ただしく駆け出した。

 歌織はマイクを握り、すっと息を吸い込む。

 と、その時。

 

 カサ――。

 

 手の中で、何かが動いた。

 

 違和感に首をひねりながら、指を開いて中を見る。

 

(え……? 何、これ……?)

 

 手の平には、いつの間にか小さな紙切れが握られていた。

 紙片には、掠れたインクで文字が書きつけられている。

 

「ウ」「シ」「ロ」「ヲ」「ミ」「ロ」

 

(――――!?)

 

 その時になってようやく、歌織は客席の異変に気が付いた。

 

 ざわざわ……。ざわざわ……。

 

 停電から復旧したのに、不安そうな声が鳴りやまない。

 観客は、みな自分のほうを見てざわめいている。

 

(何を見ているの? わたし……?)

 

 いや、違う。

 視線はもっと奥に向けられている。

 

(わたしの、背後……?)

 

 ゆっくりと、振り返った。

 そして、息を飲み込む。

 

(ど、どういうこと……?)

 

 後ろには、何もなかった。

 

 いや、何もなかったわけではない。

 正確には、そこにいるべき人物が、いなくなっていた。

 

 背後に並んだバックダンサーたち。

 その列が、ポツリと隙間を開けている。

 

(わたしが紹介しようとした子が、いない?)

 

 他のバックダンサーたちは、おろおろと周囲を見回していた。

 彼女たちにも状況がつかめていないらしい。

 

(停電中に舞台袖へ戻った? けど、それだったら周りに声をかけていくはず……)

 

 まさか、これは……。

 

「きゃああああああああああああああ!!」

 

 突如、客席で鋭い悲鳴が上がった。

 

 バン!

 

 同時にホールドアが開かれ、赤いベレー帽をかぶった男たちが会場内へなだれ込んでくる。

 

「あれは……デストルドー!!」

 

 恐慌状態に陥った観客が、我先にと出口のほうへ駆け出した。

 

 ワァァァアァアァァァァァ!!!!

 

 怒号が飛び交い、押しのけられた女性や子供が通路に倒れ込む。

 

「まずいわ……杏奈ちゃん、避難誘導を!」

 

 振り返ったところで、歌織はピタリと立ち止まった。

 

「杏奈、ちゃん……?」

 

 杏奈がいない。

 ついさっきまで隣にいたはずなのに、影も形も見当たらない。

 

「ど、どういうこと……?」

 

 一人ずつ消えていく。

 目を離した瞬間に、痕跡すら残さず消えていく。

 

(彼女たちは、一体どこへ……?)

 

 周囲を見回したところで、歌織の目が舞台セットの一つに吸い寄せられた。

 

「あれは……」

 

 宝箱を模した小道具。

 その中から、細い腕がにょきっと突き出ている。

 

 白いグローブに、紫のリボン。

 あの衣装は、まさか……、

 

「杏奈ちゃん!?」

 

 歌織は慌てて宝箱へ駆け寄った。

 その瞬間、

 

 ズル―――、

 

 中からもう一本の手が伸び、杏奈の細い腕を箱の内側へ引きずり込む。

 

「待っ―――」

 

 バタン。

 

 呼び止める間もなく、宝箱の蓋は閉じられた。

 舞台の上で、歌織は呆然と立ち尽くす。

 

(これは……デストル怪人の攻撃!)

 

 そうとしか考えられなかった。

 あの箱の中にはデストル怪人が……それもかなり危険なスキルを持った怪人が潜んでいる。

 

 歌織は振り返り、桃子に声をかける。

 

「桃子ちゃん、この場の指揮をお願いしていい?」

「いいけど、歌織さんは?」

「わたしは、あの怪人を叩くわ……!」

 

 歌織の答えに、桃子は驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか、一人で戦うつもり?」

「ええ。これ以上戦力を分散させるわけにはいかないもの。それに、居場所が分かっている今こそ攻撃のチャンスよ」

 

 一瞬だけ考え込み、桃子はすぐに頷いた。

 

「分かったわ。そういうことならあの敵は歌織さんに任せる。観客の避難と戦闘員のお掃除は、桃子に任せてちょうだい」

「ありがとう!」

 

 歌織は片目を閉じ、宝箱のほうへ向き直った。

 

「隠れているのなら出てきなさい! そこにいるのは分かっているのよ!」

 

 声がステージの奥へ吸い込まれていく。

 

 返事はない。

 あくまでも白を切り通すつもりのようだ。

 

(下手に攻撃すれば、杏奈ちゃんにも怪我をさせかねないわ。けど、このまま睨み合っていても埒が明かない……)

 

 決意を固め、じりっと足を踏み出した。

 

(だったら、先手必勝……!)

 

 拳を握り締め、右腕にエネルギーを集中させる。

 

「くらえ!」

 

 気合一閃、

 

「キネティック・パンチ!!」

 

 拳圧が空を裂き、宝箱の蓋を吹き飛ばした。

 蝶番が外れ、床の上でガランと音を立てる。

 

「さあ、出てきなさい!」

 

 すかさず反撃に備え、身構えた。

 

(……………)

 

 だがいくら待っても、敵は姿を現さない。

 

(まだ隠れているつもり……?)

 

 警戒しながら、そろりと足を踏み出した。

 拳を構え、じりじりと歩を進める。

 

(あの中に、敵と杏奈ちゃんが……)

 

 蓋がなくなった宝箱に、そっと近付く。

 ごくりと唾を飲み込み、中を覗き込む。

 

 次の瞬間――、

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