アイドルヒーローズネメシス   作:闇の皺

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第16話 デストルドー地下基地 潜入作戦③

「ジョーカーよ、今回の作戦で、お前に指示しておいたことがあったはずだ。その件はどうなった?」

 

 仮面の参謀が、にぃっと口角を上げた。

 

(指示しておいた件? 一体何のこと?)

 

 机の下で、歌織はぐっと拳を握り締める。

 

 桃子のスキル【ラストアクトレス】は、外見や声色を完璧に真似ることができるが、記憶までは読み取れない。

 

(歌織さん、どうしよう……)

 

 桃子の腕が、恐怖を伝えてくる。

 歌織は目を閉じ、思考をフル回転させた。

 

(相手はカマをかけている可能性がある。かと言って、指示を問い返せばますます疑われてしまう……)

 

「どうしたジョーカー、早く答えろ。これでもわたしは忙しい身なんだ」

 

(助けて、歌織さん……)

 

 震える脚が、必死に救いを求めてくる。

 

 こうなったら……、

 

《桃子ちゃん、いまからわたしが言うとおりに答えて――》

 

 指文字を読み取った桃子は、ピクリと頬を震わせた。

 

《本当にその答えで正解なの、歌織さん?》

《いえ、正解かどうかは分からないわ》

《え?》

《けど……不正解ではないはずよ》

 

 歌織の言葉に、桃子はごくりと唾を飲み込む。

 そして顔を上げ、白いマスクを正面から見据える。

 

「……ご指示とおっしゃいますのは、ヒーローズを捕獲してこい、というご命令のことでよろしかったでしょうか?」

 

 冷笑がぴたりとやんだ。

 サーバールームの温度が一気に下がる。

 

 歌織は息を潜め、「あの時」のことを思い出した。

 

『――おとなしく液体になってください。あなたを捕まえてこいと、上から命じられています』

 

 シアターで戦ったとき、ジョーカーはたしかにそう言った。

 それが特務参謀の言う「指示」のことかどうかは分からないが、少なくとも下された命令の一つであることに間違いはないはず。

 

(さあ、どう反応する?)

 

 桃子の手が、小刻みに震えていた。

 腕を伝った汗が、ポタリと床に落ちる。

 

「ふう」

 

 仮面の下で、特務参謀が大きく息を吐き出した。

 

「……何を言っているんだ、お前は?」

「――――!?」

 

 一瞬で全身から血の気が引いた。

 

(まさか……間違えた!?)

 

 首筋がチリリと灼け、手の平から汗が噴き出す。

 

「まったく……あんな大切な指示を忘れるとは、嘆かわしい限りだ」

 

 コツ、コツと床を打ち鳴らしながら、特務参謀が近付いてくる。

 蛇に睨まれた蛙のように、桃子は一歩も動くことができない。

 

「いいか、わたしの指示は『ヒーローズを捕えてこい』などという漠然としたものではない」

 

 少女の前に立った特務参謀は、人差し指をピッと薄い胸に突き付けた。

 

「わたしが捕えてくるよう命じたのは……『歌織』一人だけだ!」

「――――!?」

 

 机の下で、歌織は驚愕に目を見開いた。

 

(わ、わたしを? どうして……!?)

 

「さあどうなんだ、歌織は捕獲できたのか?」

 

 詰問された桃子は、カラカラに乾いた喉で答える。

 

「も、申し訳ございません。あと一歩のところで……取り逃がしました」

 

 ため息をつき、特務参謀はくるりと背を向けた。

 

「もういい。貴様には失望した」

 

 吐き捨てるように言い、チラリと時計を見やる。

 

「時間だ。戻るぞ」

「はっ!」

 

 呼びかけられた将校は、サッと挙手の敬礼を取り、回れ右する。

 

(たす、かった……)

 

 歩き出した二人の背中を見て、桃子はホッと息を吐き出した。

 握り締めていた手を緩め、にじんだ汗を指でこする。

 

「おっと、そうだ」

 

 不意に特務参謀が足を止め、くるりと振り返った。

 

「一つ、大事なことを忘れていた」

 

 言いながら、大股で引き返してくる。

 

「…………?」

 

 訝る桃子の前に立ち、仮面の参謀はそっと懐へ手を差し込んだ。

 

「受け取れ」

 

 そのまま黒いダガーを抜き取り、少女の胸にズブリと突き立てた。

 

「え……!?」

 

 何が起こったかも分からず、桃子はパチクリと瞬きする。

 

 太いブレードが、みぞおち深く突き刺さっている。

 強張った筋肉が、ギチリと刀身を咥え込んでいる。

 

 ズル――。

 

「ごぼっ」

 

 ダガーを引き抜くと、細い体がゆっくり地面に沈み込んだ。

 

 ドサッ!

 

 血溜まりが広がり、サーバーラックの下へ吸い込まれていく。

 

 シュウウゥゥゥ……。

 

 スキルの効果が解け、手足が風船のように縮んだ。

 

「ほう、珍しいスキルだな」

 

 元の姿に戻った桃子を見て、特務参謀が興味深げにつぶやく。

 

「ぐ……ゴボッ! ど、どうして……変身は……完璧、だったのに……」

「ああ、完璧だったさ。お前が変身していたとはまったく気付かなかった」

「じゃあ、なぜ……」

 

 血まみれの少女を見下ろしながら、仮面の参謀はフンと鼻を鳴らす。

 

「なあに、わたしは敵に捕まるような役立たずを生かしておくほど、お人好しではないということだ」

「――――!?」

 

 桃子は愕然と目を見開いた。

 つまりこいつは、最初から自分を生かして帰す気などなかったのだ。

 

 二人のやり取りを見て、歌織はわなわなと全身を震わせていた。

 突然の出来事に理解が追い付かず、凍り付いたように身体が動かない。

 

「さて、次はこちらの質問に答えてもらうぞ。潜入したのはお前一人か? それとも、他に仲間がいるのか?」

 

 問われた桃子は、かすれ声で答えた。

 

「桃子は……一人よ。あんたたちを倒すのなんて、桃子一人いれば……充分、なんだから……」

 

 ため息を吐き出し、仮面の参謀はやれやれと肩をすくめる。

 

「ウソが下手なやつだな。歌織も一緒に来ているんだろう?」

「――――!?」

 

 相手の反応を見て、特務参謀は「図星か……」とつぶやいた。

 

「痛い目を見たくなければ奴の居場所を教えろ。正直に言えば助けてやる」

 

 答える代わりに、桃子はペッと唾を吐き出した。

 

「冗談、でしょ……。誰が、言うもんですか……」

「フッ、強情なやつだ。しかし、その強気がいつまで続くかな」

 

 言いながら、特務参謀は桃子の太ももに、つつ……とナイフを這わせた。

 

「…………っ!」

 

 冷たい感触が敏感な肌を撫で、少女はぞくりと背筋を震わせる。

 

「さあ、歌織の居場所を言え」

 

 刃先が脚を這い上がり、スカートの中へ潜り込んだ。

 そこで仮面の参謀は腕に力を込め、内太ももの付け根にぐっとナイフを押し込む。

 

「ぎ……やあああぁぁぁぁあぁぁ!!!!」

 

 絶叫が冷たい壁に反響した。

 

「安心しろ、動脈は避けている」

 

 ゴリリ……。

 

「い、ぎぃいぃぃぃいいぃぃぃ!!!!」

 

 身体がエビのようにのけ反り、痙攣した手足が床を叩く。

 

「どうした、まだ言わないのか?」

 

 サディスティックな笑みを浮かべながら、特務参謀は血まみれの刃をさらにねじ込んだ。

 再び悲鳴が起こり、少女の眼球がぐるりと裏返る。

 

 とその時――、

 

「やめなさい!」

 

 机の背後から、白い影が立ち上がった。

 特務参謀はフンと鼻を鳴らし、ナイフを引き抜く。

 

「なんだ、もう出てきたのか。つまらん」

 

 歌織は返り血で染まった仮面を睨み付け、ギリリと奥歯を噛み締める。

 

「わたしはここよ。それ以上桃子ちゃんを傷付けることは許さないわ」

 

 冷笑を浮かべながら、特務参謀はナイフの腹でペチペチと桃子の頬を叩く。

 

「ほう、どう許さないと言うんだ? えぇ?」

「くっ……!!」

 

 歌織は目を閉じ、観念したように拳を緩めた。

 

「ここにメインサーバーからダウンロードしたデータがあるわ。これで満足でしょ?」

 

 差し出された小型端末を見て、特務参謀は小さく肩をすくめる。

 

「いいだろう。よし、この女を縛り上げろ」

「はっ!」

 

 命令された将校が、素早く歌織の背後へ回り込んだ。そして強化プラスチック製のハンドカフを取り出し、手首をきつく固定する。

 

「おい、口にも布をねじ込んでおけよ。こいつのスキルは歌をトリガーに発動する」

「はっ!」

 

 男がポケットからハンカチを取り出すのを見て、歌織は抗弁の声を上げた。

 

「待って! 桃子ちゃんを医務室へ運ぶのが先よ!」

「うるさいやつだな……」

 

 特務参謀は、面倒臭そうにため息をついた。

 

「だったらこれでどうだ?」

 

 言いながら、握ったダガーを真っ直ぐ振り下ろす。

 

 ドス。

 

「え――?」

 

 黒い刃が、少女のこめかみを貫いた。

 細い手足がびくんと震え、脂っぽい血が、リノリウムの床に広がる。

 

「な……んで………」

 

 歌織はぺたりとその場に座り込んだ。

 魂が抜けたように、呆然と赤い血溜まりを見詰める。

 

「フッ、放心するのはまだ早いぞ」

 

 特務参謀はニヤリと口元をゆがめ、部下のほうへ振り返った。

 

「おい、廊下で寝ている奴もここへ持ってこい」

「はっ!」

 

 命令を受けた将校は、サッと部屋の外へ走り出る。

 

 間もなく通路の奥から、何か重いものを引きずるような音が聞こえてきた。

 

「運んでまいりました!」

「ご苦労」

 

 サーバールームの真ん中に投げ出された「それ」を見て、歌織はさらに身を強張らせる。

 

「あ……杏奈……ちゃん?」

 

 菫色の髪の少女が、虚ろな瞳で天井を眺めていた。

 額には丸い銃創が開き、溜まった血液がゆらゆらと波打っている。

 

「どうだ歌織、わたしからのプレゼントは」

 

 特務参謀の声が、耳の奥でこだました。

 歌織は全身を震わせながら、杏奈の遺骸にすり寄る。

 

「どう……して……、こん……な………」

 

 特務参謀は酷薄な笑みを浮かべ、薄い唇を開いた。

 

「なあに、すべてお前のためだ」

 

 その瞳は、狂気を帯びてギラギラ輝いている。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか」

 

 言い終えると同時に、軍服の少女は将校の手からハンカチを奪い取り、歌織の口へねじ込んだ。

 

「むぐっ!?」

「さあ、おしゃべりの時間はおしまいだ。お待ちかねの宴を始めるとしよう!」

 

 そのまま強引に相手を押し倒し、グイッと襟を引っ張る。

 

 ビリリ!

 

 ボタンがはじけ飛び、白い胸元が露わになった。

 

「―――――!?」

「か、閣下!? 一体何を……!?」

 

 驚く部下に向かって、特務参謀は冷たく言い放つ。

 

「お前、この女を犯せ」

「え!?」

 

 常軌を逸した命令に、将校は困惑の表情を浮かべた。

 

「あ、あの……それはどういう意味で……?」

「言葉通りの意味だ。分からんか?」

 

 言いながら、特務参謀は細い指を乳房の下に這わせる。

 

「……………ッ!」

 

 歌織の美しい顔が、恥辱の色に歪んだ。

 

「フッ、無駄な抵抗は考えるなよ。わたしのスキル【未来飛行】の能力は、お前もよく知っているだろう」

 

 仮面の参謀は立ち上がり、再び部下を叱咤する。

 

「さあ、早くしろ!」

「し、しかし……」

「命令だ、やれ!」

 

 「命令」という言葉に、将校は不承不承頷いた。

 

「わ、分かりました……」

 

 ごくりと唾を飲み込みながら、男はじり、と歌織ににじり寄る。

 

「……………ッ!」

 

 艶めかしい肢体が、蛍光灯の下で後ずさった。

 最初はいやがっていた将校だったが、いざ美しい女囚を前にすると、むらむらと情欲が湧き上がってくる。

 

「すまんな、俺も命令には逆らえないんでね……」

 

 言い訳がましいセリフを述べ、男はガバッと歌織の上へ覆いかぶさった。

 

(―――――!?)

 

 節くれだった指が、豊かな乳房を荒々しく揉みしだく。

 

「……………ッ!!」

 

 スカートの内側に、男のたくましい手が這入り込んできた。

 最初は脚を閉じて抵抗した歌織だったが、無理やりショーツを引きずり降ろされると、観念したように目を閉じる。

 

 汗ばんだ肌が、熟れた果実のように紅潮した。

 湿った唇から、熱い吐息が漏れる。

 

「……………」

 

 かたわらでは、白い仮面がじっとその様子を見下ろしていた。

 その口元には、嗜虐的な笑みが浮かんでいる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 タイトスカートの中で、柔らかな内太ももが暴れた。

 おわん型に潰れた乳房が、ゆさゆさと揺れる。

 

「おとなしくしてろよ。すぐに気持ちよくしてやるからな……」

 

 男が腰のベルトをするりと引き抜いた。

 

 獣のような息遣いを耳にしながら、歌織はすべての思考を頭から追い払った。

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