アイドルヒーローズネメシス   作:闇の皺

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 わたしの誕生日は歌織と1日違いです。
 運命を感じます。


第2話 狙撃②

 パン!

 

 衝撃波が、耳元で破裂音を響かせた。

 燃焼ガスに押された弾丸が、マズルフラッシュとともに銃口から飛び出す。

 

(行け!)

 

 発射の瞬間、歌織は脳裏に必中の弾道を描いた。

 輝く魔弾が、キネティックパワーを乗せて漆黒の夜空を切り裂く。

 

 ピュン!

 

 スコープの先では、敵が発砲にも気付かず談笑を続けていた。

 超音速の弾丸は、発射音を追い越してビルの合間を飛翔する。

 

 当たる!

 

 イメージと寸分たがわぬ軌道に、歌織は命中を確信した。

 だがその瞬間――、

 

(――――!?)

 

 照準線の向こうに映る仮面が、整備員の陰からチラリとこちらを見た。

 同時に身体がフッと沈み込み、レンズの外側へフレームアウトする。

 

「なっ――!?」

 

 ビス!!

 

 弾はターゲットの頭上をかすめ、地面に小さな穴を穿った。

 

「しまっ――」

 

 間もなくサイレンの音が鳴り響く。

 

 ウウウゥゥゥゥゥ―――――――――!!

 

 歌織は弾かれたように立ち上がった。

 

「ストラテジー、こちらエンジェル1! 狙撃に失敗した、現在地から離脱する!」

《エンジェル1、こちらストラテジー! 敵兵3が間もなく屋上に到着する! ルートB(ブラボー)で離脱せよ!》

「了!」

 

 歌織は助走をつけ、タッとビルの縁を蹴った。

 キネティックパワーで空を飛べば戦闘員は追い付けない。これで何とか逃げ切れるはず。

 

 ―――ゾクッ!

 

 だがその瞬間、背中に猛烈なプレッシャーを感じ、歌織はサッと背後を振り返った。

 

「あれは……」

 

 ビルの屋上に、ショートカットの少女が立っている。

 赤く輝く双眸、にじみ出る漆黒のオーラ。

 禍々しい気配に、全身の肌が粟立つ。

 

(黒髪!? もうこんなところに……)

 

 チッと舌打ちし、すぐさま近くのビルへ降り立った。

 そのまま一気に階段室へ駆け込む。

 

(空を飛んで逃げたら追い付かれる。何とか隠れてやり過ごさないと……)

 

 ステップを下り、長い廊下へ飛び出す。

 身を潜める場所はないかと、辺りへ視線を巡らす。

 だが――、

 

 ドゴオオオォォォ!!!!

 

「きゃっ!?」

 

 突然天井が崩れ落ち、白煙が視界をふさいだ。

 

「な、何!?」

 

 朦々と舞う粉塵の中から、小さなシルエットが姿を現す。

 

 真っ赤な瞳に、アイビーグレーのコート。

 あれは……、

 

「く、黒髪……!!」

「やあ、追いかけっこかい? だったらもう少し早く逃げたほうがいいんじゃないかな」

 

 口ぶりこそ飄々としているが、伝わってくる気配はナイフのように鋭い。一瞬でも気を抜いたら、たちまち飲み込まれてしまいそうだ。

 

「くっ!!」

「フフ……手癖の悪い子猫ちゃんには、ちゃんと躾をしなきゃね」

 

 ごくりと唾を飲み込み、歌織は拳を握り締めた。

 

(どうやら逃がしてくれる気はなさそうね……)

 

 となれば、イチかバチか、ここで勝負を仕掛けるしかない。

 だが相手は数多のヒーローを返り討ちにしてきた最強の戦士。一対一で勝負になるか……。

 

「へぇ、ボクと戦う気かい?」

「そうだと言ったら?」

 

 黒髪がすっと目を細めた。

 

「……ここが君の墓場になる」

 

 紅蓮の瞳が、妖しく輝いた。

 交わした視線が火花を散らす。

 

(敵はまだ油断している。だったら……)

 

「先手必勝!」

 

 構えた拳にキネティックパワーを乗せ、歌織はダンッと床を蹴った。

 次の瞬間――、

 

 ドガアアアァァァァ!!!!

 

 いきなり目の前の壁が吹き飛び、衝撃波がビル全体を揺るがした。

 

「な、何!?」

 

 立ち込める煙の中から、ツインテールの美少女が姿を現す。

 

「あ、あなたは……」

 

 艶を帯びた長い髪、印象的な鳶色の瞳。

 

「はーい、お待たせしました! エンジェル2、麗花参上です!」

 

 突然の闖入者は、くるりと一回転して謎のポーズを決めた。

 歌織は呆気に取られ、パチパチと瞬きする。

 

「へえ、第2世代最強ヒーローのお出ましか」

 

 瓦礫の向こうで、黒髪がにやりと口角を上げた。

 

 エンジェル2――麗花。

 圧倒的な戦闘力を誇る、天才ファイターだ。

 その格闘センスは「異次元の才能」「神に愛された戦士」と称され、第2世代最強との呼び声も高い。

 

「えへ。最強だなんてそんなぁ、普通ですよ、普通」

 

 照れ笑いで応えながらも、彼女の身体から迸り出る闘気は尋常ではない。

 溢れるオーラは炎となり、渦を巻いて辺りを照らす。

 

「れ、麗花ちゃん、助けにきてくれたのね。あなたがいれば百人力だわ」

 

 力強い味方を得て、歌織は思わず胸を撫で下ろした。

 だが、

 

「えーと、歌織さんは逃げ遅れた仲間を集めて、先に離脱してくれませんか?」

「え?」

 

 意外な言葉に、歌織はきょとんと首をかしげた。

 

「あ、あなたはどうするの?」

「黒髪を倒します」

「――――!?」

 

 驚きのあまり、慌てて麗花の腕をつかむ。

 

「ダ、ダメよ! さすがのあなたでも、あの黒髪を一人で相手するなんて無茶だわ!」

「だいじょうぶです。それに、ほかの人がいると戦いづらいんですよね。わたしってほら、すぐ周りのもの壊しちゃうじゃないですか」

 

 無邪気な笑顔に、背筋がぞっと凍り付いた。

 

(この子、本気だわ……)

 

 第2世代最強の称号を持つ戦士が、いまここで、敵を仕留めようとしている。

 

「……任せて、いいの?」

「もちろんです。歌織さんこそ、早くみんなを安全な場所に案内してあげてください」

 

 自信に満ちた顔で、麗花が答える。

 

(これ以上、わたしの出る幕はないみたいね……)

 

 観念した歌織は、つかんでいた手を放した。

 

「……分かったわ。油断しないでね、麗花ちゃん。相手はデストルドー最強の戦士なんだから」

「もちろんです、油断なんてしてません」

 

 言いながら、麗花は瞳の奥に鋭い光を閃かせる。

 

「だってわたし……ひさびさに本気を出せるのが楽しみで仕方ないんですもん」

 

 再び背筋がぞくりと震えた。

 まるで抜き身の刃を首に押し当てられているような感覚だ。

 

(この子なら、勝てるかもしれない……)

 

 頷いた歌織は、踵を返して階段のほうへと駆け出す。

 

「麗花ちゃん、先に行って待ってるわよ」

「はーい、すぐに追い付きまーす」

 

 二人のやり取りを眺めていた黒髪は、フッと息を吐き出した。

 

「君は逃げなくていいのかい?」

「ん? どうしてわたしが逃げなきゃいけないんですか?」

 

 黒髪は嘲笑混じりの声で答える。

 

「君だって、もう少し長生きしたいだろう?」

 

 言われた麗花は、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐに「ああ」と手を叩いた。

 

「それなら心配いらないです」

 

 そして大きな瞳をすっと細める。

 

「だって……あなたはここで、わたしがぶっとばしちゃいますから」

 

 戦女神が見せた微笑みは、獲物を前にした肉食獣のような凄惨さで彩られていた。

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