底辺ローランくんのミッド暮らし   作:ryanzi

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底辺VS覇王

その日、ローランは買い物帰りの途中だった。

経済的余裕ができたことで、地区外の安全な食料を買えるようになったのだ。

なにしろ、裏路地再開発地区の肉は何が使っているかわからない。

とくにレストランが多い地区に関しては行方不明者が多い。

もちろん、まともなレストランもあるが。

 

「暗いなあ」

 

ローランはつい食材選びに時間をかけてしまった。

それでも、再開発地区よりかは安全に歩くことができる。

 

「・・・おい、ローランじゃないか」

 

背後から声をかけてきたのは再開発地区担当の局員だった。

その服装はかなりラフなものであった。

 

「あっ、局員様。今日は休日だったんですねえ」

 

「まあな。そういうお前も・・・」

 

「ははは、俺みたいな底辺にはそもそも職すらありませんよ」

 

「それもそうだったな。それはそうと、気をつけろよ。最近通り魔が出るらしいからな。どうやら強い奴を優先的に狙っているそうだ。格闘技で名を馳せたような奴とか」

 

「その論理で行けば、俺は永遠に狙われませんよ」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

「・・・とにかく、気を付けろよ」

 

そういうと局員はどこかに行ってしまった。

ローランも再び歩き始める。地区外の通り魔なんて怯えるほどでもないだろう。

彼はそう思いながら、口笛を吹いて歩く。

 

「ずいぶんと余裕そうですね。ローランさん」

 

噂をすれば影とはまさにこのことであろう。

ローランの前に、バイザーをかけた女性が立ちはだかった。

彼は一瞬で理解した。目の前の女性は明らかに強者の部類に入る人間だと。

 

「・・・底辺の俺に何の用ですかあ?」

 

「・・・私の求める強さは、その底辺にあるのです」

 

次の瞬間、拳がローランの目の前に迫る。

もちろん、ローランは確実な回避でそれを避けることに成功した。

これくらいの攻撃は避けれなければ、再開発地区では生き残れないだろう。

 

「おいおい、突然殴りかかってくるなんて、穏やかじゃありませんねえ」

 

「・・・その余裕、いつまで持つんですか?」

 

彼女はまた拳をローランに対して繰り出す。

 

「危ないなあ!当たると痛いんだぞ!」

 

「当たらなかったじゃないですか」

 

ローランは納得した。

 

「確かにそれもそうだな」

 

「・・・準備運動は終わりです」

 

「えっ、今のが準備運動?どういうことだよ」

 

女性はバイザーを外した。その瞳は青系のオッドアイだった。

だが、ローランが気にしたのはそこではない。

裏路地・・・じゃなかった。再開発地区暮らしが長いからこそ、それに気づいた。

 

(クソ!いつ一目惚れされたんだ!?)

 

話は少しずれるが、再開発地区はどこかのゲームの貧民街と同じように理不尽だ。

もちろん、あっちの方が狂っているが、それは問題ではない。

再開発地区にも様々な理不尽が存在するのだ。

特筆すべき点は、男尊女卑と女尊男卑が同時に存在するということだ。

ローランは前者は言うまでもなく、後者の方に関しても何度も目撃したのだ。

知人(男性)が何とは言わないが責任を取らされるのを何回も見てきた。

彼の祖母(行方不明)でさえも

 

「今も昔も変わらないねえ」

 

と言っていたのだ。そして、さらに悪質なケースについても多く知っている。

そうしたケースの場合は、女性の目は明らかに危険なことになっている。

話を戻そう。目の前の女性の目はもちろん怖いことになっている。

 

「どういうことって?準備運動は準備運動ですよ?」

 

彼女は微笑みながら言った。その表情には恍惚が見て取れる。

 

「大丈夫ですよ。すぐに済みますから」

 

「何を言ってるんだ」

 

ローランは一瞬逃げることを考えた。しかし、こういった手合いは地の果てまで追ってくる。

ならば、諦めるべきか。だが、それはそれで酷い結果しかもたらさない。

だったら道は一つ。戦うだけだ。

 

「はあ・・・。やるしかありませんか」

 

「ええ、殺し合いましょう(愛し合いましょう)

 

「・・・一つだけ聞くが、いつ俺を見つけた?」

 

「風の噂で貴方のことを聞いたので、確認しに行ってみたんです。ビルの屋上から見てたんですが」

 

「それで?」

 

「貴方だったら、殺し合える(愛し合える)と思いました」

 

「ですよねえ」

 

この手のパターンは明らかにアウトだ。命が危ない。

 

「覇王断空拳」

 

さっきよりも拳のキレが明らかに違う。

当たったらひとたまりもないだろう。

 

「避けないでください。殺意(アイ)をたっぷり込めてるのに」

 

「その殺意は欲しいと思ったことすらないな」

 

ローランは反撃を試みる。警棒を取り出して、女性の肘に当てる。

確かに、その一撃は肘に当たったはずだった。

 

「痛いです・・・。もっと、もっと見せてください。貴方の(アイ)を」

 

ローランの敗北は決定した。これがどこかの図書館だったら、負けてもよかった。

だが、ここはミッドチルダだ。死んだらそれまで。本を取られるだけではすまないのだ。

 

「さすがに逃げるしかないよな・・・?」

 

ローランは無駄だとわかっていながら、逃げ出した。

 

「逃がしません」

 

女性もローランを追う。

そして、十分が経過しただろうか?ローランは背後を確認する。誰もいない。

だが、彼にはわかっていた。彼女を撒くことはできていないと。

彼女のような手合いは、本能的に獲物の場所を察知しているのだ。

そして、ここは人通りがない場所だった。彼の終わりはここだ。

 

「諦めてくれましたか」

 

彼女が来るのに、数秒もかからなかった。

ローランは生気を失った知人男性たちを思い返した。

 

「ああ、クソ。今まではあいつらを不注意だと馬鹿にしてたのに、いざ自分がそうなるとどうしようもないもんだな」

 

「そんな悲観的にならないでください。さて、さっきの続きをもう一度しましょう」

 

ローランは警棒を構える。

 

「こうなったらヤケだ。一矢報いてやる」

 

「それですよ。貴方の殺意(アイ)がたっぷり感じられます。こんなにうれしいのは初めてです」

 

勝負は一瞬でついた。ローランは倒れ、少女はせき込んだだけだった。

 

「痛いです・・・。でも、うれしい。貴方に会えて、本当に良かった」

 

「・・・ああ、もう最悪だ」

 

彼女は一歩、一歩、また一歩とローランに近づく。

 

「安心してください。最期に気持ちよくさせてあげれるので」

 

「・・・まさか、俺を犯すつもりか?」

 

「大丈夫ですよ。痛いのは私の方なんで」

 

「そこが大丈夫じゃねえんだよ。最悪の死に方じゃないか」

 

女性がローランのズボンに触れようとした、その時であった。

 

「そこのお前、何をしてる!」

 

赤髪の女性が叫んだ。

ローランは安堵した。その女性は明らかに状況を正しく把握していた。

彼女の敵意がこもった視線は、通り魔に向けられていたからだ。

 

「・・・邪魔しないでくれませんか。ストライクアーツ有段者ノーヴェ・ナカジマ」

 

「へえ、アタシの名前を知ってるのか」

 

「ええ、あなたに尋ねたいことがあったので。でも、後にします。それよりも・・・」

 

女性は自分の目を疑った。ローランがいないのだ。

 

「・・・そこですか」

 

女性は本能でローランの逃げている方向を察知した。

その方向に向かって走り出そうとしたとき、ノーヴェが彼女の腕をつかんだ。

 

「おっと、アタシに尋ねたいことがあるんだろ?」

 

「・・・人の恋路を邪魔しないでくれませんか?」

 

「明らかにアイツ嫌がってたように見えたけどな」

 

「・・・話が通じなさそうですね」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

そのころ、ローランは傷ついた体を引きずりながら、家路に急いでいた。

だが、不良少年たちに見つかってしまった。

地区外にも不良少年たちはいるものだ。

 

「おい、あいつローランってやつじゃね?」

 

誰かがそう言った。

 

「誰だよそれ」

 

「知らねえの?再開発地区でボランティアしてる奴らの一人だよ」

 

ボランティアというのは、地上本部の作戦を意味する隠語である。

 

「ふうん、とにかくお金を持ってるってことだろ。再開発地区のドブネズミにはもったいねえよ」

 

なにはともあれ、ローランは不良少年たちに取り囲まれてしまった。

普段のローランだったら安々と片付けることができるが、手負いの状態だ。

 

「・・・えっと、お金あげるから見逃してくれねえかな」

 

相手は何も言わなかった。いや、言う暇もなかったと言った方が正しかった。

突如現れた少女が、その不良少年たちを全滅させたのだ。

少女の後ろ姿はどこか頼もしく思えた。ローランよりもずっと背が小さいのに。

自分の心の拠り所はここだ、とローランはなぜかそう思った。

そして、ローランはその少女に見覚えがあった。

 

「・・・リンネ、リンネなのか?」

 

「・・・誰ですか?」

 

かつて下見に行ったことのある孤児院で友人になった少女だった。

あの時は何だか気弱に見えたのに、今ではすごく頼もしく思えた。

彼女の瞳は濁って見えたが、ローランは気にしなかった。

 

「多分、覚えていないだろうけど、ローランだよ。前に遊びに来た事あるじゃん」

 

「ああ、貴方でしたか。この辺は危ないですから、早く家に帰ってください」

 

そう言うと、リンネはどこかに行ってしまった。

ローランはどこか不思議な感覚を抱いたまま、家に帰っていった。

体が痛かったが、気にもならなかった。

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