ヴィヴィオはローランとかいう男が善良な人間とは思えなかった。
もとから痛い子であるアインハルトをさらに痛くするような人物だからだ。
そして、ヴィヴィオはローランの顔を知らなかった。
知っていたら、一目惚れはなかったかもしれない。
・・・もしかすると、顔を知っていたとしても一目惚れしたかもしれないが。
それはコロナとリオと一緒に喫茶店でケーキを食べていたときのことだった。
突然、大声が店内に響いた。不良少年たちが店員に言いがかりをつけているのだ。
「おっと、そこまでにしとけ。カレーがマズくなる」
その少年たちをスーツ姿の青年が諫めようとした。
「ああ?うるせえ!」
当然、不良少年たちは逆上した。青年ひとりに対し、少年たちは五人。
誰が見ても、青年の方が不利だった。だが、青年はその不利を覆したのだ。
警棒を取り出した青年は五人のうち三人を一瞬で気絶させた。
それで一人は逃げ出し、最後に残った一人は青年に無謀にも突進してきた。
ヴィヴィオはその技を見たことがなかった。
青年は不良少年の腕を変わった方法で掴み、捻り上げたのだ。
「それ以上いけない」
店員がそういうと青年は不良少年を離した。少年は逃げ出した。
「あーあ、やってしまったな・・・」
青年はそう呟くと、またカレーを食べ始めた。
後に母親に聞いてみたのだが、それはアームロックとかいう技らしい。
詳しいことはわからないが、それは地球の格闘技の技の一つらしい。
だが、ヴィヴィオにはそんなことはどうでもよかった。
かっこよかったのだ。始まりはそんな単純な事であった。
しかし、色々と壁が多かった。まず、名前すら知らなかったのだ。
そこで、彼女は聞き込みから始めた。
「アインハルトさん、少し聞きたいことがあるんですが・・・」
まだ何も言ってないのに、覇王は理解した。
「・・・ローランさんのことですね!」
アインハルトは滅多に笑わないが、ローランのことになると顔が輝いてくる。
最初の難関は一瞬で突破できた。しかし、第二の難関が立ちはだかった。
彼は再開発地区に住んでいるのだ。遊びに行くのは言語道断だ。
では、彼が再開発地区から出てくるのを待つべきか。だが、近くにいるだけでも少し危険だ。
仕方がないので、またアレに聞くことにした。
「たまに西の方のスーパーで買い物をしていますよ」
ヴィヴィオは地図を広げて思案した。スーパーで少女が一人でいるのはおかしいだろう。
そこで、彼女は再開発地区からスーパーまでの近道を地図で探した。
案の定、ローランはその道を通っていた。そして、彼女は幸運だった。
彼女は天気予報を見ていたが、ローランは見ていなかったのだ。雨が降り出した。
「あの・・・傘入りませんか?」
「えっ、いいのか?」
おまわりさんこいつです。・・・とにかく、接点を持つことには成功した。
だが、第三の難関が待ち構えていることはとっくに知っていた。
明らかに身分違いなのだ。聖王と底辺、周囲の反対は明らかだ。教会は許さないだろう。
そもそも、義母が許してくれるかどうかさえ怪しい。
さらにいえば、覇王が怪しい。
「・・・最近、やけにローランさんのことを気にしているようですが」
「気のせいですよ!」
目が怖いことになっていた。もうすぐ合宿なのに、不安である。
だが、ヴィヴィオは諦めない。そこで、味方をつけることにした。
「フェイトママ、実はね・・・」
だが、彼女からの返答は意外なものだった。
「異性愛は不毛だよ、ヴィヴィオ」
ヴィヴィオはすぐに逃げ出した。フェイトが自分に賛同しなかったからではない。
フェイトのすぐ後ろで、魔王が砲撃準備を整えていたからだ。
「・・・フェイトちゃん、何を吹き込んでいるのかな?」
「なのは!?これは違うの!ヴィヴィオにちゃんとした知識を・・・」
「滅」
悪は滅びた。
「・・・ヴィヴィオ、やるなら全力全開だよ」
「・・・わかった!」
ヴィヴィオには思わぬ味方がつくことになった。
「あっ、ローランさん!」
「おっ、奇遇だな。ヴィヴィオ。これから買い物に行くところだ」
「私もついてっていいですか!ちょうどお使いを頼まれているので」
「いいけど、俺と一緒だとつまらないと思うぞ」
「いいんです!むしろ、ローランさんと一緒のほうがいいんです!」
「うん?そうなのか?」
ローランは気づかなかった。
ヴィヴィオの目が病んでいなかったから、自分に好意を持っていると気づかなかったのだ。
もちろん、ヴィヴィオはそこも承知の上であった。
アレのように目が病んでいたら、ローランが逃げてしまうからだ。
ちゃんとローランのことも考えて、アプローチしていくのだ。
「やはり聖王は倒すべきでしたか」
「同感ですね、アインハルトさん」
「ほう?懲りてないようだな」
「ヴィクター、覚悟はいいな?」
アインハルトには腕立て伏せ千回が言い渡された。
ヴィクターはハリーに引きづられていった。
「・・・なるほど、陛下の意中の者があのような下賤の者とは」
ローランは知らない間にとんでもない相手を敵に回していた。
「・・・おや、ローランじゃないですか」
「あっ、リンネ」
ヴィヴィオはローランの表情から、新しいライバルが現れたと察した。
幸いにも、目の前のライバルはローランをそこまで気にしていないようだったが。
(・・・よし、まだ大丈夫)
何はともあれ、彼女の