-+ 麗奈を選んだ場合 +-
それは一つの賭けだった。
私はもちろん、自分が犯人ではないとわかっていたから、まず自分が潔白であることを証明する必要があった。
私には梨々花を殺す動機がなかった。梨々花が人気者になり、私のクラスでの地位を脅かすとか、そんなことはどうでもよかった。私はもはや、久美子先輩の傍にいられたらそれでよかったのだ。
ただ、それをはっきり口にするわけにはいかなかった。私は高坂先輩の二番手の地位に満足していると、久美子先輩が誤解している必要があった。もちろん高坂先輩にもだ。
そうしなければ、私は久美子先輩の傍にいられなかった。高坂先輩と戦ったら負けてしまう。だから、戦わないのが一番だった。
こじつけられた動機は一笑に付すことのできるものだったと思う。しかし、他のメンバーの動機も弱く、そもそも梨々花が殺された理由自体が、大したことではなさそうだった。つまり、私が犯人と疑われて殺される可能性も十分あった。
私は自分が殺されないために、真犯人を見つける必要があった。いや、真犯人は誰でもいい。ここで一番の人がいなくなれば、私が久美子先輩の一番になれるのではないか。私はそう考えた。
高坂先輩が他の人同様、アリバイが無いのは幸運だった。しかも、梨々花が直前に高坂先輩の楽器ケースを蹴ったことで、高坂先輩の動機が生まれた。後は、傘木先輩か鎧塚先輩が高坂先輩を指名するよう、仕向けるだけだった。
結果は、私の予想と違うものになった。みぞれ先輩が私を指名したのは予想の範囲内だったが、希美先輩がみぞれ先輩を指名したのは想定外だった。
そして、一番嬉しい誤算は、久美子先輩が高坂先輩を指名したことだった。
正直なところ、久美子先輩はもし高坂先輩が犯人だったとしても、指名しないと思っていた。つまり、いくら高坂先輩が殺されたとしても、私が高坂先輩を指名した時点で、私は久美子先輩に嫌われる。そのリスクはもちろん考えていた。
ただ、それでも賭けに出るしかなく、結果的に私は久美子先輩に嫌われることなく、高坂先輩を排除することに成功した。
高坂先輩亡き後、久美子先輩はすっかり元気を失くしてしまった。私はそんな先輩の手を握り、二人で一緒に歩いている。
大丈夫。先輩の心の傷は私が癒す。いつかすべては思い出になり、久美子先輩が私に笑いかけてくれる日が来ると、私はそう信じている。
-+ 奏を選んだ場合 +-
私は希美が好きだ。希美だけが特別で、希美さえいればそれでよかった。
そんな希美のことを、梨々花ちゃんが悪く言っているのを聞いてしまった。いや、実のところ、悪く言っていたわけではなかったが、2年前の退部は私と希美にとって思い出したくない歴史であり、安易に掘り起こしてはいけない話題だった。
私は梨々花ちゃんを嫌いではなかった。それでも、禁忌を犯してしまった以上、死んでもらうしかなかった。
私は梨々花ちゃんを楽器室に呼び出して、背中から心臓を一刺しして殺した。手は少し汚れたが、返り血を浴びることはなかった。念のためジャージを着ていたが、着替える必要はなかった。すでにジャージ姿を誰かに見られているかもしれないから、再び制服に着替えるわけにもいかず、少し失敗したと反省した。
高坂さんのスマホの時計を変えたのは、アリバイ工作ではなかった。制服を梨々花ちゃんのバッグに入れたのも同じである。それらは単に違和感を散りばめただけで、最終的にはもっと直接的な理由をつけて、他の誰かに死んでもらうつもりだった。
厳密に言えば、別に誰かに罪をなすりつけるつもりはなく、何事もなく終わってほしかったが、滝先生のせいでそれが叶わなくなった。だから、黄前さんたちのことは好きだけれど、誰か一人に死んでもらうことにした。私はとにかく、私と希美が無事であればそれでよかったのだ。
2票で殺せるのは、なんとなく始めからそう感じていた。だから、希美と組んで誰かを指名すればそれで容易に殺すことができたが、希美にそれを持ちかけることはできなかった。タイミングもあるが、希美は真犯人を探そうとしているように思えたからだ。
現に、希美は最後に私を指名していた。あれは単に私が犯人だと確信したからだろう。それ以外に考えられる理由がない。
最後の会話で、久石さんが高坂さんを指名しようとしていることは想像できた。その理由も、希美に恋い焦がれている私にはよくわかった。
けれど、あの会話で高坂さんは久石さんを指名するだろうと思ったし、私が決して希美を指名しないように、黄前さんが高坂さんを指名するとはとても思えなかった。
だから久石さんにした。結果的に、黄前さんも久石さんを選んでくれて、この世界から久石さんが排除された。友達の梨々花ちゃんとあの世で仲良くしてくれたらと思う。
黄前さんと高坂さん、そして私と希美。恋仲の2組が残り、一番平和な形に落ち着いた。
今日も私は、楽しそうに喋っている希美の隣で相槌を打っている。とても幸せな毎日。
-+ 希美を選んだ場合 +-
滝先生に死の宣告をされた時、私はとにかく真犯人を探し出そうと考えた。私自身はもちろん違うし、久美子がそんなことをするはずがない。久石さんも、あのタイミングで殺すことが出来るとは思えない。
みぞれ先輩か希美先輩。そのどちらかが犯人だが、二人は互いにかばい合うだろう。上手く立ち振る舞わなければ殺されると感じた。
開始早々、状況は混迷を極めた。スマホの日付が何かの伏線だったのかは未だにわからないが、希美先輩が、犯人はみぞれ先輩だと思うと言ったのだ。
罠だと思った。その後、私は希美先輩の真意を突き止めたかったが、何故か私が一番疑われていて、その誤解を解くのに必死だった。
さらに、久美子が剣崎さんと事前に会話していたことと、十分に彼女を殺すことのできる時間があったことがわかり、私のミッションが増えた。つまり、自分が助かると同時に、久美子も助けなければならない。久美子を無実の罪で殺すわけにはいかなかったし、仮に久美子が犯人だったとしても、私は久美子を守るつもりでいた。
真犯人を考える余裕はなかった。ただ、終了間際に希美先輩が久美子を呼び出したことで、あの人が一番危険だと感じた。その思いを久美子も共有していると信じて、私は希美先輩を指名した。
最後の最後で久石さんが余計な状況整理をした上、私を指名してきたのは想定外だったが、久美子も私と同じ思いだったのか、希美先輩が2票で一番の不安分子を取り除くことができた。
私を指名したことで久石さんとの縁が切れてしまったのは残念だが、これからも久美子と一緒にいられるのは本当に良かった。
今日も一緒に帰る約束をしている。楽器を片付けに行くと言ったまま戻らない久美子を探しに楽器室に行くと、そこにいつか見た光景が広がっていた。
久美子が背中から血を流して倒れていたのだ。
私は血相を変えて駆け寄った。急いで抱き起したが、すでに久美子は息絶えていた。
私は愚かだった。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。しかし、もう遅い。慌てて立ち上がったが、それは私の命をほんの数秒延ばしただけだった。
背中に焼け付くような痛みが走り、私は声を上げて久美子の上に倒れ込んだ。手足が震え、体が冷たくなっていく。
ぼやける視界に、みぞれ先輩が無表情で立っていた。手に持ったナイフがギラリと光る。
私は、私たちは、どうして剣崎さんが殺されたのかを、もっと考えるべきだった。そうすれば、私たちは決して希美先輩を指名することはなかった。
もう遅い。みぞれ先輩がもう一度ナイフを振り上げて、私は意識を手放した。
-+ みぞれを選んだ場合 +-
正直に言えば、わたしは犯人がみぞれだと思っていたわけではなかった。ただ、滝先生の話を聞いてチャンスだと思った。
希望が確信に変わったのは、奏ちゃんが梨々花ちゃんたちの話をしたことだった。時間経過を考えると、その会話が事件のトリガーになったとしか考えられない。それと同時に、やはりここでみぞれを殺さなければ、いつか自分が殺されると感じた。
みぞれの愛が重い。すべてはその一言に尽きる。
わたしは努めてみぞれと仲良くするように生きていた。そうする他になかった。
しかし、そろそろ限界だった。わたしの話をしただけで誰かが殺されるような世界で、わたしは平然と生きていける気がしなかった。
事件が起きて、わたしはみぞれが選ばれるよう仕向ける決意をした。ただ、それを途中でみぞれに悟られるわけにはいかなかったし、万が一失敗しても、わたしがみぞれを指名したことが禍根として残らないようにしなくてはならなかった。
わたしはあくまで真犯人を追求するという正義の立場を取りつつ、根回しを始めた。
最初に高坂さんに声をかけたが、手応えはあまりなかった。理由は簡単だ。あの時点ではわたしはみぞれが犯人だという確信がなかったし、わたしが言った内容を高坂さんがみぞれに喋る危険があった。
結果としてあの中途半端なアプローチにより、わたしは高坂さんに指を差される羽目になったが、最後に声をかけた久美子ちゃんがみぞれを指名してくれて、滝先生が言った通り、殺した人が殺される因果応報の展開になった。それが一番平和であり、わたしにとっても嬉しい結末だった。
元々無関係な3人は、奏ちゃんが高坂さんを指名したことで一悶着あったようだが、そこまでは面倒を見切れない。親友と先輩を同時に失った奏ちゃんには同情するが、全部みぞれのせいだと諦めてもらおう。
あの日わたしは髪を下ろしていた。そのことにまったく深い意味はなかったけれど、なんとなく縁起がいいと思い、あれからずっと髪を下ろしている。
もしもあの日、久美子ちゃんがみぞれを指名していなかったら、誰が死んでいただろう。時々そう考える。いっそわたしであればとさえ思ったから、だいぶまいっていたようだ。それももう過去の話である。
発端となった梨々花ちゃん、ありがとう。貴女の分まで、わたしは精一杯生きていこうと思います。
─ 完 ─