お酒は飲んでも呑まれるな!!
さて、皆さんに一つ質問がございます。長い人生嫌な過去の一つや二つはお持ちでしょう。かく云う私もそれはそれは筆舌に尽くし難きトラウマを持っております。それでは改めて問いましょう。
「指揮官様~~~~~!!!!!」
「剃!!!!!!!!!!!!」
トラウマが再発した時の対処法はどうすればよいのでしょうか。
----五時間前
「今日は休みの者が多いな。何かあったのか?」
「…二日酔いだよ」
結局あの乱痴気騒ぎが原因でその後も酒宴が続いた。
こんな調子で仕事も何もないからみんなには昼飯までゆっくり休むように言っておいた。でもまあやらなきゃいけない仕事はあるもんだ。主に苦手な書類系が。前はそうでもなかったんだけれど今と昔じゃ勝手が違うというか。
「重桜語難しすぎやしませんか高雄さん」
「そうか?拙者はそうは思わないが……」
異国語がこんなに難しいとは思いもしなかった。読むのも一苦労だけど書くのも苦労するんだよ。縦書きだったり横書きだったり。とてもじゃないが二人では手が回らん。…あ、そうだ。
「建造しよう」
「建造ですか?」
足りないなら増やせばいいんだよ。簡単なことじゃん。
「できれば事務処理が得意そうな子が来てくれると助かるな」
「であれば、蒼龍でしょうか?」
「蒼龍?」
「はい。彼女は空母ですから特型建造で建造可能かと」
「でも今『キューブ』だっけ?あれが三個しか残っていないんだよな」
大本営から送られてきた分はこの間の建造で使い切ってしまったし。今手元に残っているのはこれだけ。明石は未だ布団の中だからキューブを寄越せと言っても動けないし。それなら仕方ない。
「小型一回の特型一回で建造してきてくれないか?」
「承知」
こっちに来て早々に事務のお手伝いとかちょっとかわいそうなところはあるけれど実際問題手が足りてないんだから仕方ないっちゃ仕方ないんよね。
………何だろう。今スゲー悪寒が走ったんだけれど。いや。まさかね。早々に赤城や加賀みたいな娘が来るわけないよな。また俺のトラウマドストライクが来るわけないよな。
………。念の為、準備運動しておこう。この手の嫌な予感って外れないのは知っているんよ。学習しているんだから。
で、それから数分後。すぐにでも人手が欲しかった俺は高雄から高速建造材なるものの存在を知りあっという間に建造が完了するということで使用を許可した。とりあえずこれで二人分の手が増えたわけだから午後からは六式の訓練に割り振れそうだと思った。
そう。思ったんだよ。この時までは!!
コンコン。
「指揮官。高雄だ。建造が完了したので連れて参った」
「わかった。入ってどうぞ!」
最初に入ってきたのは青い着物を着た狐耳の小さな女の子だった。畜生!またキツネか!!ここの運命は俺のトラウマ抉るの大好きだなこの野郎!!
「ひぃっ!!」
とかそんなことを考えていたら顔に出ていたんだろう、メチャクチャ怖がらせてしまった。というかもう泣きそうな感じなんだけれど。
「指揮官」
「あ、ああ。ゴホン。すまない、少し驚かせてしまったようだな。自己紹介をしてくれるかい?」
「え、ええと。あ…秋月型五番艦…に……新月…です」
蚊の鳴くような小さく震えた声だったけど、俺そんなに怖かった?
「親の仇を見るような顔をしていました」
それは怖いわ。ここ鏡無いから今どんな顔をしているのかわからないんだよね。
そういえば今回二人いるんだよね。ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着かせよう。……よし。落ち着いた。
「指揮官は見た目は恐いかもしれんがイイ人だ。それほど恐れずとも良かろう」
「ほ、本当ですか?」
「訓練は厳しいが、暴力はしないよ」
さすがにこんな小さい娘に手は出さないよ。酒飲んで暴れたりしない限りは。
~~高雄視点~~
まったく。指揮官の狐嫌いにはほとほと困る。過去に狐の娘に襲われたのが原因らしいが、重桜には赤城達のような狐娘は割と存在する。新月程度で震えていたのでは仕事にならないのではなかろうか。
まあそう考えればあ奴は大丈夫だろう。言動に問題はあるが狐娘ではない。仕事もそれなりに熟すことができる。
「あ、高雄。そういえばもう一人連れてきてくれたんだよな?」
「うむ」
「大鳳型装甲空母・大鳳、着任しましたわ」
そう言って拙者は廊下に待機していた一人を入室させた。が、その途端に部屋が揺れた。一瞬地震かと思ったのだが違った。
指揮官が顔面蒼白でありえないほどに震えていた。その震えが部屋全体に伝わったのだろうが震え過ぎではなかろうか…。
「剃!!!!!」
と思えば指揮官は一瞬にして部屋から影も形もなく消え去っていた。なんとか目で追えたが後方の窓からあっという間に脱出した。何が原因かはわからぬがこのままでは仕事に支障をきたすであろう。
「すまぬな。指揮官を連れ戻しに行ってくる」
「それなら大鳳も手伝いますわ~」
それは助かる。綾波殿の話によれば前回逃げた際には空を駆け外洋にまで逃げたそうだ。今回もまた海へと逃げたかもしれぬ。まあまだ視認できる距離にいる。追いつけるかどうかはわからぬがまずは追いかけるとしようか。
~~キビ視点~~
畜生畜生畜生畜生ド根畜生が!!!
この国の空母ってもんは俺の精神ぶっ壊しに特化でもしてやがるのか!?
イナリに瓜二つじゃねーか!!!!
顔もそうだが普通体まで似ますか!!?双子でもない限りそんな事ありえますか!!?
そりゃあもう逃げるよ!恥も外聞もなく逃走一択だよ!!追いかけてくるのは重々承知の上で俺は逃げるよ!
さて、ここで唐突ですが問題です。私は何処に逃げれば助かるでしょうか!
執務室?赤城の例があるから逃走先としては不適切。
月歩を使ってお空の上?空母の艦載機が洒落にならないのは前回知りました。
じゃあ何処に行く?
「待て、指揮官!!」
後方から高雄が追いかけてきているがそんな足じゃ俺には追いつけないよ!それでは答え合わせ!正しい逃走経路は~
「よっ!!」
ドボン!!
「指揮官殿!?」
正解は海の中!!そして『剃』をマスターした俺は水中でもマグロ並に速く動ける!!魚人と闘りあった時は
そして
こんなところに俺は居られねー!!俺は帰らせてもらう!!
~~高雄視点~~
大鳳と共に指揮官殿を追跡していたが指揮官殿は埠頭から海中に飛び込んでしまった。海中に逃げ込まれてしまうとソナーがない拙者たちは手が出せない。となると今母港にいて尚且つソナーを装備できるものとなると新月しかいない。しかし彼女を連れてくる間に指揮官殿はさらに遠くへと逃げおおせてしまう。戻っている暇はないか。
「とにかく拙者たちも海へと出よう。いくら海中に逃げようといずれは呼吸のために浮上してくるはずだ。そこを狙って捕まえるしか」
「そんな悠長なことをしている時間はありませんわ。ここはこの大鳳にお任せくださいまし」
何か策でもあるのだろうか。代替の案もないのでここは大鳳に任せてみるとしよう。
「幸せそうに、逝っちゃって~」
「ぅおおおおおおい!!?」
何をするかと思えばまさかの彗星隊を大量に発艦させた。そして流れるように絨毯爆撃を敢行した。御主は指揮官殿を殺す気か!?
「ちゃーんと手加減はしましたわよ?」
手加減どころの話じゃないだろう!
「でも
「あれだと?」
大鳳が指す方を見ると遠くに白いコートが水面に漂っているのが見える。あのコートは見覚えがある。あのコートは。あのコートは!
「指揮官殿~~!!!!」
死んではござらぬよな!?死んではござらぬよな!!?
拙者はこの時ばかりは大いに焦り申した。最大船速で指揮官殿を回収し母港に帰還致した。
埠頭にて安否を確認したが……。
「指揮官殿!!目を覚ましてくだされ!!」
息をしていなかった。
「これは一大事ですわ。高雄さん。ここは
「じ…人口…呼吸……だと?」
それはつまりし、指揮官殿と、その…接吻をしなくてはいけない。ということであろうか!?
「ええ。では指揮官様。失礼いたします」
そう言うと大鳳は躊躇うことなく指揮官殿の唇に顔を近づけて---
「何をしているのですか、あなた達?」
まさかの赤城の登場に大鳳が止まった。
「指揮官様が溺れたので人工呼吸をするところですよ?」
「あら。そうでしたか。ですが、あなたには荷が重いでしょう?赤城が代わりますわ」
「今は一刻を争います。赤城先輩に代わる暇はありませんわ」
「そう。なら鳥頭なあなたの頭にも分かるように言い直します。そこをどけ、害虫」
「女狐は引っ込んでいろ」
「…………」
怖い。助けてくれ愛宕。拙者にこの二人を止めるのは不可能だ。
『どうしたの、高雄ちゃん?』
愛宕!?まさか拙者の脳内に直接!!?
『赤城さんと大鳳ちゃんのケンカを止められない?じゃあ逆に考えるのよ。
殴り合いから始まる友情もあるのよ?』
愛宕さん!!!!?
もう指揮官殿をここから脱出させた方がよいのではないか!?全員味方で全員敵とは如何とは思うが!!
「がるるるるるるるるるるる」
「しゃああああああああああ」
拙者も逃げよう。ここにいれば二人に巻き込まれかねない。いつの間にか指揮官殿も目を覚ましてどこかに行ってしまわれたようだ。
…………む?
~~キビ視点~~
あ~~ビビったビビった。海中から逃走を試みようとしたらいきなり爆弾が降ってくるんだもんな。しかも目の前で爆発ときたもんだ。
咄嗟に鉄塊をして肉体的なダメージはあまりなかったけれど鼓膜がもたなかった。まああの距離でその上大量にばら撒かれていたんだからそりゃーもう耳がキーンってレベルじゃなかった。
で、その後誰かに担がれて母港に強制送還されたところまでは朧気ながら覚えている。はっきりと意識が覚醒したあたりで赤城と大鳳がにらみ合いからの取っ組み合いになりそうな剣幕で、高雄は高雄で何もない空に向かって頭を抱えたりしていて忙しそうだった。
だからまた逃げました。無言で。みんな忙しそうだったし。
さて、逃げるとして次は何処へと向かうべきか。いや、その前に服だな。海水を吸ってベタベタするし少しシャワーを浴びたい気分だ。となると、シャワールームに行くか?
いや待てよ。それは悪手だな。あそこは男女兼用。その上個室。窓無し。出口を押さえられたら確実に詰む。というかそれ以外でトラブルが発生しそうな感じがする。しそうというか死相というか、そんな感じがビンビンする。となれば残るは自室か。あそこにも一応風呂場を作ってもらってある。襲われそうではあるがパッと海水を流してパッと着替えてパッと逃走すればなんとか逃げ切れるだろう。
よし。プランは立った。後は実行するのみ!さて、室内には敵影………無し!あいつらはまだケンカ中なのだろう。ドアに鍵かけて念のためにタンスでバリケードしておこう。これでシャワー中に襲われる危険はない。まあ襲ってきたら嵐脚・指銃で撃退するだけのことだが。一応警戒だけはしておこう。
しっかし本当にこの国の空母って洒落にならん。能力も見た目もそっくりな奴がいるのを知っていたら絶対こんな仕事請け負わなかったよ。これで声も
まあそんなことは早々ないだろう。さっさと着替えて早くここからおさらばしないと。あれ?ここに着替えを置いておいたはずなんだけれどどこにいった?
「指揮官様。御召物はこちらに用意しましたわ」
「ああ。有り難う」
なんだ。大鳳が準備してくれていたのか。さすがに裸のまま外出するわけにもいかないしな。
「指揮官様。少しお疲れのようですね。ささ。こちらに赤城がお茶を点てておきました」
「ああ。有り難う」
本当に赤城はこういった心配りができるよな。イナリにも見習わせてあげたいもんだ。
でもなー、赤城?
紫色の湯気を立てるお茶を素直に飲み干すと思っているか?
「ちぃっ!」
大鳳もこの服に発信機付けているのバレているからな?
「ちぃっ!」
それとな。俺は基本逃げるけどな。こういうイタズラをしちゃう輩には容赦も手加減もしない性質でな?
「俺がずっと下手に出ると思っているとしたら大間違いだからな?」
「「え?」」
その後母港のクレーンにロープでグルグル巻きにされた狐と鳥が日没まで吊るされていたとか。
次回予告
「わぅっ!!」
「なんで食い付くんだよ」