正義を背負いし者   作:corin7121

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前回のあらすじ

死ぬ気になれば空も飛べるはず


第十四話

「いらっしゃいませ」

 

「おう」

 

 とある一日の昼下がり。俺は構内にある売店に立ち寄っていた。

 

 普段は明石が店番をしていたりするのだが、本日は最近着任した不知火が店番をしている。棚には色々と商品が並んでいるが、ジュースやお菓子といったものから石鹸のような日用品に至るまであらゆるものを取り揃えている。しかし。

 

「やけにシャンプーが多くないか?」

 

 店の一角、棚四つ分を占拠しているのが毛並みを整えるシャンプーだったりコンディショナーだったり。こんなにいるのか?

 

「重桜には毛量の多い者が割と多くいます。それに」

 

「それに?」

 

「その棚のものは頭髪用ではなく尻尾用でございます」

 

「あー。そういうことか」

 

 だとすれば仕方ないか。赤城だったり加賀の尻尾を考えると多分一回でボトルの半分かそれ以上は消費するよな。正直髪なんて汚れが落ちればいいぐらいにしか思っていなかったけど、よくよく考えればこの母港には俺以外はみんな女の子ばかりだ。身だしなみぐらいはきちんとしておきたいだろう。

 

「お。雑誌も置いてあるんだな」

 

「娯楽の提供も仕事の一環です」

 

 適当に目についた雑誌をパラパラとめくってみると重桜の政治家に汚職が発覚したり、有名人の不倫が発覚したり。うん。この国、大丈夫なんだろうか…。

 

「国の中枢には性根の腐ったクソ政治家はゴマンといるでしょう」

 

「言うね、不知火」

 

 この娘時々サラッと毒を吐くよね。

 

「ですがここには(うつけ)は居ても真の意味での躻は居ないと思います」

 

「うつけ……ね」

 

 そう言って俺は売店の一角にあるカーテンを見る。大きな手のひらが描かれていてカーテンの奥にも商品が並んでいそうなのだが、何やら怪しげな雰囲気が漂っているから近づかないようにしている。そしてカーテンの隙間から茶色い狐の尻尾がチラチラと見え隠れしているが。

 

「指揮官の貞操を思えば今はあそこには近づかないことをおススメします」

 

「だな……」

 

 近づいた瞬間にあのカーテンの奥に引きずり込まれそうだ。

 

「さて、それじゃあとりあえずいつものパンと牛乳をくれ」

 

「承知」

 

 ここに長居は危険と判断した俺は間食用のあんぱんと牛乳を購入してさっさと退散することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。起こるべくして事件は起きた。

 

 この日も毎度のことのように必死に書類を捌いていた。この間建造で来てくれた花月に秘書という名の雑務をしてもらいながら。

 

「哨戒任務が終わったぞ指揮官」

 

「おう。お疲れ」

 

「お疲れ様です」

 

 午前の哨戒に加賀を旗艦に周辺を見回ってもらっていた。報告を聞く限りセイレーンはこの辺りにはいないから索敵範囲を広げたいと打診された。

 

 午後からも哨戒に出てもらうつもりではいるが、まだこの周辺の海域がどうなっているのかはよく知らない。確か引き出しの中に地図を入れていたはず――――

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、何も……。花月。地図が見当たらないんだがどこに仕舞ったかわか……るわけないよな」

 

 ついさっき来てもらったばかりの娘に地図の場所がわかるわけないか。赤城とか大鳳みたいな事務能力が高い奴はさっと出してくれるんだろうが、その分スキンシップがあれなんだよな、あいつら………。

 

 いやそんなことよりもだ。さっき引き出しを開けたときとんでもないもんが見えたんだよ。具体的には()()()()多めの表紙に()()()()()()()()の文字が。それも全部の引き出しに仕込まれていた。

 

 先に言っておくけどこれ、俺の私物じゃないからな。だってこれ、『ケモノ娘』ものっぽいもん。狐耳の娘が描かれていたけど俺そんな属性無いもん。むしろ拒否反応が出るレベルだもん。そんなもの仕事場の引き出しにしまっておくわけないじゃん。

 

「周辺海域の地図ですよね?確か机の引き出しに入っていたと思うのですが」

 

「そうなのか?でもさっきは見当たらなかったのが」

 

 もしかしたらあの本の下に隠れているかもしれないけれど、今引き出しをあさる=いかがわしい本が白日の下に曝されるわけでそれだけは回避しなくてはいけないわけで!

 

「私も一度確認しましょうか?」

 

「いや!それには及ばないだろう!」

 

 そんなことされたら俺の評価ドン底まで落ちるじゃん!ただでさえ低い評価が地に落ちるじゃん!

 

「うーん。まあいいか。念の為にもう一度同じ航路で哨戒をして異常が無ければ範囲を広げよう。その時までには地図を見つけておくから」

 

「わかった。姉様にもそう報告しておこう」

 

 なんとか乗り切ったか。さて当面の問題は()()()をいかにして一目に付かずに処分するかだな。今から動くには少々リスクが高いし、日が沈みみんなが寝静まってから段ボールにでも詰め込んで焼却処分すればいいだろう。裁断してもいいかもしれないけどなんか特殊な紙は再利用が出来ないとかって話しだし、得体のしれないものだからここは大人しく灰にしてしまおう。

 

「さて、そろそろ昼メシの時間だしキリのいいところで上がるか」

 

「わかりました」

 

 その後、俺と花月は午前中に終わらせた書類なんかを片付けてから食堂に向かった。そして一応部屋を出る時に鍵をかけておいた。どっかの泥棒みたいにウチの空母はピッキングのスペシャリストだから気休め程度にしかならないだろうけれどしないよりはマシってもんだ。

 

「今日の昼の当番は誰だった?」

 

「愛宕さんですね」

 

 愛宕かー。あいつの作るメシは美味いんだけれどなー。忘れたころにとんでもないモン作るからなー。この前は確か国産天然使用のうな重だったか。そして明らかに俺の分量がおかしかったんだよな。なーんで十段重ねになっていたんだろうね。そんなに食えないって言ったら泣いちゃったんだよな。多分演技だったんだろうけれど、男は女に泣かれると弱いんだよ。だから食ったさ。完食したよ。ただもう暫くはウナギは食いたくないと思ったが!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 よかった。普通の昼めしだった。デザートにちょっと変わった団子を出されたけど変な味はしなかった。一緒に淹れてくれたお茶も美味かったし。それじゃあ午後からもお仕事頑張るか!

 

「指揮官!綾波が『月歩』を習得したそうだが、私も出来るようになったぞ!」

 

「それを言うなら夕立だって簡単に覚えてやったぜ!」

 

「そうか。そいつはすごいな」

 

 江風と夕立が月歩をマスターできたと報告に来た。なんだろう。こう……誉めて誉めてって訴えかけてくるこの圧は。とりあえず頭をなでてあげよう。あ、尻尾の揺れ具合が激しくなった。よっぽどうれしいんだな。

 

「ううぅぅっ………。あ、暁ももうすぐできるようになるもん」

 

 暁はまだできないか。まあそう焦らなくても大丈夫なんだけれど。

 

「悔しいでござる!指揮官!某はもっと強くなりたいでござる!!」

 

「それじゃあ昼からは暁の月歩の特訓に付き合うか」

 

 まだ書類が残っているけど、徹夜すれば問題ないでしょ。向こう(海軍本部)でもイナリの後始末なんかでよくやっていたし。

 

「それでは私は指揮官さんが戻ってくるまで書類を整理しておきますね?」

 

「ああ。頼むよ」

 

 本当に気の利く子だよ、この娘は。

 

「ところで指揮官はいつになったら『嵐脚』を教えてくれるんだ?」

 

「夕立もこの前失敗した『指銃』をもう一回やりたい!」

 

「わかったわかった。嵐脚も指銃もちゃんと教えるから少し離れてくれ。歩きづらい」

 

 こうして俺は三人に手を引かれて運動場にやってきた。さてと。まずは暁がどこがダメなのか見るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 陽が傾き始めたころだった。

 

「で…できた……。できたでござるー!できたでござるーーー!!!」

 

 体中傷だらけ泥だらけになりながら遂に暁は月歩を会得した。

 

「やればできるじゃないか!」

 

「暁、スゲーぜ!」

 

 江風も夕立も暁が月歩ができるようになったことを祝福し手を叩いていた。

 

 長かった。苦労したけど、ついに暁は空を自由に駆けることができるようになったわけだ。あ、ヤベ。ちょっと泣きそうになった。

 

 この調子だと嵐脚とかも割と早めに覚えることができるんじゃないか?ちょっと予定を組み直す必要があるかもしれないな。

 

「うん。よくやったな暁。次は『嵐脚』だけど、もう遅いから明日にしよう」

 

「はーい!」

 

 素直でいい子たちだよね、本当に。どっかの空母もこれぐらい素直なら……素直に襲い掛かってくるな、性的な方向で。

 

「さてと。俺はまだ仕事が残っているから、先に戻っているよ」

 

「指揮官殿!ありがとうございました!!」

 

 暁からお礼を言われてちょっとにやけそうになったが、いい仕事をしたもんだ。

 

 この調子でパパッと残りのお仕事も片付けてしまいますか。

 

 そう思って執務室のドアを開けると昼前にはなかったはずの本の山が机の上に鎮座していた。

 

「午後から増えたのか?花月---は席を外しているか…」

 

 書類をまとめてくれていたみたいだが、お手洗いにでも行っているのかね?まあ戻ってきてから聞けばいいか。それじゃあまずはこの机に積まれている()()()を片付けて

 

 ってちょっと待て!!

 

 誰だよこんなことしたの!!?何御丁寧に机の上に置いてあるんだよ!!?それもこれ、引き出しにあったもんとは違うやつか!?なんだよこの嫌がらせ!

 

「あら?指揮官さん。お戻りn---」

 

「入るな―――!!」

 

 花月が戻ってきたが、俺は思わずドアにタックルをかましてしまっていた。かなり強く当たったせいか、ドアの向こうで花月が「きゃっ!?」と悲鳴を上げて倒れたような音も聞こえた。

 

「ご、ゴメン花月!!今部屋にネズミがいたものでな!」

 

「ね、ねずみですか!?」

 

「そう!でっかいネズミ!」

 

 本当はそんなもん居ないんだけど嘘をつき通してでも今部屋の中に入れるわけにはいかないんだよ!

 

「ねずみの一匹や二匹、花月は問題ありません!」

 

「それよりも花月は明石を呼んできてくれ!どっかに巣穴があるかもしれない!」

 

「わ、わかりました!」

 

 ふぅ~。いやー焦ったー。このタイミングで戻ってくるとか。いや、まだ安心はできない。花月が戻ってくる前にこのエロ本をどうにか処分しなくては!

 

 まずはこれを仕舞えそうな箱とか袋を探すか。しかし、俺がいない間に花月が掃除でもしてくれたんだろう、空箱も何もない!となれば何処かに隠すか!?見つかるリスクはあるがまた引き出しの中に突っ込むしか―――

 

「ウソやん………」

 

 思わず訛るレベルで絶望した。あのね。引き出しの中全部『()()()()()()()』がぎっしり詰まっていたのよ。覚えのないエロ本がなんで机に詰まっているんよ。改めて言うぞ?

 

俺はキツネが嫌いなんだよ!!

 

 加賀とか江風たちには悪いと思っているんだけど、蕁麻疹出る時があるんだよ!特に赤城が接触してきたりすると!明石に相談したら

 

『ストレス性の蕁麻疹だにゃ。お薬出しておくにゃ。お大事ににゃ~』

 

 とか言われて蕁麻疹を抑える薬貰ったわ!効き目凄いね、あれ。即行で飲んだら一発で消えたわ。

 

 いやいやそうじゃねーよ!今はこのエロ本をどうにかして処分しないといけないんだよ!

 

 どうする!?もう時間もないぞ!?誰か助けに来てくれ!いや、誰も来るな!!

 

「呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん」

 

「うわぉうっ!!?」

 

 音も気配もなくいつの間にやら不知火が部屋の中にいた。居ることに全然気が付かなかったから口から心臓が飛び出るかと思ったわ。

 

「ノックはしましたが室内に何かが居る気配がしたので曲者であれば消す必要があったので無言で侵入いたしました」

 

「そ、そうか……」

 

 一応ノックはしてくれたのね。気づかなかっただけで。

 

「それで指揮官は何を……ああ」

 

 不知火が目敏く机の上に放りっぱなしになっているエロ本を見つけた。

 

 あかん。終わった…………。これからは俺、変態指揮官呼ばわりされるのが確定しちまったよ……。

 

「躻も好きモノでございますな」

 

「違うわ!これ、俺のじゃねーし!?」

 

「ええ。存じていますよ」

 

 だよな!これが俺のじゃないって!!

 

 …………ん?

 

「この本は数日前に()()から委託を受けて印刷したものでございます」

 

「…………」

 

「どうやら同士が欲しかったのでございましょう。製本時に三冊分作ったのはそういうことでございますか」

 

 そうか………。犯人は花月か………。

 

 そういや誰かが言っていたっけ。『桃色は淫乱』だって。あの娘も桃色だったね髪の毛とか。

 

 そうか……。涼しい顔してあの娘そんな性癖持っていたんか。

 

「それとこれは花月から依頼があったもでございます」

 

「中身は?」

 

()()()()()()()()()()()

 

 そうか………。これはもうあれだ。突っ込んだら負けってやつだ。

 

「不知火。すまないが、これ引き取ってもらえるか?」

 

「別途料金が発生いたしますが」

 

「花月の給料からの天引きで」

 

「御意」

 

 とりあえずこれで肩の荷が一つ下りた。後は花月の処分をどうするかだが。

 

「指揮官さん。明石さんを連れてきました」

 

「ねずみが出たって話しにゃけど、どこ行ったにゃ?」

 

 丁度花月が明石を連れてきた。このまま彼女も引き取ってもらおうか。

 

「そこにいる」

 

「何処にゃ?」

 

「だから()()

 

 花月の首根っこを掴んでそのまま明石に引き渡す。取り合えず取り調べをしたいから適当な空き部屋のセッティングを頼むわ。

 

「へ?え?え?な、なんで私が?」

 

「これを見てもまだ白を切るつもりか?」

 

 花月の目の前に不知火が持ってきた証拠品のエロ本を差し出す。

 

「俺の机にコレを仕込んだのはお前だろ」

 

「ししし知りりりりませえーーん!!」

 

 わっかりやすいぐらいに挙動不審してんじゃねーか。クロ確定じゃん。

 

「現行犯じゃないが、第一容疑者だ。暫く身柄を拘束する」

 

「エロ同人みたいにですか!?」

 

「落ち着け花月。俺にそんな趣味は無い」

 

 ただ自由行動をさせないだけだぞ?手が空いている綾波か高雄あたりに監視をしてもらうだけだぞ?

 

「あ、でもそういった話も面白いかも……」

 

「花月が妄想しているうちに連行してくれ。ここを片付けたら俺も行く」

 

「わかったにゃ。ほら、きびきび歩くにゃ」

 

「うへへへへへ」

 

 明石に促されて花月は軽くトリップしたままどっかに連れていかれた。まああの状態なら逃走される心配はないかもしれんが、それでもだ。

 

「…………。はあっ……」

 

 なーんで俺の周りには碌な部下がいないのか。いやいるっちゃいるよ?綾波とか江風とか長良とか。ただ碌でもない連中が飛び抜けてヤバいのが問題なんだよな。いやでもあの娘達は酒で豹変していたな、そういや。

 

「安心してください。指揮官殿も十分変態枠でございます」

 

「どこにも安心する要素がないわ」

 

 不知火にツッコミを入れながら室内にある有害図書を処分しはじめた。ただこれだけは言わせてほしい。

 

 大型段ボール一つ分も仕込むんじゃありません!

 

 

 




次回予告

「あの時の半裸か!」

「半裸じゃ、イヤ半裸だけど!」
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