~前回の簡単なあらすじ
真犯人はやっぱりセイレーン
「さて指揮官。なぜ私の顔を見た瞬間に逃走をしたのか簡潔に述べてくれないか?」
「昔のトラウマスイッチが入ったんだよ。本当にすまないと思っている」
現在この執務室の本来の主である俺は床に正座させられていたりする。なんでかって?
「聞けば姉様にも同じ行動を取ったそうだな」
「本当にすまない。ただ俺には天敵なんだよ、九尾って」
ガキの頃から故郷の島中を連れ回された上に大人になってからも上司と部下の関係だぞ?恋仲だの幼馴染だのってわけじゃないんだよ。腐れ縁だ。腐ってんだよ。そりゃ逃げの一手しかないよね。
「ふむ。しかし、指揮官。この際だ。過去の恐怖に打ち勝ついい機会だとは思わないか?」
「それができれば苦労もしないんだがね」
初対面で逃げた俺にも非があるのは認めるよ。でもその後どうなったか知ってるか?俺襲われそうになったんだぞ?真っ昼間にまさにここで!
「無理に刺激しては逆効果になるだろう。そこでどうだ?私に一つ提案があるのだが」
その提案ってなんだ?
「死合をしよう」
「うん。やだよ」
試合じゃなくて死合だよ。そんな物騒なことしてまでトラウマ克服したくねーわ。
「それならばどうするつもりだ?また私や姉様を見て逃げ出すようなことがあれば、その内食われるかもしれんぞ?」
比喩だよな?比喩表現だよな、それ?マジで食われた経験あるから洒落にならんのだが。
「少しづつ慣れていくしかないと思います」
「そうだよな。逃げてばっかりじゃ信頼なんかされるわけないもんな」
綾波がいいこと言ってくれた。結局のところ慣れるしか方法はないんだよな。
「し、指揮官大変だにゃ!赤城が!赤城がー!」
対策の方向性も決まったところで執務室に明石が飛び込んできた。赤城がどうこうって言っているが何があった。
「赤城さん、落ち着いてくださいー!」
「放して長良!指揮官様に嫌われているのならこの尻尾も耳も切り落としてやるー!」
赤城がハサミ持って暴れていた。それを加賀と一緒に建造された軽巡洋艦の長良が必死に止めてくれていたんだが。
「指揮官が食われるよりも酷いことになりそうだな」
「冷静に分析していないでまずは赤城を止めろ!」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめて見せた加賀はすたすたと赤城に近づくと、
ガン!
と赤城の顔面にグーパンした。勢いで長良ごと吹っ飛ばしたけどやりすぎだろ。
「とりあえずこれで落ち着きはするだろう。後は指揮官の仕事だ」
そういって加賀はさっさと部屋から出て行ってしまった。え、殴るだけ殴って後は俺任せ?
「夕餉の準備がいるからな」
そろそろ晩飯の用意をしないといけない時間帯ではあるが、もっとこうさ、平和的にできないのか?
「加賀ー!あなた何いきなり殴ったりするの!?」
「デザートにプリン付けるからそれで許してくれないか?」
「OK!」
安いな一航戦。さてと。
「すまなかった、赤城。ちょっと昔のことを思い出してしまってな」
俺は包み隠さず全部を話した。子供のころから狐人間に色々と遊ばれていたこと。まあ遊びといっても命懸けの遊びだったけれど。
「そうだったのですか…」
「これからもみんなと仲良くやっていきたい。厚かましいとは思うが、許してくれ」
悪いのは赤城じゃない。俺に非がある。上司部下関係なく悪いことをすれば頭を下げる。
「顔を上げてください指揮官。赤城はもう怒っていませんから」
そうか。そう言ってくれると助かる。
「お礼と言っては何だが、俺に出来ることなら何でもしよう」
つくづく俺って本当にバカだと思う。数時間前に執務室で何されたかもう忘れてしまっているんだから。
「今、『何でも』とおっしゃいましたか?『何でも』と?」
あ、やっちまったか?これ。
「あ、赤城?まださっきの戦闘の疲れが取れていないだろ?だからだな。ちょっと落ち着こうぜ?な?」
「安心してください、指揮官。赤城は冷静ですよ?」
一回落ち着いて鏡を見ようか?そんな目をギンギラギンに血走らせて涎ダラッダラ垂れ流して冷静なわけがあるか。
「指揮官様ー!!」
「剃!!」
「あてはどうすれば良かったんだろ…」
嵐のように二人が出て行った部屋に取り残された長良はこの先ここでちゃんとやっていけるのか不安になったそうな。
そして夕食時。
「なあ加賀。俺の飯だけ皆よりも少なくないか?」
「指揮官は相対性理論というのを知っているか?」
知らないけどたぶん俺のご飯が少ない理由とは関係ない話ですよね?
次回予告
「本当に君、物騒な世界に住んでいたんだな」
「海賊王がお宝隠したなんて言いやがったせいで世界中で海賊フィーバーさ」