皆で剃の練習していたら昔話になっていた。
「まったく。騒々しいわね。何があったの?」
「先日拿捕した研究者が脱走したんだよ」
ある日の海軍本部の一室。そこは俺が所属する部隊で指揮を執る上司の執務室でのこと。呑気にお茶をすすっている女性が俺の上司であり、そして俺に爆弾クラスのトラウマをいくつも括りつけやがった幼馴染の部屋でもある。
実力は申し分なし。なにせ俺と同時入隊のはずなのにあっという間に士官候補から大佐に、今では准将にまで上り詰めた女傑である。悪魔の実の能力だけではない芯の強さも持ち合わせていたからというのもあるだろう。
「脱走?研究者ぐらいどうとでもなるでしょ?」
それがそうも言っていられないんだよ。
「どうやらサウロ中将が手引きをしたらしい」
思いがけない人物の名前が挙がったせいで彼女が口に含んでいたお茶が俺に避ける暇もなくぶっかけられた。何するんだよ。俺も初めて聞いた時はコーヒー吹いてしまってけれどさ。
「ゴホッ!え!?なんであの人が!!?」
「さあ。ただ看守の話じゃ何かを話していたそうだが」
「何かって何よ?」
「それがわかったら苦労はしないっての」
「でもそれだけでこれだけの騒ぎっていうのも腑に落ちないわね」
そりゃあそうだろうな。
「なにせ逃げ出した研究者ってのが
「ねぇ。それって確か」
「ああ。世界を滅ぼす古代兵器を記した碑文だ」
失われた古代文字で書かれた巨大な石らしい。実物を見たことがないから何とも言えないが、そんなものが世界中に散らばっているそうだ。そしてその中身が世界を滅ぼすことが可能な超危険な兵器の暗号らしいから政府が研究そのものを違法としているぐらいのヤベーもんだ。
「……ねえその人を尋問した時の調書って」
「ほい。そう言うと思ってコピーを貰ってきたよ」
情報部に無理をいって取らせてもらった調書を渡した。
「……あんた、中身は見た?」
「ここに来る途中に目は通した」
「……ちょっと付き合ってもらうわよ」
「何処に?」
「大将のとこ」
へいへい。大将の所ね。……………嫌な予感しかしねーんだが。
あいつの後を歩くこと数分、大将の部屋の前で意外な人物とすれ違った。
「これはこれはイナリ准将。お久しぶりですな」
「お久しぶりです、スパンダイン長官」
CP-9。政府直属の諜報機関のトップがいたのだ。長官の後ろには彼の部下で俺の六式の師匠でもあるラスキーさんもいた。
「センゴク大将に何か御用でも?」
「それはこちらのセリフですね。世界政府直属とはいえ畑違いの海軍本部になぜ貴方達がいるのか」
「野暮用…とだけ言っておこう。おい、行くぞ!」
正直なところ、俺あの人は信用できないんだよな。人を馬鹿にしたような態度しているし。あいつが話している時も顔じゃなくて胸しか見ていなかったし。まあちっこいからどうしても胸に視線がいってしまうのかもしれないが。
「何しに来たんだ、あの人は」
「そっちの詮索は後にしましょう。センゴク大将!少しお話したい件があります!入室の許可を!」
「ああ。入りなさい」
センゴク大将の許可が聞こえたので俺はあいつと共に部屋の中に入った。さすが大将の部屋というべきか広いし整頓されている。あいつの部屋とは大違い---
「ふんっ!」
「っ!!?」
センゴク大将に見えないようにさりげなく俺の足を踏みやがった。粗相をするわけにもいかないからなんとか声を押さえたけれど目茶苦茶痛い。もしかして覇気使ったか、こんにゃろう。
「君が私の下に来るとは、何か穏やかな話ではなさそうだな」
「単刀直入に申し上げます。
あいつの口から西の海と出た瞬間、センゴク大将の目がスッと細まった。
「なぜ西の海に?」
「先ほど勾留していた研究者が脱走を行ったという話は既に聞き及んでいると思われます。調書には彼女は西の海の『オハラ』出身であることがわかっています。
「なるほど。それで彼女を再逮捕するために西の海へ?」
「はい」
センゴク大将はしばらく思案した後に静かに口を開いた。
「残念ながらそれは許可できん」
「何故ですか!!?海賊でもない彼女を一人捕まえることが私たちに出来ないと仰せなのですか!!?」
イナリの奴、大分頭に血が上っているな。仏のセンゴク大将相手に一歩も引こうとしないって今更ながらこいつの胆力おそろしいな。
「そうではない。君たちの実力は私もよく知っている」
「ではなぜ!?」
「近々バスターコールがかかるかもしれん」
「!!?」
バスターコールだと!!?島一つを跡形もなく消す海軍の奥の手中の奥の手。あまりの凄惨さにそう簡単に発動されるものじゃないはずなのに、一体どういうことだ!?
「そして、そのバスターコールの標的となるであろう島がオハラだ」
「!!!?」
え!?オハラにバスターコール!?
「何も起きてくれないことを祈るばかりだが、おそらくは…」
「オハラは何かを隠している……と」
それもオハラが滅んでもおかしくはない重大なこと…か。もしかして原因は
「ポーネグリフ…でしょうか?」
「………今はまだなんとも言えん。しかし……そうだな。一時的に君たちをクザン中将の指揮下に入れる」
「クザン中将?」
クザン中将といえば実力は折り紙付き。次期大将に最も近い人物の一人だ。性格がいい加減なところがあるから多少の不安はあったりするけれども。
「オハラへの遠征に彼を派遣する予定でいる。もし、君たちがオハラでしたいことがあるというのなら、彼と相談するといい」
「わかりました」
そう言って一礼した俺たちは退室した。さて、これから忙しくなりそうだがまずはクザン中将の下に挨拶に向かわないとな。
「ねえキビ。このオハラの研究者の一件、どうなると思う」
不意にイナリから質問された。率直な意見を申すとすれば、
「きな臭いってレベルじゃないな。少なくとも俺たちがそう簡単に首を突っ込んでいい案件じゃない」
バスターコールの危険があるというだけで少佐や准将である俺たちが関わっていい事件じゃない。それにさっきすれ違ったCP-9も気にかかる。もしも手を引くなら今の内だと思うが。
「わかっていると思うけど」
「反対しねーよ。何年付き合っていると思っているんだ」
イナリはもうこの事件に関わるのを承知の上で行動しようとしている。こうなったら頑固な彼女のことだ、眉間に銃口を突きつけられようと絶対に引こうとはしない。だったら俺も退くわけにはいかないだろう。本当に何事もなく平和的に事件が解決してくれることを切に願うばかりだ。
「あー。センゴクさんから話は聞いている。まあ出撃まで時間はある。ゆっくりしていけ」
あれから数分後、俺たちは今度はクザン中将の部屋に来ているんだが。
「しかしだな。俺はゆっくりしていけとは言ったが、二人揃って横になることはねーだろう。どうやって
「お言葉ですが、中将が横になっているだけで、私たちは何もしていないのですが」
この人これから出撃だっていうのに部屋のど真ん中で寝っ転がったまま対応しているんですけど。もうちょっと緊張感を持たないと威厳もないですよ。
「あーそうか。どーりで体が楽なわけだ」
この人、どうして中将にまでなったんだろう。人望があるのは知っているんだけれどやる気が感じられないというか。壁にも『だらけきった正義』なんて掛け軸を飾っちゃっているし。
「それで、何しにここに?」
「先ほどセンゴク大将から連絡があった通り、私たちは此度の
「あーそのことか。それならまだ大丈夫だ。オハラに向かう道中のどこかで作戦会議するだろう。そん時にやればいい」
なんというか、本当にだらけきってやがる。失礼だとは思うけど。
「そこの君」
「は!」
なんてことを思っていたら中将から睨まれた。ヤベー。まさか見聞色の覇気で思考を読まれたのか?
「俺はやる時はやる人間だ。親にもよく言われたよ。『お前はやればできる子だ!』ってな」
「は、はあ……」
それダメな子に言うセリフの筆頭じゃないか?
「今から気を張っていても行動に移すのはまだまだ先の話だ。だから今はゆっくりしておけ。茶でも飲んでいくか?この間ガープさんからもらったやつなんだが」
「頂きましょう!」
イナリの奴お茶には目が無いから簡単に食い付きやがった。こんな調子で上手くことが運ぶんだろうか。
次回予告
「これが貴様らの掲げる『
「我らに歯向かうものが『